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解雇109(甲野株式会社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!

さて、今日は、従業員の不正行為に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

甲野株式会社事件(大阪地裁平成24年9月27日・労判1069号90頁)

【事案の概要】

Y社は、金、銀、白金等貴金属の地金の売買、加工、精製および分析等を行っている会社である。

Xは、Y社の従業員としてY社高知工場に勤務していた。

Xは、Y社工場敷地内から合計709.13gの金地金を持ち出し、これを窃取した。

Y社は、Xの当該行為について、警察署に被害届を提出した。Xは、窃盗の被疑事実で逮捕されたが、不起訴処分となった。

Y社は、Xを懲戒解雇した。 本件の争点は、本件不法行為に基づく損害賠償請求である。

【裁判所の判断】

Xに対して、合計152万6284円(調査実費、時間外手当相当額、説明行為に関する実費(交通費等)、弁護士費用)の支払いを命じた。

慰謝料請求については棄却。

【判例のポイント】

1 ・・・J取締役のN市出張及びD社訪問は、いずれも本件金地金を持ち出した犯人を特定するために必要な調査であったことが認められ、また、J取締役及びO副工場長のV社への出張は、Xが本件金地金を持ち出した態様を明らかにするために必要な調査であったことが認められるから、Y社が上記各出張のために出えんした費用相当額は、本件不法行為と相当因果関係のある損害というべきである。

2 ・・・金地商であるY社において、その管理する貴金属の盗難事件が発覚した場合、犯人や犯行態様を徹底的に調査し、事件の再発を防止すべく万全の対策をとる必要があることは明らかであるところ、Y社の従業員が、製造記録の確認等を行ったり、警察から事情聴取を受けるなど、通常の業務とは異なる作業に多大な時間を費やしたのは、Y社の従業員であったXが本件金地金を窃取した態様を明らかにするためにであるから、これらの従業員が調査等に従事していた平成22年6月及び7月の時間外手当の増加分は、本件不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である
Xは、従業員が懲戒処分に当たる行為を行った場合、使用者である会社が適切な処分を行うため、事実関係の調査等を行うことは当然のことであり、そのために要する通常の経費等は、企業の一般的人事管理に要する費用として織り込み済みのものであるから、上記時間外手当等は、本件不法行為と相当因果関係のある損害とまではいえないと主張する。しかしながら、本件不法行為は、地金商の従業員による金地金の窃盗事件であって、被害額も約200万円と多額であるから、捜査機関が高知工場の実況見分を実施したり、Y社従業員からの事情聴取等を行うことは当然であるし、また、Y社における貴金属の管理・保管体制の根幹を揺るがす事件であるから、再発防止の観点からも、Y社が、その犯行態様を明らかにするために、独自に従業員に調査を命じることは、単に使用者が懲戒処分に当たる行為を行った従業員に対し適切な処分を行うための事実関係の調査等を行うこととは次元を異にするというべきである。したがって、これらの調査等に要した費用について、企業の一般的人事管理に関する費用として織り込み済みのものであると認めることはできないから、Xの前期主張は、採用することができない。

3 Y社は、本件不法行為発覚後、合計4727万8600円をかけて、セキュリティシステムを導入したほか、関係取引先に謝罪に赴くなどしたものであって、本件不法行為によって、Y社の信用を毀損せられた無形損害の額は、少なく見積もっても200万円は下らないと主張する。
しかしながら、Y社が、本件不法行為が発覚したことを契機として、Y社における金地金の管理・補完体制を見直し、多額の費用をかけてセキュリティシステムを新たに導入したことは認められるものの、Y社において、どのようなセキュリティシステムを導入するかは、企業の経営判断の問題であって、本件不法行為との直接の因果関係は認められない上、Y社は、本件不法行為が発覚した後、主要取引先等に対して、状況説明と謝罪に赴くなどしており、一応、本件不法行為によって毀損されたY社への信頼は一定程度回復されたというべきであるし、主要取引先等への説明に要した費用については、本件不法行為による損害として、Xが負担することを併せ考慮すると、それを超えて信用毀損に伴う慰謝料をXに負担させるのは相当でない。

従業員による不正行為が発覚した際、会社が当該従業員に損害賠償請求をすることがあります。

その際、どこまでを損害と考えてよいのかについて、本裁判例を参考にしてください。

信用毀損に関する裁判所の判断は、会社側からすると、簡単には受け入れらないのではないでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇108(アクセルリス事件)

おはようございます。

さて、今日は整理解雇の有効性と賞与請求に関する裁判例を見てみましょう。

アクセルリス事件(東京地裁平成24年11月16日・労判1069号81頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がXを整理解雇した事案である。

Y社は、ソフトウェア製品の販売、導入支援コンサルティング、トレーニング等を主な業とする株式会社である。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

賞与請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・整理解雇の考慮要素としての人員削減の必要性とは、少なくとも当該人員削減措置の実施が不況、斜陽化、経営不振等による企業経営上の十分な必要性に基づいていることを要するものと解されるところ、本件においては、①本件解雇当時、Y社自身の経営状況が悪化していたことを認めるに足りる証拠はないこと、②米国親会社及び米国シミックス社の経営状況及び両社の合併に伴い、Y社において4名の人員削減を実施する必要性が十分にあったことを認めるに足りる証拠もないこと、・・・以上からすれば、本件解雇当時、X1名を整理解雇しなければならない十分な必要性があったとは認められないというべきである。

2 人員削減を実現する際に、使用者は、配転、出向、希望退職者募集等の他の手段によって解雇回避の努力をする信義則上の義務(解雇回避努力義務)を負うものと解され、同義務履行の有無を判断するに当たっては、当該使用者が採択した手段と手順が当該人員整理の具体的状況の中で全体として指名解雇回避のための真摯かつ合理的な努力と認められるか否かを判断すべきである。そして、人員削減の十分な必要性があったとまでは認められない本件において、本件解雇が正当化されるためには、相当手厚い解雇回避措置が取られた後でなければならないというべきである
これを本件についてみると、Y社は、・・・当該人員削減指示の説明及び希望退職者募集は、説明資料等を交付することなく口頭でされたに過ぎない上、希望退職者募集に係る退職の条件についても、多少の退職金オプションを出せる旨の抽象的な説明しかしていないというものであって、Y社主張に係る説明ないし希望退職者募集をもって、前記の解雇回避努力義務の履行があったと評価されるべきものではないというべきである
また、Y社は、Xの配転可能性について、Xの専門性を生かせるポストは顧客サポート業務以外にはなかったところ、Xが顧客からの評判が悪く、他のメンバーと強調しようとせず、同部門においてはXを除く他のメンバーによる新しいチーム作りが始まっていたことから、Xを顧客サポート業務に就かせることはできなかった旨主張するが、①職種限定契約である等の事情がなく雇用契約上職種や担当業務が限定されていないXについて、解雇回避義務の履行として配転を検討するに当たっては、異動候補先として幅広い職種・職務内容を検討すべきであること、・・・。なお、Y社は、X及び本件労組に対し、Xの専門性と無関係な他の業務(例えば、賃金額が大幅に下がる在庫管理)への配転の検討を要請したが、Xらがその検討を拒否したことをもって、解雇回避努力義務の履行をした旨主張するが、本件において、労働条件の大幅の不利益変更を伴う配転提案をしたことをもって同義務を履行したものとは評価できないから、Y社の主張には理由がない

解雇回避努力に関する判断は、是非、参考にしてください。

4要素説では、他の要素との関係で、求められる解雇回避努力の程度が変わってきます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇107(第一興商(本訴)事件)

おはようございます。

さて、今日はパワハラで視覚障害発症、休職期間満了後の自動退職の効力に関する裁判例を見てみましょう。

第一興商(本訴)事件(東京地裁平成24年12月25日・労判1068号5頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の正社員として勤務していたところ、上司等から仕事を与えられず、嫌がらせを受けたり暴言を浴びせられるなどした上、精神的に追い込まれて視覚障害を発症し、休職に追い込まれた結果、休職期間満了により自動退職という扱いになった。

Xは、①同視覚障害は、業務上の傷病に当たり、その療養期間中にXを自動退職とすることは労基法19条1項により無効であるとか、②Xは、休職期間満了時点で復職可能な状況にあったなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位確認並びに不当に低い評価を受けていた期間中の差額賃金及び上記自動退職後の賃金の支払いを求めるとともに、Y社にはその従業員らによる不法行為を漫然と放置したなどの安全配慮義務、不法行為があると主張して、Y社に対し、損害賠償を請求した事案である。

【裁判所の判断】

本件自動退職は無効

【判例のポイント】

1 ・・・以上のとおり、Xの供述内容には、全般的に疑問な点が多い。XがB課長やC課長らの暴言等を他部署の者、時には社外の者に訴え、その中で詳細にその言動の内容が記載されていることを考慮しても、X供述が客観的な裏付けを欠いていること、供述内容自体に合理性にが欠けていること、他の証拠との整合性がないことなどに照らすと、Xの供述についてはにわかにこれを信用することができないというべきである。
このように、Y社従業員(上司等)から継続的に暴言を浴びせられたり、嫌がらせを受けた旨のXの供述については信用することができず、他に、Xの主張を認めるに足りる的確な証拠は存しないというべきである。したがって、X主張にかかるY社従業員(上司ら)による不法行為の事実については、これを認めることができない。

2 労基法19条1項において、業務上の傷病により療養している者の解雇を制限している趣旨は、労働者が業務上の傷病の場合の療養を安心して行うことができるようにすることにある点からすれば、同項にいう「業務上の傷病」とは、労働災害補償制度における「業務上の傷病」、すなわち同法75条にいう業務上の傷病及び労働者災害補償保険法にいうそれと同義に解するのが相当である(東京高裁平成23年2月23日判決)。
そして、労災保険法にいう業務上の傷病とは、業務と相当因果関係のある疾病であると解されるところ(最高裁昭和51年11月12日判決)、同制度が危険責任の法理を基礎とするものであることからすれば、当該傷病の発症が当該業務に内在する危険の現実化と認められることを要するというべきであるところ、上記危険性については、その性質上、個々の労働者を基準として個別に判断すべきではなく、一般労働者を基準として客観的に判断されるべきものと解される

3 本件休職期間満了時点(平成22年1月6日時点)において、Xの休職事由が消滅していたか、すなわち、就業規則16条、18条に即していえば、休職の理由となった疾病が治癒し、通常の勤務に従事できるようになったかについて、以下、検討する。
・・・このように、労働者が、職種や業務内容を特定することなく雇用契約を締結している場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模・業種、当該企業における労働者の配置、異動の実情及び難易等に照らし、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているのあれば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である(最高裁平成10年4月9日判決)。
また、休職事由が消滅したことについての主張立証責任は、その消滅を主張する労働者側にあると解するのが相当であるが、使用者側である企業の規模・業種はともかくとしても、当該企業における労働者の配置、異動の実情及び難易といった内部の事情についてまで、労働者が立証しつくすのは現実問題として困難であるのが多いことからすれば、当該労働者において、配置される可能性がある業務について労務の提供をすることができることの立証がなされれば、休職事由が消滅したことについて事実上の推定が働くというべきであり、これに対し、使用者が、当該労働者を配置できる現実的可能性がある業務が存在しないことについて反証を挙げない限り、休職事由の消滅が推認されると解するのが相当である

4 これを本件についてみるに、Xは、本件休職命令後、視覚障害者支援センターに通学して・・・主治医であるD医師やI医師は、いずれも視覚障害者補助具の活用により業務遂行が可能である旨の意見を述べているところ、上記各医師の意見を排斥するに足りる証拠をY社は提出していない
・・・Xは、本件休職期間満了時点にあっても、事務職としての通常の業務を遂行することが可能であったと推認するのが相当である。

休職期間満了による退職処分と労基法19条との関係が争点となっています。

最近、この争点をめぐる裁判をよく見かけます。

使用者側のみなさんは、上記判例のポイント3を是非、参考にしてください。

裁判所の判断傾向を知っているだけで、とるべき対応策も変わってきますので。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇106(日本郵便事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、連続26日間の無断欠勤を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便事件(東京地裁平成25年3月28日・労経速2175号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において郵便物の集配業務に従事していたXが、26日間連続で無断欠勤したことを理由とする懲戒解雇の無効を主張した事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 まず、本件期間中、Xが脳腫瘍等の診断を受けたことは、本人の努力ではいかんともし難い、まことに気の毒なことではあり、その診断を聞いて途方に暮れてしまったことは、一時の心情としては十分理解することができる。しかし、他方で、X自身、本件期間中、いつまでも途方に暮れ続けていたわけではなく、自らの意思で検査入院の手続を取って入院したり、10日間ほど、夕方6時から深夜にかけて、Y社において禁止されている無許可でのアルバイトをしたり、飯田橋のしごとセンター(ハローワーク)には行っていないとのことではあるものの、その界隈には行って仕事探しをしたり、友人宅に泊まったりしていたということであって、病状としても、どうしても直ちに手術が必要という状態ではなかったのであるから、再三にわたって発令された本件出勤命令を受けて、同じ班の同僚にかけているであろう迷惑を慮るとともに、病状等の近況につきY社に対して一報を入れることぐらいは容易に可能であったものというべきである。それにもかかわらず、Xは、本件出勤命令に応じて出勤するどころか、・・・長期間にわたってY社に電話すら掛けずにいたのであって、このことについては、本件出勤命令を再三にわたって無視し続けたという謗りを免れないというべきであり、脳腫瘍等の診断を受けていたことは、本件欠勤に関する就業規則違反事由該当性を正当化し、あるいは、違反性を減じるような事情になるものと評価することはできない

2 他方、手続的な観点からみても、Y社は、合計4回、約90分の弁明の機会をXに与え、本県事情聴取の際、本件欠勤に関する種々の事情を尋ねたにもかかわらず、Xは、自己の病状や検査入院の事実について説明するどころか、本件期間中の自らの行動や電話すら掛けなかった理由について曖昧な返答に終始していたのであり、それにもかかわらず、Y社は、Xに対し、聴取書の記載内容を確認する機会や、諭旨解雇と退職金との関係について説明を受ける機会も与え、退職金はいらないから退職願は書かないと半ば投げやりな態度で答えたXに対し、日を改めて再度翻意の機会まで与えたのであるから、その手続的相当性は十分であると評価することができる

3 ・・・・以上の認定によれば、Xについては、その功労を抹消又は減殺するほどの著しく信義に反する行為があったといわざるを得ないから、就業規則どおり、有効な懲戒解雇処分を受けたXには、退職金請求権は発生しないというべきである。したがって、Xの予備的請求にも理由がない。
無断欠勤はやめましょう。

また、今回のケースでは、事案の重大性から、退職金の減額不支給も妥当だと判断されています。

この点は、控訴審で判断が覆る可能性があると思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇105(M社事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合活動のため会社のパソコンのデータを持ち出した従業員の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

M社事件(大阪地裁平成24年11月2日・労経速2170号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXらが、Y社からされた懲戒解雇が無効であるとして、雇用契約上の地位の確認等を求めた事案である。

Y社は、業務請負(設備機器類・産業廃棄物の構内管理業務)、廃棄物の処理、収集運搬等を業とする会社である。

本件懲戒解雇の解雇事由は、合同労組の組合員であったXらが、組合活動を有利に進めるためにY社の企業情報(取引先リスト、従業員の昇給に関するデータ)を持ち出したことである。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 X1がY社の取引先リストや従業員の昇給に関するデータをプリントアウトして社外に持ち出した行為は、Y社就業規則74条8項「会社の機密情報を社外に漏洩しようとしたとき、あるいは現に漏洩させたとき又は事業上の不利益を計ったとき」に該当するものというべきである。
また、X1が、上記事実によって窃盗罪の有罪判決を受けていることからすれば、X1の上記行為は、Y社就業規則74条11項「会社内で横領、傷害などの刑法犯に該当する行為があったとき。」に該当することは明らかである。
そして、X1の上記行為は、・・・懲戒処分の中でも懲戒解雇に相当するというべきである。

2 Xらは、同人らが解雇理由とされている行為の背景には、Y社と組合との労働条件をめぐる対立状況があり、Y社は組合に対する嫌悪からXらに対する不利益な取扱いや団体交渉での不誠実な対応を繰り返していたのであり、Y社の行為がX1の行為を招いた側面があり、これを理由として懲戒解雇することは、社会通念上相当ではない旨主張する
しかしながら、仮にXらが主張するとおりの事実が存在するとしても、Y社に対する対抗手段として窃盗行為等の犯罪行為を行うことが正当化されることはあり得ず、また、このことは懲戒解雇が社会通念上相当か否かを判断するにあたっても同様である

3 Xらは、取引先リストについて、同資料が街宣活動に利用されたという事実はなく、従業員であれば誰でも知っているY社に関連する場所である、得意先一覧が組合の街頭宣伝活動に不可欠というわけではない、組合が街頭宣伝活動を行った場所は全て、得意先一覧が無くともY社従業員であれば誰でも知っているY社に関連する場所であり、得意先一覧とは無関係であるなどと主張する
しかし、本件解雇理由においては、持ち出された取引先リストが利用されて街宣活動が行われたことではなく、このようなリストが持ち出されたこと自体が懲戒理由として主張されており、同事実については、当事者間に争いがないのであり、その行為の内容やXらが窃盗罪及び盗品等無償譲受け罪で有罪判決を受けていることからすれば、Y社の取引先リストが実際に街宣活動に利用されたか否かによって、懲戒解雇の有効性の判断は左右されないというべきである

原告は、窃盗罪、盗品等無償譲受罪で有罪判決を受けていますので、懲戒解雇は有効であると判断されやすくなります。

会社のお金を使い込んだ場合なども同様に刑法犯ですので、懲戒解雇は有効と判断されやすいです。

本件は、会社と組合との対立があったようですが、このことにより上記行為の違法性が阻却されることにならないという判断です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇104(N社事件)

おはようございます。  今週も一週間がんばりましょう!!

さて、今日は、競業会社と隠れて取引を行ったことを理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁平成24年10月11日・労経速2166号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、平成17年12月5日、同月19日をもって退職する旨の退職届を提出したにもかかわらず、Y社から同月9日付けで懲戒解雇されたことから、これが無効であり、退職届に基づく退職が有効であると主張して、(1)Y社の退職金規程に基づく基本退職金1028万円余、役付給付金437万円余、功労加給金42万円及び特別加給金492万円余の支払と、これらに対する遅延利息の支払を求めるとともに、(2)Y社が軽率にXの横領行為を理由とする無効な懲戒解雇をしたり、ドバイ首長国の警察署に対して上記横領行為の件を告訴してXに同国の刑事裁判を受けることを余儀なくさせたり、X・Y社間に雇用トラブルがあることを公にするかのような新聞広告を掲載してXの再就職等を困難にしたり、Xが告訴され旅券を取り上げられたて出国できないこと等を客先に対して殊更流布したりすることによってXの名誉・信用を毀損したことが不法行為に該当し、また、Y社が、新たな居住ビザ取得のために必要なビザキャンセル許可を拒否したことによって、Xが居住ビザや旅券を取得することが困難となり、IDカードの取得、アパートの賃貸や銀行口座の開設・預金の引き出し等、日常生活において困難を強いられたことが不法行為に該当すると主張して、これらに基づく不法行為に基づく損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

Y社はXに対し1466万円余及び平成18年3月1日から支払済みまで年6%の遅延利息を支払え

【判例のポイント】

1 一般に、使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである。したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないが、懲戒当時に使用者が認識していた非違行為については、それが、たとえ懲戒解雇の際に告知されなかったとしても、告知された非違行為と実質的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものである場合には、それをもって当該懲戒の有効性を根拠付けることができると解するのが相当である

2 Y社の就業規則においては、刑法犯となる可能性のある横領行為につき、「その疑いがあること」そのものを懲戒解雇事由と定めてはいないのであって、横領の疑いが、本件のように「許可のない自己営業に準じる不都合な行為」という懲戒解雇事由に該当すると主張するのであれば、その疑い自体が、相当程度の資料に基づく具体的かつ合理的なものでなければならないところ、そもそも本件懲戒解雇通知において、Y社側がXにつき横領の疑いを抱いたとする具体的事実や被害金額の摘示すらなく、懲戒解雇該当事由としては詳細があまりに不特定であったことなどに照らすと、懲戒解雇事由として、Xに横領の疑いありとするには早計であったといわざるを得ない

3 本件懲戒解雇は、Xによる退職の意思表示がY社に到達した後、それが効力を生じる前に、急遽なされたものであること、本件懲戒解雇事由について、Xに弁明の機会が与えられていなかったことを併せ考えると、本件取引中止宣言後もY社に隠れてN工業と取引を行ったという懲戒解雇事由が、34年8か月というXの多年の勤続の功を抹消してしまう程度に重大なものということまではできないし、Xを懲戒解雇として退職金を不支給とすることが、Y社の規律維持上やむを得ない場合にあたるということもできない

4 Xは、基本退職金、役付退職金の他に功労加給金及び特別加給金の請求権を主張しているが、前提事実に摘示したとおり、功労加給金については、Y社代表者が、直属所属長の申告に基づき、その裁量によって、特に功労ありと認めた従業員に対して支給するものであるから、Xにその請求権はないというほかはない。また、特別加給金については、労災法の適用基準により、業務上の直接原因による死亡又は通常の勤務に耐えられぬ事由により退職したときに支給されるものであるところ、Xにこのような事由を認めることはできないから、やはり、Xにその請求権はないというほかはない

基本給が高額のため、判決ではかなりの金額になっています。

懲戒解雇については、よほど慎重に進めなければ、本件のように会社側に手痛いしっぺ返しとなります。

また、退職金の減額や不支給についても、慎重に決定しないと、かなりの確率で訴訟になりますので注意が必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇103(報徳学園(雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、試用期間としての有期常勤講師制度と雇止めの可否に関する裁判例を見てみましょう。

報徳学園(雇止め)事件(大阪高裁平成22年2月12日・労判1062号71頁)

【事案の概要】

本件は、平成16年4月に約1年間の雇用期限付で、Y社の美術科常勤講師として採用され、その後も、同様の雇用契約を2度にわたり締結していたXが、Y社に、19年度の雇用契約の締結を拒絶(雇止め)されたことに関し、それが雇用契約の更新拒絶に該当するところ、同更新拒絶には合理的理由がなく解雇権濫用法理の適用または準用により無効であると主張して、XがY社に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認および本件雇止め後である平成19年4月1日以降の賃金の支払を求めた事案である。

本件の争点は、本件雇止めの有効性である。具体的には、(1)本件各雇用契約に解雇権濫用の法理が適用または類推適用されるか、(2)解雇権濫用の法理の適用または類推適用が認められる場合、本件雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができないか、である。

なお、第一審は、Xの地位確認請求等を認容した。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 有期雇用契約が多数回にわたって反復更新されるなどして期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となり、当事者の合理的な意思解釈としては実質的に期間の定めのない契約を締結していたものと認定される場合、雇止めの意思表示は実質的には解雇の意思表示に相当し、その効力を判断するに当たり、解雇に関する法理を類推適用するときがある(最高裁昭和49年7月22日)。また、期間の定めのない契約と実質的に異ならないとまで認められない場合であっても、当該雇用関係がある程度の継続が期待されていたものであり、現に契約が何度か更新されているような場合、契約期間満了による雇止めには解雇に関する法理が類推されることがある(最高裁昭和61年12月4日)。そして、期間の定めのない雇用契約において、使用者の解雇権の行使が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、当該解雇権の行使は権利の濫用として無効となり(最高裁昭和50年4月25日)、上記類推適用の場合も同様と解されるが、ただ、期間の定めのない契約と実質的に異ならないとまで認められない場合には、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に締結された期間の定めのない労働契約における解雇とは合理的な差異がある(最高裁昭和61年12月4日)。

2 Y社の常勤講師制度が、専任教諭の実質的試用期間とするために設けられたとは認められない。このような期間の定めのある教員の雇用は、一般に、職員構成の変動のほか、年度ごとの生徒数や教科編成の変動等に対応するためと認めるのが社会の実態を反映したものであるが、本件において、常勤講師契約やY社の内部規則等に常勤講師契約が専任教諭採用の手段であることを示す規定がある等、Y社がこれと異なるものとして上記制度を導入したと認めるに足りる事情はない。Y社が、常勤講師としての勤務状況を判断材料として、その中から専任教諭を採用した実例があったことは事実であるが、このような実例があったことは、上記のような常勤講師の制度を採用した目的ないし有期雇用契約であることと矛盾しない

3 ・・・このような経緯に照らすと、平成16年度雇用契約の時点では、Xが上記期待を持ったことの合理性があったかもしれないが、それは主としてB校長の言動に基づく主観的なものであって、常勤講師制度の目的等からの客観的根拠があったわけではない。そして、その後2年度にわたって専任教諭に採用されず、かえって、平成18年度雇用契約に先立ち、C校長及びG中学校長の上記告知を受け、さらに平成17年度限りで1名の常勤講師が雇止めとなったことを考慮すれば、少なくとも平成18年度には、Xの上記期待は減弱ないし消滅していたもの認めるのが相当であり、少なくとも合理的な根拠が乏しいものになっていたというべきである。

高裁で敗訴したXは、その後、最高裁に対し、上告受理申立てをしましたが、平成22年9月9日、不受理の決定が出されています。

本件では、Xの期待は主観的であり、客観的根拠があったわけではないとして法的に保護されるものではないという判断をされています。

雇止めに関する裁判例を相当数出てきており、企業が事前にかなり対策をとった上で、雇止めに踏み切っていることがうかがわれる事案も少なくありません。

本田技研工業事件がその典型ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇102(ブランドダイアログ事件)

おはようございます。

さて、今日は情報サービス会社部長に対する懲戒解雇等の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ブランドダイアログ事件(東京地裁平成24年8月28日・労判1060号63頁)

【事案の概要】

本件は、Y社のインタラクティブコミュニケーショングループ(ICG)2部の部長として雇用されたXが、平成22年4月にY社から受けた懲戒解雇処分が無効であるとして、Y社に対し、雇用契約上の地位確認および解雇後の賃金の支払いを求めるとともに、上記懲戒解雇に先立ち同年3月末に受けた降格・降給処分が無効であるとして、Y社に対し、上記部長の地位にあることおよび上記降格・降給処分前の地位にあることおよび上記降格・降給処分前の額である月額48万円の基本給の支払いを受ける地位にあることの確認ならびに賃金の支払を求め、さらに、上記懲戒解雇等がY社の不法行為に当たるとして、損害賠償を請求した事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

降格・降給処分も無効

不法行為の成立は否定

【判例のポイント】

1 一般に降格・降給処分のうちでも、使用者が労働者の職位や役職を引き下げることは、人事権の行使として、就業規則等に根拠規定がなくても行い得ると解される。しかし、使用者が有する人事権といえども無制限に認められるわけではなく、その有する裁量権の範囲を逸脱したり、またはその裁量権を濫用したと認められる場合には、その降格処分は無効となるというべきである。特に、降格に伴って労働者の給与も減額されるなど不利益を被る場合には、その降格に合理的な理由があるか否かは、その不利益の程度も勘案しつつ、それに応じて判断されるべきである

2 ・・・以上のとおり、Y社が本件降格・降給処分の理由として主張する具体的事実のうち、Xの責めに帰することができる事情は前記の宣伝メールに対する顧客からの苦情のみであって、他の事実についてはいずれもXの責めに帰するものと認めることはできない。しかも、上記宣伝メールの苦情といっても、どの程度広範囲の顧客に対し送信したかについては証拠上何ら明らかでないし、Xが、退会した顧客に対し故意にそのようなメールを送信する合理的な理由もないことからすれば、Y社が主張するように、これをスパムまがいと決めつけることは、およそ行き過ぎというべきである
他方で、本件降格・降給処分により、Xは、部長職から一般職員に降格され、役職手当相当額5万円を減額されている。この5万円という減額幅は相当に大きいものといわざるを得ず、Xの部長職からの降格がかような給与減額を伴う処分であることからすれば、使用者固有の権限としての人事権の行使といえども、相応の合理性が要求されるというべきであって、そのような合理性が認められない場合には、過度に不利益を課すものとして、裁量権の濫用に当たるというべきである。
しかるに、本件降格・降給処分の理由としてXの責めに帰すべき事情と認められるのは前記の限度であって、これのみでは、上記のような大きな不利益を伴う本件降格・降給処分の合理性を基礎付けることはできないというべきである。・・・したがって、本件降格・降給処分は、裁量権の濫用というべきものであって、これを無効と認めるのが相当である。

3 使用者による懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由該当事実が存する場合であっても、当該行為の性質や態様等の状況に照らし、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くと認められる場合には権利の濫用に当たるものとして無効になる(労働契約法15条)。特に、懲戒解雇は、労働者にとって最も厳しい制裁手段であり、多くの局面で当該労働者に不利益を与えるのが実情であることにかんがみれば、上記の権利の濫用に当たるか否かについては、その行為により使用者側が受けた被害の重大性、回復可能性はもとより、そのような行動に出た動機や行為態様を子細に検討した上で判断する必要があるというべきである

4 ・・・以上にみたように、Xの本件顧客リスト送信行為が、Y社就業規則所定の懲戒事由に該当する行為であることは否定できないものの、その動機がY社における営業を推進するためであって不正なものとはいえないことや、Y社に実害が生じていないことなどをはじめとする諸事情を総合考慮すれば、Xを懲戒解雇に処することは酷に失するといわざるを得ない。したがって、本件懲戒解雇は、社会通念上相当であるということはできないから、懲戒権の濫用に当たり、無効と認めるのが相当である。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇101(大阪市(河川事務所職員・懲戒免職)事件)

おはようございます。 

さて、今日は、河川事務所技能職員に対する懲戒免職処分の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

大阪市(河川事務所職員・懲戒免職)事件(大阪地裁平成24年8月29日・労判1060号37頁)

【事案の概要】

本件は、大阪市長から平成22年12月、懲戒免職処分を受けた同市技能職員のXが、Y社(大阪市)に対し、本件処分はその理由としている事実の誤認に加え、裁量権の逸脱または濫用の違法があるから無効であるとして、同処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分は無効

【判例のポイント】

1 地方公務員につき、地方公務員法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、平素から庁内の事情に通暁し、職員の指揮監督に当たる懲戒権者の裁量に任されており、懲戒権者は、懲戒行為に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の当該行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を総合的に考慮して、懲戒処分を行うかどうか、行う場合にいかなる処分を選択すべきかを資料によって決定することができるものと解するべきである。したがって、裁判所が当該処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである(最高裁平成2年1月18日)。
そして、懲戒免職処分は、被懲戒者の公務員たる地位を失わせるという重大な結果を招来するものであるから、懲戒処分として免職を選択するに当たっては、他の懲戒処分に比して特に慎重な配慮を要する

2 Xには本件処分理由である、本件領得行為及び本件粗暴行為が認められ、本件領得行為については、ジュース代領得行為及び物品領得行為のみならず、いわゆる不法領得の意思につき経済的用法に従って処分する意思を要しないとする立場(最高裁昭和24年3月8日)を前提とするとその全てについて遺失物横領罪が成立し、また、本件粗暴行為のうち、本件器物損壊行為については器物損壊罪が成立するものであり、また、本件暴言等についても、遅くとも平成21年秋ころから上司も含めた複数人に関する配船について、自己の意を通そうとするメールを送信するなど暴言や恫喝と評価せざるを得ない言動を繰り返しているものであって、その態様は悪質といわざるを得ず、これらのXの行為が公務員としての職務上の義務に違反し、Y社職員としてその職の信用を傷つけたことは明らかである

3 ・・・以上のとおり、本件処分理由の各事実はいずれも悪質であり、特に、その一部は、Y社において市立斎場事案やM川事務所事案といった組織的不祥事が続いて発覚したため服務規律の徹底に努めていた最中に行われたことを考慮したとしても、他方で、Xは従前懲戒処分歴がなく、上記各事実はいずれもそれだけでは直ちに懲戒免職処分に付されるべき重大な非違行為とまで評価できるものではなく、そもそも、Y社においても、上記各事実を招いたことについては、応分の帰責事由が認められるなど、処分量定上Xに有利な事情をも考慮すれば、他にXが主張する事情を考慮するまでもなく、懲戒処分歴のないXに厚生の機会を与えることなく直ちに懲戒免職とした本件処分は重きに失するものといわざるを得ず、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したものとして違法というべきである

行政に関する判断については、裁量権の逸脱濫用の有無を裁判所が判断する方法をとります。

また、当然のことながら、懲戒免職処分も、懲戒解雇と同様に、その有効性については厳格に判断されます。

本事案においては、Xについて一定の非違行為を認定しつつも、懲戒免職とするのは重きに失すると判断しました。

懲戒解雇事案でもこのような相当性を否定し、解雇を無効と判断されることがあります。

懲戒処分の選択の際は、十分注意してください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇100(日本通信事件)

おはようございます。

さて、今日は、社内ネットワークシステムに関するアクセス管理者権限の抹消命令拒否を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本通信事件(東京地裁平成24年11月30日・労経速2162号8頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、社内ネットワークシステムに関するアクセス管理者権限を不正に保持していることを理由に、管理者権限の抹消を命じる業務命令を拒否したことを理由に懲戒解雇されたXが、当該懲戒解雇は無効な解雇であるとして、Y社に対し、地位確認並びに解雇後の平成23年10月9日以降の未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めて本訴を提起したところ、Y社が、Xらが行った社内ネットワークシステムに関するアクセス管理権限の不正及びその保持等の共同不法行為により、同システムの再構築等を余儀なくされ、これにより多大な損害を被ったとして、Xらに対し、上記共同不法行為に基づき、損害賠償金等の支払いを求めて反訴を提起したものである。

なお、Y社は、本件懲戒解雇の他に、懲戒解雇の意思表示には、予備的に就業規則に基づく普通解雇の意思表示も含まれる(本件普通解雇1)と主張し、また、平成23年4月13日付け答弁書をもって、仮に懲戒解雇が無効であるとしても本件業務命令を正当な理由もなく拒否する行為は、就業規則64条4号、5号に該当するとして予備的に普通解雇の意思表示を行った(本件普通解雇2)。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

本件普通解雇1の主張は意思表示自体が存在しない

本件普通解雇2は無効

【判例のポイント】

1 労契法15条は、(1)懲戒処分の根拠規定が存在していること(有効要件(1))を前提に、(2)懲戒事由(=「客観的に合理的な理由」があること。有効要件(2))、(3)処分の相当性(「社会通念上相当」と認められる場合であること。有効要件(3))の3つの有効要件から構成されているものと解されるところ(いわゆる抗弁説)、本件懲戒解雇においては、上記有効要件(1)を満たすことは争いがなく、したがって、上記有効要件(2)及び(3)を満たすか否かが問題となる。

2 使用者が懲戒解雇という極めて重大な制裁罰を科しうる実質的な根拠は、企業秩序を侵害する重大な危険性を有している点にあるものと考えられる。そうだとすると懲戒解雇権は、単に労働者が雇用契約上の義務に違反したというだけでは足りず、当該非違行為が企業秩序を現実に侵害する事態が発生しているか、あるいは少なくとも、そうした事態が発生する具体的かつ現実的な危険性が認められる場合に限り発動することができるものと解され、この理は、本件就業規則59条所定の懲戒解雇事由の判断にも妥当する。

3 当裁判所は、本件各業務命令違反について、Y社の企業秩序を現実に侵害し、あるいは、その具体的かつ現実的な危険性を有する行為であるとは認められないものと判断したが、ただ、本件管理者権限の重要性にかんがみると、これを不当に保持し、その抹消に応じようとしない本件各業務命令違反は、それ自体、本件社内ネットワークシステムに支えられたY社の企業秩序を現実に侵害する行為であるとの見解も成り立ち得ないものではない。しかし仮に、この見解を採用し、本件各業務命令違反について本件就業規則59条13号の実質的該当性を肯定したとしても、本件の場合、少なくとも客観的には、Xが本件管理者権限の抹消に応じない場合であっても、Y社は、本件各残務整理作業の責任者であるBに対し、パスワードの開示を求め、本件管理者権限の抹消を命じることにより、Xを含め第三者からの不正アクセスを防止、社団する手段を有していたことにかんがみると最終的に本件各業務命令違反に対して懲戒解雇という「最終の手段」(ultima ratio)を選択するか否かを決するに当たっても、実態的な相当性はもとより、手続的な相当性も考慮に入れ、より慎重な判断が求められるものというべきである

4 懲戒処分(とりわけ懲戒解雇)は、刑罰に類似する制裁罰としての性格を有するものである以上、使用者は、実質的な弁明が行われるよう、その機会を付与すべきものと解され、その手続に看過し難い瑕疵が認められる場合には、当該懲戒処分は手続的に相当性に欠け、それだけでも無効原因を構成し得るものと解されるところ、本件懲戒解雇に当たって、Y社は、Xに対し、実質的な弁明を行う機会を付与したものとはいい難く、その手続には看過し難い瑕疵があるものといわざるを得ない。

5 懲戒解雇と普通解雇は、いずれも労働契約の終了を法的効果としている点で共通する。しかし民法の解雇自由の原則の中で行われる中途解約の意思表示である普通解雇の意思表示と、独自の制裁罰である懲戒解雇の意思表示とは法的性質が異なるのであるから、仮に退職金制度が存在しないなど機能の点で実質的な差異は認められないにしても軽々に両者の間に無効行為の転換の法理を適用し、懲戒解雇が無効である場合であっても普通解雇としての効力維持を容認することは、法的に許されないものというべきである
もっとも、上記のとおり無効行為の転換の法理の適用は難しいとしても、事実認定ないし合理的な意思解釈の問題として、懲戒解雇の意思表示の中に普通解雇のそれが含まれてい るものと認める余地はないではない。しかし両者の法的性質上の差異を考慮すると、普通解雇の意思表示が含まれていることが明示されているか、あるいはこれと同視し得る特別の事情が認められる場合を除いて、懲戒解雇の意思表示の中に普通解雇のそれが含まれているものと認めることはできない

担当裁判官は伊良原裁判官です。

ここまで詳細に事実認定をするのは、本当にすごいと思います。

懲戒解雇に関する考え方がいっぱい詰まっており、非常に勉強になります。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。