Category Archives: 解雇

解雇170(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド事件)

おはようございます。

今日は、療養休職期間満了時に休職事由が消滅したとして、雇用契約の終了が認められなかった裁判例を見てみましょう。

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド事件(東京地裁平成26年11月26日・労経速2234号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結した後、業務外傷病(うつ状態)により傷病休暇及び療養休暇を取得したXが、療養休職期間満了時に休職事由が消滅したから、XY社間の雇用契約がY社の就業規則により終了するものではないなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、雇用契約に基づく賃金支払請求権に基づき、休職期間満了日(雇用契約終了日)の翌日である平成24年12月21日以降、毎月20日限り45万3412円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

XがY社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

Y社はXに対し、平成24年12月21日から本判決確定の日まで、毎月20日限り45万3412円及び遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件就業規則24条3項は、従来規定されていない「健康時と同様」の業務遂行が可能であることを、療養休職した業務外傷病者の復職の条件として追加するものであって、労働条件の不利益変更に当たることは明らかである。・・・そして、業務外傷病のうち特に精神疾患は、一般に再発の危険性が高く、完治も容易なものではないことからすれば、「健康時と同様」の業務遂行が可能であることを復職の条件とする本件変更は、業務外傷病者の復職を著しく困難にするものであって、その不利益の程度は大きいものである一方で、本件変更の必要性及びその内容の相当性を認めるに足りる事情は見当たらないことからすれば、本件変更が合理的なものということはできない
したがって、本件変更は、労働契約法10条の用件を満たしているということはできず、本件就業規則24条3項がXを拘束する旨のY社の主張を採用することはできない。

2 業務外傷病により休職した労働者について、休職事由が消滅した(治癒した)というためには、原則として、休職期間満了時に、休職前の職務について労務の提供が十分にできる程度に回復することを要し、このことは、業務外傷病により休職した労働者が主張・立証すべきものと解される。

3 Y社は、傷病休暇及び療養休暇からの復職に関し、原則として、本件内規中に掲げた本件判定基準9項目を全て満たした場合にのみ復職を可とする運用をしているところ、本件情報提供書によれば、Xが、上記9項目を全て満たしていたとはいえないから、本件療養休職期間満了時において、Xが復職可能であるとはいえないと判断したものであり、その判断に誤りはない旨を主張する。
しかし、休職制度が、一般的に業務外の傷病により債務の本旨に従った労務の提供ができない労働者に対し、使用者が労働契約関係は存続させながら、労務への従事を禁止又は免除することにより、休職期間満了までの間、解雇を猶予するという性格を有していることからすれば、使用者が休職制度を設けるか否かやその制度設計については、基本的に使用者の合理的な裁量に委ねられているものであるとしても、厚生労働省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」から、本件内規中に掲げた本件判定基準9項目を全て満たした場合にのみ復職を可能であるとする運用を導くことは困難である
また、本件内規は、平成23年7月頃、Y社人事部において、業務外傷病により傷病休暇及び療養休暇を取得した従業員の復職判断のための内部資料として作成されたものにすぎず、従業員には開示されていないから、上記の運用が本件雇用契約の内容として、Xの復職可否の判断を無条件に拘束するものではない

4 ・・・Y社としては、本件診断書及び本件情報提供書の内容について矛盾点や不自然な点があると考えるならば、本件療養休職期間満了前のXの復職可否の判断の際にC医師に照会し、Xの承諾を得て、同医師が作成した診療録の提供を受けて、Y社の指定医の診断も踏まえて、本件診断書及び本件情報通知書の内容を吟味することが可能であったということができる。
Y社は、そのような措置を一切とることなく、何らの医学的知見を用いることなくして、C医師の診断を排斥し、・・・そのようなY社の判断は、Xの復職を著しく困難にする不合理なものであり、その裁量の範囲を逸脱又は濫用したものというべきである

業務外の精神疾患と休職期間満了から職場復帰に関する争点は、ここ最近の重要なトピックですね。

その中でもこの裁判例は、非常に多くの重要な判断が含まれています。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇169(カワサ事件)

おはようございます。

今日は、中途入社の採用内定取消しに対する不法行為該当性に関する裁判例を見てみましょう。

カワサ事件(福井地裁平成26年5月2日・労判1105号91頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、XとY社とはY社がXを将来雇用する旨の始期付解約権留保付雇用契約(「本件内定契約)を締結したところ、Y社は本件内定契約にかかる採用内定を違法に取り消した旨主張して、不法行為に基づき、Xの被った損害および弁護士費用の合計約735万円およびこれに対する遅延損害金を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し252万8114円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社代表者は、その陳述書ないし尋問において、Y社代表者がXを不採用とした理由として、XがY社代表者に対してXが以前勤務していた会社の社長の悪口を述べたこと、Xが以前勤務していた会社におけるXの素行が悪かったこと、を供述するが、上記供述に係る各事実が認められたとしても、これらはいずれもY社代表者が本件内定契約の成立の当時に知ることが期待できた事実であるというべきである。

2 ・・・以上の検討に照らせば、Y社は平成24年4月13日に本件内定契約を合理的な理由なく解約したものというべきであり、これはY社のXに対する不法行為を構成するものというべきである。したがって、Y社は、Xに対し、不法行為に基づく損害賠償の義務を負う。

3 Xは、本件内定契約が解約されなければ、本件内定契約に基づき、遅くとも平成24年4月1日からY社に就職し、これにより、少なくとも月額25万円の賃金を得ることができたこと、Xは平成25年1月7日から本件再就職先に就職したこと、Xは本件内定契約が解約されたことに伴い失業保険として52万0273円を受領したこと、の各事実が認められる。
上記事実に照らせば、Xは、Y社による上記不法行為により、少なくとも、上記平成24年4月1日から平成25年1月6日までにY社から得られたであろう賃金分として、Xの主張する方法によって算出した合計229万8387円から上記失業保険受給額52万0273円を控除した177万8114円分の損害を被ったものというべきである。

4 Xは、本件内定契約の成立を受けて訴外会社を退職したこと、Xは現在本件再就職先に就職して収入を得ているが、Xの現在の収入は訴外会社に勤務していた場合に比べて減少していることの各事実が認められる。他方、Xの収入に係る上記減少の額を認めるに足りる的確な客観的証拠は見当たらないことを始め、その他本件に現れた一切の事情を斟酌すれば、Y社がXに対して支払うべき慰謝料の額は50万円が相当であるというべきである。

内定は、「始期付解約権留保付雇用契約」です。

留保解約権の行使に合理的な理由がなければ、違法と判断されてしまいます。

今回の事案では損害賠償を求めていますが、地位確認を求めることも当然可能です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇168(なみはや交通(仮処分)事件)

おはようございます。

今日は、タクシー乗務員に対する懲戒処分の有効性と賃金仮払申立に関する決定を見てみましょう。

なみはや交通(仮処分)事件(大阪地裁平成26年8月20日・労判1105号75頁)

【事案の概要】

本件は、Y社にタクシー乗務員として雇用されていたXらが、Y社のなした懲戒解雇処分は無効であるとして、地位保全および賃金仮払いの仮処分を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の制裁罰を科するものであるから、使用者は、懲戒を行うべき労働者に対し、懲戒当時にその理由とする具体的な非違行為を表示しなければならない。したがって、使用者が懲戒当時に理由として表示しなかった非違行為は、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないものと解するのが相当である。

2 Y社が主張する懲戒理由は、懲戒理由一覧表記載のとおり、債権者毎に異なり、かつ多岐にわたっているにもかかわらず、本件懲戒処分の理由を記載した本件通知書は、いずれの債権者に交付されたものも、理由として「入社契約書第8条(ロ・ト・ヌ)に該当し」と同一の内容が記載されているにとどまり、何ら具体的な非違行為は記載されていない。そして、審尋の結果によれば、Y社は、本件懲戒処分を行うにあたり、債権者らに弁解の機会を付与していなかったことが認められるから、債権者らが、本件通知書を見ても、懲戒理由一覧表記載の懲戒理由は、いずれも使用者が懲戒当時に理由として表示しなかったものというべきであるから、本件懲戒処分の有効性を根拠づけるものとはならない。
他方、・・・本件懲戒処分は、Y社の経営方針(本件掛金の変更)に反対した本件組合を消滅させるために行われたことが強く推認される。
以上によれば、本件懲戒処分は、懲戒理由を欠いて行われたものというほかないから、その余の点を検討するまでもなく、無効であるといわなければならない

3 債権者X1は、①Y社から、月額25万円程度の給与を得ていたこと、②妻との二人暮らしであり、その生計を維持するためには、妻のパートタイム勤務による収入(月額約9万円)を考慮してもなお毎月20万円程度が不足すること、③平成26年4月以降、賃金が全く支払われないため、預貯金を取り崩して生活を維持してきたが、その預貯金もわずかな金額になったことが一応認められる。したがって、平成26年8月25日から本案の第一審判決の言渡しの日までの毎月20万円の割合による金員の仮払いの限度で保全の必要性が認められる。

4 本件においては、強制執行可能な賃金仮払の仮処分が認容される以上、任意の履行を期待する地位保全の仮処分の必要性を認めるべき事情は見いだし難い

懲戒処分をする場合には、いくつか気をつけなければならない点があります。

その点を無視して処分すると、今回のような結果になってしまいます。

懲戒処分をする場合には、顧問弁護士に相談の上、ちゃんと手順を踏んで行いましょう。

解雇167(ヴイテックプロダクト(旧A産業)事件)

おはようございます。

今日は、休職後の復職請求と経営再建等を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ヴイテックプロダクト(旧A産業)事件(名古屋高裁平成26年9月25日・労判1104号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に従業員として雇用されていたXが、Y社に対し、Y社のXに対する解雇が無効であると主張して、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②解雇された平成24年10月以降の未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、上記解雇は無効であると判断した。

これに対し、Y社が、原判決の上記認容部分を不服として、控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】(以下、原審判決)

1 Xは、本件組合を通じてY社と本件覚書を締結しており、その中で、Y社はXに対し、退職勧奨を行わないことや、Xの復職に際しては、従来の労働条件通りで復職させること等を約束しているところ、Y社による本件解雇は、明らかに上記約束に反する。また、休職前のXのY社における勤務態度は、上司の指示に対して反抗的であったり、上司やほかの従業員との良好な人間関係を築くことができなかったり、度々問題行動を取ったりなど、決して適切なものではなかったことは認められるものの、就業規則上の解雇事由のいずれかに直ちに該当するとは認められない上、Y社において、Xに対し、度々指導や注意をしていたことは認められるものの、譴責や減給、出勤停止といった段階的な処分に付したことを認めるに足りる証拠もない
よって、本件解雇は、社会的相当性を欠き、解雇権を濫用したものとして違法無効な解雇というべきである。

2 Y社は、経営陣が全員交代し、危機的な経営状況下において、人件費削減等の合理化を推進しているため、就労に制限の付されているXを雇用する余裕はない旨主張する。
しかしながら、Y社が、平成23年8月以降、危機的な経営状況であることを裏付ける客観的な証拠は全くない。また、仮にY社の主張のとおりであるとしても、人員削減の必要性、解雇回避の努力の有無、Xを被解雇者として選定したことの妥当性及び手続の妥当性等について主張立証がなされることが必要であるところ、少なくとも、Y社が、希望退職を募るなど解雇回避の努力を尽くしたと認めるに足りる証拠は見当たらず、かえって、証拠によれば、Y社においては正社員の求人募集をしていることが認められることからすれば、Y社の上記主張は直ちに採用することはできない

本件では、会社が組合と覚書を交わしており、その内容に反して解雇しているため、明らかに会社側が分が悪いです。

判決理由を読むと、会社としても、敗訴リスク覚悟で解雇に踏み切ったことが窺えますが、訴訟上の和解ができず、判決までいくと、このような内容の判決になってしまいますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇166(東京メトロ(諭旨解雇・仮処分)事件

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、私生活上の非違行為を理由とする諭旨解雇処分に関する裁判例を見てみましょう。

東京メトロ(諭旨解雇・仮処分)事件(東京地裁平成26年8月12日・労判1104号64頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Yがした平成26年4月25日付け諭旨解雇が無効であると主張して、雇用契約上の地位保全及び賃金仮払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、平成26年8月から平成27年7月まで(ただし、同月20日より前に本案の第1審判決の言渡しがあったときは、その言渡日まで、毎月20日限り、25万円を仮に支払え。

その余りの申立てをいずれも却下する。

【判例のポイント】

1 本件非違行為が、Y社の事業活動に直接関連し、Y社の社会的評価の毀損をもたらすものであると評価でき、Y社の企業秩序維持の観点から懲戒の対象となり得るものであることは、前記説示のとおりである。そして、痴漢行為が被害者に大きな精神的苦痛を与えることは周知の事実であり、痴漢行為を防止すべき駅係員として、倫理的にそのような行為を行ってはならない立場にあるXが本件非違行為を行ったことは、厳しく非難されるべきものである

2 しかし、本件諭旨解雇は、自己都合退職の場合と同様の計算により算定した退職金が支払われるほかは、基本的にはY社が就業規則において規定する懲戒処分中、最も重い懲戒解雇と同列に取り扱われている。そこで、本件諭旨解雇の相当性については、なお慎重な検討が必要である

3 本件非違行為の態様は、被害女性の臀部付近及び大腿部付近を着衣の上から手で触るというものであって、同種事案との比較において悪質性が高いとまでいうことはできない上、刑事処分においても公判請求はされておらず、東京都迷惑防止条例5条1号、8条1項2号の法定刑(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)では軽微な罰金20万円の略式命令で処分されるにとどまっている
また、Y社が開示する、従業員の痴漢行為に関する懲戒処分例によれば、従業員が起訴された場合には諭旨解雇とされる一方で、不起訴処分となった場合には停職等にとどめられるとの運用がされていることが一応認められるところ、一件記録に照らしても、本件非違行為に対する懲戒処分の選択において、Y社側において、刑事手続における起訴・不起訴以外の要素を十分に検討した形跡がうかがわれない。
そして、Xには前科・前歴やY社からの懲戒処分歴が一切なく、勤務態度にも問題はなかったことが一応認められることを併せ考慮すれば、企業秩序維持の観点からみて、本件非違行為に対する懲戒処分として本件諭旨解雇より緩やかな処分を選択することも十分に可能であったというべきである。そうすると、本件諭旨解雇は重きに失するといわざるを得ない

4 ・・・他方で、Xの支出としては、・・・合計約25万円程度を要することが一応認められる。上記のとおり疎明される債権者側の収入、資産及び支出の状況に加えて、Xについては、平成26年8月から平成27年7月まで(ただし、同月20日より前に本案の第1審判決の言渡しがあったときは、その言渡日まで)、毎月20日限り、月額25万円の賃金仮払いの限度で保全の必要性があると一応認められる一方で、その以上の保全の必要性を認めることはできない。

処分が重すぎるという判断です。 相当性の要件でぎりぎり救われました。

仮に一般の方が裁判員裁判で、本件事案で解雇の有効性を判断する場合、同じ結論になるでしょうか・・・?

まあ、一審で裁判員が解雇は有効であると判断しても、高裁でひっくり返されるか(皮肉)。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇165(社会法人東京都医師会(A病院)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、院内の風紀、秩序を乱した等を理由とする懲戒処分に関する裁判例を見てみましょう。

社会法人東京都医師会(A病院)事件(東京地裁平成26年7月17日・労判1103号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が管理・運営する病院に勤務する医者であるXが、3か月間の停職の懲戒処分を受けたこと、医長から医員へ降任され、それに伴って降格されたことについて、これらが無効であるとともに、Xに対する不法行為に当たるとして、Y社に対し、①医長として勤務し、上記降格前の給与を受ける雇用契約上の地位の確認、②上記降格前の賃金額と実際に支払われた賃金額との差額及びこれに対する遅延損害金の支払い、③停職期間中に支払われるべき賃金及びこれに対する遅延損害金の支払い、④慰謝料300万円及びこれに対する遅延損害金の支払いをそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

本件懲戒処分は無効

本件降任及び降格は有効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・本件懲戒処分の理由となるべきXの非違行為の態様は、管理職でありながら、本件病院の方針や院長の指示に従おうとせず、また、本件病院の方針の推進や検査業務に支障を生じさせ、さらに、十分な根拠なしに公然と、薬剤検査科長がパワーハラスメント行為を行ったかのような発言をして、これを誹謗中傷するなどしたというものであり、決して軽微なものではない。
しかしながら、他方、本件懲戒処分の内容は、本件就業規則において、免職に次いで重い停職処分であり、しかも、その停職の期間は、本件就業規則上許される期間のうちで最長のものであって、Xとしては、3か月間にわたり賃金を得ることができないという重大な不利益を受けるものである

2 そして、本件懲戒処分の理由となるべき非違行為については、決して軽微な態様のものではないとはいえ、前件訓告処分がされてから4~5年後にされたものであること、基本的には、本件病院内部にとどまる行為であり、患者に対して直接被害を与えるようなものではないことなどの諸事情に照らせば、平成20年2月にカルテを無断で破棄したという事実があったこと等を考慮しても、上記非違行為に対する懲戒処分として3か月間にもわたる最大期間の停職処分をもって対応したことは、重きに失するものといわざるを得ない
以上によれば、本件懲戒処分は、相当性を欠くものとして、無効であると認めるのが相当である。

3 本件懲戒処分が無効であると認められても、Xが管理職としての適格性を欠くことを理由としてされた本件降任及び本件降格については、人事権を濫用したものであると認めることはできず、有効であるというべきである

4 本件懲戒処分については、無効であると認められるところであるが、そのことから直ちに不法行為を構成するものと認められるものではない。Xについては、懲戒処分を受ける客観的に合理的な理由があったといえるのであり、本件懲戒処分が無効と判断されるのも、3か月間の停職という処分を選択したことが社会的相当性を欠くものと認められるからにすぎない。これらの事情に照らせば、Xの救済については、停職期間中の賃金の支払請求を認めることで足り、本件懲戒処分は、Xに対する不法行為に該当するものではないというべきである。
したがって、Xの慰謝料の請求は、理由がない。

懲戒処分の理由はあるけれど、処分が重すぎるということで、ぎりぎりのところで無効となっています。

裁判官によっては有効と判断する場合もありうると思いますがいかがでしょうか。

また、懲戒処分が無効であっても、降任及び降格は、人事権の濫用にはあたらないというバランス感覚は参考になります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇164(帝産キャブ奈良(解雇)事件)

おはようございます。

今日は、乗務員らに対する会社解散を理由とする整理解雇等に関する裁判例を見てみましょう。

帝産キャブ奈良(解雇)事件(奈良地裁平成26年7月17日・労判1102号18頁)

【事案の概要】

本件は、タクシー乗務員であったXらが、会社の解散に伴って整理解雇等をされたことに対して、整理解雇の無効、会社の団体交渉拒否について不法行為による損害賠償などを求めた事案である。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効(不当労働行為にも該当しない)

団交拒否は不法行為に該当する

【判例のポイント】

1 会社の解散など企業の廃止に伴ってされる全労働者の解雇についても労働契約法16条所定の解雇権濫用規制が適用される余地があるが、職業選択の自由や財産権の保障といった見地から企業を廃止することが事業主の専権に属すると解され、その権利行使の当然の結果としてされるものであることから、真実企業が廃止された以上、それに伴う解雇は、原則として、労働契約法16条が規定する「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると解するのが相当であると認められない場合」に当たらず、有効であると解するのが相当である。しかしながら、解散による企業の廃止が、労働組合を嫌悪し壊滅させるために行われた場合など、当該解散等が著しく合理性を欠く場合には、会社解散それ自体は有効であるとしても、当該解散等に基づく解雇は「客観的に合理的な理由」を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇であり、解雇権を濫用したものとして、労働契約法16条により無効となる余地があるというべきである。

2 会社解散による解雇の場合であっても、会社は、従業員に対し、解散の経緯、解雇せざるを得ない事情及び解雇の条件などを説明すべきであり、そのような手続的配慮を著しく欠いたまま解雇が行われた場合には、「社会通念上相当であると認められない」解雇であり、解雇権を濫用したものとして、労働契約法16条により無効と判断される余地がある
・・・本件解散決議については、Y社の株主が決定したものであるから、組合が団体交渉により求めようとしていたその決議の撤回等について、Y社役員らが団体交渉等において交渉することには限度があり、団体交渉を行ったとしても、これによって本件解散決議が撤回された可能性は乏しいと考えられる。また、人員削減等による整理解雇の場合には、従業員のうち特定の者が解雇されることから、その整理解雇の対象とされた者に対し、整理解雇の対象とされた理由を説明するなどしてその理解を得る努力が求められるが、本件各整理解雇は本件解散決議に基づく全従業員の解雇であるから、解雇される全従業員に説明すべき事項が本件解散決議の理由に限られることになるものの、本件解散決議はY社の株主の判断であるため、その理由をY社の役員らが全従業員に対し詳細に説明するのは困難であるといわざるを得ない。

3 Y社は、組合から本件解散及び本件整理解雇等についての説明会の開催を求められ、また、それらの撤回等のための団体交渉を求められたにもかかわらず、これらを拒絶しており、また、組合及びその組合員であるXらほか乗務員らに対する文書による説明も十分とはいえなかった。
このような団体交渉の拒絶及び説明を十分に行わなかったことは、組合の団体交渉権を違法に侵害するものであり、組合に対する不法行為に該当すると認めるのが相当である。
・・・上記不法行為による組合の損害の額については、30万円を認めるのが相当である。

会社解散に伴う整理解雇に関する裁判所の考え方がわかりますね。

参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇163(A住宅福祉協会事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、協会の名誉を毀損したこと等を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

A住宅福祉協会事件(東京高裁平成26年7月10日・労判1101号51頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の職員として稼働していたXが、Y社から懲戒解雇されたところ(なお、Y社は、当審において予備的に普通解雇の主張を追加した。)、解雇無効を主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社に対し、解雇後の未払月額賃金及び未払賞与の支払を求める事案である。

原審は、Y社の主張する事実は懲戒解雇の事由に当たらず、また、手続の相当性も欠いているとして、Y社のした解雇は無効であるとし、Xの本件請求について、地位確認を求める請求を認容した。

この原判決に対し、Y社のみが敗訴部分の取消を求めて控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社の当審における新たな主張を時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきか否かについて検討する。上記のとおり、人事異動命令の拒否など当審で新たに主張した3つの解雇事由は、Xに対する解雇通知に明文で掲げられていたものであるから、これを原審で主張せずに当審になって主張したことは、攻撃防御方法の提出として時機に後れていることが明らかである。そして、原審においてこれらの解雇事由についての主張及び立証をすることが、不可能あるいは困難であったとする事情は何らうかがうことができないことに加え、原審におけるY社の訴訟追行が弁護士である訴訟代理人によってされていたことも考慮すると、当審においてY社の訴訟代理人が変わり、訴訟追行の方針等に変更があったことを考慮したとしても、当審に至って新たな主張をすることが時機に後れたことについては、故意又は重大な過失があるというべきである。

2 ・・・当審において新主張についての当否を判断するについては、従前の双方の主張や証拠調べの結果だけでは訴訟資料が不足していることが明白であり、当事者双方の主張立証を尽くさせる必要があり(少なくともXがこれを争っている以上、X本人の尋問の実施は必須であるし、併せてY社関係者の尋問が必要となることが想定される。)、その主張整理や証拠調べには、なお相当の時間を要するとみられるから、訴訟の完結が大幅に遅延するものというべきである

3 なお、念のため付言しておくと、仮に上記各解雇事由に関するY社の主張を時機に後れた攻撃防御方法として却下しなかった場合には、これまでの当事者双方の主張立証を前提とする本件証拠によっては、Y社主張の各解雇事由がXにあるとは認めるに足りないから、上記各事由による懲戒解雇をいうY社の主張を採用することはできないと判断することになる。

控訴審で新たな解雇事由を追加すると、本件のように、時機に後れた攻撃防御方法だと言われてしまいます。

一審のうちに、もっと言えば、一審の早い段階で解雇事由を固めておく必要がありますので、注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇162(I式国語教育研究所代表取締役事件)

おはようございます。

今日は、解雇等に関する代表取締役の任務懈怠と損害賠償責任に関する裁判例を見てみましょう。

I式国語教育研究所代表取締役事件(東京高裁平成26年2月20日・労判1100号48頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社の代表取締役であったAに対し、Aが、Y社をして①Xらを不当に解雇させたこと、②Xらへの賃金の仮払いを命じた仮処分決定に従わなかったことが、AのY社に対する任務懈怠ないしXらに対する不法行為に当たるとして、会社法429条1項ないし民法709条に基づき、損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

慰謝料20万円+弁護士費用2万円の支払を命じた

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件仮処分決定に基づき、Xに対して賃金の仮払いをすべきであったところ、これを履行していない。また、Y社にその支払能力がなかったと解することができないことは原判決が認定判断するとおりである。そして、Aが代表者であるY社は、本件仮処分決定に基づき株式会社Eに対する集金代行契約に基づく精算金債権が差し押さえられるや、同契約を解除していること、また、同じくAが代表者である学校法人Hも、本件仮処分決定に基づき差し押さえられたY社の売買代金債権が存在していたにもかかわらず、これに反して存在しない旨の虚偽の事実を記載した民事執行法147条1項に基づく陳述書を裁判所に提出したこと、Y社は、根幹商品である絵本を株式会社Nに代金1647万6893円で売却し、その代金がY社の口座に入金されると直ちに同口座からY社の口座に1650万円を送金していることなどを考慮すると本件仮処分決定に基づく仮払いの不履行についてはY社に悪意があり、また、仮処分手続における審尋等によりXらが仮払いを求める事情をY社の代表者であったAは認識できたから、仮払いに応じないことによりXに損害を与える結果となることを認識していたというべきである
したがって、Aには会社法429条1項及び不法行為に基づく責任があると判断するのが相当である。

第1審判決についてはこちらを参照してください。

これだけのことをやっても、慰謝料20万円です・・・。

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解雇161(ブーランジェリーエリックカイザージャポン事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、GMに対するセクハラ行為を理由とする降格と雇止めの有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ブーランジェリーカイザージャポン事件(東京地裁平成26年1月14日・労判1096号91頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、GMとして採用したXに対し、セクハラ等GMとして不適切な行為があったとして、GMから業務部マネージャーに異動させ、賃金を減額した。また、Y社はXの定年日以降の労働契約は1年ごとの嘱託契約であったとして、平成25年2月28日以降、契約を更新しない旨を同年1月7日にXに通告したところ、Xが、本件降格が違法であると主張して、GMの地位にあることの確認および降格前の賃金と降格後の賃金の差額の支払い、慰謝料の支払いを求めるとともに、本件雇止めに効力がないと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および平成25年1月以降の月例賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

降格は有効

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 本件降格に伴いY社はXに対して異動辞令しか交付しておらず、何らの懲戒処分を行っていないのであって、本件降格は人事権の行使として行われたものとみるほかない。

2 ・・・以上のとおり、複数の女性従業員の羞恥心を害するセクハラ行為を行っていたことが認められる上、裁判上は認定するまで至らない行為についても特に争っていなかったことも併せ考慮すれば、XにY社業務全般を統括するGMとしての適格性が欠けると判断したY社の判断に裁量の逸脱は認められない

3 Xは、減給額が過大であると主張するが、減給額が合計22万2000円に上るからといって、それだけで裁量を逸脱したものということはできない

4 X・Y社間において、雇用契約時に定年規定を適用しないという特約を交わしたということはないので、Xは平成24年2月末日をもって定年となり、同年3月からは嘱託契約が締結されたとみるほかないが、上記のとおり、Y社における嘱託契約は、1年のものとそうでないものがあること、Xについては、1年の嘱託契約となる継続雇用制度において定められた、定年6か月前までの条件提示と希望聴取という手続も踏まれていないことに照らすと、X・Y社間に1年の有期雇用契約が締結されたと認めることはできない
また、仮に1年の有期雇用契約であったとしても、定年後の継続雇用制度の趣旨からすればXには更新の合理的期待があり、降格後のマネージャーとしてのXの職務に問題があったと認められないことからすれば、本件雇止めは相当性を欠くものというべきである

複数のセクハラ行為の存在が認定されていることに加え、裁判上は認定するまでに至らない行為についても考慮の一要素となっていることは参考にすべきです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。