Category Archives: 解雇

解雇139(カール・ハンセン&サンジャパン事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

今日は、身体の障害で「業務に耐えられない」ことを理由の解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

カール・ハンセン&サンジャパン事件(東京地裁平成25年10月4日・労判1085号50頁)

【事案の概要】

Y社は、家具・室内装飾品の製造、輸出入および販売を目的とし、主としてデンマーク製の家具の輸入および販売を行っている会社である。

Xは、Y社の従業員であったが、平成22年、ギラン・バレー症候群および無顆粒球症の診断を受けた。

Y社は、Xに対し、就業規則に定める解雇理由である「身体の障害により、業務に耐えられないと認められたとき」またはそれに「準ずるやむを得ない事情があるとき」に該当するものであることを理由に、解雇した。

Xは、本件解雇の有効性を争い、提訴した。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、・・・ギラン・バレー症候群及び無顆粒球症に罹患し、・・・平成23年3月頃までは起立不能及び上肢機能全廃・・・などと診断され、徐々に回復していた様子は窺われるものの、ずれも就労不能である旨診断されていた・・・。
以上の事実に加え、Xの業務の内容に照らせば、本件解雇予告当時のXは、制限勤務であってもY社において就労することが不可能であったと認められ、この事実は「身体の障害により、業務に耐えられない」という本件就業規則29条1項2号に当たり、本件解雇予告には、客観的に合理的な理由があるというべきである。

2 また、Xは、ギラン・バレー症候群及び無顆粒球症の治療のために入院してから本件解雇予告までの約1年7か月の間、就労することができない状態にあり、その間、Y社のXに対する、3か月分の給与を支払うことで退職して欲しい旨の打診に対し、Xが、失業保険の受給の関係で欠勤期間を平成23年11月以降まで延長して欲しい旨の要望をし、Y社がこれに応えて同年11月以降まで解雇を見合わせていた等の事情が認められる。
そうすると、本件解雇予告につき、社会通念上相当と認められない事情があるとは認められない。

従業員の症状に加えて、会社としては、可能な範囲での解雇回避や経済的支援をしていることが評価されています。

休職期間満了後の復職の可否の問題とも関連してきますが、この問題は、主治医の診断書や意見書のみで判断するのは早計であり、より多角的な視点で総合判断することが求められます。

それゆえ会社の判断の適否は、その時点では明確にならず、その後の訴訟を通じて明らかになるわけです。

訴訟リスク、敗訴リスクを考慮に入れつつ、労働者の就労の可否を判断する必要があります。

言うのは簡単ですが、とても難しい問題です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇138(学校法人A学院ほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、女性教員へのわいせつ行為等を理由とする懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人A学院ほか事件(大阪地裁平成25年11月8日・労判1085号36頁)

【事案の概要】

本件は、同僚の女性教員であるAに対して車中で暴行を加え、わいせつ行為を行ったとして、Y社から懲戒解雇されたXが、Y社に対し、当該懲戒解雇が無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに懲戒解雇後の平成23年4月1日から毎月21日限り48万7500円の未払賃金及び遅延損害金を求めるとともに、懲戒解雇が不法行為に当たるとして損害賠償金550万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、更に、Aに対し、同人がY社に対して虚偽の被害申告を行ったことにより精神的損害を被ったとして、損害賠償金330万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効→賃金支払

AはXに対し、88万円を支払え

【判例のポイント】

1 Aは、一見すると交際があったかのような関係になっていたのは、期限付き専任講師であるXは、正社員であり先輩であるXとの間で男女間のトラブルが発生した場合、弱い立場であるAがトラブルメーカーとして学校から排除されるのではないかとの恐れがあったため、穏便に済ませたいと考えていたが、Xは、Aの立場を考慮することなく、執拗にメールや電話で会うことを迫ったためである旨主張しているが、AがXに対して好意を抱いており、むしろ、Xに対してAとの交際を明言するよう求めていたことは、メールの内容から認められること、Aは平成22年7月に同僚のH教諭や教育委員会にXから暴行を受けたことを相談しているが、その時点でも正社員と期限付き専任講師という関係は変わりないことから、Aの主張は採用することができない。

2 以上によれば、Aの供述は、核心部分である暴行の態様について供述が一貫しておらず、また、同人の述べる暴行の態様は、平成21年9月23日以降のAの言動とも整合しないので、全面的に信用することはできない。もっとも、Xが非公式の事情聴取において「暴力にあたるような平手打ちをしたことはないです」などと述べていたことからするとXがAに対して平手打ちをしたとの事実を認めることができ、また、質問の流れからするとXは本件ドライブの日に平手打ちをしたことを認めたとも解されるが、平手打ちをしたことはあるかとの質問自体は日時を限定して尋ねておらず、質問者自身、直後に他の日のこととして答えた可能性を否定することはできず、XがAに対して平手打ちをした日が同日であることを認めるに足りる証拠はない

3 そうすると、XがAに対して平手打ちをしたとの事実を認めること及びXが平成21年9月22日に自動車内で胸を触るなどの行為を行ったとの事実を認めることはできるが、Xが同日に自動車内で暴行を加えたとの事実を認めるに足りる証拠はないから、本件懲戒解雇は、解雇事由を認めるに足りる証拠はなく、その余の点について判断するまでもなく、無効である。

4 Aによる虚偽の申告は、Xの雇用主であるY社に対するものであり、また、Xが無理矢理肉体関係を強要したことを内容とするものであるから、Xの名誉を著しく毀損するとともに、Xが職を失う危険を生じさせるものであって、悪質であるというほかなく、また、懲戒手続自体は非公開ではあるが、現在まで同様の主張を維持していることにより、Xの名誉に与えた悪影響も軽視できない。・・・これらの事情等を総合考慮すると、慰謝料は80万円、弁護士費用は8万円と認めるのが相当である

虚偽申告により、懲戒解雇に追い込まれたとしても、裁判所が認定する慰謝料の金額はこの程度です。

不貞行為による慰謝料よりはるかに低額です。

また、このような事案(セクハラ・パワハラ事案)の場合、被害者とされる従業員から被害の申告があった場合、会社としては、対応しないわけにはいきませんから、調査をすることになります。

その際、決して、当事者の一方のみの事情聴取から判断するのではなく、両当事者から事情聴取をする必要があります。 会社は中立公平な立場から客観的に懲戒事由の有無を判断すべきです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇137(イーハート事件)

おはようございます。 

さて、今日は、パチスロ店アソシエイトの解雇の有効性と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

イーハート事件(東京地裁平成25年4月24日・労判1084号84頁)

【事案の概要】

Y社は、Xに対し、Xが平成22年6月頃、本件店舗の高設定台の情報を顧客に漏えいしたことを理由に、同年7月16日付で懲戒解雇した。

Xは、本件情報漏洩をしておらず、本件懲戒解雇が無効であると主張し地位確認等を求め、合わせて時間外手当の支払いを求めて本訴を提起し、他方、Y社は、Xが本件情報漏洩をしたことを前提に、これによってY社が損害を被ったと主張し、不法行為に基づく損害賠償を求めて反訴を提起した事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

Y社に対し、慰謝料100万円、未払残業代約150万円及び同額の付加金の支払いを命じた

反訴請求はいずれも棄却

【判例のポイント】

1 Xの聴取は、本社地下会議室で、C及びD2名によって行われた。同月4日は、午後7時頃から午後11時頃まで、翌5日は午前11時頃から午後7時ころまで行われ、Xは、翌5日の午後、本件上申書等を作成するに至った。C及びDのXに対する調査は、C自身、約90%、100%、Xが本件情報漏洩を行ったと考えていたと証言しており、他の可能性や、共犯の可能性について、十分吟味した調査であったとは認められない
Xは、上記2日間の長時間にわたる、またXが本件情報漏洩を行ったものであるとの前提にたった聴取の中で、本件上申書等の作成に至ったものとうかがわれる
そして、Y社は、同日より後、Xに対する更なる聴取や本件上申書等の裏付け調査等を行うことなく、同月16日、本件懲戒解雇の意思表示をした。 

2 本件上申書等は、裏付けがないことや、記載内容、作成経緯等に照らし、信用することができない。そして、Y社は、本件上申書等の作成以外に、X及び外の従業員に対する更なる聴取調査等の調査を尽くしておらず、本件全証拠によっても、Xが本件情報漏洩を行ったと認めるに足りない。Y社は、本件情報漏洩以外にも懲戒事由に該当する事実を主張しているが、これらの事実を前提としても、これらの行為の性質、態様等に照らし、懲戒解雇とすることは重きに失するといわざるを得ず、結局、本件懲戒解雇は無効というべきである。

3 Y社の本件懲戒解雇に対する調査は、本件上申書等を作成させた以外に、Xに対する更なる調査を行うことなく、十分な裏付けも行っていないというもので、かかる調査状況に鑑みれば、本件懲戒解雇は不法行為の違法性を帯びるというべきである。Xは、本件懲戒解雇によって突然に職を奪われ、その後の安定した生活の途を絶たれ、多大な精神的苦痛も被ったものと認められる。以上を総合考慮すると、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料100万円を認めることが相当である。

懲戒解雇に限らず、例えば、セクハラ・パワハラ等でもそうですが、一方当事者が事実を否認する場合は、特に慎重に調査をする必要があります。

「こいつがやったに違いない!」という決め付けは、取り除かなければなりません。

先入観を持たず、公平な立場から調査をし、「裏付け」をとる必要があることがよくわかりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇136(東京都教育委員会事件)

おはようございます。

さて、今日は、条件付採用期間中の職員の免職処分に関する裁判例を見てみましょう。

東京都教育委員会事件(東京地裁平成25年9月2日・労経速2200号12頁)

【事案の概要】

本件は、東京都公立学校教員であったXが、1年間の条件付採用期間の満了する平成24年3月31日、東京都教育委員会から東京都公立学校教員を免ずる旨の処分を受けたことについて、本件免職処分は、処分権者の裁量の範囲を逸脱し、適正手続を欠いた違法なものであると主張して、その取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 地方公務員法22条1項、教育公務員特例法12条1項により、公立学校教員の採用は、臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除き、すべて条件付のものとされ、その教員がその職において1年間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとされている。この条件付採用制度の趣旨、目的は、職員の採用に当たり行われる競争試験又は選考の方法がなお職務を遂行する能力を完全に実証するとはいい難いことに鑑み、試験等によりいったん採用された職員の中に適格性を欠く者があるときは、その排除を容易にし、もって、職員の採用を能力の実証に基づいて行うとの成績主義の原則を貫徹しようとするところにあると解され、したがって、条件付採用期間中の職員は、いまだ正式採用に至る過程にあるものということができる。しかし、条件付採用期間中の職員といえども、すでに試験等という過程を経て、現に給与を受領し、正式採用されることに対する期待を有するものであるし、条件付採用期間中の職員にも適用される地方公務員法27条1項は、分限及び懲戒についてではあるが、公正でなければならないと規定して恣意的処分を戒め、任命権者の裁量権行使を限定している。そうすると、地方公務員法22条1項の「職務を良好な成績で遂行したとき」という用件が一定の評価を内容とするものであることからすれば、条件付採用期間中の職員がこの要件を充足するか否かについては、任命権者に相応の裁量権が認められることはいうまでもないものの、前記の条件付採用制度の趣旨、目的からすれば、その裁量は純然たる自由裁量ではなく、任命権者の判断が客観的に合理性をもつものとして許容される限度を超えた不当なものであるときは、裁量権を逸脱ないし濫用したものとして違法となると解するのが相当である(最高裁昭和49年12月17日判決)。

2 ・・・前記のXの問題点の内容に照らすと、Xが新任の教員であり、教員として十分な経験を経た者ではないことや、Xには生徒の心情を汲んだ丁寧な指導を複数回にわたって行ったという実績や、Xを教員として評価する保護者や生徒がいること等の事情を踏まえても、Xにつき、条件付採用期間において、教育公務員としての能力を実証することができなかったとする都教委の評価、判断は、客観的に合理性を持つものとして許容される限度を超えた不当なものであるということはできず、裁量権の行使に逸脱ないし濫用の違法があったとは認められない。

通常の労働事件における解雇権濫用法理とは異なる判断基準により判断されることになります。

ご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇135(オカダテニス・クリエーション事件)

おはようございます。

さて、今日は、テニススクールコーチに対する賃金減額・解雇に関する裁判例を見てみましょう。

オカダテニス・クリエーション事件(大阪地裁平成25年6月28日・労判1082号77頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が経営するテニススクールにコーチとして勤務するXが、Y社から突然に、極端な売上減を理由に賃金を減額されたうえ、Xのレッスンに対する評判が悪く、Xのクラスの継続率が著しく悪いこと等を理由に解雇されたとして、解雇の有効性等を争った事案である。

【裁判所の判断】

1 賃金減額は無効

2 整理解雇は無効、普通解雇としても無効

【判例のポイント】

1 ・・・Xが本件賃金減額に同意したことを示す文書その他の客観的な証拠は存在しない。・・・本件賃金減額は、月額35万円の賃金の約4割を減額して月額20万5000円にし、さらにアルバイトに身分変更するというものであり、労働者が容易に同意するような内容ではないことが明らかであることからすると、本件賃金減額をXがすんなり受け入れたとのY社代表者の供述は信用しがたい。
・・・以上によれば、Xが本件賃金減額に同意したとは認められず、他に就業規則、賃金規程その他本件賃金減額の正当性を根拠付けるものは存在しないから、本件賃金減額は無効であり、Xは、本件賃金減額以降も、月額35万円の賃金の支払を受ける権利を有する。

2 Y社は、本件解雇後に、新たに正社員1名及びアルバイト2名を雇用し、これらの者に対し、毎月合計30万円の賃金を支払っていることからすれば、Y社にはそもそも人員削減の必要性があったとは認められない
また、Y社は、新規に採用した3名の賃金を合わせてもXの賃金に満たないと主張するが、その差はわずか5万円であり、Y社の主張する社会保険料等の負担を考慮しても、本件解雇の合理性を裏付けるほどの経費削減効果があるとは認めがたい。・・・本件解雇は整理解雇の要件を満たさない

3 Y社は本件解雇の理由として、Xのレッスンに対する評判が非常に悪く、Xのクラスの継続率が著しく悪いことなどを挙げる。
しかし、生徒がスクールを辞める動機としては様々なものが考えられるから、継続率が悪いことだけでレッスンの内容に問題があると断ずることはできないところ、Y社の主張を前提にしても、Y社が、Xのレッスンに不満を持って退会したと主張する生徒の多くが、Xのレッスンを長期間にわたって受講し、また、一旦退会した後、Xのクラスに再入会していることに照らすと、これらの者の退会理由がいずれもXの教え方に対する不満であったとのY社の主張は採用しがたい
また、Y社代表者は、Xのレッスンに対する不満、苦情を多くの生徒から聞いていたと供述するが、そうであれば、経営者としては、Xに対し、そのような不満、苦情の内容を伝え、改善を求めるのが当然であるところ、Xに対して、直接告げたことはないと供述しており、極めて不自然であるし、仮にY社代表者の供述どおりであるとすれば、Xは、自己の教え方について生徒から不満や苦情が出ていることを認識していなかったことになるから、その点について注意、指導をすることなく突然解雇をすることは相当性を欠く
したがって、いずれにしても、本件解雇は、普通解雇としても無効である。

大幅な賃金減額をする場合には、必ず個別に同意書をもらっておくことをおすすめします。

また、本件では、新規採用をしている等、整理解雇要件(要素)を満たさないことは明白ですし、普通解雇についても、解雇に至るまでのプロセスが不十分です。

会社側とすると、準備不足と言わざるを得ません。 

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇134(パソナ事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、区議会議員を兼務する従業員に対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

パソナ事件(東京地裁平成25年10月11日・労経速2195号17頁)

【事案の概要】

本件は、東京都渋谷区議会の区議会議員として稼働する傍ら、Y社の従業員でもあったXが、Y社から平成24年1月14日付けで、勤務実績及び今後の勤務見込み等から正社員としての勤務が困難と判断されたなどとして解雇されたところ、同解雇は労働契約法16条に照らし無効であり、同解雇により精神的損害も被ったなどと主張して、Y社との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社に対し、債務不履行に基づき、慰謝料200万円等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xに対し、社員就業規則51条1項4号所定の「その他やむを得ない事由がある」(具体的には、貴殿の勤務実績及び今後の勤務見込み等に関する報告等を受け、今後当社の正社員としての勤務が困難と判断された)としてXを普通解雇したものであるところ、復職後のXの稼働に関しては、平成22年度の勤務実績に照らすと、向後、年間109日間(Y社の社員就業規則所定の年間所定労働日数の約4割)ほどの欠勤が見込まれ、・・・また、Xから、Y社に対し、上記欠勤の見込まれる公務日についてY社の業務と両立することができることを首肯するに足る具体的方策や理由についての説明・提案はなく、Y社から稼働の可否を尋ねられるに及んで稼働可能と回答するばかりであったこと、しかも、その回答内容にもかかわらず、直後に予定されていた公務ないし準公務もあったこと、以上の点を指摘することができる

2 してみると、Xが、休職前の原職である雇用対策室での業務はもちろん、その余の業務においても、Xが正社員としての地位にあったことに照らせば、極めて多くの欠勤を生じさせることが合理的に認められる状況であったということができる。Xも自認するとおり、労務の提供が労働契約の本質的要素であり(民法623条、労契法6条参照)、所定労働日において所定労働時間の勤務を行うことができることが労働者の最低限の義務であることにも照らせば、本件解雇に係る客観的で合理的な理由として、本件解雇事由たる社員就業規則51条1項4号所定の「やむを得ない事由」があると認めることができる

労務の提供が労働契約の本質的要素であることは、その通りです。

例えば、実際に具体的な労務の提供をすることは求められておらず、その人物が、自分の会社に在籍していることそれ自体に価値があるという特別な事情があれば別なのでしょうかね。

そういうのは、そもそも労働契約とは言わないのか? 何契約って言うんだろう。

形式的には雇用しているという形をとりつつ、実質的には、なんなんだろう? 労働法の適用はない?

よくわかりません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇133(X社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!

さて、今日は、従業員の社内での盗難行為に関し、会社に対する損害賠償請求が否定された裁判例を見てみましょう。

X社事件(東京地裁平成25年9月25日・労経速2195号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社に対し、Y社が雇用していたAが職場でXの着替えを盗撮したことに関し、民法715条1項に基づき、Y社が被用者の盗撮行為を防止すべき雇用契約上の義務を怠ったとして同法415条に基づき、また、盗撮発覚後にY社は事実をもみ消そうとするといった不誠実な対応をしたとして同条に基づき、慰謝料200万円等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件盗撮行為は、Xの出勤後、Aがロッカー室に入って紙袋に隠匿したビデオカメラを作動させ、Xに知られぬまま、Xがロッカー室で着替える姿を撮影するというものであり、軽犯罪法に違反する犯罪行為であって、AにおいてXはもちろん他のY社社員にも知られぬよう行うものであり、Y社においてかかる本件盗撮行為を予測し、防止することはできなかったと認められる。そうすると、Y社が本件盗撮行為を予測して、その防止のため女子更衣室を設けたり、ビデオカメラの保管を厳重に行ったりする義務があるとはいえず、本件盗撮行為が発生したことについてY社に防止義務違反があるとは認められない
また、本件盗撮行為という軽犯罪法に該当する行為をしないこと、及び、Y社の備品を業務以外に使用しないことは、Y社の従業員として注意指導する必要があるとはいえず、注意指導をしなかったことと本件盗撮行為との間に相当因果関係があるとはいえない

2 Y社は、本件盗撮行為発覚後、A及びXから事情聴取を行い、本件盗撮映像の確認をして本件盗撮行為の裏付けを得た上、本件盗撮行為が発覚した日の8日後にAを懲戒解雇したことが認められる。そうすると、Y社が、本件盗撮行為後の調査義務、適正対処義務に違反したとはいえず、この点に誠実義務違反はないから、Xの請求は理由がない

会社側に盗撮について予見可能性がないため、結果回避ができなくても、無理はありません。

盗撮の前兆があり、それを会社が確認していた場合や確認しえた場合等であれば、結論が異なった可能性はあると思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇132(I式国語教育研究所代表取締役事件)

おはようございます。

さて、今日は、解雇を理由とする会社法上の代表取締役の損害賠償責任に関する裁判例を見てみましょう。

I式国語教育研究所代表取締役事件(東京地裁平成25年9月20日・労経速2197号16頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社の代表取締役であったAに対し、Aが、Y社をして①Xらを不当に解雇させたこと、②Xらへの賃金の仮払いを命じた仮処分決定に従わなかったことが、AのY社に対する任務懈怠ないしXらに対する不法行為に当たるとして、会社法429条1項ないし民法709条に基づき、損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・以上検討したとおり、Aの主張する解雇事由たる事実は、当該事実自体が認められないか、事実は認められるものの、解雇の客観的に合理的な理由とまではいうことができないものである。このように、本件解雇は、客観的に合理的な理由がないにもかかわらず行われたものであり、労働契約法16条に反し、解雇権を濫用するものとして無効である

2 Aは、本件解雇当時、Y社の代表取締役として、同社に対して善管注意義務を負っていたが、その中には労働法規を含む各法令を遵守する義務も含まれると解されるところ、本件解雇は無効であるため、Aは、客観的には上記義務に違反しているといえる。もっとも、Aは特段労働法規に通じていたわけではなく、本件解雇が無効であることを知りながら、故意に本件解雇を行うこととしたまではいうことができない
また、Aが、Xに対し、Aにおいて解雇に足ると考えた事由を記載した始末書への署名を求め、これを得た後に本件解雇の通知を発している事実を踏まえると、Aとしては取り得る手段をとったと認識しているのも無理からぬところであり、弁護士等に相談をしなかったことを考慮に入れてもなお、Y社が本件解雇を行ったことが、Aの重過失に基づくものであるとまでは評価することは困難である
よって、本件解雇については、Aの故意又は重過失によるということはできず、この点に関して、Aには会社法429条1項に基づく損害賠償責任は認められない。

3 本件解雇について、A自身が不法行為責任を負うかであるが、本件解雇はあくまでもAとは別に法人格を有する本件会社が行ったものであり、A自身のXに対する不法行為を観念することはできない。
よって、本件解雇について、AのXに対する不法行為責任は認められない

4 一般的に、会社に対し、金員の仮払いを命じる仮処分が発せられた場合、これに従わなければ、当該仮処分決定を債務名義として、会社の有する債権等、会社財産の差押えが行われ、その結果、会社の業務に支障を来す事態(預金債権の差押えを受けた場合が顕著である。)も想定しうるところである。よって、このような事態を避けるため、会社の取締役は、会社に仮払いを行わせる義務を負うというべきであるが、他方、会社の資金繰り状況等に照らし、仮払いを行うことによって会社の業務継続が困難になるような場合もありうるところであり、このような場合についてまで上記義務を負うと解されることは相当ではない
・・・よって、当該任務懈怠によってXらに損害が生じている場合には、Aは会社法429条1項に基づき、これを賠償する責任を負う。

5 Xは、Aの任務懈怠により、上記仮払金の支払をY社から受けることができなかったため、直接的に賃金相当額の損害を被ったと主張する。しかしながら、仮払いを受けられなかったとしても、Xは、なお本件会社への賃金請求権を有しており、Y社の破産等、その行使が不可能となるような事情も見出せないのであって、当該債権が直接的に損なわれ、損害を被ったとみることは困難である
したがって、この点についてのXの主張には、理由がない。
・・・Xの主張する精神的苦痛とは、結局、金銭的な負担に外ならず、これを賃金と別個の利益を侵害されたものととらえることは相当でない。したがって、この点についてのXの主張には理由がない

解雇事案で、役員の任務懈怠責任や不法行為責任を問われた珍しい事案です。

解雇自体は無効であるとの判断ですが、上記判例のポイントのとおり、代表者の責任は否定されています。

特に判例のポイント2は参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇131(X建設事件)

おはようございます。

さて、今日は、労災事故発生事実の隠ぺいを理由とする諭旨退職処分に関する裁判例を見てみましょう。

X建設事件(東京地裁平成25年9月27日・労経速2196号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社が行った諭旨退職処分及びそれに引き続くXの退職の意思表示は無効であると主張し、その後自ら退職した日までの賃金、賞与及び退職金(諭旨退職処分により20%減額された分)等の支払を求めた事案である。

本件懲戒の理由は、Xが、事務所の所長として、所管工事全般の責任及び所管現場事業所所属員の業務執行を指揮監督する職責を担っており、当該工事現場において労災事故が発生した場合、所定の手続を取らなければならなかったにもかかわらず、本件事故発生当日にその事実を知りながら約3年5か月にわたり所定の報告をせず、また、被災者の直接雇用主をして療養補償給付たる療養の給付請求等を提出させることもしなかったこと等である。

【裁判所の判断】

諭旨退職処分は有効

【判例のポイント】

1 Y社において諭旨退職とした事例のうち最近の3件の概要は、前記のとおりであると認められ、これらの事実によれば、Y社の本社及び支店主張所における各不正発注事案2件及びY社の支店における地下鉄工事の談合事案であるというのである。このうち、各不正発注事案については、Y社に対して直接に金銭的損害を与える行為ではあるものの、必ずしもY社の対外的な信用を大きく損なう行為ではないと認められること、談合事案については、Y社の対外的信用を大きく損なう行為ではあるものの、事実上談合に協力せざるを得ない状況の下での行為であると認められること等が斟酌され、Y社はいずれも諭旨退職処分としたというのである。
一方、本件は、行為そのものの企業秩序侵害の程度は大きく、Y社において経済的損害及び対外的信用の損失も相応に生じているのであって、Xに対する関係では諭旨退職よりも軽い処分でなければ前記3件と比較して均衡を失するとまではいい難い

2 懲戒処分に至るまでの手続が短期間で行われたことそのものは、処分の量定の適正さとは何ら関係のない事情というべきであるし、本件諭旨退職処分の理由となる事実及び情状事実を総合しても、本件諭旨退職処分が重きに失すると認めるに足りる事情がないことは既に説示したとおりであって、Y社において、本件諭旨退職処分を迅速に発することにより、結果的に行政処分を免れ、又は軽い処分で済むことがあり得ることを予測していた可能性は否定することができないものの(なお、このこと自体は何ら不当なものではないというべきである。)、それを超えて、国土交通省が行政処分を課すかどうか及びその内容を検討するに当たり有利な情状として利用するために、ことさらに短期間に、かつことさらに重い懲戒処分を課す意図があったとまで認めるに足りる証拠はない

3 確かに、本件諭旨退職処分により、Xは、退職届を提出して退職するか、さもなくば懲戒解雇となるという状況において、諭旨退職処分の方が懲戒解雇よりもXに有利な処分であること、本件就業規則59条1号には、懲戒解雇の場合には原則として退職金が支給されない旨が規定されていることに照らせば、利害得失の観点からは、退職届を提出するかどうかの選択の余地がある程度制約されていたと認められる。しかしながら、このことにより、直ちに本件退職の意思表示がXの自由な意思や真意に基づくものでないことまで認められるものでないし、他に本件退職の意思表示をする際、Xの自由な選択を妨げる事情があったとは認められない。したがって、その余の点を検討するまでもなく、この点に関するXの主張は理由がない。

懲戒事案では、他の事案との不均衡さを争点とすることがあります。

もっとも、それぞれ事案が異なることから、そう簡単には不均衡・不相当であるとの判断には結びつきません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇130(乙山商会事件)

おはようございます。

さて、今日は、外付けHDDの持ち帰りを理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

乙山商会事件(大阪地裁平成25年6月21日・労判1081号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが懲戒解雇されたが、当該懲戒解雇は解雇権の濫用であり無効であるとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに解雇後の賃金及び遅延損害金の支払いを求めるとともに、違法・無効な懲戒解雇により損害を受けたとして、その賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効
→平成24年1月18日から本判決確定の日まで、毎月25日限り、月額24万1400円の割合による金員+6%の遅延利息を支払え。

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・Y社の就業規則44条7号は、28条から37条までの規定に違反した場合であって、その事案が重篤なときは、懲戒解雇に処すると定めており、29条4項は、服務心得として、会社の業務上の機密及び会社の不利益となる事項を外に漏らさないことを定めている。
これを本件についてみると、Xが本件ハードディスクをXの自宅に持ち帰った事実は認められるものの、本件ハードディスクに保存された情報が外部に流出したことは確認されていないのであるから、Xが本件ハードディスクを自宅に持ち帰った行為が29条4項に該当するとはいえない

2 ・・・懲戒解雇は、懲戒処分の中でも従業員の身分を奪う最も重い処分であるから、懲戒解雇事由の解釈については厳格な運用がなされるべきであり、拡大解釈や類推解釈は許されず情報が外部に流出する危険性を生じさせただけで、情報を「外に漏らさないこと」という服務規律に違反したことと同視して懲戒解雇ができるとのY社の主張は採用できない
なお、仮にY社の主張を前提としても、就業規則44条7号は、服務規律違反の「事案が重篤なとき」に懲戒解雇に処すると定めているところ、情報漏洩の事実を認めるに足りる証拠がない以上、服務規律違反の「事案が重篤なとき」に当たらないことは明らかであるから、いずれにしても就業規則29条4項違反を理由とする本件懲戒解雇には理由がない

3 Y社は、Xによるハードディスクの無断持帰り及びY社の業務上の秘密及びY社に不利益となる事項を外に漏らした行為が普通解雇事由にも該当するとして、予備的に普通解雇の意思表示をしたものであるが、本件ハードディスクの無断持帰りによって、Y社に不利益となる情報が外部に漏洩した事実は認められないから、情報漏洩を理由とする普通解雇には理由がない。 

非常に参考になる裁判例です。

懲戒解雇の難しさがよくわかりますね。

就業規則の規定を素直に読めば、上記のような判断になるのでしょうね。

会社が、機密情報については、漏洩のリスクを極力回避するため、従業員に対して外部への持ち出しを禁止することは合理性があります。

問題は、このルールに違反した場合に、懲戒解雇を選択できるのか、という点です。

今回の裁判例は、漏洩の事実がないことを重視し、解雇を無効と判断しています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。