Category Archives: 労働災害

労災⑧(KYOWA(心臓病突然死)事件)

おはようございます。

今日は、丸一日、明日の証人尋問の最終準備です

午後から浜松で弁護団会議があります。

がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

KYOWA(心臓病突然死)事件(大分地裁平成18年6月15日・労判921号21頁)

【事案の概要】

Y社は、金属の加工及び販売や工作機械等の販売を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員であり、鉄板の凹凸をならす業務に従事していた。

Xは、Y社において清掃等の業務に従事中、急性心不全(疑)により突然倒れ、病院に搬送されたが、同疾患により死亡した(26歳)。

Xの死亡前1週間の労働時間は81時間5分、死亡前1か月の労働時間は332時間2分となっていた。勤務開始から死亡までの間にXが休日を取得した日は合計8日間であり、死亡前の13日間は休日を取得していない。

Xの従事していた面取作業は、中腰の状態での作業であり、長時間作業すれば腰が痛くなるなどするうえ、振動が伝わって手のしびれも誘発するものであった。また、工場内に冷房はなく、機会も作動しており、作業のための装備を装着するため暑く、夏場の作業中は、高温による負担のかかるものであった。

Xの子と妻に対しては、労災保険法により葬祭料、遺族特別支給金、労災就学等援護費が支給され、遺族補償年金も支給されている。ただし、前払一時金については時効が成立しており、今後も支払われることはない

Xの子と妻は、Y社に対し、損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Y社に対し、合計約8400万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの妻が労災保険から、葬祭料、遺族特別支給金、労災就学等援護費、及び遺族補償年金の支給を受けているので、これを損益相殺として控除すべきであると主張するが、遺族特別支給金、労災就学援護費は、政府が業務災害等によって死亡した労働者の遺族に対して労働福祉行政の一環として支給するものであって、損害の填補が目的ではなく、労働者の遺族の福祉の増進を図るためのものであるので、その性質上、これを控除すべきでない。また、葬祭料は、原告らは、本件においては、労災給付を受けたとしてあらかじめ同一事由で請求をしていなかったと主張するので、これについて損益相殺の対象としない

2 原告らが請求可能であった前払一時金の最高限度額は1123万6000円であり、うち、原告らが既払額と認める遺族補償年金432万3045円については、労働災害補償保険法64条により、履行を猶予されることとなるが、原告らが今後遺族補償年金を受給することにより免除されるので、これを控除すべきである

3 労災保険法64条の趣旨は、労災の保険給付と民事損害賠償との調整をして二重給付を回避することにあり、原告らは時効により前払一時金として請求できなくても、今後遺族年金として受給することができ、それまでY社は支給を猶予されるものというべきである。そして、支給開始時期から相当期間が経過し、原告らの前払一時金最高限度額までの遺族補償年金受給の見込みが高く、その場合にはその限りでY社の損害賠償義務が免除されること等に照らすと、原告らの請求に、条件付き若しくは将来の請求を含むものとは解されず、前払一時金最高限度額について、これを控除することとする

消滅時効にかかった労災保険の前払一時金の最高限度額が損益相殺として損害額から控除されました

法的には控除ではなく、期限の猶予です。


【労災保険法64条】
労働者又はその遺族が障害補償年金若しくは遺族補償年金又は障害年金若しくは遺族年金(以下この条において「年金給付」という。)を受けるべき場合(当該年金給付を受ける権利を有することとなった時に、当該年金給付に係る障害補償年金前払一時金若しくは遺族補償年金前払一時金又は障害年金前払一時金若しくは遺族年金前払一時金(以下この条において「前払一時金給付」という。)を請求することができる場合に限る。)であって、同一の事由について、当該労働者を使用している事業主又は使用していた事業主から民法その他の法律による損害賠償(以下単に「損害賠償」といい、当該年金給付によっててん補される損害をてん補する部分に限る。)を受けることができるときは、当該損害賠償については、当分の間、次に定めるところによるものとする。

1 事業主は、当該労働者又はその遺族の年金給付を受ける権利が消滅するまでの間、その損害の発生時から当該年金給付に係る前払一時金給付を受けるべき時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該前払一時金給付の最高限度額に相当する額となるべき額(次号の規定により損害賠償の責めを免れたときは、その免れた額を控除した額)の限度で、その損害賠償の履行をしないことができる
2 前号の規定により損害賠償の履行が猶予されている場合において、年金給付又は前払一時金給付の支給が行われたときは、事業主は、その損害の発生時から当該支給が行われた時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該年金給付又は前払一時金給付の額となるべき額の限度で、その損害賠償の責めを免れる

労災⑦(審査請求の手続その2)

おはようございます。

今日は、終日、下田で裁判です

午前1件、午後2件、うち1件は証人尋問です

静岡に帰ってくるのは、20時を過ぎると思われます・・・

では、行ってきます。

さて、今日も引き続き、審査請求の手続について見ていきます。

1 審査官は、審査請求を受理したときは、審査請求人、原処分庁、利害関係者及び参与に対し、審査請求受理通知書を送付しなければなりません。

審査官は、原処分庁に対し、事件についての意見書を提出するように通知します。

利害関係者に対しては、審査官の定める期間内に事件に対する意見書を提出するように通知します。

2 審査請求は、原処分の執行を停止しません。

審査官は、原処分の執行によって償うことが困難な損害の発生を防止するため、緊急の必要があると認めるときは、職権でその執行を停止することができます。

3 審査請求人は、すでに審査請求書において意見を述べているため、さらに補足意見、証拠調べの申立てができます(代理人も同様)。

4 審理は、審査請求人及び原処分庁双方の説明を聞いて行います。

5 決定は、決定書の謄本が審査請求人に送付到着したときに効力が生じます。

決定書には、結論にあたる結論にあたる「主文」と「理由」(請求の経過、争点、証拠)と「判断」が具体的に記載されています。

決定は、当事者のみならず、利害関係者を拘束します。

6 審査請求人は、決定書の送付を受けるまではいつでも審査請求を取り下げることができます。

労災⑥(審査請求の手続その1)

おはようございます。

横になったら、2秒で寝る自信があります

寝てる場合ではありません。

最近読んだ本の中で、「片目ずつ眠りましょう」みたいなことが書いてありました

・・・ど、どういうこと?

今日も力の限り、がんばります!

さて、今日は、労災に関する審査請求の手続について見ていきましょう。

1 審査請求は、原処分を行った監督署を管轄する各都道府県労働局の管轄審査官に対して行わなければなりません。

この審査請求は原処分庁である労基署長に対して提出してもいいですし、審査請求人の住所地を管轄する労基署長に提出してもいいです。

2 審査請求の申立ては、文章でも口頭でも可能です。

口頭の場合、聴取書が作成されます。

3 審査請求は、審査請求人が原処分のあったことを知った日の翌日から起算して60日以内(除斥期間)に行わなければなりません。

「原処分のあったことを知った日」とは、審査請求人が現実に原処分庁からの処分通知によって原処分が行われたことを知った日のことであり、通知が審査請求人の住所に宛てて行われても、審査請求人が長期の旅行などにより現実に知らなかった場合には該当しません。

この期間を徒過した場合であっても、審査請求人の正当な理由により、この期間内に審査請求できなかった場合には、期間経過後の請求も認められます。

この場合の「正当な理由」とは、一般的に客観的な事情により通常審査請求することが困難であったことを意味し、単に審査請求人の個人的、主観的事情のみでは足りません。

審査請求の除斥期間には、郵便送達中の期間は算入されないので、発信日が60日以内であれば審査請求は有効です

4 文書で請求する場合には、記載事項が決定されているので、請求用紙をもらうのが便利です。

なお、用紙は行の間隔が狭いので、「別紙のとおり」と記載して、別の用紙で、詳しく記載することになります。

5 「審査請求の趣旨」には、「○○労基署長が平成○○年○月○日に請求人に対してなした○○補償給付の処分の取消しを求める」と端的に記載すれば足ります。

「審査請求の理由」には、具体的な理由を詳しく記載します。

その場合、(1)手元にある資料や同僚などから資料の提供を求め、これに基づいて記載すること、(2)解釈通達が出されている事故では、その通達の認定基準に合致する事実を中心に記載すること、がポイントです

書き足りない部分がある場合には、「後日、追加理由を述べる」等と記載し、後日、追加記載することもできます。

請求の趣旨や理由は、決定前であれば、いつでも変更できます。

また、証拠も決定があるまでは、いつでも提出できます。

労災⑤(保険給付に関する救済制度)

おはようございます。さ、寒い・・・。

事務所です

今日も、日中は、相談、裁判で埋め尽くされています

9時までが勝負です!!

あと3時間、集中します

今日は、労災保険給付に関する救済制度の概要について見てみましょう。

労基署長が、労災保険給付をしないとの決定(不支給決定)等の行政処分をした場合、その処分に不服があるときは、被災労働者や遺族などは労働保険審査制度による審査を経て行政訴訟を提起することができます

労働保険審査制度は、行政機関による救済制度で、二審制をとっています。

一審は、労働災害補償保険審査官に対する審査請求(決定)です。

二審は、労働保険審査会に対する再審査請求(裁決)です。

行政訴訟は、原則として、この2段階の審査手続を経ることを要します(不服申立前置主義)。

その決定や裁決に不服があるときに原処分庁(労基署長)を被告として処分の取消しを求める訴えを提起することになります。

保険給付に関する行政処分については、裁決があったことを知った日から6カ月以内に提訴することになりますが、再審査請求をした後3カ月を経過しても裁決がなされない場合等にも訴訟を提起できることになっています。

不服申立と行政訴訟の大まかな流れは以下のようになります。

1 労災発生
    ↓
2 労基署長に保険給付請求を行う
    ↓(不支給決定の手紙が届く)
3 不服がある場合には、決定を知った日の翌日から60日以内に審査官に審査請求
    ↓
4 (1)審査官の決定に不服がある場合、決定書の謄本が送付された日の翌日から60日以内に、または、
(2)3カ月経過しても審査官の決定がない場合に、
労働保険審査会に再審査請求
    ↓
5 (1)審査会の裁決に不服があり、裁決書の謄本が送付された日の翌日から6カ月以内のとき、
(2)3カ月しても裁決がないとき、または
(3)著しい損害を避けるため緊急の必要があるときその他正当な理由があるとき
行政訴訟を提起

期間が短いので、注意しなければいけません

60日→60日→6カ月です。

次回以降、もう少しくわしく見ていくことにします。

労災④(団体定期保険・生命保険に基づく保険金と死亡退職金)

会社が保険契約者(保険料負担者)兼保険金受取人、従業員が被保険者とする団体生命保険を結ぶことがあります。

この場合、被保険者が死亡した場合、保険金の大部分を会社が取得し、従業員の遺族には、一部しか支払われないことになります。

この状況に納得できない従業員の遺族が、会社に対して保険金の全部又は相当部分の支払いを求めて裁判を起こすことがあります。

この点について、最高裁判決が出されるまでの間、下級審判決においては、労使間の利害調整を図るために、会社と従業員との間に保険金引渡の黙示の合意があったことを理由として、従業員の遺族に対して保険金のうち社会的に相当な金額の範囲で支払うように判断するものもありました(住友軽金属工業事件:名古屋高判平成13年3月6日・労判808号30頁など)。

会社と従業員との間の合意という構成は、完全にフィクションです。

結論ありきです。

そして、平成18年にとうとう最高裁判決が出されました。

住友軽金属工業事件(最三小判平成18年4月11日・労判915号51頁)において、最高裁は、団体定期生命保険契約を公序良俗違反とはせず、会社と従業員との間に保険金引渡の黙示の合意があったことを否定して、遺族の会社に対する請求を認めませんでした。

最高裁としては、フィクションの構成は採用できないというわけです。

というわけで、団体保険については、判断が分かれていましたが、法的論争に一応の解決がつきました

労災③(労災保険と損害賠償の関係)

労災が起こった場合、損害賠償について、労災保険だけでは賠償のすべては補償されません。

以下、簡単にまとめておきます。

1 治療費、休業補償、逸失利益などに対する既払の保険給付

既に支払われた保険給付の額は、会社が支払うべき損害賠償から控除されます。

そうでないと、二重払いになってしまいます。

ただし、保険給付は、主として治療費、休業補償や将来の逸失利益の補償だけを行うものであり、慰謝料や入院雑費・付添看護費等の補償は保険とは別に賠償しなければなりません

つまり、労災保険ではカバーされていない損害については、会社が自ら手当てをしなければいけません。

2 将来の年金給付

死亡事故や障害等級7級以上の重い後遺障害の場合に、年金で支給されます。

将来給付分の年金給付については、会社が支払うべき損害賠償から控除されません!

これが現在の最高裁の判断です(三共自動車事件:最三小判昭和52年10月25日)。

ここは要注意です

また、この場合、会社が損害賠償義務を履行した場合、国に対して未支給の労災保険金を会社に支払えと代位しても、認められません(三共自動車事件:最一小判平成元年4月27日)。

3 特別支給金

労災保険では、被災者の所得補償として、通常の保険給付で約6割を、特別支給金で約2割を補償し、合計約8割をカバーしています。

この特別支給金については、将来分はもちろんのこと、既払分についても、損害額から控除することは認められませんコック食品事件:最二小判平成8年2月23日)。

4 遺族厚生年金

死亡した被災労働者の相続人が、その死亡を原因として遺族厚生年金の受給権を取得した場合には、支給を受けることが確定した遺族厚生年金は控除されます(最二小判平成15年12月17日)。

このように、労災保険でカバーされない部分がかなりあります。

会社としては、労災保険だけで労災についての賠償問題が解決するとは考えないほうがいいということです

労災は、事前の準備がカギとなります。

労災②(過労死・過労自殺事案における会社の予見可能性)

おはようございます。

今日は、今から石川に1泊2日で出張に行ってきます

おいしいもの食べてこよっと

さて、過労死・過労自殺事案において、会社が損害賠償責任を負うのは、会社に帰責事由、すなわち予見可能性がある場合です。

つまり、なんでもかんでも会社が責任を負うわけではありません。

では、会社は、どこまで予見することが必要とされているのでしょうか。

日鉄鉱業事件(福岡高裁平成元年3月31日判決・労判541号50頁)で、裁判所は以下のとおり判断しています。

会社が認識すべき予見義務の内容は、生命、健康という被害法益の重大性に鑑み、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命、健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はないというべきである

つまり、

会社が、従業員の死の結果を予見することまでは必要ないということです。

会社(具体的には、上司など)が、

1 従業員が長時間労働などの過重な業務に従事していること

2 従業員の健康状態が悪化していること

の2つの事情を認識し、または、認識することができた場合には、予見可能性があったと認められます。

また、1について、過重業務が顕著であれば、2の健康状態の悪化の認識可能性があった認められることになります。

つまり、実際に認識していたかどうかよりも、客観的に業務が過重である場合には、予見可能性が認められてしまうというわけです。

くれぐれも、昨日のテーマである安全配慮義務を怠らないようにしてください

労災①(過労死・過労自殺事案における会社の安全配慮義務)

会社で過労死・過労自殺が発生した場合、会社に損害賠償責任が認められることがあります。

会社には、従業員の心身の健康を損なうことがないように注意する義務があります。

これを安全配慮義務といいます。

安全配慮義務について、最高裁は、電通事件(最高裁平成12年3月24日・労判779号13頁)において、

「業務の量等を適切に調整するための措置」、すなわち健康破壊が起こらない程度まで業務量を適切に調整して業務軽減措置をとる義務がある

と判断しました。

「恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、業務は所定の期限までに遂行すべきことを前提として、帰宅してきちんと睡眠を取り、それで業務が終わらないのであれば翌朝早く出勤して行うようになどと指導したのみ」では足りないとも判断しています。

安全配慮義務の内容は、以下のとおりです。

・労働時間、休憩時間、休日、労働密度、休憩場所、人員配置、労働環境等適切な労働条件を措置すべき義務(適正労働条件措置義務)

・必要に応じ、健康診断またはメンタルヘルス対策を講じ、労働者の健康状態を把握して健康管理を行い、健康障害を早期に発見すべき義務(健康管理義務)

・健康障害に罹患しているか、その可能性のある労働者に対しては、その症状に応じて勤務軽減、作業の転換、就業場所の変更等、労働者の健康保持のための適切な措置を講じ、労働者の基礎疾患等に悪影響を及ぼす可能性のある労働に従事させてはならない義務(適正労働配置義務)

・過労により脳・心臓疾患または精神障害等の疾患を発症したか、または発症する可能性のある労働者に対し、適切な看護を行い、適切な治療を受けさせるべき義務(看護・治療義務)

労災事故が起こった場合のために、労災補償制度があります。

しかし、労災補償制度は、あくまでも事後救済です。

労災は、予防こそが最も大切であるということをお忘れなく