Category Archives: 解雇

解雇112(ニューロング事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!!

さて、今日は、退職届提出後の懲戒解雇の効力と退職金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ニューロング事件(東京地裁平成24年10月11日・労判1067号63頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、平成17年12月5日に、同月19日をもって退職する旨の退職届を提出したにもかかわらず、Y社から同月9日付けで懲戒解雇されたことから、これが無効であり、退職届に基づく退職が有効であると主張して、退職金等を請求した事案である。

本件懲戒解雇理由は、Y社が海外(アラブ首長国連合ドバイ)に設置した関連会社のDirector職に兼務していた海外事業部部長であるXに対する横領等の背信行為、無許可で禁止されている競合会社と取引を行ったこと、競業準備行為等である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

Y社に対し退職金及び役付給付金1466万1483円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 一般に、使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を科するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである。したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないが、懲戒当時に使用者が認識していた非違行為については、それが、たとえ懲戒解雇の際に告知されなかったとしても、告知された非違行為と実質的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものである場合には、それをもって当該懲戒の有効性を根拠付けることができると解するのが相当である
しかし、「無断で個人の会社をニューロング・ドバイ店内に設立したこと」という告知内容は、自らの会社の設立を非違行為の核心とするものであるところ、いかにこれを実質的に解釈したとしても、それが「Y社の了解を取らずにC社の業務を行い、資金を流用したこと」という事由と実質的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものと解することはできない。

2 ・・・以上によれば、Xには、本件取引中止宣言後もY社に隠れてB社と取引を行ったという点が、一応、懲戒解雇事由として存在するということができる。
・・・本件取引中止宣言後に、Y社の方針に反して、個別にY社代表者の承認を得ることなくB社と取引していたことが、本件取引中止宣言に反する行為であり、Y社の企業秩序維持との関係で問題のある行動であったことは事実であるものの、他方で、顧客に対する信用維持やニューロング・ドバイの経営維持のため、Y社代表者の意に反することになるというリスクを冒してもなお、あえてB社との間で取引を継続せざるを得なかったという側面があったこともまた事実であるということができる
以上の認定に加え、本件懲戒解雇は、Xによる退職の意思表示がY社に到達した後、それが効力を生じる前に、急遽なされたものであること、本件懲戒解雇事由について、Xに弁明の機会が与えられていなかったことを併せ考えると、本件取引中止宣言後もY社に隠れてB社と取引を行ったという懲戒解雇事由が、34年8か月というXの多年の継続の功を抹消してしまう程度に重大なものということまではできないし、Xを懲戒解雇として退職金を不支給とすることが、Y社の規律維持上やむを得ない場合にあたるということもできない。

3 Xは、この他に功労加給金及び特別加給金の請求権を主張しているが、功労加給金については、Y社代表者が、直属所属長の申告に基づき、その裁量によって、特に功労ありと認めた従業員に対して支給するものであるから、Xにその請求権はないというほかはない。

まず、懲戒解雇事由の追加主張に関する規範は参考にしてください。

次に、退職金の不支給に関する争いの場合は、労働者側からすれば、どれだけ酌むべき事情を挙げられるかにかかっています。 丁寧に事実を主張・立証していくことが大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇111(ブルームバーグ・エル・ピー事件)

おはようございます。 

さて、今日は、通信社記者に対する能力・適格性低下を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ブルームバーグ・エル・ピー事件(東京地裁平成24年10月5日・労判1067号76頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がXを能力・適格性低下を理由とする解雇の有効性が争われた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、結局、前記Ⅰの「社員の事故の職責を果たす能力もしくは能率が著しく低下しており改善の見込みがないと判断される場合」を解雇事由とするものと解するのが相当である。
そして、かかる勤務能力ないし適格性の低下を理由とする解雇に「客観的に合理的な理由」(労働契約法16条があるか否かについては、まず、当該労働契約上、当該労働者に求められている職務の能力の内容を検討した上で、当該職務能力の低下が、当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか否か、使用者側が当該労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か、今後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を総合考慮して決すべきである

2 Y社は、Y社のビジネスモデルと新聞社や通信社のビジネスモデルとの間の違いから、記者として求められる能力、資質及び記事の執筆スタイルが両者間に大きな違いがある旨を主張している。
・・・しかしながら、他方で、①Y社においては、労働者の採用選考上かかるY社の特色あるビジネスモデル等に応じた格別の基準を設定したり、試用期間中(Y社においては原則として入社後6か月間が試用期間であると認められる。)においても格別の審査・指導等の対応を行う等の措置は講じていないと認められること、②Xの試用期間経過後、Xについて実施されたアクションプランやPIPにおいて、エディターや英語ニュース記者との連携、記事の執筆スピード等に関する指示、指導がされており、Y社の記者にはこれらの能力が求められていたことが認められるものの、これらの事項について社会通念上一般的に中途採用の記者職種限定の従業員に求められる水準以上の能力が要求されているとは認められないこと、以上からすれば、社会通念上一般的に中途採用の記者職種限定の従業員に求められていると想定される職務能力との対比において、XとY社との間の労働契約上、これを量的に超え又はこれと質的に異なる職務能力が求められているとまでは認められないというべきである。

3 ・・・以上によれば、Y社主張に係る記事内容の質の低さに関する事項は解雇事由とすることには、客観的合理性があるとはいえないというべきである。

Y社は、Xの解雇事由として、執筆スピードの遅さ、記事本数の少なさ、記事内容の質の低さを主張しましたが、いずれも解雇事由とすることには客観的合理性があるとはいえないと判断されています。

勤務能力や適性の欠如を理由に解雇をするのは、とてもハードルが高いです。

会社としては、どのように立証していくのかを事前に相当詰めておく必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇110(淀川海運事件)

おはようございます。 昨夜から事務所でずっと書面を作成しています。 体力勝負(笑)

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

淀川海運事件(東京高裁平成25年4月25日・労経速2177号16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、平成22年6月、Y社の技能職員であり、労働組合の執行委員長であったXに対して、「事業縮小等会社の都合」、「余剰人員削減のために実施した希望退職者募集及び退職勧奨によっては、削減人員の定数に満たなかったための整理解雇」を理由として解雇した事案である。

Xは、本件解雇は、整理解雇の有効要件を欠き、解雇件の濫用として無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件解雇はいわゆる整理解雇であり、対象とされた従業員に対して、経営上の必要から人員削減を実現するために、従業員にとって生計の途である労働契約関係を解消することの当否が争点となっている事案である。そして、労働契約法によれば、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、解雇権の濫用として無効となる(同法16条)のであり、整理解雇は、従業員の側には責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、使用者による一方的な解雇の意思表示によって雇用関係を解消するというものであるから、整理解雇を巡る事情を総合的に考慮し、使用者の経営上の必要性と、解雇される従業員の利害得失とを比較考量して、その効力を判断する必要があるというべきである。そして、整理解雇の有効性については、具体的には、①整理解雇(人員整理)が経営不振など企業経営上の十分な必要性に基づくものか否か、又はやむを得ない措置と認められるか否か(整理解雇の必要性)、②使用者が人員整理の目的を達成するための整理解雇を行う以前に、労働者の不利益がより小さく、客観的に期待可能な措置を取っているか否か(解雇回避努力義務の履行)、③被解雇者の選定方法が相当かつ合理的なものであるか否か(被解雇者選定の合理性)、④整理解雇の必要性とその時期、規模、方法等について使用者が説明をして、労働者と十分に協議しているか否か(手続の妥当性)などを総合的に勘案した上で、整理解雇についてのやむを得ない客観的かつ合理的な理由の有無という観点からその効力を判断するのが相当である。

2 平成22年4月頃の段階において、技能職員4名を削減する必要性があったところ、Y社は5月7日に、所定の退職金に一律100万円を加算することとして、希望退職者4名を募集したが、結局応募者は3名に止まったため、同月28日に、所定の退職金に250万円を加算するとして退職勧奨を行ったものの、Xは応じなかった等本件解雇に至る経緯を考慮すると、Y社はXを解雇するに先立って、これを回避するための方策を講じているものと評価するのが相当である

3 技能職員を削減する必要がある状況のもとにおいて、勤務成績等に照らし、X以外に被解雇者として選定されてもやむをえないといえる職員がいたにもかかわらず、上記の嫌悪感等を主たる理由としてXが選定されたというのであればともかく、そのような職員の存在を認めるに足りる証拠のない本件においては、そもそも労働契約が労使間の信頼関係に基礎を置くものである以上、他の従業員と上記のような関係にあったXを、業務の円滑な遂行に支障を及ぼしかねないとして、被解雇者に選定したY社の判断には企業経営という観点からも一定の合理性が認められるというべきであって、これを不合理、不公正な選定ということはできない。なお、本件においては、Y社の経営陣も、従業員と同様のXに対する強い嫌悪感を抱いており、そのことが整理解雇の対象者の人選に影響していることは否定できないところであるが、そのような事情があったからといって、Xを対象者に選定したことが直ちに不合理、不公正なものとなるものではないと解するのが相当である。

非常に参考になる裁判例です。 是非、一審と比較してみてください。

一審(東京地裁平成23年9月6日・労経速2177号22頁)は、本件整理解雇は無効と判断しましたが、控訴審では一転、有効と判断されました。

一審と控訴審で結論が異なったのは、整理解雇の必要性が認められたか否かのほかに、人選の合理性の点に関する考え方の違いによります。

個人的には、一審の判断の方が納得いく内容です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇109(甲野株式会社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!

さて、今日は、従業員の不正行為に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

甲野株式会社事件(大阪地裁平成24年9月27日・労判1069号90頁)

【事案の概要】

Y社は、金、銀、白金等貴金属の地金の売買、加工、精製および分析等を行っている会社である。

Xは、Y社の従業員としてY社高知工場に勤務していた。

Xは、Y社工場敷地内から合計709.13gの金地金を持ち出し、これを窃取した。

Y社は、Xの当該行為について、警察署に被害届を提出した。Xは、窃盗の被疑事実で逮捕されたが、不起訴処分となった。

Y社は、Xを懲戒解雇した。 本件の争点は、本件不法行為に基づく損害賠償請求である。

【裁判所の判断】

Xに対して、合計152万6284円(調査実費、時間外手当相当額、説明行為に関する実費(交通費等)、弁護士費用)の支払いを命じた。

慰謝料請求については棄却。

【判例のポイント】

1 ・・・J取締役のN市出張及びD社訪問は、いずれも本件金地金を持ち出した犯人を特定するために必要な調査であったことが認められ、また、J取締役及びO副工場長のV社への出張は、Xが本件金地金を持ち出した態様を明らかにするために必要な調査であったことが認められるから、Y社が上記各出張のために出えんした費用相当額は、本件不法行為と相当因果関係のある損害というべきである。

2 ・・・金地商であるY社において、その管理する貴金属の盗難事件が発覚した場合、犯人や犯行態様を徹底的に調査し、事件の再発を防止すべく万全の対策をとる必要があることは明らかであるところ、Y社の従業員が、製造記録の確認等を行ったり、警察から事情聴取を受けるなど、通常の業務とは異なる作業に多大な時間を費やしたのは、Y社の従業員であったXが本件金地金を窃取した態様を明らかにするためにであるから、これらの従業員が調査等に従事していた平成22年6月及び7月の時間外手当の増加分は、本件不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である
Xは、従業員が懲戒処分に当たる行為を行った場合、使用者である会社が適切な処分を行うため、事実関係の調査等を行うことは当然のことであり、そのために要する通常の経費等は、企業の一般的人事管理に要する費用として織り込み済みのものであるから、上記時間外手当等は、本件不法行為と相当因果関係のある損害とまではいえないと主張する。しかしながら、本件不法行為は、地金商の従業員による金地金の窃盗事件であって、被害額も約200万円と多額であるから、捜査機関が高知工場の実況見分を実施したり、Y社従業員からの事情聴取等を行うことは当然であるし、また、Y社における貴金属の管理・保管体制の根幹を揺るがす事件であるから、再発防止の観点からも、Y社が、その犯行態様を明らかにするために、独自に従業員に調査を命じることは、単に使用者が懲戒処分に当たる行為を行った従業員に対し適切な処分を行うための事実関係の調査等を行うこととは次元を異にするというべきである。したがって、これらの調査等に要した費用について、企業の一般的人事管理に関する費用として織り込み済みのものであると認めることはできないから、Xの前期主張は、採用することができない。

3 Y社は、本件不法行為発覚後、合計4727万8600円をかけて、セキュリティシステムを導入したほか、関係取引先に謝罪に赴くなどしたものであって、本件不法行為によって、Y社の信用を毀損せられた無形損害の額は、少なく見積もっても200万円は下らないと主張する。
しかしながら、Y社が、本件不法行為が発覚したことを契機として、Y社における金地金の管理・補完体制を見直し、多額の費用をかけてセキュリティシステムを新たに導入したことは認められるものの、Y社において、どのようなセキュリティシステムを導入するかは、企業の経営判断の問題であって、本件不法行為との直接の因果関係は認められない上、Y社は、本件不法行為が発覚した後、主要取引先等に対して、状況説明と謝罪に赴くなどしており、一応、本件不法行為によって毀損されたY社への信頼は一定程度回復されたというべきであるし、主要取引先等への説明に要した費用については、本件不法行為による損害として、Xが負担することを併せ考慮すると、それを超えて信用毀損に伴う慰謝料をXに負担させるのは相当でない。

従業員による不正行為が発覚した際、会社が当該従業員に損害賠償請求をすることがあります。

その際、どこまでを損害と考えてよいのかについて、本裁判例を参考にしてください。

信用毀損に関する裁判所の判断は、会社側からすると、簡単には受け入れらないのではないでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇108(アクセルリス事件)

おはようございます。

さて、今日は整理解雇の有効性と賞与請求に関する裁判例を見てみましょう。

アクセルリス事件(東京地裁平成24年11月16日・労判1069号81頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がXを整理解雇した事案である。

Y社は、ソフトウェア製品の販売、導入支援コンサルティング、トレーニング等を主な業とする株式会社である。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

賞与請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・整理解雇の考慮要素としての人員削減の必要性とは、少なくとも当該人員削減措置の実施が不況、斜陽化、経営不振等による企業経営上の十分な必要性に基づいていることを要するものと解されるところ、本件においては、①本件解雇当時、Y社自身の経営状況が悪化していたことを認めるに足りる証拠はないこと、②米国親会社及び米国シミックス社の経営状況及び両社の合併に伴い、Y社において4名の人員削減を実施する必要性が十分にあったことを認めるに足りる証拠もないこと、・・・以上からすれば、本件解雇当時、X1名を整理解雇しなければならない十分な必要性があったとは認められないというべきである。

2 人員削減を実現する際に、使用者は、配転、出向、希望退職者募集等の他の手段によって解雇回避の努力をする信義則上の義務(解雇回避努力義務)を負うものと解され、同義務履行の有無を判断するに当たっては、当該使用者が採択した手段と手順が当該人員整理の具体的状況の中で全体として指名解雇回避のための真摯かつ合理的な努力と認められるか否かを判断すべきである。そして、人員削減の十分な必要性があったとまでは認められない本件において、本件解雇が正当化されるためには、相当手厚い解雇回避措置が取られた後でなければならないというべきである
これを本件についてみると、Y社は、・・・当該人員削減指示の説明及び希望退職者募集は、説明資料等を交付することなく口頭でされたに過ぎない上、希望退職者募集に係る退職の条件についても、多少の退職金オプションを出せる旨の抽象的な説明しかしていないというものであって、Y社主張に係る説明ないし希望退職者募集をもって、前記の解雇回避努力義務の履行があったと評価されるべきものではないというべきである
また、Y社は、Xの配転可能性について、Xの専門性を生かせるポストは顧客サポート業務以外にはなかったところ、Xが顧客からの評判が悪く、他のメンバーと強調しようとせず、同部門においてはXを除く他のメンバーによる新しいチーム作りが始まっていたことから、Xを顧客サポート業務に就かせることはできなかった旨主張するが、①職種限定契約である等の事情がなく雇用契約上職種や担当業務が限定されていないXについて、解雇回避義務の履行として配転を検討するに当たっては、異動候補先として幅広い職種・職務内容を検討すべきであること、・・・。なお、Y社は、X及び本件労組に対し、Xの専門性と無関係な他の業務(例えば、賃金額が大幅に下がる在庫管理)への配転の検討を要請したが、Xらがその検討を拒否したことをもって、解雇回避努力義務の履行をした旨主張するが、本件において、労働条件の大幅の不利益変更を伴う配転提案をしたことをもって同義務を履行したものとは評価できないから、Y社の主張には理由がない

解雇回避努力に関する判断は、是非、参考にしてください。

4要素説では、他の要素との関係で、求められる解雇回避努力の程度が変わってきます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇107(第一興商(本訴)事件)

おはようございます。

さて、今日はパワハラで視覚障害発症、休職期間満了後の自動退職の効力に関する裁判例を見てみましょう。

第一興商(本訴)事件(東京地裁平成24年12月25日・労判1068号5頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の正社員として勤務していたところ、上司等から仕事を与えられず、嫌がらせを受けたり暴言を浴びせられるなどした上、精神的に追い込まれて視覚障害を発症し、休職に追い込まれた結果、休職期間満了により自動退職という扱いになった。

Xは、①同視覚障害は、業務上の傷病に当たり、その療養期間中にXを自動退職とすることは労基法19条1項により無効であるとか、②Xは、休職期間満了時点で復職可能な状況にあったなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位確認並びに不当に低い評価を受けていた期間中の差額賃金及び上記自動退職後の賃金の支払いを求めるとともに、Y社にはその従業員らによる不法行為を漫然と放置したなどの安全配慮義務、不法行為があると主張して、Y社に対し、損害賠償を請求した事案である。

【裁判所の判断】

本件自動退職は無効

【判例のポイント】

1 ・・・以上のとおり、Xの供述内容には、全般的に疑問な点が多い。XがB課長やC課長らの暴言等を他部署の者、時には社外の者に訴え、その中で詳細にその言動の内容が記載されていることを考慮しても、X供述が客観的な裏付けを欠いていること、供述内容自体に合理性にが欠けていること、他の証拠との整合性がないことなどに照らすと、Xの供述についてはにわかにこれを信用することができないというべきである。
このように、Y社従業員(上司等)から継続的に暴言を浴びせられたり、嫌がらせを受けた旨のXの供述については信用することができず、他に、Xの主張を認めるに足りる的確な証拠は存しないというべきである。したがって、X主張にかかるY社従業員(上司ら)による不法行為の事実については、これを認めることができない。

2 労基法19条1項において、業務上の傷病により療養している者の解雇を制限している趣旨は、労働者が業務上の傷病の場合の療養を安心して行うことができるようにすることにある点からすれば、同項にいう「業務上の傷病」とは、労働災害補償制度における「業務上の傷病」、すなわち同法75条にいう業務上の傷病及び労働者災害補償保険法にいうそれと同義に解するのが相当である(東京高裁平成23年2月23日判決)。
そして、労災保険法にいう業務上の傷病とは、業務と相当因果関係のある疾病であると解されるところ(最高裁昭和51年11月12日判決)、同制度が危険責任の法理を基礎とするものであることからすれば、当該傷病の発症が当該業務に内在する危険の現実化と認められることを要するというべきであるところ、上記危険性については、その性質上、個々の労働者を基準として個別に判断すべきではなく、一般労働者を基準として客観的に判断されるべきものと解される

3 本件休職期間満了時点(平成22年1月6日時点)において、Xの休職事由が消滅していたか、すなわち、就業規則16条、18条に即していえば、休職の理由となった疾病が治癒し、通常の勤務に従事できるようになったかについて、以下、検討する。
・・・このように、労働者が、職種や業務内容を特定することなく雇用契約を締結している場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模・業種、当該企業における労働者の配置、異動の実情及び難易等に照らし、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているのあれば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である(最高裁平成10年4月9日判決)。
また、休職事由が消滅したことについての主張立証責任は、その消滅を主張する労働者側にあると解するのが相当であるが、使用者側である企業の規模・業種はともかくとしても、当該企業における労働者の配置、異動の実情及び難易といった内部の事情についてまで、労働者が立証しつくすのは現実問題として困難であるのが多いことからすれば、当該労働者において、配置される可能性がある業務について労務の提供をすることができることの立証がなされれば、休職事由が消滅したことについて事実上の推定が働くというべきであり、これに対し、使用者が、当該労働者を配置できる現実的可能性がある業務が存在しないことについて反証を挙げない限り、休職事由の消滅が推認されると解するのが相当である

4 これを本件についてみるに、Xは、本件休職命令後、視覚障害者支援センターに通学して・・・主治医であるD医師やI医師は、いずれも視覚障害者補助具の活用により業務遂行が可能である旨の意見を述べているところ、上記各医師の意見を排斥するに足りる証拠をY社は提出していない
・・・Xは、本件休職期間満了時点にあっても、事務職としての通常の業務を遂行することが可能であったと推認するのが相当である。

休職期間満了による退職処分と労基法19条との関係が争点となっています。

最近、この争点をめぐる裁判をよく見かけます。

使用者側のみなさんは、上記判例のポイント3を是非、参考にしてください。

裁判所の判断傾向を知っているだけで、とるべき対応策も変わってきますので。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇106(日本郵便事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、連続26日間の無断欠勤を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便事件(東京地裁平成25年3月28日・労経速2175号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において郵便物の集配業務に従事していたXが、26日間連続で無断欠勤したことを理由とする懲戒解雇の無効を主張した事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 まず、本件期間中、Xが脳腫瘍等の診断を受けたことは、本人の努力ではいかんともし難い、まことに気の毒なことではあり、その診断を聞いて途方に暮れてしまったことは、一時の心情としては十分理解することができる。しかし、他方で、X自身、本件期間中、いつまでも途方に暮れ続けていたわけではなく、自らの意思で検査入院の手続を取って入院したり、10日間ほど、夕方6時から深夜にかけて、Y社において禁止されている無許可でのアルバイトをしたり、飯田橋のしごとセンター(ハローワーク)には行っていないとのことではあるものの、その界隈には行って仕事探しをしたり、友人宅に泊まったりしていたということであって、病状としても、どうしても直ちに手術が必要という状態ではなかったのであるから、再三にわたって発令された本件出勤命令を受けて、同じ班の同僚にかけているであろう迷惑を慮るとともに、病状等の近況につきY社に対して一報を入れることぐらいは容易に可能であったものというべきである。それにもかかわらず、Xは、本件出勤命令に応じて出勤するどころか、・・・長期間にわたってY社に電話すら掛けずにいたのであって、このことについては、本件出勤命令を再三にわたって無視し続けたという謗りを免れないというべきであり、脳腫瘍等の診断を受けていたことは、本件欠勤に関する就業規則違反事由該当性を正当化し、あるいは、違反性を減じるような事情になるものと評価することはできない

2 他方、手続的な観点からみても、Y社は、合計4回、約90分の弁明の機会をXに与え、本県事情聴取の際、本件欠勤に関する種々の事情を尋ねたにもかかわらず、Xは、自己の病状や検査入院の事実について説明するどころか、本件期間中の自らの行動や電話すら掛けなかった理由について曖昧な返答に終始していたのであり、それにもかかわらず、Y社は、Xに対し、聴取書の記載内容を確認する機会や、諭旨解雇と退職金との関係について説明を受ける機会も与え、退職金はいらないから退職願は書かないと半ば投げやりな態度で答えたXに対し、日を改めて再度翻意の機会まで与えたのであるから、その手続的相当性は十分であると評価することができる

3 ・・・・以上の認定によれば、Xについては、その功労を抹消又は減殺するほどの著しく信義に反する行為があったといわざるを得ないから、就業規則どおり、有効な懲戒解雇処分を受けたXには、退職金請求権は発生しないというべきである。したがって、Xの予備的請求にも理由がない。
無断欠勤はやめましょう。

また、今回のケースでは、事案の重大性から、退職金の減額不支給も妥当だと判断されています。

この点は、控訴審で判断が覆る可能性があると思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇105(M社事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合活動のため会社のパソコンのデータを持ち出した従業員の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

M社事件(大阪地裁平成24年11月2日・労経速2170号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXらが、Y社からされた懲戒解雇が無効であるとして、雇用契約上の地位の確認等を求めた事案である。

Y社は、業務請負(設備機器類・産業廃棄物の構内管理業務)、廃棄物の処理、収集運搬等を業とする会社である。

本件懲戒解雇の解雇事由は、合同労組の組合員であったXらが、組合活動を有利に進めるためにY社の企業情報(取引先リスト、従業員の昇給に関するデータ)を持ち出したことである。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 X1がY社の取引先リストや従業員の昇給に関するデータをプリントアウトして社外に持ち出した行為は、Y社就業規則74条8項「会社の機密情報を社外に漏洩しようとしたとき、あるいは現に漏洩させたとき又は事業上の不利益を計ったとき」に該当するものというべきである。
また、X1が、上記事実によって窃盗罪の有罪判決を受けていることからすれば、X1の上記行為は、Y社就業規則74条11項「会社内で横領、傷害などの刑法犯に該当する行為があったとき。」に該当することは明らかである。
そして、X1の上記行為は、・・・懲戒処分の中でも懲戒解雇に相当するというべきである。

2 Xらは、同人らが解雇理由とされている行為の背景には、Y社と組合との労働条件をめぐる対立状況があり、Y社は組合に対する嫌悪からXらに対する不利益な取扱いや団体交渉での不誠実な対応を繰り返していたのであり、Y社の行為がX1の行為を招いた側面があり、これを理由として懲戒解雇することは、社会通念上相当ではない旨主張する
しかしながら、仮にXらが主張するとおりの事実が存在するとしても、Y社に対する対抗手段として窃盗行為等の犯罪行為を行うことが正当化されることはあり得ず、また、このことは懲戒解雇が社会通念上相当か否かを判断するにあたっても同様である

3 Xらは、取引先リストについて、同資料が街宣活動に利用されたという事実はなく、従業員であれば誰でも知っているY社に関連する場所である、得意先一覧が組合の街頭宣伝活動に不可欠というわけではない、組合が街頭宣伝活動を行った場所は全て、得意先一覧が無くともY社従業員であれば誰でも知っているY社に関連する場所であり、得意先一覧とは無関係であるなどと主張する
しかし、本件解雇理由においては、持ち出された取引先リストが利用されて街宣活動が行われたことではなく、このようなリストが持ち出されたこと自体が懲戒理由として主張されており、同事実については、当事者間に争いがないのであり、その行為の内容やXらが窃盗罪及び盗品等無償譲受け罪で有罪判決を受けていることからすれば、Y社の取引先リストが実際に街宣活動に利用されたか否かによって、懲戒解雇の有効性の判断は左右されないというべきである

原告は、窃盗罪、盗品等無償譲受罪で有罪判決を受けていますので、懲戒解雇は有効であると判断されやすくなります。

会社のお金を使い込んだ場合なども同様に刑法犯ですので、懲戒解雇は有効と判断されやすいです。

本件は、会社と組合との対立があったようですが、このことにより上記行為の違法性が阻却されることにならないという判断です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇104(N社事件)

おはようございます。  今週も一週間がんばりましょう!!

さて、今日は、競業会社と隠れて取引を行ったことを理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁平成24年10月11日・労経速2166号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、平成17年12月5日、同月19日をもって退職する旨の退職届を提出したにもかかわらず、Y社から同月9日付けで懲戒解雇されたことから、これが無効であり、退職届に基づく退職が有効であると主張して、(1)Y社の退職金規程に基づく基本退職金1028万円余、役付給付金437万円余、功労加給金42万円及び特別加給金492万円余の支払と、これらに対する遅延利息の支払を求めるとともに、(2)Y社が軽率にXの横領行為を理由とする無効な懲戒解雇をしたり、ドバイ首長国の警察署に対して上記横領行為の件を告訴してXに同国の刑事裁判を受けることを余儀なくさせたり、X・Y社間に雇用トラブルがあることを公にするかのような新聞広告を掲載してXの再就職等を困難にしたり、Xが告訴され旅券を取り上げられたて出国できないこと等を客先に対して殊更流布したりすることによってXの名誉・信用を毀損したことが不法行為に該当し、また、Y社が、新たな居住ビザ取得のために必要なビザキャンセル許可を拒否したことによって、Xが居住ビザや旅券を取得することが困難となり、IDカードの取得、アパートの賃貸や銀行口座の開設・預金の引き出し等、日常生活において困難を強いられたことが不法行為に該当すると主張して、これらに基づく不法行為に基づく損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

Y社はXに対し1466万円余及び平成18年3月1日から支払済みまで年6%の遅延利息を支払え

【判例のポイント】

1 一般に、使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである。したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないが、懲戒当時に使用者が認識していた非違行為については、それが、たとえ懲戒解雇の際に告知されなかったとしても、告知された非違行為と実質的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものである場合には、それをもって当該懲戒の有効性を根拠付けることができると解するのが相当である

2 Y社の就業規則においては、刑法犯となる可能性のある横領行為につき、「その疑いがあること」そのものを懲戒解雇事由と定めてはいないのであって、横領の疑いが、本件のように「許可のない自己営業に準じる不都合な行為」という懲戒解雇事由に該当すると主張するのであれば、その疑い自体が、相当程度の資料に基づく具体的かつ合理的なものでなければならないところ、そもそも本件懲戒解雇通知において、Y社側がXにつき横領の疑いを抱いたとする具体的事実や被害金額の摘示すらなく、懲戒解雇該当事由としては詳細があまりに不特定であったことなどに照らすと、懲戒解雇事由として、Xに横領の疑いありとするには早計であったといわざるを得ない

3 本件懲戒解雇は、Xによる退職の意思表示がY社に到達した後、それが効力を生じる前に、急遽なされたものであること、本件懲戒解雇事由について、Xに弁明の機会が与えられていなかったことを併せ考えると、本件取引中止宣言後もY社に隠れてN工業と取引を行ったという懲戒解雇事由が、34年8か月というXの多年の勤続の功を抹消してしまう程度に重大なものということまではできないし、Xを懲戒解雇として退職金を不支給とすることが、Y社の規律維持上やむを得ない場合にあたるということもできない

4 Xは、基本退職金、役付退職金の他に功労加給金及び特別加給金の請求権を主張しているが、前提事実に摘示したとおり、功労加給金については、Y社代表者が、直属所属長の申告に基づき、その裁量によって、特に功労ありと認めた従業員に対して支給するものであるから、Xにその請求権はないというほかはない。また、特別加給金については、労災法の適用基準により、業務上の直接原因による死亡又は通常の勤務に耐えられぬ事由により退職したときに支給されるものであるところ、Xにこのような事由を認めることはできないから、やはり、Xにその請求権はないというほかはない

基本給が高額のため、判決ではかなりの金額になっています。

懲戒解雇については、よほど慎重に進めなければ、本件のように会社側に手痛いしっぺ返しとなります。

また、退職金の減額や不支給についても、慎重に決定しないと、かなりの確率で訴訟になりますので注意が必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇103(報徳学園(雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、試用期間としての有期常勤講師制度と雇止めの可否に関する裁判例を見てみましょう。

報徳学園(雇止め)事件(大阪高裁平成22年2月12日・労判1062号71頁)

【事案の概要】

本件は、平成16年4月に約1年間の雇用期限付で、Y社の美術科常勤講師として採用され、その後も、同様の雇用契約を2度にわたり締結していたXが、Y社に、19年度の雇用契約の締結を拒絶(雇止め)されたことに関し、それが雇用契約の更新拒絶に該当するところ、同更新拒絶には合理的理由がなく解雇権濫用法理の適用または準用により無効であると主張して、XがY社に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認および本件雇止め後である平成19年4月1日以降の賃金の支払を求めた事案である。

本件の争点は、本件雇止めの有効性である。具体的には、(1)本件各雇用契約に解雇権濫用の法理が適用または類推適用されるか、(2)解雇権濫用の法理の適用または類推適用が認められる場合、本件雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができないか、である。

なお、第一審は、Xの地位確認請求等を認容した。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 有期雇用契約が多数回にわたって反復更新されるなどして期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となり、当事者の合理的な意思解釈としては実質的に期間の定めのない契約を締結していたものと認定される場合、雇止めの意思表示は実質的には解雇の意思表示に相当し、その効力を判断するに当たり、解雇に関する法理を類推適用するときがある(最高裁昭和49年7月22日)。また、期間の定めのない契約と実質的に異ならないとまで認められない場合であっても、当該雇用関係がある程度の継続が期待されていたものであり、現に契約が何度か更新されているような場合、契約期間満了による雇止めには解雇に関する法理が類推されることがある(最高裁昭和61年12月4日)。そして、期間の定めのない雇用契約において、使用者の解雇権の行使が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、当該解雇権の行使は権利の濫用として無効となり(最高裁昭和50年4月25日)、上記類推適用の場合も同様と解されるが、ただ、期間の定めのない契約と実質的に異ならないとまで認められない場合には、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に締結された期間の定めのない労働契約における解雇とは合理的な差異がある(最高裁昭和61年12月4日)。

2 Y社の常勤講師制度が、専任教諭の実質的試用期間とするために設けられたとは認められない。このような期間の定めのある教員の雇用は、一般に、職員構成の変動のほか、年度ごとの生徒数や教科編成の変動等に対応するためと認めるのが社会の実態を反映したものであるが、本件において、常勤講師契約やY社の内部規則等に常勤講師契約が専任教諭採用の手段であることを示す規定がある等、Y社がこれと異なるものとして上記制度を導入したと認めるに足りる事情はない。Y社が、常勤講師としての勤務状況を判断材料として、その中から専任教諭を採用した実例があったことは事実であるが、このような実例があったことは、上記のような常勤講師の制度を採用した目的ないし有期雇用契約であることと矛盾しない

3 ・・・このような経緯に照らすと、平成16年度雇用契約の時点では、Xが上記期待を持ったことの合理性があったかもしれないが、それは主としてB校長の言動に基づく主観的なものであって、常勤講師制度の目的等からの客観的根拠があったわけではない。そして、その後2年度にわたって専任教諭に採用されず、かえって、平成18年度雇用契約に先立ち、C校長及びG中学校長の上記告知を受け、さらに平成17年度限りで1名の常勤講師が雇止めとなったことを考慮すれば、少なくとも平成18年度には、Xの上記期待は減弱ないし消滅していたもの認めるのが相当であり、少なくとも合理的な根拠が乏しいものになっていたというべきである。

高裁で敗訴したXは、その後、最高裁に対し、上告受理申立てをしましたが、平成22年9月9日、不受理の決定が出されています。

本件では、Xの期待は主観的であり、客観的根拠があったわけではないとして法的に保護されるものではないという判断をされています。

雇止めに関する裁判例を相当数出てきており、企業が事前にかなり対策をとった上で、雇止めに踏み切っていることがうかがわれる事案も少なくありません。

本田技研工業事件がその典型ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。