Category Archives: 解雇

解雇62(学校法人福寿会事件)

おはようございます。

さて、今日は、専任教師に対する懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人福寿会事件(福島地裁郡山支部平成23年4月4日・労判1036号86頁)

【事案の概要】

Y社は、平成13年2月に設立された学校法人であり。A学校を運営している。

Xは、平成12年4月、A学校の専任教員として雇用され、勤務してきた。

Xは、Y社との間で、平成14年4月から平成15年3月末までとする雇用契約書を作成した。

その後、Xは、Y社がXに対し平成22年3月に委嘱期間を更新しない旨の通知をするまでの間、同学校で勤務していた。

Y社は、これとは別にXを懲戒解雇した。

懲戒解雇事由は、Xが報道関係者の取材を受け、A学校に関わる紛争や問題点を指摘する旨の報道がなされたことである。

Xは、本件通知は解雇権濫用に該当すること、懲戒解雇は懲戒解雇事由がなかったなどと主張し争った。

【裁判所の判断】

本件通知は解雇であり、解雇は無効

懲戒解雇も無効

【判例のポイント】

1 ・・・当事者間で雇用契約書が作成されたのは1回だけであり、XとY社の雇用契約書には年1回の昇給に関する記載がある等、雇用契約が1年を超えて継続することをうかがわせる記載もあった。・・・そうすると、Xらの職務内容が一時的・臨時的なものであったとは認め難い。結局、XらとY社の各雇用契約書には雇用期間を1年とする旨の記載があるが、これらの雇用契約書は本件雇用契約の内容を正確に反映したものではなかったと認めるのが相当である
・・・そうすると、本件契約は、Y社が主張するように、期間を1年とする有期雇用契約の更新が繰り返されていたものとは認められず、むしろ、本件就業規則に従い、特段の事情がない限り、Xらが定年まで勤務することを前提にした期間の定めのない雇用契約であったと認めるのが相当である

2 ・・・報道は報道機関の判断等によってなされるものであり、仮に報道によってA学校が損害等を受けたとしても、直ちにXらの行為によるものといえるかは疑問の余地がある。また、本件就業規則49条は、本件学校に関する取材に応じることを禁じたものとは認められない。加えて、Xらが取材を受けたのは本件通知の後であり、XらとY社は紛争状態にあり、Y社はXらとの雇用関係が終了したとの立場であったことを考慮すると、なおさら、XらがY社との紛争や自らの見解について、報道機関の取材に応じない義務を負っていたと認めることはできない。さらに、Xらは、報道機関の取材に対して、Y社に対し、地位保全等仮処分を申し立てた等の事実を述べたり、本件学校内の問題に対する自らの認識や見解を明らかにしたに過ぎず、虚偽の事実を述べてA学校の業務を妨害したり、学校の信用を毀損したり、本件学校に損害を及ぼしたりするために取材に応じたと認めるに足りる的確な証拠はない。そうすると、Xらが取材に応じたことにより、結果として本件学校に関わる紛争が生じている旨の報道や、本件学校の問題点を指摘する旨の報道がなされたとしても、このことをもってXらが本件就業規則49条(1)、(6)に反し、学校の業務を妨害したり、学校の信用を低下させたり、学校に損害を与えたりしたと認めることはできず、Y社の主張する懲戒解雇事由があったと認めることはできない
したがって、その余の点を判断するまでもなく、本件懲戒解雇は無効である。

上記判例のポイント1、2ともに、事実認定の勉強になりますね。

有期雇用の契約書があったとしても、それ以外の資料から期間の定めのない雇用契約を想定していると評価されれば、有期雇用とはなりません。

これはもう常識といえば常識です。

形式では勝負はつきません。 あくまでも実質が重視されるわけです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇61(泉州学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、専任教員に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

泉州学園事件(大阪高裁平成23年7月15日・労判1035号124頁)

【事案の概要】

Y社は学校法人である。

Xら7名は、Y社が設置する高等学校の専任教員として雇用されていたが、平成20年3月、整理解雇された。

本件高校の生徒数は、平成元年度以降、毎年度減少傾向が続き、Y社の主要な収入である学生生徒等納付金も減少した。平成19年度のY社の補正運用資産外部負債比率は91%であり、外部負債の返済能力が不十分であり、金融機関からの借入れ等の外部資金の調達が相当困難であり、極めて資金繰りに窮した状態であった。

Xらは、本件整理解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 整理解雇は、使用者の業務上の都合を理由とするもので、解雇される労働者は、落ち度がないのに一方的に収入を得る手段を奪われる重大な不利益を受けるものであるから、それが有効かどうかは、(1)解雇の必要性があったか、(2)解雇回避の努力を尽くしたか、(3)解雇対象者の選定が合理的であったか、(4)解雇手続が相当であったかを総合考慮して、これを決するのが相当である。

2 そもそも、人件費削減の方法として、人件費の高い労働者を整理解雇するとともに、他方では人件費の安いほぼ同数の労働者を新規に雇用し、これによって人件費を削減することは、原則として許されないというべきである。なぜならば、同程度の人件費の削減を実現するのであれば、人の入れ替えの場合よりも少ない人数の整理解雇で足りると解されるし、また、このような人を入れ替える整理解雇を認めるときは、賃金引き下げに容易に応じない労働者の解雇を容認し、その結果として労働者に対し賃金引き下げを強制するなどその正当な権利を不当に侵害することになるおそれがあるからである。もっとも、本件の11名のように、任意又は雇止めによる退職の場合に人を入れ替える措置を講じることには特段の法的問題はないと解される。

3 ・・・以上のように、本件においては、(1)11名の退職が予定された段階においては、同退職により一時的な退職金差額の負担を除き少なくとも4128万円程度の人件費の削減になり、これにより財務状況は相当程度改善されると予測されたから、この点で本件整理解雇の必要性があったとは認め難いこと、(2)本件整理解雇は人を入れ替えることを意図したものと解され、その観点からもその必要性を肯定し難いこと、(3)予算ではなく平成19年度の実際の財務状態を前提に1審被告の計算式を適用すると削減人数は13名になり、その結果整理解雇の人数は2名になるから、本件整理解雇の段階で予算になる従前の計算をそのまま使用することは妥当でないことといった問題点があったことを指摘することができる。そこで、これらの諸点を総合すると、本件整理解雇時に7名の専任教員の解雇を要するだけの必要性があったとは認めることができない

4 本件では、Xらないし組合とY社は、相手方の行動、対応を逐一批判ないし非難する傾向にあり、相互不信は根深いものと認められるから、Y社が、その財務状況を踏まえて人件費削減の必要性を訴えても、Xらあるいは組合との間で結局話合いは平行線をたどった可能性も否定できないものと推測される。しかし、そうではあっても、整理解雇を行う使用者は、組合ないし労働者との間で説明や交渉の機会を持つべきである。整理解雇のような労働者側に重大な不利益を生ずる法的問題においては、関係当事者が十分意思疎通を図り誠実に話し合うというのが我が国社会の基本的なルールであり、公の秩序というべきである。したがって、Y社がこれを持とうとしなかったことに整理解雇に至る手続に相当性を欠く瑕疵があるといわなければならない

一審とは異なる判断をしました。

上記判例のポイント4は、手続きの相当性を考える上で、留意しなければいけません。

「どうせ話したってわかってもらえないよ」というあきらめは、基本的には認められません。

会社側とすれば、やはり被解雇者や組合と事前協議を行うべきだということです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇60(静岡フジカラーほか2社事件)

おはようございます。

さて、今日は、事業譲渡と整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

静岡フジカラーほか2社事件(東京高裁平成17年4月27日・労判896号19頁)

【事案の概要】

Y1社は、営業の全部をY2社に譲渡して解散したことに伴い、Y1社に勤務していたXらを解雇した。

Xらは、本件解雇が不当労働行為又は解雇権の濫用により無効であると主張するとともに、Y1社、Y2社の親会社であるY3社に対し、違法な営業譲渡契約を締結させたとして不法行為に基づく損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xらは、本件ではY1社の正規従業員の半数についてY2社への雇用が決定されたことにつき、その経営上の必要性について労働組合との交渉で一切説明がなく、整理解雇法理の要件の一つである差し迫った必要性を欠き、Y1社は希望退職の募集を一切行っていないことから整理解雇要件の一つである解雇回避努力をも欠く旨を主張する。しかし、Y1社の経営が危機的状況にあり、会社は、経営協議会や団体交渉等で、関係資料も交付してこれを説明していたことは前記のとおりであること、希望退職募集を行っていないことは主張するとおりではあるが、これを行うことが経営上困難であったことも前記のとおりであって、Y1社に会社解散、営業譲渡、全員解散の必要性がなかったということはできないし、その回避努力を欠くということもできず、上記主張は理由がない

2 Xらは、Y1社の解散、全員解雇、Y2社への労働契約不承継条項付きの営業譲渡、Y2社における半数雇用という一連の事態の中で整理解雇が行われたものであって、整理解雇の要件を欠いている旨を主張するが、本件がいわゆる整理解雇とは事案を異にすることは前記のとおりであり、仮に、整理解雇の要件具備を要するとしても、これを充足すると認められることは前示のとおりである。

事業譲渡においては、基本的に、他の権利義務と同様に特定承継となります。

そのため、労働契約の承継については、譲渡会社と譲受会社との間の個別の合意が必要とされます。

また、民法625条1項により、承継には労働者の個別の同意が必要です。

最近の裁判例も、労働契約の承継については、このように考えるのが多数です。

もっとも、裁判所は、この原則を貫くと具体的妥当性を保てないと考える場合、例外的に、明示の合意がなくても、黙示の合意の推認や法人格否認の法理等を用いて、妥当な解決を図ろうとします。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇59(萬世閣(顧問契約解除)事件

おはようございます。

さて、今日は、調理部長に対する執行役員からの解任、顧問契約解除の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

萬世閣(顧問契約解除)事件(札幌地裁平成23年4月25日・労判1032号52頁)

【事案の概要】

Y社は、温泉旅館業を営む会社である。

Xは、昭和45年、Y社に調理職として採用され、調理長等を経て、平成8年2月頃、Y社の取締役に就任するともに、Y社における総調理部長に任命された。

Xは、平成14年12月頃、取締役を解任され、常務執行役員となり、さらに、平成18年9月、執行役員を解任され、調理部顧問に配属された。

Xは、職務として調理人の手伝いや自動車の移動、テラスの鉢植えの花の手入れなども行うようになった。その後、Xは、Y社就業規則に定める定年年齢(60歳)となった。

Xは、平成20年10月、他の顧問とともに、Y社における長時間労働や時間外手当の不支給等を労基署に申告し、これを受けて、労基署がY社に立入検査を行った。

Y社は、Xに対し、退職についての話をし、その後、顧問契約を解除する旨記載された書面を送達し、以後Xの就労を拒んだ。

Xは、顧問契約の解除は、解雇権の濫用であり無効である等と主張し、争った。

【裁判所の判断】

解雇は無効

解雇は不法行為にあたるとして、慰謝料40万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 (1)Xは、昭和46年から、洞爺湖萬世閣調理部長として、洞爺湖萬世閣のみならず、登別萬世閣の各調理部門の調理全般及び原価計算、メイド管理等の統括業務に当たっていたこと、(2)Xは、平成8年2月、Y社の取締役に任じられると同時に、総調理部長となり、従前担当してきた洞爺湖萬世閣及び登別萬世閣に加え、定山渓ミリオーネの各調理部門の総括に当たるようになったこと、(3)Xは、取締役に就任後も、Y社取締役会には1回しか出席したことがなく、その職務内容は、その担当に定山渓ミリオーネや企画商品の打合せ等が加わったほかは、基本的に従前と変わりがなかったこと、(4)取締役在任中、Xは、Y社から給与を支給され、雇用保険に加入しているものとして、その保険料を控除されていたことが認められる。そして、Xが取締役に就任すると同時に従業員としての退職の意思表示をしたか、Y社と退職の合意をしたという事情もうかがわれないのであるあから、Xは、平成8年2月にY社の常務取締役に就任後も、従前の労働契約を維持したままであり、取締役であるとともに使用人たる地位も兼任していたものと認められる

2 これまでY社の常務執行役員として名目だけにせよその経営陣に名を連ね、洞爺湖萬世閣、登別萬世閣及び定山渓ミリオーネの各調理部門の調理部長や調理長に指示を下すべき立場にあったのに、あからさまではないにせよ、今度は一介の調理人同然に補助業務をすることとなり、その他雑務も指示されたというのであって、これは左遷ないし降格と受け取られる人事異動といい得ること等に照らすと、これが不利益処分という性質を有することは否定できないのであって、前記のようにA執行役員をY社代表取締役の後継者とするためにXを執行役員から解任するという動機は正当な理由とはいえないから、かかる人事上の不利益処分は、故意にXの名誉ないし社会的評価を傷付けた違法なものとして不法行為を構成するというべきである

3 Xは、Y社との労働契約に基づき、その常務執行役員に就任したものであるところ、Xが、洞爺湖萬世閣調理部顧問に配属されるに当たって、退職の意向を示したとか、退職の合意をしたなどとうかがわせる事情は何もなく、退職金が支払われたなどといった事情もないのであるから、Xを洞爺湖萬世閣調理部門に配属させたのも従前の労働契約に基づくものというべきである
そして、Xの職務の性質に加え、平成20年3月31日当時、洞爺湖萬世閣には定年である60歳を超えて雇用される者が多数いたこと、Xの給与が42万円から30万円に引き下げられたのは、Xが定年に達した平成20年2月ではなく、同年4月分の給与からであること等に加え、Y社代表取締役がXを65歳になるまで使用することを考慮している旨伝えたこと等に照らすと、上記労働契約については少なくとも60歳の定年後もXの雇用を継続する旨の合意がされていたというべきである

この事件、原告側にいっぱい弁護士がついています。合計27人。

実働は何人なんでしょうか?

判決を読み込んで、両当事者がどのような主張、反論を繰り広げているかを見ていくと、勉強になります。

被告側の主張を見てみると、実際のところ、原告に不利な事情もいくつか散見されますが、そこは、総合判断ですので、多少、不利な事情があっても、トータルでは原告の主張が認められるのだと思います。

被告側は、控訴していますが、どうなったのでしょうか。 和解で終わったのかしら。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇58(NTT東日本(出張旅費不正請求)事件

おはようございます。

さて、今日は、出張旅費不正請求と懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

NTT東日本(出張旅費不正請求事件)(東京地裁平成23年3月25日・労判1032号91頁)

【事案の概要】

Y社は、電話等の事業会社である。

Xは、昭和57年4月、Y社に入社し、その後関連会社に出向して、営業担当の課長代理を務めていた。

Y社は、平成20年5月、Xに対し、Xが日帰出張旅費を不正に請求して私的流用をしたという理由で懲戒解雇処分をした。

なお、Xは、Y社に対し、旅費を申請して受給しており、平成16年4月から平成19年9月までの42か月間に、171万2560円の旅費を申請し受給した。

Xは、本件懲戒解雇について、旅費を不正に請求して私的流用をしたことはなく懲戒事由が存在しないこと、弁明の機会を一切与えられずに私的流用の事実の自白を強要されたことなどから無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、トップクラスの営業成績を上げて、Y社の利益によく貢献しており、そのために相当の努力を重ねていたものと考えられる。その努力のひとつとして、Xは、顧客を訪問する際、いつも当該顧客に関する資料が整理されたキングファイルを携行していたが、これは非常に分厚く重いものであったから、1日に複数の顧客を訪問する場合、オフィスと各顧客との間をそれぞれ往復する必要があったと主張する
しかし、通信機器販売の営業活動にはさまざまな段階や場面があるはずであり、いつも分厚く重いキングファイルを携行して各顧客との間を往復する必要があったなどというのは、それ自体説得力に乏しいものといわざるを得ない。G証人の陳述書の記述や法廷での証言には、Xが顧客との間を頻繁に往復していたという部分があるが、この証言等に裏付けはないし、そもそも、Xの主張は、単に携行したことを強調するだけで、ファイルを顧客先でどのように活用したかなど、携行の目的や効果について説明をしておらず、合理的なものとはいえない

2 Xは、70万円を上回る額の旅費の過大請求をして、その私的流用をしたものと認めることができる。この行為は、就業規則76条1号、7号、11号に該当するものというべきである。したがって、本件懲戒解雇は、懲戒事由の存在が認められる

3 認定事実によれば、Xは、始末書や旅費請求の内訳の作成過程を通じて、私的流用をしたか否か、営業上の費用の額はいくらか、その内訳はどのようなものかなどについて、弁明の機会を付与されていたことが明らかである。
Xは、J課長がXに対し、事実を認めて謝罪しなければ懲戒解雇になると脅したり、始末書を提出すれば処分が軽くなるなどという利益誘導をしたりして、旅費の私的流用の自白を強要し、その旨の始末書を提出させたなどと主張するが、このような事実を認めるべき証拠はない

上記判例のポイント1の事実認定は、原告側にとっては納得のいかないものでしょう。

原告は控訴しています。

一般的に、経費の私的流用に対する処分は重くなります。 犯罪なので。

会社とすれば、しっかりとした調査と適正な手続をとることに留意する必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇57(奈良観光バス事件)

おはようございます。

今日は、研修期間満了による本契約拒否に関する裁判例を見てみましょう。

奈良観光バス事件(大阪地裁平成23年2月18日・労判1030号90頁)

【事案の概要】

Y社は、一般貸切旅客自動車運送事業等を目的とする会社である。

Xは、もともとタクシー運転手として稼働してきたが、平成19年7月、Y社のバス運転手採用試験を受験し、入社した。

Y社は、バス運転手として新規採用した者に対し実技研修を行った上、研修期間中に実施する実技試験である中間検定又は最終検定のいずれかに合格した者を雇用期間1年の契約社員として採用し、さらに契約社員として3年以上勤務した者の中から正社員を採用する運用を行っている。

Xは、上記検定に不合格となり、退職扱いとされたため、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた。

なお、他の新規採用者4名は、いずれも中間検定又は最終検定に合格し、契約社員として採用された。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用請書には、「研修期間内に雇い入れることが適当でないと認めたときは、予告なしで雇用を解除する。」との規定が置かれているが、同規定にいう解除は、当事者の一方による解約の意思表示を意味するから、解雇にほかならない。ところで、本件労働契約は、期間の定めのある労働契約であるから、労働契約法17条1項により、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができないのであり、労働契約の当事者が、やむを得ない事由がない場合でも解雇は可能である旨を合意したとしても、そのような合意は無効とされる。そして、同条にいう「やむを得ない事由」とは、期間の定めのない労働契約につき解雇権濫用法理を適用する場合における解雇の合理的理由より限定された事由であって、期間の満了をまたず直ちに契約を終了されざるを得ない事由を意味し、労働者の就労不能や重大な非違行為がある場合などに限られると解されるから、Y社が労働者に対しバス運転者としての適性・能力がないと判定したことは、同条にいう「やむを得ない事由」に当たらないといわなければならない。
よって、Y社による留保解約権の行使は認められないから、本件労働契約は、平成19年9月15日の経過により終了したといえる。

2 Xは、(1)平成19年3月に大型第二種運転免許を取得したばかりであり、バス運転の経験を有しなかったこと、(2)Y社の採用試験においても、一回目は、左折時に脱輪するなどして不合格となっていること、(3)研修中から、バス運転に関し、速度を出し過ぎる、速度にムラがある、左側に寄り過ぎる、ふらつくなどの問題点を指摘されていたこと、(4)本件中間検定においても、6名の判定者から、「全体を通して、速度を出し過ぎる」「カーブ及び交差点に進入する際、減速が足りない」「対向車を避けるとき、急ハンドルを切る」「車両が左側に寄り過ぎる」などの問題点が指摘され、判定会議の結果、判定者6名のうち1名が「もう少し研修をして経過観察しても良い」という意見であったものの、その余の5名が、「改善の見込みがなく本採用しない」という意見であったことが認められる。したがって、Y社が、Xに対し、本件中間検定について不合格の判定を行うとともに、研修を続けても技能の向上が見込めないと判断したことは、必ずしも不当とまではいえず、本件全証拠を検討してみても、Y社が恣意的に判断を行ったことを窺えるような証拠もない。

3 よって、Xは、Y社のバス運転者としての適性・能力を有することが認められない以上、Y社に対し、契約社員の労働契約が成立したと主張することはできない。

ちょっと厳しい気がしますが・・・。

経過観察で、もう一度チャンスを与えてもいい気がします。

会社としてみれば、そんなレベルではない、ということなのでしょうか。

なお、この事案は、Xが控訴しました。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇56(日鯨商事事件)

おはようございます。

さて、今日は、海外勤務者の無断帰国等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日鯨商事事件(東京地裁平成22年9月8日・労判1025号64頁)

【事案の概要】

Y社は、東京に事務所を有するほか、オマーンにも事務所兼社宅を借りていた。

Xは、Y社との間で雇用契約を締結し、平成19年11月から、主にオマーンにおいて業務に従事していた。

Xは、日本とオマーンを行き来しており、同年3月にも日本からオマーンに向けて出国した。この際の往復旅費はY社の負担である。

Xは、同月、オマーンから日本へ帰国した。この前日、XはY社の取締役であるAと電話でやりとりをし、きちんと引継ぎと今後の業務への対応策を話し合う必要があるので、Y社代表者とAがオマーンに戻る翌日までオマーンに残るよう言われたが、Xは航空券の日程変更ができないとして、同日帰国した。

Y社は、Xに対し、Xの「中東業務契約」を解除する旨のメールを送信し、同日、Y社は、解除メールと同内容の「中東業務契約解除(解任)通知書」と題する書面を発送した。

Xは、Y社による解雇は違法であるとして、損害賠償請求、未払時間外手当の請求等をした。

【裁判所の判断】

Y社の行為は不法行為に該当する。

【判例のポイント】

1 Y社のXに対する中東業務契約解除につき、本件就業規則には解雇規定はあるが、Y社に在籍しつつ一部の業務について契約を解除する旨の規定はないことや、Y社がXに対し退職の意思の有無を確認せずに退職手続を進めたことから、Y社は、契約解除通知書の交付をもって、Xに対し解雇の意思表示をしたものと認められる。

2 Xの出張先からの帰国等が、本件就業規則の解雇事由である「従業員の就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合」には該当しないとし、本件解雇は解雇権を濫用し著しく相当性を欠くものであり、Y社には本件解雇をしたことにつき過失があったものと認められる。
以上によると、本件解雇は、Xに対する不法行為を構成するものということができる。

3 Xは、本件解雇により失職したことによって、合理的に再就職が可能と考えられる時期までの間、本来勤務を継続していれば得られたはずの賃金相当額の損害を受けたものということができる。

Xは、本件解雇当時45歳の男性であったこと、複数回の転職経験があること、語学(英語)能力が高いこと、現に本件解雇後1か月も経過しないうちに再就職することができたことが認められるところ、これらの事情を総合考慮すると、Xが合理的に再就職をすることが可能であると考えられる期間は、本件解雇後3か月であると認めるのが相当である

4 本件解雇により被った精神的苦痛については、前記財産的損害の賠償により慰謝される性質のものであるというべきである

本件では、Y社の不法行為責任を認めました。

事案としては、解雇の有効性は否定されてもしかたがないものです。

注目すべきは損害額です(上記判例のポイント3参照)。

Xがこれほど有能でなければ、損害額はもっと多くなったのでしょうか・・・?

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇55(日本通運(休職命令・退職)事件)

おはようございます。

さて、今日は、異動内示に伴う不就労に対する休職命令・退職扱いの効力に関する裁判例を見てみましょう。

日本通運(休職命令・退職)事件(東京地裁平成23年2月25日・労判1028号56頁)

【事案の概要】

Y社は、物流事業全般を営む会社である。

Xは、平成元年4月、Y社に入社し、平成13年3月、本件事業所営業係長に任ぜられた。

Xは、Y社から、ビジネスセンターへの異動の内示を受けたが、これに強い拒絶反応を示し、翌日、急性口蓋垂炎による呼吸困難で倒れ、救急搬送されて治療を受け、その後終了しなかった。

Y社は、平成19年2月、Xに対し、就業規則により休職命令を発令し、その後の賃金を支払わなかった。

平成20年2月、Y社は、Xは休務療養の必要がなくなったとはいえないとの理由から、Xに対し1月末付けで退職扱いとする旨通知した。

Xは、Y社が就労可能なXに対し、本件休職命令を発令して本件退職扱いをしたのは違法であると主張し争った。

【裁判所の判断】

休職命令、退職扱いはともに有効

【判例のポイント】

1 Y社は、当初、本件休職命令の発令を、疾病による欠勤開始の1年後である平成18年9月に予定していたが、その直前にY社の労働時間管理に不備があったことが判明して、2年分の割増賃金を支払うなどしたため、平成19年2月まで遅らせた。この過程で、A次長は、Xが直属の上司であるBに対する理不尽ともいうべき避難・攻撃を繰り返していたにもかかわらず、根気よく対応して、本件休職命令発令の直前には、診断書を作成していないと聞いて、再度受診のうえ診断書を提出よう求めた。また、A次長は、Xに対し、発令の内示をした際、あと1年あるという気持ちで復職に前向きに取り組むよう励まして、その後も何度か電話をするなどして接触を図っている。
このような事実によれば、Y社は、Xの当時の状況を踏まえてその立場に配慮した働きかけ等をしたものということができる。そうすると、Y社がXを退職に追い込む目的を有していたとは認められない

2 本件休職命令の発令に当たり、休職を要するという趣旨の診断書等があったわけではない。一方、C医師は、平成年月、「病状は改善し、就労は可能と思われる」という診断をしている。
しかし、この診断書は、上記のほかに「可能であればストレスの少ない職場への復帰が望ましい。尚今後6か月程度の通院加療が必要と思われる」という留保があり、そのまま復職可能診断というのは相当でない。
・・・この事実によれば、A次長は、この診断書の信用性に疑問を抱いたと考えられるが、これは合理的なものということができる。したがって、Y社が、復職可能診断を不当にも無視したとは認められない

3 ・・・以上の事情等に、Xは、休職期間満了日を超えて平成20年9月ころまで、抗不安薬等、C医師から処方された薬を服用していたことも考慮すると、Y社が復職可能診断を不当にも無視したものと認めることはできない
以上によれば、本件退職扱いをすることが信義則に反し許されないというXの主張は失当というべきである。

本件では、Xの主治医とY社の産業医が異なる診断をしています。

Y社の産業医は、Xの主治医から独自に得た情報に基づき、「本人、会社が対立する問題を保留としたまま本人が職場復帰することは、復職にとって重要な本人の信頼感の回復を待たずに職場環境に入ることとなり、症状が増悪し、呼吸困難のような発作が再発する可能性が極めて高い」という意見書を提出しています。

これに対し、Xの主治医は、産業医の意見について、「Xに面談もせずに判断することにも大きな問題がある」という批判的意見を述べてました。

この点について、裁判所は、以下のとおり判断しています。

「確かに、医学的判断をするに当たっては面談(診察)等で得られる情報が重要な要素であることは明らかであるが、前記のとおり、XとY社との信頼関係が失われた原因は、XのCに対して激しい調子で非難・攻撃を繰り返すなどしたところにあり、産業医は、従前の経過に基づきこの点を理解していたのであるから、面談をしなかったことが同医師の意見の説得力を損なうものとはいえない。」

このあたりは、なんともいえません。 

なお、本件は、控訴されています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇54(互光建物管理事件)

おはようございます。

さて、今日は、就業場所についての事前協議条項と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

互光建物管理事件(大阪地裁平成23年1月27日・労判1026号172頁)

【事案の概要】

Y社は、委託を受けてマンション管理等を業とする会社で、従業員数は2400名程度で、そのうち、マンション管理人は350名程度である。

Xは、平成16年8月頃、Y社との間で雇用契約を締結し、訴外B社が管理するマンションの住み込み管理員として派遣されていた。

Xは、Y社から、B社との間の直接雇用契約にすべく転籍出向の意向打診がなされたが同意せず、また、研修を欠席したことなどから解雇された。

なお、Y社には、就業場所についての事前協議協定が存在する。

Xは、本件解雇は、就業場所についての事前協議協定に反し無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの就労場所としてCマンションと決定しているが、同決定は、本件確認書4項に基づき「事前に乙に説明し、乙の意見を聞く等して、別途労使間で誠実に協議することとし、加えて、乙の家庭事情その他を尊重した上」で行わなければならない義務に反した行為であって、違法無効といわなければならない
同決定の瑕疵の重大性からして、。それを前提とするY社のXに対する本件2研修命令は違法と言わなければならない。そうすると、Xが同研修命令に反して欠勤をしたとしても、それをもって直ちに違法とまで言うことはできない。また、Xは、同研修命令で命じられた期間以降もCマンション等に出勤することがなかったが、同研修命令が違法であることからすると、同出勤しなかったことをもって欠勤ということはできない

2 Y社は、Xが同2研修命令に従わず、1か月に7日以上無断欠勤をしたとして本件解雇を行ったが、同解雇は、解雇権の濫用というべきで、無効といわなければならない。

3 本件2研修命令に伴う欠勤であるが、同研修命令は違法と言わなければならず、したがって、Xが同研修命令に反して欠勤をしたとしても、それをもって直ちに違法とまで言うことはできない。そうすると、同欠勤をもって減額措置をとることはできないといわざるをえない。したがって、Y社の同研修命令を基礎とする賃金減額措置は違法で、無効といわなければならない。また、Xの同研修命令以降の欠勤であるが、同研修命令以後それに引き続いて欠勤していること、Y社が同研修命令を命じたにもかかわらず欠勤を継続している旨認識していたことを踏まえると、違法無効な同研修命令を基礎として業務命令を出したことについてXが従わなかったことが契機となってY社に出勤しないことが継続されたものと推認される
以上の事実を踏まえると、違法な同研修命令が契機として出勤しなかった日をもって無断欠勤等として減額措置をとることはできないというべきである

上記判例のポイント3の判断は、参考になります。

研修命令に伴う欠勤による賃金の減額措置の適法性について、以下のような論理展開をしています。

研修命令は違法→研修命令に反して欠勤しても違法ではない→だから欠勤を理由とする減額措置はダメ

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇53(京電工諭旨解雇事件)

おはようございます。

さて、今日は、仕事のミスを理由とする退職勧奨に関する裁判例を見てみましょう。

京電工諭旨解雇事件(仙台地裁平成21年4月23日・労判988号53頁)

【事案の概要】

Y社は、平成8年に設立された電気工事業・通信設備工事業・配管工事業及びこれに付随する一切の業務を業とする会社である。

Xは、平成17年12月、Y社に採用され、東北6県及び新潟県の現場で電気通信設備工事に従事していた。

Xは、Y社に対し、Y社から自主退職の名目で懲戒解雇理由がないのに懲戒解雇同様の不利益処分を下されたとして、不法行為に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

不法行為が成立する

【判例のポイント】

1 Y社がXに対して退職届の提出を命じたのは、Xに対して懲戒処分の一種である諭旨解雇処分を行ったものと認めることができる。

2 規則上、諭旨解雇事由は明確には規定されていない。しかし、その諭旨解雇処分の内容は、説諭の上で自発的に退職させるというものであり、自発的という文言が使われてはいるものの、懲戒処分としてなされるものである以上、労働者の自由意思が入り込む余地は少ないと言え、労働者にとっては懲戒解雇に準ずる程度の不利益を与えるものということができる。したがって、その事由も、規則38条2項の懲戒解雇事由に準ずるものと解するのが合理的である。 

3 Xには諭旨解雇処分を行うに足りる合理的な理由があったというべきであるが、本件処分は懲戒処分の一種であるから、これをXに対して行う際には、懲戒処分であることを明示した上で、その根拠規定と処分事由を告知すること、及び諭旨解雇事由のあることについて労働基準監督署長の認定を受けた場合のほかは、少なくとも30日前に予告をするか、又は平均賃金の30日以上の予告手当をXに支払うことが必要であったというべきである(労働基準法20条、規則27条2項)。
本件処分においてはY社の過失によって上記手続がとられていないことが認められるから、本件処分はその手続において違法といわざるを得ず、Xに対する関係で不法行為が成立するというべきである

4 Xは、本件不法行為による逸失利益として、1年間の減収額252万円と年次有給休暇の取得権侵害による40万0890円を請求するが、Xには諭旨解雇処分の対象とされるに足りる合理的な理由があったというべきであるから、本件処分が上記の手続を遵守してなされていさえすれば、上記逸失利益は発生する余地はなかったと言える。したがって、本件不法行為と相当因果関係の認められるXの逸失利益としては、予告手当相当額(平均賃金の30日分)の限度でこれを認めるのが相当である

5 上記のとおり、Xには諭旨解雇処分の対象とされるに足りる合理的な理由があったものであり、本件処分の違法性は手続的違法にとどまることを考慮すると、本件不法行為によってXが被った精神的苦痛の慰謝料は、10万円と認めるが相当である

会社としては、単なる退職勧奨と認識していたのだと思いますが、裁判所は、諭旨解雇処分と認定しました。

退職勧奨の違法性を争うというやり方のほかに、退職勧奨は、実質的には諭旨解雇処分であるという争い方があるんですかね。

また、判決理由を読むと、この会社の就業規則には、諭旨解雇処分についての規定がないようですが、裁判所は、懲戒解雇の規定の準用を認めています。

罪刑法定主義は?

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。