解雇55(日本通運(休職命令・退職)事件)

おはようございます。

さて、今日は、異動内示に伴う不就労に対する休職命令・退職扱いの効力に関する裁判例を見てみましょう。

日本通運(休職命令・退職)事件(東京地裁平成23年2月25日・労判1028号56頁)

【事案の概要】

Y社は、物流事業全般を営む会社である。

Xは、平成元年4月、Y社に入社し、平成13年3月、本件事業所営業係長に任ぜられた。

Xは、Y社から、ビジネスセンターへの異動の内示を受けたが、これに強い拒絶反応を示し、翌日、急性口蓋垂炎による呼吸困難で倒れ、救急搬送されて治療を受け、その後終了しなかった。

Y社は、平成19年2月、Xに対し、就業規則により休職命令を発令し、その後の賃金を支払わなかった。

平成20年2月、Y社は、Xは休務療養の必要がなくなったとはいえないとの理由から、Xに対し1月末付けで退職扱いとする旨通知した。

Xは、Y社が就労可能なXに対し、本件休職命令を発令して本件退職扱いをしたのは違法であると主張し争った。

【裁判所の判断】

休職命令、退職扱いはともに有効

【判例のポイント】

1 Y社は、当初、本件休職命令の発令を、疾病による欠勤開始の1年後である平成18年9月に予定していたが、その直前にY社の労働時間管理に不備があったことが判明して、2年分の割増賃金を支払うなどしたため、平成19年2月まで遅らせた。この過程で、A次長は、Xが直属の上司であるBに対する理不尽ともいうべき避難・攻撃を繰り返していたにもかかわらず、根気よく対応して、本件休職命令発令の直前には、診断書を作成していないと聞いて、再度受診のうえ診断書を提出よう求めた。また、A次長は、Xに対し、発令の内示をした際、あと1年あるという気持ちで復職に前向きに取り組むよう励まして、その後も何度か電話をするなどして接触を図っている。
このような事実によれば、Y社は、Xの当時の状況を踏まえてその立場に配慮した働きかけ等をしたものということができる。そうすると、Y社がXを退職に追い込む目的を有していたとは認められない

2 本件休職命令の発令に当たり、休職を要するという趣旨の診断書等があったわけではない。一方、C医師は、平成年月、「病状は改善し、就労は可能と思われる」という診断をしている。
しかし、この診断書は、上記のほかに「可能であればストレスの少ない職場への復帰が望ましい。尚今後6か月程度の通院加療が必要と思われる」という留保があり、そのまま復職可能診断というのは相当でない。
・・・この事実によれば、A次長は、この診断書の信用性に疑問を抱いたと考えられるが、これは合理的なものということができる。したがって、Y社が、復職可能診断を不当にも無視したとは認められない

3 ・・・以上の事情等に、Xは、休職期間満了日を超えて平成20年9月ころまで、抗不安薬等、C医師から処方された薬を服用していたことも考慮すると、Y社が復職可能診断を不当にも無視したものと認めることはできない
以上によれば、本件退職扱いをすることが信義則に反し許されないというXの主張は失当というべきである。

本件では、Xの主治医とY社の産業医が異なる診断をしています。

Y社の産業医は、Xの主治医から独自に得た情報に基づき、「本人、会社が対立する問題を保留としたまま本人が職場復帰することは、復職にとって重要な本人の信頼感の回復を待たずに職場環境に入ることとなり、症状が増悪し、呼吸困難のような発作が再発する可能性が極めて高い」という意見書を提出しています。

これに対し、Xの主治医は、産業医の意見について、「Xに面談もせずに判断することにも大きな問題がある」という批判的意見を述べてました。

この点について、裁判所は、以下のとおり判断しています。

「確かに、医学的判断をするに当たっては面談(診察)等で得られる情報が重要な要素であることは明らかであるが、前記のとおり、XとY社との信頼関係が失われた原因は、XのCに対して激しい調子で非難・攻撃を繰り返すなどしたところにあり、産業医は、従前の経過に基づきこの点を理解していたのであるから、面談をしなかったことが同医師の意見の説得力を損なうものとはいえない。」

このあたりは、なんともいえません。 

なお、本件は、控訴されています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労災46(いなげや事件)

おはようございます 同期の弁護士が無事出産しました Tちゃん、おめでとう。

写真昨夜は、司法書士のS先生とごはんを食べながら、事務所経営について語りました

特に業務の進捗管理、顧客管理についてどのようなシステムを構築すべきかを話しました。

←魚弥長久。 ここもおいしいです。 そんなに高くありません。

今日は、午前中、離婚調停が入っています。

お昼は、顧問先のAさんと食事をしながら、公益財団法人について話し合います。

午後は、刑事事件の打合せが1件入っています。

その後は、書面作成です

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、過労自殺に関する裁判例を見てみましょう。

いなげや事件(東京地裁平成23年3月2日・労判1027号58頁)

【事案の概要】

Y社は、スーパーマーケットチェーンを中心とした生鮮食品・一般食品・家庭用品・衣料品等の小売業等を目的とする会社である。

Xは、大学卒業後、平成11年4月にY社に正社員として入社し、死亡時、鮮魚部チーフとして勤務していた。

Xは、平成15年10月、自殺した。

Xの妻は、三鷹労基署長に対して、Xが精神障害を発病して自殺したのは過重な業務に従事したことに起因するものであると主張し、遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、いずれも支給しない旨の処分を受けたことから、その取消を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

三鷹労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 Xの手帳については、X自身が業務に関して日々記録していたものであり、業務の有無や内容について一応の信用性があるというべきであり、タイムカード外労働時間についても、これを根拠としている部分があるが、家族の記憶については、過去の長期に渡る出来事に係るものであるから、一般に、その信用性は、必ずしも高いとはいえないし、X妻の日記の記載及びこれと一致する家族の記憶についても、Xの外出の事実、出発・帰宅状況等の生活状況全般については一応の裏付けとするには足りないというべきである。また、通話記録及び家族による聞き取り結果については、Xが本件会社関係者と通話した事実及びXに電話で仕事に関する相談などをしていた事実がうかがえるが、通話記録にある時間帯にどのような内容の会話をしたか個別に特定することはできず、結局、Xの就労の事実との関連性が不明であるから、具体的な労働時間の裏付けとするには足りないといわざるを得ない。さらに、給油記録についても、Xが当該時刻に自宅付近にあるガソリンスタンドにおいて給油した事実を認めることができるが、Xの就労の事実との関連性が不明であり、具体的な労働時間の裏付けとするには足りないというべきである。

2 Xの業務について、A店への移動後短期間でのB店への移動と同時に、新任チーフへの就任、新装開店準備業務の担当等といった出来事の重なり、チーフ就任に伴う業務の質的・量的な増加に加えて、自身の人事考課の重要な要素ともなる新装開店後の売上増を期待される立場に置かれたことに伴う強度の精神的プレッシャー、周囲の支援状況、長時間労働による疲労の蓄積等を総合的に検討すれば、その他の原告指摘にかかるその他の業務上の出来事について検討を加えるまでもなく、Xの本件疾病発病前の業務の心理的負荷の創業評価は、「強」であるとするのが相当である。

3 以上のとおり、Xの本件疾病発病前の業務の心理的負荷の総合評価は「強」であり、その他精神障害の発病につながる業務以外の心理的不可や個体側要因もないのであるから、判断指針・改正判断指針によっても、Xの本件疾病発病が同人の業務に起因するものであると認めることができる。

参考になるのは、判例のポイント1です。

本件では、タイムカードに記録されていない労働時間があると原告が主張し、手帳や日記、携帯電話の通話記録等を提出しましたが、裁判所は採用しませんでした。

そして、「平成15年当時はタイムカードの打刻時刻いかんにかかわらず一律の時間外手当しか支給していなかったことからすれば、店長が従業員に対してタイムカードを業務終了よりも早く打刻するように指示する理由もなかった」として、タイムカードの打刻に基づいて、労働時間を算定しています。

判決の結果には影響していませんので、本件に関してはいいのですが、いろいろなことを考えてしまいます。

本当にそうなのかな・・・。

賃金36(タマ・ミルキーウェイ事件)

おはようございます。 

さて、今日は、付加金に関する裁判例を見てみましょう。

タマ・ミルキーウェイ事件(東京高裁平成20年3月27日・労判974号90頁)

【事案の概要】

Y社は、一般貨物自動車運送事業等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、平成16年9月まで配送運転手の勤務をしていたが、Y社に対し、未払い時間外、深夜、休日労働に係る賃金等を請求した。

一審判決において、裁判所は、Y社に対し、時間外等賃金として約50万円及び同額の付加金の支払いを命じた。

Xは、控訴した。Y社は、控訴後、Xに対し、時間外等賃金を全額支払った。

【裁判所の判断】

付加金の支払いは命じない。

【判例のポイント】 

1 労基法114条の付加金支払義務は、労働者の請求により裁判所が判決でその支払を命じ、これが確定することによって初めて発生するものであるから、使用者に労基法37条等の違反があっても、既にその支払を完了し、使用者の義務違反の状況が消滅した後においては、使用者に対して付加金の支払を命ずることはできないと解すべきである。
そうすると、原判決後であるとはいえ、本件時間外等賃金を支払ったY社に対し、付加金の支払を命ずることはできないというほかない。 

本件では、付加金に絞ります。

付加金に関するこのような判断は、この裁判例だけがユニークなのではありません。

最高裁こそありませんが、高裁判決でも同様の判断がなされています。

会社側とすれば、すごい金額の付加金が第1審で命じられた場合には、とりあえず控訴し、未払時間外等賃金を支払えば、付加金の支払を免れることができることになります。

当然、このような結論に対し、批判的な見解も多いです。

批判的な見解が多かろうが少なかろうが、現時点では、会社としては、控訴し、未払賃金を支払というのが鉄則ということです。

付加金を支払う前には、必ず顧問弁護士に相談しましょう。

賃金35(コナミデジタルエンタテイメント事件)

こんにちは。

さて、今日は、育休取得・復職後の降格、賃金減額に関する裁判例を見てみましょう。

コナミデジタルエンタテイメント事件(東京地裁平成23年3月17日・労判1027号27頁)

【事案の概要】

Y社は、平成18年3月、コナミ株式会社からその営業部門の事業全てを譲り受けて設立された、電子応用機器関連のソフトウェア、ハードウェア及び電子部品の研究、制作、製造及び販売等を目的とする会社である。

Y社の従業員であるXは、育児休業後に復職したところ、Y社は、Xを降格させ、年俸を120万円減給した。

Xは、Y社の人事措置について、妊娠・出産をして育児休業等を取得した女性に対する差別ないし偏見に基づくものであって、人事権の濫用にあたり、不法行為であると主張し争った。

【裁判所の判断】

降格は人事権の濫用に当たらない。

成果報酬ゼロ査定は、裁量権の濫用に当たる。

差額賃金請求については棄却した。

【判例のポイント】

1 育児・介護休業法22条および同法の指針(平16.12.28厚労省告示460号)の「原則として原職又は原職相当職に復帰させることが多く行われているものであることに配慮すること」は、努力義務を定める規定であって、原職または原職相当職に復帰させなければ直ちに同条違反になるとは解されない。

2 産休・育休からの復職に当たって担務変更をしたことは、業務上の必要性に基づいて、配転にかかる人事上の権限の行使として行われたものであって、育休等の取得を理由としてされたものではなく、担務変更が休業取得を理由とする不利益取扱いには該当しない

3 使用者が有する従業員の配置、異動等の人事権の行使は、雇用契約に根拠を有し、従業員をY社の会社組織の中でどのように活用、統制していくかという使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事項であり、従業員に周知された就業規則の規定に基づき行われる職種・職位の変更(役割グレード引下措置)につき労働者本人の同意を要するものとは解されない

4 労働の対価たる賃金は、労働条件における最も重要な労働条件であり、その年俸査定期間に産休や育休が含まれる場合には、法がこれらの休業を規定し、休業取得を理由とする不利益取扱いを禁止した趣旨を考慮した成果の査定をするのが相当である。

5 Xの平成21年度の成果報酬について、査定期間のうち9ヶ月間は産休・育休により休業して業務実績はないが、休業前の3ヶ月は一定の内容、程度の業務を引き継いだFマネージャーらはXの実績を利用しまたは踏まえて残りの業務を行ったということができるから、同年度の成果報酬ゼロ査定は、成果報酬の査定にかかる裁量権の濫用に当たり無効である

6 差額賃金請求権は、Y社が前年度成果評価に基づく査定によって具体的な額が決定されるものであるから、本件成果報酬ゼロ査定しかされていないという本件事実関係の下においては、Xはいまだ成果報酬が定まっていないという状態にあり、これについて損害が発生する余地はないというべきである。
以上によると、Xの従前年俸額と新年俸額との差額の支払請求は理由がない

育休後の労働条件に関する争点は、労働者側としては、いろいろと難しい問題があります。

どちらかといえば、やりにくい問題だと思います。

ただ、本件では、成果報酬の査定に関し、裁量権の濫用にあたり無効であるとの判断がされています。

差額賃金請求については、このような判断もやむなしといったところでしょうか。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

不当労働行為21(JR西日本(和歌山・転勤)事件)

おはようございます。

さて、今日は、配置転換と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

JR西日本(和歌山・転勤)事件(和歌山県労委平成23年4月6日・労判1027号95頁)

【事案の概要】

Y社は和歌山支社の和歌山列車区は運転業務および車掌業務を担当する現業機関であり、橋本運転区は運転業務を担当する現業機関である。

平成21年5月、Y社は、和歌山列車区の運転士であるXに対し、橋本運転区へ配置転換する旨の通知を、6月、本件転勤を発令した。

Xは、JR西日本労働組合関西地域本部およびその下部組織である和歌山地方本部ならびに和歌山分会の組合役職を歴任した。

Xは、本件配置転換は、不当労働行為であると主張し争った。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない。

【判例のポイント】

1 Xの通勤時間は片道約1時間50分となったから、この通勤時間を短いとは言えないし、Xの組合活動従事可能時間の減少もあるから、本件転勤がXにとって不利益であるとは言えるものの、それらはいずれも和歌山列車区から橋本運転区への転勤という通常の転勤に伴って発生しているものであるから、本件転勤に通常の転勤を超えた不利益を認めることはできない

2 Y社は組合に嫌悪の情を抱いており、したがって、組合が行った追悼ミサについて不快な念を持って見た可能性は否定できない上、追悼ミサとY社が本件転勤の人選を開始した時期とは符合するから、全く影響がなかったとは断定できない。しかも、本件転勤はこれまでの組合とY社の厳しい労使対立を背景に、最近まで組合の中心的な人物であったXも、転勤対象者たり得る本件転勤の対象者として充てたものと推認することもできる
しかしながら、業務上の必要性が明確であり、転勤先が通常の転勤範囲内である本件転勤において、Xの組合活動への嫌悪の情が、Y社の行った本件転勤命令の決定的動機であったとまでは認定することはできない

3 本件転勤が法第7条第1号の不当労働行為であると言いうるためには、本件転勤がXの組合活動に対する嫌悪を決定的な動機としたものであること、本件転勤が不利益な取扱いであることの双方を充足する必要があるが、前者については、組合活動への嫌悪が本件転勤の人選に影響しなかったわけではないにしても、それが決定的な動機であるとは言えず、後者については、本件転勤がXにもたらした不利益は通常の転勤の範囲内であり、他の転勤とは格差もない以上、不利益取扱いがあったとは評価できないから、本件転勤が法第7条第1号の不当労働行為に該当するとは判断できない。

なかなか微妙な判断ですね。

会社の組合嫌悪の情の存在を推認できるとしても、それが本件転勤命令の「決定的動機」とまではいえないという判断です。

「決定的動機」というのは、規範的概念ですので、その存在は一概には判断できません。

結局のところ、総合考慮ということになります。

今回は、「それほど大きな不利益ではない」という発想が根底にあるのだと思います。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

退職勧奨3(サニーヘルス事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職勧奨に関する裁判例を見てみましょう。

サニーヘルス事件(東京地裁平成22年12月27日・労判1027号91頁)

【事案の概要】

Y社は、医療機関・薬局等との提携を通して、生活習慣の改善、ダイエットを志向する健康食品の卸・小売販売をすることを目的とする会社である。

Xは、平成20年10月、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、東京本社新事業開発部に配属された。

Y社は、平成21年2月ころ、正社員約250名を150名程度に削減するために、希望退職制度を策定し、これを実行した。そして、Xの属する東京本社新事業開発部は、閉鎖されることとなった。

平成21年5月、Xは、上司から、希望退職制度に応じることを勧奨されたが、これを断った。

その後、Y社人事部長Aは、Xに対し、退職勧奨の面談を合計7回行った。

Xは、平成21年7月、Y社人事部長と面接を行った上で退職する旨を告げ、退職申入書に署名押印した。

Xは、退職の意思表示は、Y社からの違法な退職強要を受けたものであるから無効であると主張した。

【裁判所の判断】

退職勧奨は違法ではない。

【判例のポイント】

1 意思表示の取消原因である強迫が成立するには、害悪が及ぶことを告げて、相手方に畏怖を与え、その畏怖によって意思を決定させることが必要であるところ、Xが主張する強迫の要素として、A部長がXに対して、頻繁に、かつ、長時間の面談により、退職勧奨を行ったことを挙げる。しかし、A部長とXとの面談は、週に1回程度、両者の日程調整をした上で行っているし、その時間も、基本的には30分程度であり、しかも、その内容も、XがこのままY社に残っていても居場所がなくなるから、本件制度による希望退職に応じた方が良いということを繰り返し説得したという内容のものであって、上述の意味での強迫と評価できるものではない

2 Xは、A部長が、他の従業員のいるところで決心がついたかと声をかけられたことも、強迫行為の要素として挙げるが、仮にこの事実が認められたとしても、この行為がXにとって不本意なものであるものの、上記の意味での強迫行為と評価であるといわざるを得ない

3 もとより、本件退職が、Xの意に沿わない意思表示であることは確かであるが、上記判断のような事情を考慮すると、退職勧奨が、違法な強迫行為に該当するとまで評価することは困難であるといわなければならない。

裁判所が示している強迫の定義を頭に入れ、また、本件事案を参考にしながら、退職勧奨を行うことをおすすめします。

面談の頻度、時間、任意性等を考慮し、「害悪を告げて、相手方に畏怖を与え」ていない見せ方が重要になります。

退職勧奨の際は、顧問弁護士に相談しながら、慎重に対応することが大切です。

管理監督者25(エイテイズ事件)

おはようございます。

さて、今日も、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

エイテイズ事件(神戸地裁尼崎支部平成20年3月27日・労判968号94頁)

【事案の概要】

Y社は、衣料品及びスポーツ用品のデザイン、製造、加工、販売等を業とする会社である。

Xは、Y社の従業員であったが、その後、退職した。

Xは、Y社に対し、未払いの時間外、休日および深夜の割増賃金の支払いを求めた。

Y社は、Xが管理監督者にあたる等と反論し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者にはあたらない。

認容金額と同額の付加金の支払いを命じる。

【判例のポイント】

1 Xは現場のいわば職長という立場にすぎず、その具体的な職務内容、権限及び責任などに照らし、Xが管理監督者であるとすることはできない。

2 Xが1か月に2回程度実施される経営会議に出席していたことは当事者間に争いがない。そして、この経営会議は、月々の営業目標の設定、売上げノルマの到達度の確認などを行う会議であることが認められ、この会議において、Xが、Y社の経営についての重要事項に関して何らかの積極的な役割を果たしたことを認めるに足りる証拠はない

3 Y社は、Xに支給されていた給与が社内でも屈指のものであった旨を主張する。しかし、その比較の対象を、Y社と労働契約を締結しているわけではない代表取締役・取締役に求めるのは相当ではない。Xが課長に昇進した前後の比較や、他の平社員との比較をしなければ、Xが管理監督者として処遇されているというに足りる給与を得ているかどうかは明らかとはならない。そして、この点に関する証拠はまったく存在しない。

4 Xの時間外労働、休日労働、深夜労働の時間数は非常に大きく、そのほとんどが現実でのプリント作業に費やされている。また、Y社は、タイムカードを通じてXのこのような労働状態を認識していたところ、Y社が、このような状態を改善しようとしたり、Xの健康管理に意を払ったりしたことを認めるに足りる証拠はない
そして、これらの事情に照らすと、Xが請求する労働基準法114条所定の付加金は、646万3150円の限度で理由があるというべきである。

5 また、Xは、付加金の支払についても仮執行宣言を求めるが、同条所定の付加金は、裁判所の判決が確定してはじめて発生するものであるから、その性質上、仮執行宣言を付することはできない。

いろいろ参考になる裁判例です。

判例のポイント3は、会社側のポイントです。 給与が十分かというのは、相対評価であるということです。

比較の対象をあげてくれています。

あとは、判例のポイント5は、付加金と仮執行宣言について、再認識できますね。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者24(丸栄西野事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

丸栄西野事件(大阪地裁平成20年1月11日・労判957号5頁)

【事案の概要】

Y社は、織ネーム、プリントネームの製造及び販売、美術印刷製品の製造及び販売、経営コンサルタント及び販売促進の企画、各種コンテンツ・アプリケーションの製作等を業とする会社である。

Xは、Y社に採用され、大阪本社で勤務し、企画営業グループに所属し、その後Y社を退職した。

Xは、Y社に対し、未払いの時間外手当、深夜勤務手当、休日勤務手当等及び付加金の支払を求めた。

Y社は、Xが管理監督者に該当する等と反論し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者にはあたらない。

付加金の支払いは命じない。

【判例のポイント】

1 Y社の主張のうち、勤務時間について厳格な規制をすることが困難であることをいう点については、そもそもXの業務は時間管理が困難なものとはいえない。また、デザイナーであることが管理監督者性を基礎付けるとはいえないところ、Y社の主張する点は、Xがデザイナーであることに由来するものであって、これをもって管理監督者性を基礎づけることはできない。

2 パーティションで区切っていたために、勤務態度についての管理が困難であったことについても、Xらデザイナーが仕事に集中するためにパーティションが設置されていたものであり、自由に休憩をとったりするために設置されていたものではないことからすると、これをもって管理監督者性を基礎づけることはできない。

3 Xの待遇が、Y社の従業員の中では、相対的に上位にあることは認められる。しかしながら、月々の時間外労働の時間数に見合うほどに高額であるとはいえない。また、Xの月額賃金は、おおむね定期的にほど同額で上昇してきた結果とみられ、管理監督者としての地位に就任したことによるものとみるのは困難である。

4 ・・・以上の検討によれば、多少なりとも管理監督者性を基礎付けることのできる事情としては、Xの待遇及び採用面接を担当したことの2点が挙げられるが、これらの点を総合考慮しても、Xが(1)労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、(2)労働時間、休憩、休日などに関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の職務が労働時間の規制になじまないような立場にあって、(3)管理監督者にふさわしい待遇がなされているとは認められないので、Xが管理監督者であると認めることはできない。

5 Xは、Y社における時間外手当不払いがY社の体質に由来する根深いものであるから、付加金の支払を命じるべきである旨主張する。
・・・しかしながら、ともかくもタイムカードや勤怠管理表のほとんどはY社より証拠として提出されていること、Xの勤務態度等についてY社から具体的な主張や立証がなされているわけではないこと、Y社側は和解による解決を最後まで模索していたこと等の点からすると、付加金については、これの支払いを命じないのが相当であると判断した

やはり、会社側の対応の難しさを感じます。

「だってしょうがないじゃないかー」という会社の声が聞こえてきそうです。

でも仕方ありません。 裁判所としてはこのように判断するんでしょうね。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

労働時間23(B社事件)

おはようございます。

さて、今日は、宿直勤務の労働時間性に関する裁判例を見てみましょう。

B社事件(東京地裁平成17年2月25日・労判893号113頁)

【事案の概要】

Y社は、建設施設の保守運行業務並びに修理工事、警備業務並びに防災防犯設備の施設管理等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員であり、警備業務に従事していた。

Xは、Y社に対し、更衣時間・朝礼時間・休憩時間及び仮眠時間が労基法上の労働時間に当たると主張し、未払賃金等の請求をした。

【裁判所の判断】

休憩時間は、労基法上の労働時間に該当しない。

仮眠時間は、労基法上の労働時間に該当する。

【判例のポイント】

1 労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれる時間をいうが、上記労働時間に該当するか否かは、労働者が当該時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価できるか否かにより客観的に定めるものというべきである。

2 ・・・当該時間が非労働時間である休憩時間といえるためには、単に実作業に従事しないということだけでは足らず、使用者の指揮命令下から離脱しているといえる時間、すなわち、労働者が権利として労働から離れることを保障されていると評価できることを要すると解される。そして、労働からの解放が保障されている休憩時間といえるためには、当該時間における労働契約上の役務提供が義務づけられていないと評価される必要がある。
・・・しかしながら、・・・休憩時間には、飲食店で外食する者がいたり、食事を持参していない者が食事を購入するために外出したり、あるいは仮眠をとる者もいるなど自由であったこと、休憩時間には、警備員が警備服上着(ジャケット)を脱ぐことは認められており、ネクタイを緩めることもあった旨認められるのであって、これらの事実に照らせば、休憩時間は事業場外への外出も可能であるなど、労働契約上の役務提供が義務づけられていなかったものと評価することができる

3 Xは、本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対し直ちに相当の対応をすることを義務づけられていると認められるのであるから、本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務づけられていると評価することができる。したがって、Xは、本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も含めてY社の指揮命令下に置かれているものであり、本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。

4 Y社は、宿直した警備員に対し、宿直1回当たり2300円の特定勤務手当を支払っている。仮に、時間外労働が存在しているというのであれば、特定勤務手当の趣旨からして、その支払金額をXの請求額から控除すべきである、と主張する。
しかしながら、特定勤務手当は、「変形労働時間制の適用による勤務において宿泊した場合は、特定勤務手当1日につき、2300円を支給する」と規定されている上に、Y社は、仮眠時間中に実作業が30分以上に及ぶ場合に限って時間外勤務手当を支給しているが、その場合であっても、特定勤務手当が支給されていると認められるから、特定勤務手当の趣旨は、24時間勤務に伴う勤務に対する対価と解されるのであって、時間外賃金とは趣旨が異なるものと認められるから、これを時間外賃金の一部払いであると認めることはできず、Y社の主張は採用できない

オーソドックスな感じです。

未払時間外手当の請求に対して、会社側で「既に●●手当に含まれている」と主張することがよくあります。

上記判例のポイント4のようにです。

ここは、会社側が事前に対策をとっていれば、必ず対応できる部分です。

訴訟になってからでは、どうしようもありません。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

管理監督者23(アイマージ事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き、管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

アイマージ事件(大阪地裁平成20年1月14日・労経速2036号14頁)

【事案の概要】

Y社は、カラーコピーサービス業務及びコンピュータのプリントアウトサービス、広告、出版及び印刷業等を営む会社である。

Xは、Y社の従業員としてコピーサービス店の店長をしていた。

Xは、Y社を退職後、Y社に対し、未払時間外手当の支払を請求した。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定

付加金の支払いは命じない

【判例のポイント】

1 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、そもそも労働時間の管理になじまない者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきである。
Y社の主張するXの待遇に関する点は、いずれもXが本件店舗の店長であったことによって説明することも可能なものである。Xは、店長であるといって、その権限は、本件店舗の3階部分に及んでいたことをうかがわせる証拠はなく、1階部分に限定されていたものと推認される。また、Y社と強い結びつきがあり、Y社の経営に強い影響力を有していたことがうかがわれるAも頻繁に本件店舗を訪れていたことからすると、店長である以上に経営者と一体的な立場にあったとまでは認められない

2 Y社の主張するXの賃金待遇に関する点は、いずれもXが本件店舗の店長であったことによって説明するkとも可能なものである。他方で、合計26万円の月額賃金は、他の従業員に比べると好待遇であるとはいえ、店長であることを超えて管理監督者としての地位にあることを裏付けるものとしては不十分である

3 Xがタイムカードの打刻を懈怠することが少なかったことは事実であるが、打刻されている限りでは、所定の勤務時間は、きちんと就労しており、契約上も実態上も、時間管理がなされていなかったとは認められない。また、Xの意識においても、時間管理がなされていないとの認識はうかがわれない

4 Xの業務内容のうち、従業員の採用や従業員の給料の決定を行っていたことを認定するに足りる証拠はない。経理業務を担当していたことについては争いがないが、これのみを以て、Xが管理監督者の地位にあったと認めることはできない。
以上の検討によれば、Xが管理監督者の地位にあるとのY社の主張は採用できない。

5 事情はどうあれ、Xは、格別、困難を来すような事情がうかがわれないにもかかわらず、タイムカードをきちんと打刻しておらず、Y社が的確に時間外労働時間数を把握することを困難にしていることを考慮すると、Y社に付加金の支払いを命じるのは相当でない

付加金に関しては、珍しい判断のしかたです。

裁判所の裁量なので、ありなんでしょうけど、Xがタイムカードをきちんと打刻していなかったこととY社が残業代を支払ってこなかったことって、関係あるんでしょうか?

よくわかりません・・・。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。