解雇57(奈良観光バス事件)

おはようございます。

今日は、研修期間満了による本契約拒否に関する裁判例を見てみましょう。

奈良観光バス事件(大阪地裁平成23年2月18日・労判1030号90頁)

【事案の概要】

Y社は、一般貸切旅客自動車運送事業等を目的とする会社である。

Xは、もともとタクシー運転手として稼働してきたが、平成19年7月、Y社のバス運転手採用試験を受験し、入社した。

Y社は、バス運転手として新規採用した者に対し実技研修を行った上、研修期間中に実施する実技試験である中間検定又は最終検定のいずれかに合格した者を雇用期間1年の契約社員として採用し、さらに契約社員として3年以上勤務した者の中から正社員を採用する運用を行っている。

Xは、上記検定に不合格となり、退職扱いとされたため、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた。

なお、他の新規採用者4名は、いずれも中間検定又は最終検定に合格し、契約社員として採用された。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用請書には、「研修期間内に雇い入れることが適当でないと認めたときは、予告なしで雇用を解除する。」との規定が置かれているが、同規定にいう解除は、当事者の一方による解約の意思表示を意味するから、解雇にほかならない。ところで、本件労働契約は、期間の定めのある労働契約であるから、労働契約法17条1項により、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができないのであり、労働契約の当事者が、やむを得ない事由がない場合でも解雇は可能である旨を合意したとしても、そのような合意は無効とされる。そして、同条にいう「やむを得ない事由」とは、期間の定めのない労働契約につき解雇権濫用法理を適用する場合における解雇の合理的理由より限定された事由であって、期間の満了をまたず直ちに契約を終了されざるを得ない事由を意味し、労働者の就労不能や重大な非違行為がある場合などに限られると解されるから、Y社が労働者に対しバス運転者としての適性・能力がないと判定したことは、同条にいう「やむを得ない事由」に当たらないといわなければならない。
よって、Y社による留保解約権の行使は認められないから、本件労働契約は、平成19年9月15日の経過により終了したといえる。

2 Xは、(1)平成19年3月に大型第二種運転免許を取得したばかりであり、バス運転の経験を有しなかったこと、(2)Y社の採用試験においても、一回目は、左折時に脱輪するなどして不合格となっていること、(3)研修中から、バス運転に関し、速度を出し過ぎる、速度にムラがある、左側に寄り過ぎる、ふらつくなどの問題点を指摘されていたこと、(4)本件中間検定においても、6名の判定者から、「全体を通して、速度を出し過ぎる」「カーブ及び交差点に進入する際、減速が足りない」「対向車を避けるとき、急ハンドルを切る」「車両が左側に寄り過ぎる」などの問題点が指摘され、判定会議の結果、判定者6名のうち1名が「もう少し研修をして経過観察しても良い」という意見であったものの、その余の5名が、「改善の見込みがなく本採用しない」という意見であったことが認められる。したがって、Y社が、Xに対し、本件中間検定について不合格の判定を行うとともに、研修を続けても技能の向上が見込めないと判断したことは、必ずしも不当とまではいえず、本件全証拠を検討してみても、Y社が恣意的に判断を行ったことを窺えるような証拠もない。

3 よって、Xは、Y社のバス運転者としての適性・能力を有することが認められない以上、Y社に対し、契約社員の労働契約が成立したと主張することはできない。

ちょっと厳しい気がしますが・・・。

経過観察で、もう一度チャンスを与えてもいい気がします。

会社としてみれば、そんなレベルではない、ということなのでしょうか。

なお、この事案は、Xが控訴しました。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。