解雇159(トライコー事件)

おはようございます。

今日は、元従業員に対する適格性欠如等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

トライコー事件(東京地裁平成26年1月30日・労判1097号75頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたところ、平成24年3月31日をもって解雇されたXが、Y社に対し、①上記解雇が無効であるなどとして、Xが雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに同年4月1日以降の賃金および遅延損害金、②上記解雇がXに対する不法行為に該当する、あるいは、Y社が労働環境を整備する注意義務に違反したとして、慰謝料120万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

解雇予告手当の支払いを命じた

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、記帳・会計処理に関する相応の知識・経験を有するものと評価されて、記帳・経理業務を専門に担当するコンサルタントとして雇用されたものであり、本件雇用契約上、顧客から提供された原資料を基に適切な仕訳を行い、正確な会計書類を各顧客と取り決めた期限までに提出するとともに、原資料を所定のルールに従って分類整理してファイリングをして管理し、顧客からの会計書類の内容に関する問い合わせに対し、適切に回答すべき職務を有していたにもかかわらず、その職務を怠り、月次決算結果を所定の期限までに提出せず、会計処理を誤り、原資料を適切に管理せず、顧客からの問い合わせに対して適切に回答をしなかったものと認められる。そして、Xは、Y社から、職務懈怠が明らかになる都度、注意・指導をされながら、その職務遂行状況に改善がみられなかったものと認められ、結局のところ、Xは、前記の職務を遂行し得るに足る能力を十分に有していなかったものといわざるを得ない。
そうすると、Xについては、少なくとも、Y社就業規則55条(7)所定の解雇事由があるものというべきである。

2 Y社は、Xの上記職務懈怠によって、M社から業務委託を打ち切られ、また、B社及びP社に係る会計処理の修正に多大な労力を要するとともに、その修正が大きな規模に及んだものであると認められる。
また、Y社は、平成24年2月、Xの解雇を検討したものの、これを控えて、Xに対し、退職を勧奨し、その際、Xからの要望を受けて、一定期間引き続き在籍させる一方で、その期間の勤務を免除する取扱いをするなどして、当事者双方の合意による円満な退職を実現しようとしたものと認められる
これらの事実に、前記認定のXの職務遂行の状況やY社の注意・指導の状況等を併せみれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるというべきである。

3 解雇予告期間をおかず、解雇予告手当の支払をしなかったこと、解雇理由を速やかに通知しなかったことから、直ちに解雇の効力が否定されるものではなく、使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、また、予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合には、通知後同条所定の30日の期間を経過するか、又は予告手当の支払いをしたときに解雇の効力を生ずるものと解すべきである(最高裁昭和35年3月11日判決)。
以上によれば、本件解雇は、有効なものであるが、その効力自体は、平成24年4月30日に生じたものであると認められる。

能力不足を理由とする解雇の場合には、この裁判例のように、注意・指導を繰り返すことが求められます。

それにもかかわらず改善が見られなかったという一連の流れを客観的に明らかにしておくことが必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。