Category Archives: 労働者性

労働者性5(ビクターサービスエンジニアリング事件)

おはようございます。

さて、今日は、業務委託契約の修理業務従事者の労組法上の労働者性に関する最高裁判決を見てみましょう。

ビクターサービスエンジニアリング事件(最高裁平成24年2月21日・労判1043号5頁)

【事案の概要】

Y社は、音響製品等の設置、修理等を業とする会社である。

Y社は、Y社と業務委託契約を締結してその修理等の業務に従事する業者であって個人営業の形態のもの(個人代行店)が加入する組合から、個人代行店の待遇改善を要求事項とする団体交渉の申入れを受けた。

Y社は、個人代行店はY社の労働者に当たらないなどとして上記申入れを拒絶した。

これに対し、大阪府労働委員会は、Y社に対し、上記申入れに係る団体交渉に応じないことは不当労働行為に該当するとして、団体交渉に応ずべきこと等を命じた。

Y社は、中央労働委員会に対し再審査申立てをしたものの、棄却する旨の命令を受けた。

そこで、Y社は、その取消しを求め、提訴した。

【裁判所の判断】

破棄差戻し

【判例のポイント】

1 ・・・個人代行店は、Y社の事業の遂行に必要な労働力として、基本的にその恒常的な確保のためにY社の組織に組み入れられているものとみることができる。加えて、本件契約の内容は、Y社の作成した統一書式に基づく業務委託に関する契約書及び覚書によって画一的に定められており、業務の内容やその条件等について個人代行店の側で個別に交渉する余地がないことは明らかであるから、Y社が個人代行店との間の契約内容を一方的に決定しているものといえる。さらに、・・・このような実際の業務遂行の状況に鑑みると、修理工料等が修理する機器や修理内容に応じて著しく異なることからこれを専ら仕事完成に対する対価とみざるを得ないといった事情が特段うかがわれない本件においては、実質的には労務の提供の対価としての性質を有するものとして支払われているとみるのがより実態に即しているものといえる。また、・・・個人代行店があらかじめその営業日、業務時間及び受注可能件数を提示し、Y社がこれに合わせて顧客から受注した出張修理業務を発注していることを考慮しても、各当事者の認識や本件契約の実際の運用においては、個人代行店は、なお基本的にY社による個別の出張修理業務の依頼に応ずべき関係にあるものとみるのが相当である。しかも、・・・上記のような通常の業務に費やされる時間及びその対応をも考慮すれば、個人代行店は、基本的に、Y社の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務の提供を行っており、かつ、その業務について場所的にも時間的にも相応の拘束を受けているものということができる

2 上記の諸事情に鑑みると、本件における出張修理業務を行う個人代行店については、他社製品の修理業務の受注割合、修理業務における従業員の関与の態様、法人等代行店の業務やその契約内容との等質性などにおいて、なお独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情がない限り、労働組合法上の労働者としての性質を肯定すべきものと解するのが相当であり、上記個人代行店について上記特段の事情があるか否かが問題となる。
しかしながら、・・・このように、前記事実関係等のみからは、個人代行店が自らの独立した経営判断に基づいてその業務内容を差配して収益管理を行う機会が実態として確保されているか否かは必ずしも明らかであるとはいえず、出張修理業務を行う個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情の有無を判断する上で必要な上記の諸点についての審理が十分に尽くされていないものといわざるを得ない

3 以上によれば、出張修理業務を行う個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情の有無を判断する上で必要な上記の諸点について十分に審理を尽くすことなく、上記個人代行店はY社との関係において労働組合法上の労働者に当たらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そこで、出張修理業務を行う個人代行店は独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情のない限りY社との関係において労働組合法上の労働者に当たると解すべきであることを前提とした上で、組合に加入する個人代行店の修理業務の内容、当該個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情があるか否か、仮に当該個人代行店が労働組合法上の労働者に当たると解される場合においてY社が本件要求事項に係る団体交渉の申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たるか否か等の点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

第1審(東京地裁平成21年8月6日・労判986号5頁)は、労組法上の労働者に当たらないと判断しました。

第2審(東京高裁平成22年8月26日・労判1012号86頁)も、同様に、労組法上の労働者に当たらないと判断しました。

これに対し、最高裁は、特段の事情がない限り、本件個人代行店は労組法上の労働者であると判断しました。

第1審・第2審は、本件委託契約の内容及びそれに基づ
く個人代行店の労務提供の実態からみて、個人代行店がその労働条件等についてY社から現実的かつ具体的に支配、決定されている地位にあるとはいえないし、また、個人代行店が本件委託契約に基づき得る収入が、その労務提供の対価であると認めることもできないとの理由から、個人代行店が、Y社との関係において、労組法上の労働者に当たるとはいえないとしました。

認定の違いからくるものですが、最高裁の判断を考えると、やはり、労組法上の労働者の概念は広いですね。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性4(エスエーほか1社事件)

おはようございます。

さて、今日は、従業員兼取締役の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

エスエーほか1社事件(東京地裁平成23年3月14日・労判1030号98頁)

【事案の概要】

Xらは、Y社の従業員兼取締役であるところ、Y社から解雇された。

Xは、Y社による解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xらは、当初の段階で従業員としてY社に入社したものであり、取締役就任時に退職金は支給されず、給与から雇用保険料が控除されていたものであるが、Y社には退職金規程が存せず、労働者が権利としての退職金の支給を受けるという状態にはなかったものであるし、雇用保険料の控除の点も、Xが取締役就任時に、当時、人事、総務関係を担当していて、担当者に指示してそのような取扱いにしたのであるから、いずれも、Xらの地位に関する両当事者の契約意思を決する要因であるとはいえない。むしろ、Y社の確定申告上、Xらの給与は、役員報酬として計上されていたし、証拠によれば、雇用保険に関しては、従業員兼務役員として非該当と判断しており、これらの事情は、いずれも決定的な要因とは言い難い

2 X1が社長に、X2が副社長に就任した際の経緯は、代表権こそAが有していたものの、Aは、権限委譲という言葉とともに、Y社の経営をXらに委ねることを公言していた。例えば、中国でのサウナ事業については、もとより最終的な決裁権者としてのAの承諾を得ているものであるが、X2が発案し、A1が社長としてその運営を助け、銀行から多額の融資を得て、X2が中国の現地法人の代表者となって、4割程度はY社に出社しないで頻繁に中国に赴いてサウナ事業の具体的業務の切り盛りを行っていたのであり、Xらの職務内容は、従業員が行うものと評価することは困難である

3 Xらの給与は、従業員の時点から比較するといずれも約40%以上昇給し、オーナーであり代表者であるAからY社の業務を任せると公言され、X1は、部屋や秘書等の待遇を得ていたことを考慮すれば、少なくとも本件解任通知を受けた時点で、取締役であるXらについて、従業員を兼務していたと評価することは困難であるといわなければならない

裁判所は、形式よりも実質を重視して判断しました。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性3(INAXメンテナンス事件)

おはようございます。

今日は、労働組合法上の労働者概念に関する判例を見てみましょう。

INAXメンテナンス事件(最高裁平成23年4月12日・裁時1529号4頁)

【事案の概要】

Y社は、親会社が製造したトイレ、浴室、洗面台、台所等に係る住宅設備機器の修理補修などを主たる事業とする会社である。

X組合は、主に運輸業に従事する労働者によって組織された労働組合である。

X組合Z支部は、Y社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する者(カスタマーエンジニアCEと称されていた)によって組織された下部組織である。

X組合は、Y社に対し、CEの労働組合加入通知書とともに、不当労働行為を行わないこと等を要求する書面を提出した。

これに対し、Y社は、X組合に対し、CEは独立した個人事業主であり労働組合法上の労働者に当たらないとして団体交渉に応ずる義務はない旨回答した。

【裁判所の判断】

労組法上の労働者にあたる

【判例のポイント】

1 Y社の従業員のうち、主たる業務である親会社の住宅設備機器に係る修理補修業務に現実に行う可能性がある者はごく一部であって、主として約590名いるCEをライセンス制度やランキング制度の下で管理し、全国の担当地域に配置を割り振って日常的な修理補修等の業務に対応させていたものである上、・・・CEは、Y社の上記業務の遂行に不可欠な労働力として、その恒常的な確保のためにY社の組織に組み入れられていたものと見るのが相当である

2 CEの報酬は、CEがY社による個別の業務委託に応じて修理補修等を行った場合に、Y社が商品や修理内容に従ってあらかじめ決定した顧客等に対する請求金額に、当該CEにつきXが決定した級ごとに定められた一定率を乗じ、これに時間外手当等に相当する金額を加算する方法で支払われていたのであるから、労務の提供の対価としての性質を有するものということができる

3 Y社から修理補修等の依頼を受けた場合、CEは業務を直ちに遂行するものとされ、原則的な依頼方法である修理依頼データの送信を受けた場合にCEが承諾拒否通知を行う割合は1%弱であったというのであって、業務委託契約の存続期間は1年間でY社に異議があれば更新されないものとされていた。

4 以上の諸事情を総合考慮すれば、CEは、Y社との関係において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当である。

最高裁判例です。

高裁の判断を覆し、労働者性を認めました。

本件最高裁は、一般論としての判断を示していませんが、以下の事情を重視しています。

(1)事業の遂行に不可欠な労働力として、その恒常的な確保のためにY社の組織に組み入れられていたこと

(2)契約内容が一方的に決定されていたこと

(3)報酬が労務の提供の対価としての性質を有すること

(4)各当事者の認識や契約の実際の運用において基本的に個別の修理補修等の依頼に応ずべき関係にあったこと

(5)指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務の提供を行っており、場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたこと

契約形態という形式ではなく、実質的関係を重視した判断です。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性2(加西市シルバー人材センター事件)

おはようございます。

今日は、労災保険上の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

加西市シルバー人材センター事件(神戸地裁平成22年9月17日・労判1015号34頁)

【事案の概要】

Y社は、物流機器製造事業(運搬用ゲージなどの製造)等を業とする会社である。

Xは、Y社に工員として勤務していたが、定年退職後に、A社に登録してY社で仕事をしていた。

Xは、工場で作業中に左手の親指から中指の3指を切断する傷害を負ったことが労働者の負傷に該当するとして、労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付および休業補償給付の申請をしたところ、西脇労働基準監督署長は、Xが労災保険法上の労働者に該当せず、同法の適用がないことを理由として、不支給とする処分をしたため、その取消しを求めた。

【裁判所の判断】

Xの労働者性を肯定

【判例のポイント】

1 労災保険法にい労働者は、労基法に定める労働者と同義であり、同法9条は、労働者とは「職業の種類を問わず、事業又は事業所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定めているから、労働者に該当するか否かについては、使用者の指揮監督の下に労務を提供し、使用者からその労務の対償としての報酬が支払われている者として、使用従属関係にあるといえるかを基準として判断すべきであると解される。

2 そして、労務の提供が他人の指揮監督下において行われているかどうかに関しては、具体的には、業務従事の指示等に対する諾否の事由の有無や、業務遂行上の指揮監督の有無、勤務場所及び勤務時間が指定され管理されているかどうか、労務提供につき代替性の有無等の事情を総合的に考慮して判断されるべきものといえる。

3 しかし、労働者性の判断は、個々の具体的な事情に基づき、労務提供の実態について実質的に検討して行うべきものであるから、本件で、形式的には、XとY社及びA社間に雇用契約が存在せず、Y社がA社にした注文につき、XがA社との間の請負又は準委任契約に基づいて仕事を行うことになっているとしても、このことのみから、Xの労働者性が否定されるものではない

4 Xは、A社に登録後も、Y社の加工部門において、定年退職前と全く同様の労務に従事して、他の従業員と同じく、専らY社で就労していた状況であったということができ、Xに対する報酬も、実質的には労働の対価として支払われたものといえるのであるから、Xは、Y社と使用従属関係にある労働者に該当すると認められるというべきである

労働者性については、形式ではなく、実質を重視して判断されるという良い例ですね。

判断基準については、上記判例のポイント2を参考にしてください。

なお、Xは、上記のとおり、労働者性が認められ、労災が認められました。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性1(新国立劇場運営財団事件)

おはようございます。

今日は、労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

新国立劇場運営財団事件(東京高裁平成19年5月16日・労判944号52頁)

【事案の概要】

Xは、合唱団などにおいて歌唱演奏をしていた者である。

Xは、Y財団との間で、平成11年以降、毎年、期間を1年とする出演基本契約を締結するとともに、個別公演毎に出演契約を締結して、新国立劇場合唱団のメンバーとしてY財団の主宰するオペラ公演等に出演していたが、平成15年2月、Y財団から、同年7月末実をもって契約関係を終了し、次シーズンの出演基本契約は締結しない旨の通知を受けた。

Xは、出演基本契約は労働契約であり、その更新拒絶は、労基法18条の2の類推適用、労組法7条1号により無効であるなどと主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた。

【裁判所の判断】

本件出演基本契約は労働契約ではない。
→Xは、労基法上の労働者には当たらない。

【判例のポイント】

1 出演基本契約の契約の定め方や運用の実態等に照らすと、同契約は、契約メンバーに対して、今後Y財団から出演公演一覧のオペラ出演に優先的に出演申込みをすることを予告するとともに、契約メンバーとの間で個別公演出演契約が締結される場合に備えて、各個別出演契約に共通する、報酬の内容、額、支払方法等をあらかじめ定めておくことを目的とするものであると解される

2 出演基本契約の締結に当たって、Y財団は、契約メンバーが出演公演一覧のオペラに出演することを当然期待し、契約メンバーも、それらに出演する心づもりで契約メンバーになるのが通常であると推認されるが、それはあくまでも事実上のものにとどまり、Y財団からの個別の出演申込みに対して、契約メンバーは最終的に諾否の自由を有していた

3 個別公演出演契約をY財団と締結して初めて、特定の公演に参加したり、それに必要な稽古に参加する義務が生じ、逆に、報酬を請求する権利が発生するものというべきで、本件出演基本契約を締結しただけでは、XはいまだY財団に対して出演公演一覧のオペラに出演する義務を負うものではなく、また、オペラ出演の報酬を請求する具体的な権利も生じないものであるから、XとY財団との間に労基法、労組法が適用される前提となる労働契約関係が成立しているといえないことは明らかである

第一審同様、X(オペラ歌手)の労働者性を認めませんでした。

裁判所の判断としては、契約メンバーに「諾否の自由」があったことが重視されています。

Y財団からの個別の出演申込みに対して、契約メンバーが諾否の自由があったとすれば、前提となる出演基本契約では、労務提供が義務づけられていないことになります。

労基法上の労働者性が否定されたため、解雇権濫用法理は適用されないことになります。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。