解雇60(静岡フジカラーほか2社事件)

おはようございます。

さて、今日は、事業譲渡と整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

静岡フジカラーほか2社事件(東京高裁平成17年4月27日・労判896号19頁)

【事案の概要】

Y1社は、営業の全部をY2社に譲渡して解散したことに伴い、Y1社に勤務していたXらを解雇した。

Xらは、本件解雇が不当労働行為又は解雇権の濫用により無効であると主張するとともに、Y1社、Y2社の親会社であるY3社に対し、違法な営業譲渡契約を締結させたとして不法行為に基づく損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xらは、本件ではY1社の正規従業員の半数についてY2社への雇用が決定されたことにつき、その経営上の必要性について労働組合との交渉で一切説明がなく、整理解雇法理の要件の一つである差し迫った必要性を欠き、Y1社は希望退職の募集を一切行っていないことから整理解雇要件の一つである解雇回避努力をも欠く旨を主張する。しかし、Y1社の経営が危機的状況にあり、会社は、経営協議会や団体交渉等で、関係資料も交付してこれを説明していたことは前記のとおりであること、希望退職募集を行っていないことは主張するとおりではあるが、これを行うことが経営上困難であったことも前記のとおりであって、Y1社に会社解散、営業譲渡、全員解散の必要性がなかったということはできないし、その回避努力を欠くということもできず、上記主張は理由がない

2 Xらは、Y1社の解散、全員解雇、Y2社への労働契約不承継条項付きの営業譲渡、Y2社における半数雇用という一連の事態の中で整理解雇が行われたものであって、整理解雇の要件を欠いている旨を主張するが、本件がいわゆる整理解雇とは事案を異にすることは前記のとおりであり、仮に、整理解雇の要件具備を要するとしても、これを充足すると認められることは前示のとおりである。

事業譲渡においては、基本的に、他の権利義務と同様に特定承継となります。

そのため、労働契約の承継については、譲渡会社と譲受会社との間の個別の合意が必要とされます。

また、民法625条1項により、承継には労働者の個別の同意が必要です。

最近の裁判例も、労働契約の承継については、このように考えるのが多数です。

もっとも、裁判所は、この原則を貫くと具体的妥当性を保てないと考える場合、例外的に、明示の合意がなくても、黙示の合意の推認や法人格否認の法理等を用いて、妥当な解決を図ろうとします。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。