Category Archives: 解雇

解雇142(東京都教育委員会事件)

おはようございます。

さて、今日は、校長に対する傷害行為を理由とする懲戒免職処分の取消に関する裁判例を見てみましょう。

東京都教育委員会事件(東京地裁平成26年2月26日・労経速2206号20頁)

【事案の概要】

本件は、東京都立甲高等学校の主幹教諭であったXが、平成22年8月27日、甲高校の校舎内で、同校校長との間でトラブルを起こし、同校校長に対する傷害行為に及んだところ、そのことを理由に、東京都教育委員会から平成23年1月20日付けで地方公務員法29条1項1号及び3号に基づく懲戒免職処分を受けたことから、本件処分の違法性を主張して、その取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件事件におけるXの傷害行為が、その性質・内容に照らして、地公法33条において禁止の対象とされる当該職の信用を傷つけ、職員の職全体の不名誉となる行為に該当し、したがって地公法29条1項1号所定の地公法違反に該当するほか、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行として同項3号に該当することは明らかである。

2 ところで、地方公務員につき、地公法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の上記行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を総合考慮した上で判断されるものであり、その判断は、懲戒権者の裁量に任されているものと解される。したがって、当該懲戒処分については、上記裁量権の行使として社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したと認められる場合に限り、違法であると判断すべきである(最判昭和52年12月20日)。

3 そこで、本件処分における裁量権の逸脱・濫用の有無を検討するに、本件事件におけるXの非違行為は、現職の教育公務員として、暴力の否定を含む社会の基本的、常識的な価値観について生徒に教育し、その模範となるべき立場にあったXが、教育現場である勤務先の公立学校内において、上司である校長に対して暴行を加え、傷害を負わせたというものであり、その態様も、2時間程度の間に、手拳による顔面殴打、パイプいすによる頭部等の殴打及び首絞めといった粗暴かつ危険な行為を執拗に繰り返したもので、傷害結果も、・・・加療約2か月間という比較的程度の重いものであるところ、D校長が、Xに対し、自らの生命身体を守り、学校内秩序を維持するために許容される限度を超えた違法な有形力の行使に及んだ事実はない。また、その経緯、動機をみるに、理科の実習助手の処遇をめぐる対応や勤務評価、本件申請書に係る対応等について蓄積していたD校長及びE副校長に対する不満を背景に、両名に対して一方的に因縁を付け、挑発的な言動に及んだ末になされた暴行であり、その際、D校長及びE副校長が、Xの暴行を誘発する言動を行ったとの事実は認められず、上記暴行に対する責任の一端がD校長にある旨のXの主張が失当であることは明らかである。
・・・これらの事情によれば、Xが、本件処分以前の約20年10か月間、東京都公立学校の教員として勤務を継続してきたこと、本件処分以外に懲戒処分歴がないこと、Xの処分軽減を求める多数の署名がなされた嘆願書が都人委に提出されていることなどを勘案しても、Xの傷害行為の悪質性、重大性に照らして、Xを免職とする判断が重きに失するとはいい難く、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用した違法があるものと認めることはできない。

公務員に対する懲戒処分については、本裁判例のように、裁量権の逸脱・濫用があったかどうかが判断されます。

行政事件でよく見かける判断基準です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇141(ロイズ・ジャパン事件)

おはようございます。

さて、今日は「やむを得ない業務上の都合」を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ロイズ・ジャパン事件(東京地裁平成25年9月11日・労判1087号63頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社による整理解雇は無効であるとともに、不法行為をも構成すると主張して、Y社に対し、地位確認ならびに解雇後の賃金および不法行為に基づく損害賠償金(慰謝料)の各支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件解雇は、労働者の私傷病や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇であるから、その効力は、人員削減の必要性の有無及び程度、解雇回避努力の有無及び程度、被解雇者の選定の合理性の有無及び程度、解雇手続の相当性の有無及び程度等を総合考慮して、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるか否かによって判断することが相当である(労働契約法16条)。

2 …本件解雇当時、Y社において人員削減をする必要性があったことを認めることができる。もっとも、…一件記録を精査検討しても、この350万ポンドの削減を単年度で実現しなければY社が倒産し又は高度の経営危機に瀕することを認めるに足りないから、人員削減の必要性の程度としては、Y社が主張するような極めて高度な必要性があったものと認めることはできない

3 Y社は、平成24年1月31日に同年3月末日で失われる5つの職務を特定して発表し、本件5職務に現に従事していた5名の従業員に対し退職勧奨を行ったものの、その余の15名の従業員に対しては希望退職募集を行っていないこと、本件解雇においてXが被解雇者として人選されたのは、本件5職務に現に従事していたことによることが認められるところ、希望退職募集を行わなかった15名が従事していた職務について、人員削減の対象として特定された上記5名では代替することができないものと認めるに足りる証拠はないし、人員削減を行わざるを得ない旨の告知を受けただけで割増退職金等の退職条件の提示がない段階で自主退職を名乗り出た者がいなかったとしても、直ちに希望退職募集を実施してもこれに応じる者がいなかったなどということはできないから、解雇回避措置として希望退職募集を行うことが客観的に期待できなかった事情は認められないし、たとえ削減対象とする職務として本件5職務を選定したことに客観的合理性があったとしても、本件5職務に現に従事していたことを基準として、Xを被解雇者として人選したことに合理性があるものとは認められない

人員削減の高度の必要性が認められない場合には、かわりに高度の解雇回避努力が求められることになります。

これが総合考慮というものです。

希望退職募集などのとりうる方法を整理解雇の前にとっておくことは非常に重要なことです。

結果ではなく、プロセスが大切なのです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇140(財団法人ソーシャルサービス協会事件)

おはようございます。

さて、今日は、事業所廃止に伴う解雇に関する裁判例を見てみましょう。

財団法人ソーシャルサービス協会事件(東京地裁平成25年12月18日・労経速2203号20頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社による解雇を無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後の賃金及び賞与並びに不法行為(不当解雇)に基づく損害賠償金の支払いを求めている事案である。
Y社は、Xと雇用契約を締結したのはY社ではなく、権利能力なき社団である財団法人ソーシャルサービス協会東京第一事業本部であると主張して、X・Y社間の雇用契約の存在を争うとともに、仮に雇用契約が存在するとしても上記解雇は有効であると主張している。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社において、本件解雇を行った平成23年当時、東京第一事業本部の閉鎖に伴って、東京第一事業本部の事業に従事していた人員が余剰人員となっていたことは認められるものの、Y社は同年3月時点において2億円を超える現預金を保有しており、上記余剰人員を削減しなければ債務超過に陥るような状況になかったことは明らかであり、人員削減の必要性が高かったものと認めることはできない。にもかかわらず、Y社は、期間の定めのない雇用契約を締結しているXに対し、6か月間の有期雇用契約への変更を提案したものの、他の事業所への配置転換や希望退職の募集など、本件解雇を回避するためのみるべき措置を講じておらず、十分な解雇回避努力義務を果たしたものということはできない
上記のとおり、Y社においては、従たる事業所は完全な独立採算で独立した運営を行っており、本部が従たる事業所に人員配置を命じることはしない運用を行っていることが認められるものの、本件雇用契約における使用者がY社である以上、そのような内部的制限を行っていることをもって、東京第一事業本部以外の従たる事業所への配置転換等の解雇回避努力を行わなくてよいことになるものではないというべきである。・・・そうすると、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であるものとは認められないから、その権利を濫用したものとして無効である。

2 普通解雇された労働者は、当該解雇が無効である場合には、当該労働者に就労する意思及び能力がある限り、使用者に対する雇用契約上の地位の確認とともに、民法536条2項に基づいて(労務に従事することなく)解雇後の賃金の支払を請求することができるところ、当該解雇により当該労働者が被った精神的苦痛は、雇用契約上の地位が確認され、解雇後の賃金が支払われることによって慰謝されるのが通常であり、使用者に積極的な加害目的があったり、著しく不当な態様の解雇であるなどの事情により、地位確認と解雇後の賃金支払によってもなお慰謝されないような特段の精神的苦痛があったものと認められる場合に初めて慰謝料を請求することができると解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記特段の精神的苦痛を認めるに足りる事実はない。

整理解雇については、要件説ではなく要素説を採用していることから、整理解雇の必要性がそれほど高くない場合には、高度の解雇回避努力が求められることになります。

本件では、十分な解雇回避がなされていないという判断です。

また、解雇事案において、賃金のほかに慰謝料を認める場合の規範が示されていますので、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇139(カール・ハンセン&サンジャパン事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

今日は、身体の障害で「業務に耐えられない」ことを理由の解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

カール・ハンセン&サンジャパン事件(東京地裁平成25年10月4日・労判1085号50頁)

【事案の概要】

Y社は、家具・室内装飾品の製造、輸出入および販売を目的とし、主としてデンマーク製の家具の輸入および販売を行っている会社である。

Xは、Y社の従業員であったが、平成22年、ギラン・バレー症候群および無顆粒球症の診断を受けた。

Y社は、Xに対し、就業規則に定める解雇理由である「身体の障害により、業務に耐えられないと認められたとき」またはそれに「準ずるやむを得ない事情があるとき」に該当するものであることを理由に、解雇した。

Xは、本件解雇の有効性を争い、提訴した。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、・・・ギラン・バレー症候群及び無顆粒球症に罹患し、・・・平成23年3月頃までは起立不能及び上肢機能全廃・・・などと診断され、徐々に回復していた様子は窺われるものの、ずれも就労不能である旨診断されていた・・・。
以上の事実に加え、Xの業務の内容に照らせば、本件解雇予告当時のXは、制限勤務であってもY社において就労することが不可能であったと認められ、この事実は「身体の障害により、業務に耐えられない」という本件就業規則29条1項2号に当たり、本件解雇予告には、客観的に合理的な理由があるというべきである。

2 また、Xは、ギラン・バレー症候群及び無顆粒球症の治療のために入院してから本件解雇予告までの約1年7か月の間、就労することができない状態にあり、その間、Y社のXに対する、3か月分の給与を支払うことで退職して欲しい旨の打診に対し、Xが、失業保険の受給の関係で欠勤期間を平成23年11月以降まで延長して欲しい旨の要望をし、Y社がこれに応えて同年11月以降まで解雇を見合わせていた等の事情が認められる。
そうすると、本件解雇予告につき、社会通念上相当と認められない事情があるとは認められない。

従業員の症状に加えて、会社としては、可能な範囲での解雇回避や経済的支援をしていることが評価されています。

休職期間満了後の復職の可否の問題とも関連してきますが、この問題は、主治医の診断書や意見書のみで判断するのは早計であり、より多角的な視点で総合判断することが求められます。

それゆえ会社の判断の適否は、その時点では明確にならず、その後の訴訟を通じて明らかになるわけです。

訴訟リスク、敗訴リスクを考慮に入れつつ、労働者の就労の可否を判断する必要があります。

言うのは簡単ですが、とても難しい問題です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇138(学校法人A学院ほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、女性教員へのわいせつ行為等を理由とする懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人A学院ほか事件(大阪地裁平成25年11月8日・労判1085号36頁)

【事案の概要】

本件は、同僚の女性教員であるAに対して車中で暴行を加え、わいせつ行為を行ったとして、Y社から懲戒解雇されたXが、Y社に対し、当該懲戒解雇が無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに懲戒解雇後の平成23年4月1日から毎月21日限り48万7500円の未払賃金及び遅延損害金を求めるとともに、懲戒解雇が不法行為に当たるとして損害賠償金550万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、更に、Aに対し、同人がY社に対して虚偽の被害申告を行ったことにより精神的損害を被ったとして、損害賠償金330万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効→賃金支払

AはXに対し、88万円を支払え

【判例のポイント】

1 Aは、一見すると交際があったかのような関係になっていたのは、期限付き専任講師であるXは、正社員であり先輩であるXとの間で男女間のトラブルが発生した場合、弱い立場であるAがトラブルメーカーとして学校から排除されるのではないかとの恐れがあったため、穏便に済ませたいと考えていたが、Xは、Aの立場を考慮することなく、執拗にメールや電話で会うことを迫ったためである旨主張しているが、AがXに対して好意を抱いており、むしろ、Xに対してAとの交際を明言するよう求めていたことは、メールの内容から認められること、Aは平成22年7月に同僚のH教諭や教育委員会にXから暴行を受けたことを相談しているが、その時点でも正社員と期限付き専任講師という関係は変わりないことから、Aの主張は採用することができない。

2 以上によれば、Aの供述は、核心部分である暴行の態様について供述が一貫しておらず、また、同人の述べる暴行の態様は、平成21年9月23日以降のAの言動とも整合しないので、全面的に信用することはできない。もっとも、Xが非公式の事情聴取において「暴力にあたるような平手打ちをしたことはないです」などと述べていたことからするとXがAに対して平手打ちをしたとの事実を認めることができ、また、質問の流れからするとXは本件ドライブの日に平手打ちをしたことを認めたとも解されるが、平手打ちをしたことはあるかとの質問自体は日時を限定して尋ねておらず、質問者自身、直後に他の日のこととして答えた可能性を否定することはできず、XがAに対して平手打ちをした日が同日であることを認めるに足りる証拠はない

3 そうすると、XがAに対して平手打ちをしたとの事実を認めること及びXが平成21年9月22日に自動車内で胸を触るなどの行為を行ったとの事実を認めることはできるが、Xが同日に自動車内で暴行を加えたとの事実を認めるに足りる証拠はないから、本件懲戒解雇は、解雇事由を認めるに足りる証拠はなく、その余の点について判断するまでもなく、無効である。

4 Aによる虚偽の申告は、Xの雇用主であるY社に対するものであり、また、Xが無理矢理肉体関係を強要したことを内容とするものであるから、Xの名誉を著しく毀損するとともに、Xが職を失う危険を生じさせるものであって、悪質であるというほかなく、また、懲戒手続自体は非公開ではあるが、現在まで同様の主張を維持していることにより、Xの名誉に与えた悪影響も軽視できない。・・・これらの事情等を総合考慮すると、慰謝料は80万円、弁護士費用は8万円と認めるのが相当である

虚偽申告により、懲戒解雇に追い込まれたとしても、裁判所が認定する慰謝料の金額はこの程度です。

不貞行為による慰謝料よりはるかに低額です。

また、このような事案(セクハラ・パワハラ事案)の場合、被害者とされる従業員から被害の申告があった場合、会社としては、対応しないわけにはいきませんから、調査をすることになります。

その際、決して、当事者の一方のみの事情聴取から判断するのではなく、両当事者から事情聴取をする必要があります。 会社は中立公平な立場から客観的に懲戒事由の有無を判断すべきです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇137(イーハート事件)

おはようございます。 

さて、今日は、パチスロ店アソシエイトの解雇の有効性と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

イーハート事件(東京地裁平成25年4月24日・労判1084号84頁)

【事案の概要】

Y社は、Xに対し、Xが平成22年6月頃、本件店舗の高設定台の情報を顧客に漏えいしたことを理由に、同年7月16日付で懲戒解雇した。

Xは、本件情報漏洩をしておらず、本件懲戒解雇が無効であると主張し地位確認等を求め、合わせて時間外手当の支払いを求めて本訴を提起し、他方、Y社は、Xが本件情報漏洩をしたことを前提に、これによってY社が損害を被ったと主張し、不法行為に基づく損害賠償を求めて反訴を提起した事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

Y社に対し、慰謝料100万円、未払残業代約150万円及び同額の付加金の支払いを命じた

反訴請求はいずれも棄却

【判例のポイント】

1 Xの聴取は、本社地下会議室で、C及びD2名によって行われた。同月4日は、午後7時頃から午後11時頃まで、翌5日は午前11時頃から午後7時ころまで行われ、Xは、翌5日の午後、本件上申書等を作成するに至った。C及びDのXに対する調査は、C自身、約90%、100%、Xが本件情報漏洩を行ったと考えていたと証言しており、他の可能性や、共犯の可能性について、十分吟味した調査であったとは認められない
Xは、上記2日間の長時間にわたる、またXが本件情報漏洩を行ったものであるとの前提にたった聴取の中で、本件上申書等の作成に至ったものとうかがわれる
そして、Y社は、同日より後、Xに対する更なる聴取や本件上申書等の裏付け調査等を行うことなく、同月16日、本件懲戒解雇の意思表示をした。 

2 本件上申書等は、裏付けがないことや、記載内容、作成経緯等に照らし、信用することができない。そして、Y社は、本件上申書等の作成以外に、X及び外の従業員に対する更なる聴取調査等の調査を尽くしておらず、本件全証拠によっても、Xが本件情報漏洩を行ったと認めるに足りない。Y社は、本件情報漏洩以外にも懲戒事由に該当する事実を主張しているが、これらの事実を前提としても、これらの行為の性質、態様等に照らし、懲戒解雇とすることは重きに失するといわざるを得ず、結局、本件懲戒解雇は無効というべきである。

3 Y社の本件懲戒解雇に対する調査は、本件上申書等を作成させた以外に、Xに対する更なる調査を行うことなく、十分な裏付けも行っていないというもので、かかる調査状況に鑑みれば、本件懲戒解雇は不法行為の違法性を帯びるというべきである。Xは、本件懲戒解雇によって突然に職を奪われ、その後の安定した生活の途を絶たれ、多大な精神的苦痛も被ったものと認められる。以上を総合考慮すると、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料100万円を認めることが相当である。

懲戒解雇に限らず、例えば、セクハラ・パワハラ等でもそうですが、一方当事者が事実を否認する場合は、特に慎重に調査をする必要があります。

「こいつがやったに違いない!」という決め付けは、取り除かなければなりません。

先入観を持たず、公平な立場から調査をし、「裏付け」をとる必要があることがよくわかりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇136(東京都教育委員会事件)

おはようございます。

さて、今日は、条件付採用期間中の職員の免職処分に関する裁判例を見てみましょう。

東京都教育委員会事件(東京地裁平成25年9月2日・労経速2200号12頁)

【事案の概要】

本件は、東京都公立学校教員であったXが、1年間の条件付採用期間の満了する平成24年3月31日、東京都教育委員会から東京都公立学校教員を免ずる旨の処分を受けたことについて、本件免職処分は、処分権者の裁量の範囲を逸脱し、適正手続を欠いた違法なものであると主張して、その取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 地方公務員法22条1項、教育公務員特例法12条1項により、公立学校教員の採用は、臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除き、すべて条件付のものとされ、その教員がその職において1年間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとされている。この条件付採用制度の趣旨、目的は、職員の採用に当たり行われる競争試験又は選考の方法がなお職務を遂行する能力を完全に実証するとはいい難いことに鑑み、試験等によりいったん採用された職員の中に適格性を欠く者があるときは、その排除を容易にし、もって、職員の採用を能力の実証に基づいて行うとの成績主義の原則を貫徹しようとするところにあると解され、したがって、条件付採用期間中の職員は、いまだ正式採用に至る過程にあるものということができる。しかし、条件付採用期間中の職員といえども、すでに試験等という過程を経て、現に給与を受領し、正式採用されることに対する期待を有するものであるし、条件付採用期間中の職員にも適用される地方公務員法27条1項は、分限及び懲戒についてではあるが、公正でなければならないと規定して恣意的処分を戒め、任命権者の裁量権行使を限定している。そうすると、地方公務員法22条1項の「職務を良好な成績で遂行したとき」という用件が一定の評価を内容とするものであることからすれば、条件付採用期間中の職員がこの要件を充足するか否かについては、任命権者に相応の裁量権が認められることはいうまでもないものの、前記の条件付採用制度の趣旨、目的からすれば、その裁量は純然たる自由裁量ではなく、任命権者の判断が客観的に合理性をもつものとして許容される限度を超えた不当なものであるときは、裁量権を逸脱ないし濫用したものとして違法となると解するのが相当である(最高裁昭和49年12月17日判決)。

2 ・・・前記のXの問題点の内容に照らすと、Xが新任の教員であり、教員として十分な経験を経た者ではないことや、Xには生徒の心情を汲んだ丁寧な指導を複数回にわたって行ったという実績や、Xを教員として評価する保護者や生徒がいること等の事情を踏まえても、Xにつき、条件付採用期間において、教育公務員としての能力を実証することができなかったとする都教委の評価、判断は、客観的に合理性を持つものとして許容される限度を超えた不当なものであるということはできず、裁量権の行使に逸脱ないし濫用の違法があったとは認められない。

通常の労働事件における解雇権濫用法理とは異なる判断基準により判断されることになります。

ご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇135(オカダテニス・クリエーション事件)

おはようございます。

さて、今日は、テニススクールコーチに対する賃金減額・解雇に関する裁判例を見てみましょう。

オカダテニス・クリエーション事件(大阪地裁平成25年6月28日・労判1082号77頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が経営するテニススクールにコーチとして勤務するXが、Y社から突然に、極端な売上減を理由に賃金を減額されたうえ、Xのレッスンに対する評判が悪く、Xのクラスの継続率が著しく悪いこと等を理由に解雇されたとして、解雇の有効性等を争った事案である。

【裁判所の判断】

1 賃金減額は無効

2 整理解雇は無効、普通解雇としても無効

【判例のポイント】

1 ・・・Xが本件賃金減額に同意したことを示す文書その他の客観的な証拠は存在しない。・・・本件賃金減額は、月額35万円の賃金の約4割を減額して月額20万5000円にし、さらにアルバイトに身分変更するというものであり、労働者が容易に同意するような内容ではないことが明らかであることからすると、本件賃金減額をXがすんなり受け入れたとのY社代表者の供述は信用しがたい。
・・・以上によれば、Xが本件賃金減額に同意したとは認められず、他に就業規則、賃金規程その他本件賃金減額の正当性を根拠付けるものは存在しないから、本件賃金減額は無効であり、Xは、本件賃金減額以降も、月額35万円の賃金の支払を受ける権利を有する。

2 Y社は、本件解雇後に、新たに正社員1名及びアルバイト2名を雇用し、これらの者に対し、毎月合計30万円の賃金を支払っていることからすれば、Y社にはそもそも人員削減の必要性があったとは認められない
また、Y社は、新規に採用した3名の賃金を合わせてもXの賃金に満たないと主張するが、その差はわずか5万円であり、Y社の主張する社会保険料等の負担を考慮しても、本件解雇の合理性を裏付けるほどの経費削減効果があるとは認めがたい。・・・本件解雇は整理解雇の要件を満たさない

3 Y社は本件解雇の理由として、Xのレッスンに対する評判が非常に悪く、Xのクラスの継続率が著しく悪いことなどを挙げる。
しかし、生徒がスクールを辞める動機としては様々なものが考えられるから、継続率が悪いことだけでレッスンの内容に問題があると断ずることはできないところ、Y社の主張を前提にしても、Y社が、Xのレッスンに不満を持って退会したと主張する生徒の多くが、Xのレッスンを長期間にわたって受講し、また、一旦退会した後、Xのクラスに再入会していることに照らすと、これらの者の退会理由がいずれもXの教え方に対する不満であったとのY社の主張は採用しがたい
また、Y社代表者は、Xのレッスンに対する不満、苦情を多くの生徒から聞いていたと供述するが、そうであれば、経営者としては、Xに対し、そのような不満、苦情の内容を伝え、改善を求めるのが当然であるところ、Xに対して、直接告げたことはないと供述しており、極めて不自然であるし、仮にY社代表者の供述どおりであるとすれば、Xは、自己の教え方について生徒から不満や苦情が出ていることを認識していなかったことになるから、その点について注意、指導をすることなく突然解雇をすることは相当性を欠く
したがって、いずれにしても、本件解雇は、普通解雇としても無効である。

大幅な賃金減額をする場合には、必ず個別に同意書をもらっておくことをおすすめします。

また、本件では、新規採用をしている等、整理解雇要件(要素)を満たさないことは明白ですし、普通解雇についても、解雇に至るまでのプロセスが不十分です。

会社側とすると、準備不足と言わざるを得ません。 

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇134(パソナ事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、区議会議員を兼務する従業員に対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

パソナ事件(東京地裁平成25年10月11日・労経速2195号17頁)

【事案の概要】

本件は、東京都渋谷区議会の区議会議員として稼働する傍ら、Y社の従業員でもあったXが、Y社から平成24年1月14日付けで、勤務実績及び今後の勤務見込み等から正社員としての勤務が困難と判断されたなどとして解雇されたところ、同解雇は労働契約法16条に照らし無効であり、同解雇により精神的損害も被ったなどと主張して、Y社との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社に対し、債務不履行に基づき、慰謝料200万円等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xに対し、社員就業規則51条1項4号所定の「その他やむを得ない事由がある」(具体的には、貴殿の勤務実績及び今後の勤務見込み等に関する報告等を受け、今後当社の正社員としての勤務が困難と判断された)としてXを普通解雇したものであるところ、復職後のXの稼働に関しては、平成22年度の勤務実績に照らすと、向後、年間109日間(Y社の社員就業規則所定の年間所定労働日数の約4割)ほどの欠勤が見込まれ、・・・また、Xから、Y社に対し、上記欠勤の見込まれる公務日についてY社の業務と両立することができることを首肯するに足る具体的方策や理由についての説明・提案はなく、Y社から稼働の可否を尋ねられるに及んで稼働可能と回答するばかりであったこと、しかも、その回答内容にもかかわらず、直後に予定されていた公務ないし準公務もあったこと、以上の点を指摘することができる

2 してみると、Xが、休職前の原職である雇用対策室での業務はもちろん、その余の業務においても、Xが正社員としての地位にあったことに照らせば、極めて多くの欠勤を生じさせることが合理的に認められる状況であったということができる。Xも自認するとおり、労務の提供が労働契約の本質的要素であり(民法623条、労契法6条参照)、所定労働日において所定労働時間の勤務を行うことができることが労働者の最低限の義務であることにも照らせば、本件解雇に係る客観的で合理的な理由として、本件解雇事由たる社員就業規則51条1項4号所定の「やむを得ない事由」があると認めることができる

労務の提供が労働契約の本質的要素であることは、その通りです。

例えば、実際に具体的な労務の提供をすることは求められておらず、その人物が、自分の会社に在籍していることそれ自体に価値があるという特別な事情があれば別なのでしょうかね。

そういうのは、そもそも労働契約とは言わないのか? 何契約って言うんだろう。

形式的には雇用しているという形をとりつつ、実質的には、なんなんだろう? 労働法の適用はない?

よくわかりません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇133(X社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!

さて、今日は、従業員の社内での盗難行為に関し、会社に対する損害賠償請求が否定された裁判例を見てみましょう。

X社事件(東京地裁平成25年9月25日・労経速2195号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社に対し、Y社が雇用していたAが職場でXの着替えを盗撮したことに関し、民法715条1項に基づき、Y社が被用者の盗撮行為を防止すべき雇用契約上の義務を怠ったとして同法415条に基づき、また、盗撮発覚後にY社は事実をもみ消そうとするといった不誠実な対応をしたとして同条に基づき、慰謝料200万円等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件盗撮行為は、Xの出勤後、Aがロッカー室に入って紙袋に隠匿したビデオカメラを作動させ、Xに知られぬまま、Xがロッカー室で着替える姿を撮影するというものであり、軽犯罪法に違反する犯罪行為であって、AにおいてXはもちろん他のY社社員にも知られぬよう行うものであり、Y社においてかかる本件盗撮行為を予測し、防止することはできなかったと認められる。そうすると、Y社が本件盗撮行為を予測して、その防止のため女子更衣室を設けたり、ビデオカメラの保管を厳重に行ったりする義務があるとはいえず、本件盗撮行為が発生したことについてY社に防止義務違反があるとは認められない
また、本件盗撮行為という軽犯罪法に該当する行為をしないこと、及び、Y社の備品を業務以外に使用しないことは、Y社の従業員として注意指導する必要があるとはいえず、注意指導をしなかったことと本件盗撮行為との間に相当因果関係があるとはいえない

2 Y社は、本件盗撮行為発覚後、A及びXから事情聴取を行い、本件盗撮映像の確認をして本件盗撮行為の裏付けを得た上、本件盗撮行為が発覚した日の8日後にAを懲戒解雇したことが認められる。そうすると、Y社が、本件盗撮行為後の調査義務、適正対処義務に違反したとはいえず、この点に誠実義務違反はないから、Xの請求は理由がない

会社側に盗撮について予見可能性がないため、結果回避ができなくても、無理はありません。

盗撮の前兆があり、それを会社が確認していた場合や確認しえた場合等であれば、結論が異なった可能性はあると思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。