Category Archives: 解雇

解雇151(ベストFAM事件)

おはようございます。 

さて、今日は、営業社員に対する成績不良等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ベストFAM事件(東京地裁平成26年1月17日・労判1092号98頁)

【事案の概要】

本件は、平成24年1月24日にY社との間で雇用契約を締結し、同年3月6日にY社を退職したXが、上記雇用契約は期間の定めのない契約であり、かつ、Xの退職はY社の不当解雇によるものであって無効である旨を主張し、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び上記退職後の賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 Xは、ハローワークの求人票の記載等から期間の定めのない正社員として採用されたと考えていたため、本件契約締結の際に雇用期間が有期とされていたことに不満を持ったものの、雇用期間が1年近くあることや成績をあげれば雇用期間に関係なく正社員になれると聞いたことなどから、本件雇用契約書記載の雇用期間の有期雇用契約であることを了解した上で本件契約を締結したものと認めることができる。
他方、Y社の本件訴訟における主張内容、本件訴訟に先立つ労働審判手続においてY社が提出した答弁書における主張内容、Y社の就業規則における採用期間についての定め及び弁論の全趣旨によれば、Y社が、期間の定めのない雇用契約における試用期間と有期雇用契約における雇用期間とを混同して本件契約を締結したと認める余地もあり得ないではない。しかし、…Y社は、平成24年1月24日の本件契約締結時において当初から期間の定めのない雇用契約を締結する意図ではなく、Y社から別途意思表示をしない限り定められた期間の経過により雇用契約が終了するものとして本件契約を締結したと認めるのが相当であるから、Y社の認識としても有期雇用契約として本件契約を締結したものと認められる
以上のとおり、本件契約時にはX及びY社のいずれも有期雇用契約として本件契約を締結するという認識であったと認められる。

2 確かに、Xは営業職としてY社に採用されながら、入社後、本件解雇までの間に、新規の契約を1件も締結することができなかったことは、当事者間に争いがない。しかし、本件解雇の時点では、XがY社で就業し始めてからまだ1か月半程度しか経過していないのであり、その間、新規の契約を1件も締結することができなかったことをもって直ちにXの勤務状況や業務能率が上記のような状況であったことを裏付ける事情は本件全証拠によっても認められないから、Y社の就業規則42条1項1号及び2号の解雇事由に該当する事実があると認めることはできないというべきであり、他に、Y社の就業規則で定める解雇事由に該当する事情の存在を認めるに足りる証拠はない。
よって、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠くものと認められるから、労働契約法16条により解雇権の濫用に当たり無効であるというべきである。

入社してわずか1か月半程度で、従業員の能力が不足していると判断するのは明らかに早計です。

結果、このような判決が出ても文句は言えません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇150(トラベルイン事件)

おはようございます。

さて、今日は、「業務の向上の見込みがない」ことを理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

トラベルイン事件(東京地裁平成25年12月17日・労判1091号93頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、契約期間中の解雇は無効であるとして、地位確認と平成25年1月支給分の賃金不足分として10万5600円の支払いならびに同年2月支給分以降の毎月の賃金として平均賃金と主張する21万円および遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの勤務態度等について前記のとおり主張するところ、受電回数や離席モードに入る回数を問題としているが、受電回数の下限や離席モードの上限を明確に決めての指導はしていない。また、重大なミスを犯したというが、Xから始末書も徴求していない。このように、Xに対して、同様のことを繰り返せば、解雇に至ることもあり得るという自覚を持たせる指導も、改善のための明確な措置もされない状況の下では、Xの勤務態度等がY社主張のとおり芳しくなったとしても、これをもって、Xに期間中の解雇を正当化するほどの重大な非違行為があったとはいえず、本件解雇に「やむを得ない事由」があったとは認められない

2 Xは、更新の合理的期待が存在したことについて主張立証しないので、本件雇用契約は、期間満了日である平成25年3月20日で終了したとみるほかない。

期間途中の解雇は、「やむを得ない事由」がなければ無効となります。

一般の解雇に比べてさらにハードルが高いわけです。

上記判例のポイント1のとおり、勤務態度に問題がある場合には、改善のために指導・教育をしたことを裁判上で立証できる準備をしておくことが重要です。

なお、原告は、期間満了後も更新されることについての合理的期待の存在を主張立証していなかったようです…。

裁判所も特にその点についてヒントを出してくれなったようですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇149(芝ソフト事件)

おはようございます。

さて、今日は、暴言行為・業務命令拒否等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

芝ソフト事件(東京地裁平成25年11月21日・労判1091号74頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、その後Y社から懲戒解雇さらには予備的に普通解雇されたXが、本件解雇は無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の地位の確認を求めるとともに、賃金及び不法行為に基づく損害賠償金等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

不法行為は否定

【判例のポイント】

1 Xは、平成23年11月11日、A取締役に対し、暴言を吐いたことが認められるが、その余の日時においては、Y社主張事実を認めるに足りない。確かに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、Xは性格的に激高しやすい面があることから、業務遂行中において、Y社代表者やA取締役に対しても、強い口調で自らの主張を述べることがあったこと、そのことが周囲のY社従業員に対して不安を感じさせることが窺えないではないが、Xの上記行為が本件就業規則第82条第3号、7号、8号に該当するとまでは認めることができない

2 暴言行為等については、懲戒解雇事由に該当する事実を認めることはできない。業務命令拒否については、同事由に該当すると言えなくもないが、前記認定にかかる事情の存する職務経歴書の提出拒否をもって懲戒解雇とすることは処分として重きに失するのであって、その余の手続面等について検討するまでもなく、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、相当なものとして是認することはできず、権利濫用として、無効と認めるのが相当である。

3 …しかし、前記4件について検討しても、Xの言動が主たる理由となって交渉や事業が頓挫したり、Y社に損害が生じたことは認めるに足りない。また、そのクレームの内容は、交渉過程での出来事が主なものであり、交渉相手の受け取り方という側面もあることを考慮すると、明らかにXに非があるとまで認めることは相当ではない。そして、Y社において担当した業務は上記4件にとどまるものではなく、Xは、多数の業務を担当していたことが認められるのであり、これらの業務について、成果を上げたかどうかはともかく、Xが担当した顧客の多くからクレームを受けたという具体的事実を認めるに足りない。また、C社の件は、同社とXとの間に訴訟が係属し、和解により解決していることからすれば、同社関係者の言動からXの営業能力等を否定的に評価することは相当ではない。これらの諸事情を考慮すると、前記5件等から、Xについて本件就業規則第19条第1項2号及び5号該当事由を認めることはできない。

4 本件解雇については、暴言行為が一部認められること、Xは、職務経歴書の提出という業務命令を拒否したこと、Xに対し、取引先等関係者から業務に関するクレームが複数寄せられていたことなどからすると、Y社において、懲戒解雇事由及び普通解雇事由にあたる具体的行為が存在しないことが明らかであるにもかかわらず、このことを承知しながら本件解雇に及んだとまで認めることはできず、本件解雇を不法行為とまで認めることはできない

5 Xは、本件解雇により、住宅ローンの支払が困難となり、やむを得ず自宅を売却せざるを得なくなったとして、同売却に伴って生じた損害の賠償を請求する。しかし、本件解雇が不法行為であるとは認められないから、上記損害賠償請求は理由がない。また、本件解雇とXの自宅の売却による損害との間に相当因果関係は認め難い
以上によれば、Xの損害賠償請求は理由がない。

まず、解雇が不法行為と認定されるケースがどのような場合であるかについて、上記判例のポイント4を参考にしてください。

また、会社としては対応が困難な従業員を解雇したくなる気持ちは理解できます。

最終的に金銭解決ができるのであればよいですが、必ず和解ができるとも限りません。

法的な対応としては限界を感じざるを得ません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇148(富士ゼロックス事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、勤務成績不良などを理由とする中途採用者の普通解雇に関する裁判例を見てみましょう。

富士ゼロックス事件(東京地裁平成26年3月14日・労経速2211号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として稼働していたXが、Y社から解雇されたことから、同解雇は、解雇権を濫用するものとして無効であると主張して、Y社との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社に対し、雇用契約に基づき、賃金、賞与の支払いを求め、併せて、不法行為に基づき、損害賠償金600万円の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、事前に指示事項を明確に取り決めていたにもかかわらず、訪問営業の計画と行動報告を上司が確認することを目的として作成を指示された行動管理表の作成及びこれをめぐる上司への報告や連絡等について、何度となくこれを怠り、あるいは、なおざりな記載、対応をしていたものといえ、服務上の問題を強く生じていたといえるほか、これらが繰り返されていたことに照らせば、およそ改しゅんの情もみせていなかったといえる
上記説示の点に照らせば、Xは、銀座支店とNB第三支店に配属されていた平成21年10月から平成22年7月までの間に、多数の服務上、能力上の問題を生じていたこと、そして、警告書によるものやこれによらないものも含め、度重なる注意、警告等を受け、あるいは、職場環境を替え、研修も受け、自らの服務姿勢を改め、改善するといった機会も持ったのに、こうした服務上、能力上の問題はなお改まらない状況にあったことを指摘することができる。…本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるものとはいえない。

2 Y社人事部の社員が平成22年8月2日、本件解雇の解雇理由に関してXと面談をした際、同社員が、Xに対して信を措けなくなっている経過について話すくだりの中で、「身障者としては用済みですよ。」といった発言をしたことが認められる。
もっとも、同発言は、Y社が、Xの申告していた障害を踏まえてXの採用を決定していたものであるのに、Xが、認定に係る障害を変更させ、しかも、それがY社に対して特段の報告や連絡のないまま、Xの随意になされたものであったこと、以上の点を踏まえ、同社員において、そのような対応は問題ではないかと問題視する発言をしていたところ、Xが、「はあ、障害がなかったら用済みということなんですか。」などと申し向けたことに伴い、そのようなことであれば、Xの年齢等にかんがみXを採用するなどしなかったことを言明する趣旨で発言したものであることが、同証拠における前後の会話内容から明らかである。
そうしてみると、上記発言が、その措辞、表現において不適切であるとはいえても、上記の点にも照らせば、直ちに社会的相当性を欠くものとはいえず、不法行為が成立するとまでは認められない。

成績不良や能力不足を理由とする解雇の場合には、上記判例のポイント1のように、教育・指導をし、改善の機会を与えてあげることが必要です。

解雇事案に限りませんが、裁判所は、プロセスを重視しますので、「いろいろやったけど、改善しなかったので、やむなく解雇しました」ということを明らかにする客観的証拠を用意しなければなりません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇147(ザ・キザン・ヒロ事件)

おはようございます。 

さて、今日は、タクシー乗務員に対する整理解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ザ・キザン・ヒロ事件(東京高裁平成25年11月13日・労判1090号68頁)

【事案の概要】

本件は、タクシー運送事業を営むY社の足立営業所に、タクシー乗務員として勤務していたXらが、Y社がXらに対して行った整理解雇は解雇権を濫用した無効なものである旨主張して、Y社に対し、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

なお、一審(さいたま地裁平成25年7月30日)は、Xらの地位確認請求をいずれも認容した。

【裁判所の判断】

控訴棄却
→整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇当時のY社の経営状況からみて、人員削減を含む抜本的な経営再建策を実行する必要性があったとは認められるものの、経営を再建するために直ちに事業の一部を売却して現金化するほかない状態にあったとまで認めることは困難であるから、足立営業所に勤務する乗務員の全員を解雇するほどの必要性があったということはできない
したがって、Y社の上記主張は、採用することができない。

2 Y社は、足立営業所の従業員全員を解雇することを前提として、K社との間で事業用自動車譲渡契約又は事業譲渡契約を締結し、特段の解雇回避措置を採ることなく本件解雇を実行したものであり、本件解雇後、事業譲渡先であるK社にXらを含むY社の乗務員の情報を提供して雇用の要請をしたり、解雇された従業員の一部に対してK社への就職を勧誘するなどしたとしても、Xらの雇用確保のための措置として十分なものであったとはいえず、結局、Y社において解雇を回避するための十分な措置を採ったということはできない。
したがって、Y社の上記主張は、採用することができない。

3 本件解雇当時、Y社の経営を再建するために直ちに事業の一部を売却して現金化するほかない状態にあったとまで認めることが困難である以上、本件解雇における解雇人員の選定基準が合理的なものといえないことは、前記のとおりである。
したがって、Y社の上記主張は、採用することができない。

4 Y社が、K社との間で自動車若しくは事業の譲渡契約を締結し又はそのための交渉をしながら、それについて説明することなく突然足立営業所の従業員全員に対し解雇通告をしたこと、その後の説明会においても、事業譲渡について一切言及することなく抽象的な解雇理由に言及するに留まったこと、組合からの団体交渉の要求にも応じていないことなどに照らし、本件解雇について十分な説明・協議が行われたと認めることができないことは、前記のとおりである。
したがって、Y社の上記主張は、採用することができない。

整理解雇の要件(要素)を満たさないという判断です。

上記判例のポイントの1についてですが、会社とすれば、会社再建のため、やむを得ず事業譲渡をしたのだと思いますが、裁判所は、足立営業所の従業員全員を解雇するほどの必要性は認めませんでした。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇146(大阪運輸振興(解雇)事件)

おはようございます。

さて、今日は、「事業上の都合」を理由とする解雇の有効性と反訴立替金請求に関する裁判例を見てみましょう。

大阪運輸振興(解雇)事件(大阪地裁平成25年11月15日・労判1089号91頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社から解雇されたが、当該解雇は無効であるとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認および解雇後の賃金の支払いを求めた事案、ならびに、Y社が、Xを解雇したことにより、社会保険料の従業員負担分の一部を賃金から控除することができなかったため、Y社がXに代わって従業員負担分も支払ったとして、当該立替金の返還を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

立替金請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約に職種限定の合意があったとは認められず、また、Xの勤務態度に問題がなかったことは当事者間に争いがないから、本件解雇は、いわゆる整理解雇に当たるというべきであり、本件解雇が有効か否かは、①人員削減の必要性、②解雇回避努力の有無、③人選の合理性及び④手続の相当性を総合して判断すべきである。そして、本件解雇が有効といえるためには、Y社において、少なくとも、人員削減の必要があること、解雇回避努力を尽くしたこと及び解雇者の人選が合理的であったことを主張・立証する必要があると解される。

2 この点、確かに、本件解雇は、A駅B操車場における操車場業務の廃止に伴うものであり、Y社は、Xに対し、自動車運転手、路線施設維持管理業務、自動車倉庫業務又は車両手入業務の4つの業務への配転を打診し、Xは、持病により自動車の運転ができないことを理由に自動車運転手、路線施設管理業務及び車両手入業務への配転は不可能であると回答していることは認められる。しかし、それ以外の事務職等への配転の可否等の解雇回避努力の有無、人選の合理性については、Y社代表者が、抽象的に事務職に馴染まないと判断した、事務職も定数を満たしているなどと供述するに止まっており、Xについて、他に従事しうる業務がなかったことを具体的、客観的に裏付ける証拠は提出されていないところ、Y社は、本件解雇に整理解雇法理の適用はないとして、これらの点について主張・立証しない態度を明らかにしている。
以上のように、Y社が、本件解雇の有効性を基礎付ける評価根拠事実について主張・立証しない以上、本件解雇は無効であるといわざるを得ない。

3 なお、Y社は、本件雇用契約について職種限定の合意がないとすれば、Xが配転を拒否したことになると主張するが、Y社は、あくまで上記の4つの業務への配転を打診したに止まっており、Y社が配転を命じ、Xがこれを拒否したとまではいえないから(なお、自動車倉庫業務については、期間の定めのない雇用契約から期間雇用への契約変更の打診であって、配転命令には当たらないというべきである。)、この点に関するY社の主張も採用できない。

整理解雇のハードルの高さがよくわかりますね。

特に、使用者側としては、上記判例のポイント2は注意が必要です。

職種に関する抽象的な「向き・不向き」を根拠に配転の機会を与えないことは避けなければなりません。

現実には、かなり厳しいとは思いますが。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇145(社会保険労務士法人パートナーズほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、能力不足を理由とする試用期間途中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

社会保険労務士法人パートナーズほか事件(福岡地裁平成25年9月19日・労判1086号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXが、試用期間途中のY社による平成24年4月3日付け解雇は無効であるなどとして、Y社に対しては、本件解雇からY社の解散(平成24年9月1日)までの間の平成24年5月分から同年8月分の給与を請求するとともに、Y社解散後に実質的に同法人を引き継いだZに対し、雇用契約上の地位の確認及び平成24年5月分から本判決確定の日までの給与を請求し、また、Y社らに対し、本件解雇が不法行為に当たるとして連帯して慰謝料及び弁護士費用の合計140万円の支払を求めたものである。

本件においては、Zは、本件解雇(留保解約権行使)の有効性のみを争い、XとY社との関係で、本件解雇が無効となった場合に、ZがY社と同様の労働契約関係及び給与債務(Y社解散前の分の連帯債務)を負うことについては争いがない

【裁判所の判断】

解雇は無効

Y社らは、連帯して、平成24年5月から同年8月までの給与を支払え

Zは、平成24年9月から本判決確定の日まで、給与を支払え

その余の請求は放棄

【判例のポイント】

1 ・・・これらの事情からすると、Zは、XをY社に採用する時点で、Xは社労士として実績のない初心者であり、無償の手伝いでも良いから経験を積みたいと申し出ている者であって、Y社を出て行くDと同レベルでないことを十分認識していたと認めるのが相当である。

2 Y社の職員であったHは陳述書において、Xは社労士試験レベルの基礎知識も欠落しているのではないと感じた等と述べており、Xの能力が明らかに劣っているかのように記載する。しかしながら、Hについては、Y社が証人尋問を申請していたが尋問期日に出頭せず、後に申請が撤回された経緯があり、すでに述べた内容を超えては採用しがたい

3 以上によれば、本件解雇は、Y社における試用期間の趣旨目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されるものとはいえず、無効であり、地位の確認及び給与の請求部分には理由がある。

4 もっとも、慰謝料及び弁護士費用の請求については、社労士の業務が法律上の資格に基づくものであって一定の能力が要求されること、Y社の規模、Xが本件申請手続前に事前確認を怠っていること、Xについてはコミュニケーション不足の面が窺われること、Z自身の本件解雇に関する認識を考慮すると、本件解雇が不法行為を構成するとは言いがたく、理由がない。

Y社とZの同一性が争点になると思いきや、そこは争っていないようです。

全体的に解雇の正当性の立証が不十分であるようです。

試用期間中であるとはいえ、留保解約権も解雇ですから、そう簡単にはできません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇144(X庁懲戒免職処分取消請求事件)

おはようございます。

今日は、午前中は、労働事件の裁判が1件、公証人役場で公正証書作成が1件入っています。

午後は、事務所で書面作成です。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、公務員に対する酒酔い運転を理由とする懲戒免職処分の取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

X庁懲戒免職処分取消請求事件(東京地裁平成26年2月12日・労経速2207号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y庁の職員であったXが、酒酔い運転を理由として、Y庁長官から平成21年3月2日付けで国家公務員法82条1項1号及び3号に基づく懲戒免職処分を受けたことから、本件処分の違法性を主張してその取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分を取り消す

【判例のポイント】

1 本件酒酔い運転が懲戒処分の対象とされるべきことは明らかであり、人事院作成の処分指針によれば、標準的な懲戒処分が免職又は停職とされていること、Y庁において準用されている農水省の処分方針によれば、免職が処分の目安とされ、特に情状酌量すべき場合、その他特に必要と認める場合は、目安の一ランク軽い処分とすることができるとされている。

2 Y庁長官は、免職を相当として本件処分を行ったが、国公法82条1項所定の懲戒処分のうち、免職処分は、職員としての身分を奪うものであり、停職処分以下の懲戒処分とは質的に異なるものであるから、その選択については慎重な検討を要する

3 本件酒酔い運転は、結果的に、走行距離が94メートル程度と短く、人損事故も物損事故も発生させておらず、自動車を農政事務所の駐車場に駐車した後、徒歩で居酒屋2軒とおでん屋を回り、タクシーで宿泊予定場所であるDの部屋のある独身寮に移動しており、駐車した時点においては、飲酒の上で自動車の運転をする意図は全く有していなかったものと推認することができる。加えて、Xは、約23年間にわたり国家公務員として勤務し、その間、勤続20年の表彰を受け、本件処分以外の懲戒処分歴を有していない。また、少なくとも本件酒酔い運転に至るまでの約7年8か月間において、交通違反歴を有していない

4 以上の諸事情を総合考慮すれば、Xを停職ではなく免職とした本件処分は、本件酒酔い運転に対する処分量定として重きに失するというべきであり、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用した違法があるものと認めるのが相当である。

相当性判断のところで、救われました。

丁寧に事実を拾い上げ、裁判所に示すことが大切ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇143(F1社ほか事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、会社解散に伴う解雇に関する裁判例を見ていきましょう。

F1社ほか事件(静岡地裁沼津支部平成25年9月25日・労経速2204号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y1社の従業員であったXらが、平成22年2月9日にY1社から会社解散を理由として同日をもって解雇する旨の意思表示を受けたことから、Xらが、前記解雇は解雇権濫用により無効であるなどと主張して、Y1社、Y2社などに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y1社らに対し、同年3月1日以降の賃金又は不法行為に基づく賃金相当額の損害賠償金の支払いを求め、さらに、違法な前記解雇によりXらが精神的苦痛を被ったなどと主張して、Y社らに対し、不法行為に基づく損害賠償金360万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効なところ(労働契約法16条)、会社が解散した場合、会社を清算する必要があり、もはやその従業員の雇用を継続する基盤が存在しなくなるから、その従業員を解雇する必要性が認められ、会社解散に伴う解雇は、客観的に合理的な理由を有するものとして、原則として有効であるというべきである。しかし、会社が従業員を解雇するに当たっての手続的配慮を著しく欠き、会社が解散したことや解散に致った経緯等を考慮してもなお解雇することが著しく不合理であり、社会通念上相当として是認できない場合には、その解雇の意思表示は、解雇権を濫用したものとして無効となるというべきである。

2 本件解散やそれに伴う解雇予定等について事前に説明がないまま本件解雇に至ったことについては手続的配慮を欠く面があったことは否定できないが、従前の賃金改定がなされなければ存続できなくなる厳しい経営状況にあること等について説明がされていたこと、本件解雇後ではあるものの、元従業員の再就職に関する措置を講じており、これ以上の再就職に関する措置をなし得たと認められないことに加え、タクシー需要が減少している状況やY1社の経営状況から早期の解散という選択が不合理であるとはいえないことを合わせて考慮すれば、Y1社が従業員を解雇するに当たっての手続的配慮を著しく欠いているとまではいえない
以上によれば、本件解散に伴う本件解雇は、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であると認められるから、無効とはいえない。

上記判例のポイント1が解散に伴う解雇(整理解雇)の規範です。

通常の整理解雇の4要素よりもさらに厳しいですね。

解散する以上、原則として解雇はしなければならないというところからくるものです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇142(東京都教育委員会事件)

おはようございます。

さて、今日は、校長に対する傷害行為を理由とする懲戒免職処分の取消に関する裁判例を見てみましょう。

東京都教育委員会事件(東京地裁平成26年2月26日・労経速2206号20頁)

【事案の概要】

本件は、東京都立甲高等学校の主幹教諭であったXが、平成22年8月27日、甲高校の校舎内で、同校校長との間でトラブルを起こし、同校校長に対する傷害行為に及んだところ、そのことを理由に、東京都教育委員会から平成23年1月20日付けで地方公務員法29条1項1号及び3号に基づく懲戒免職処分を受けたことから、本件処分の違法性を主張して、その取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件事件におけるXの傷害行為が、その性質・内容に照らして、地公法33条において禁止の対象とされる当該職の信用を傷つけ、職員の職全体の不名誉となる行為に該当し、したがって地公法29条1項1号所定の地公法違反に該当するほか、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行として同項3号に該当することは明らかである。

2 ところで、地方公務員につき、地公法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の上記行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を総合考慮した上で判断されるものであり、その判断は、懲戒権者の裁量に任されているものと解される。したがって、当該懲戒処分については、上記裁量権の行使として社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したと認められる場合に限り、違法であると判断すべきである(最判昭和52年12月20日)。

3 そこで、本件処分における裁量権の逸脱・濫用の有無を検討するに、本件事件におけるXの非違行為は、現職の教育公務員として、暴力の否定を含む社会の基本的、常識的な価値観について生徒に教育し、その模範となるべき立場にあったXが、教育現場である勤務先の公立学校内において、上司である校長に対して暴行を加え、傷害を負わせたというものであり、その態様も、2時間程度の間に、手拳による顔面殴打、パイプいすによる頭部等の殴打及び首絞めといった粗暴かつ危険な行為を執拗に繰り返したもので、傷害結果も、・・・加療約2か月間という比較的程度の重いものであるところ、D校長が、Xに対し、自らの生命身体を守り、学校内秩序を維持するために許容される限度を超えた違法な有形力の行使に及んだ事実はない。また、その経緯、動機をみるに、理科の実習助手の処遇をめぐる対応や勤務評価、本件申請書に係る対応等について蓄積していたD校長及びE副校長に対する不満を背景に、両名に対して一方的に因縁を付け、挑発的な言動に及んだ末になされた暴行であり、その際、D校長及びE副校長が、Xの暴行を誘発する言動を行ったとの事実は認められず、上記暴行に対する責任の一端がD校長にある旨のXの主張が失当であることは明らかである。
・・・これらの事情によれば、Xが、本件処分以前の約20年10か月間、東京都公立学校の教員として勤務を継続してきたこと、本件処分以外に懲戒処分歴がないこと、Xの処分軽減を求める多数の署名がなされた嘆願書が都人委に提出されていることなどを勘案しても、Xの傷害行為の悪質性、重大性に照らして、Xを免職とする判断が重きに失するとはいい難く、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用した違法があるものと認めることはできない。

公務員に対する懲戒処分については、本裁判例のように、裁量権の逸脱・濫用があったかどうかが判断されます。

行政事件でよく見かける判断基準です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。