賃金20(中山書店事件)

おはようございます。

さて、今日は、年俸制の下における年俸額の合意が成立しない場合に関する裁判例を見てみましょう。

中山書店事件(東京地裁平成19年3月26日・労判943号41頁)

【事案の概要】

Xらは、出版業等を営むY社の正社員である。

Y社においては、主任以上の役職者以外の従業員のほとんどに「一般管理職」の肩書きを付与しており、Xらも「一般管理職」である。

Y社は、平成13年2月頃、一般管理職に新たに年俸制を導入すること、就業規則とは別に個別に年俸契約にすることを表明した。

その後、平成14年8月に就業規則改正が行われ、「労使双方面談のうえ原則として7月中に次年度の年俸を決定する」と定められた。

XらとY社の間では、平成15年8月までの年俸額については合意に基づく決定がなされていたが、同年9月以降についてはY社の提示した年俸額にXらが同意せず、両者間で協議が継続している。

この間、Y社は、提示額を上回る年俸額が確定した場合は差額を支給することとしつつ、提示した年俸額に基づいて月例賃金等を支払っている。

Xらは、次年度以降の年俸額を主張し、差額分の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件年俸制の下での年俸額に関するY社とXらとの合意は、1年という期間を設定してされているのであるから、その合意の効力も、設定された期間においてのみ存在すると解される。

2 本件年俸制において、年俸額を決定するためのY社とXらの協議が整わない場合には、使用者であるY社がXらとの協議を打ち切って、その年俸額を決定することができると解され、この場合、Y社のした決定に承服できない当該社員は、Y社が決定した年俸額がその裁量権を逸脱したものかどうかについて訴訟上争うことができると解される。

3 Y社が上記決定権を行使せず、年俸額に関する社員との協議を継続し、社員もこの協議に応じながら労務の提供を継続する場合には、Y社が提案した年俸額よりも低い金額で合意が成立することは通常想定し得ないから、Y社が提案した金額を年俸額の最低額とする旨の合意がされていると解することができ、社員は、Y社が提案した金額をY社に請求することができるが、これを上回る年俸額についての合意がない以上、Y社提案額を上回る金員をY社に請求することはできないと解される。

裁判所の判断によると、本件年俸制の下では、Y社は、Xらとの合意なしに、一方的な年俸減額が許容され得るわけですね。

そして、このような判断は、Y社とXらがY社による一方的な年俸減額があり得る旨の合意も成立していたことを根拠としています。

Y社では、モーニングミーティングにおいて、年俸制について、従業員の目標達成度、貢献度、賃金原資の変動等によっては、年俸額の減額があり得る制度として、その目的、必要性、実施手順等を従業員らに説明していたと認定されています。

ただ、Y社による「一方的な減額」まで、このモーニングミーティングでの説明を根拠に「合意があった」と認定するのは、強引な気がしますが・・。

通常、使用者による労働条件の不利益変更については、かなり厳しい要件を要求されることとのバランスがとれていないように感じます。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金19(モルガン・スタンレー(割増賃金)事件)

おはようございます。

さて、今日は、引き続き時間外賃金の取扱いに関する裁判例を見てみましょう。

モルガン・スタンレー(割増賃金)事件(東京地裁平成17年10月19日・労判905号5号)

【事案の概要】

Y社は、外資系証券会社である。

Xは、Y社の従業員であった者である。

Y社の就業規則によれば、社員の労働時間は平日の午前9時より午後5時30分までとされている。

Xは、平日、前記所定の労働時間のほか午前7時20分から同9時までの間労働したので、労基法37条に基づき、約800万円の超過勤務手当の支払を求めた。

これに対し、Y社は、1年間に年間基本給として2200万円余及び裁量業績賞与約5000万円と多額の報酬を支給しており、Xの請求する超過勤務手当はこれらの報酬に含まれており、既に弁済済みであると反論した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xはこれまで東京銀行、メリルリンチ証券、被告に勤務していたところ、東京銀行時代は超過勤務手当の支給を受けており、所定時間外労働をすれば超過勤務手当が発生することを知っていた。しかるに、Xは、外資系インベストメントバンクであるメリルリンチ証券、Y社に勤務しているときには、超過勤務手当名目で給与の支給を受けていないことを認識しながらこれに対し何ら異議を述べていない

2 Y社がXに対し入社の際交付したオファーレターによれば、所定時間を超えて労働した場合に報酬が支払われるとの記載はされていない

3 XのY社での給与は高額であり、原告が本件で超過勤務手当を請求している平成14年度から同16年度までの間、基本給だけでも月額183万3333円(2200万円÷12=183万3333円)以上が支払われている。

4 Y社はXの勤務時間を管理しておらず、Xの仕事の性質上、Xは自分の判断で営業活動や行動計画を決め、Y社はこれに対し何らの制約も加えていない

5 Y社のような外資系インベストメントバンクにおいては、Xのようなプロフェッショナル社員に対して、所定時間外労働に対する対価も含んだものとして極めて高額の報酬が支払われ、別途超過勤務手当名目での支払がないのが一般的である

6 以上の事実に、Y社のXに対する基本給は毎月支払われ、裁量業績賞与は、支払の有無、支払額が不確定であることに照らすと、Xが所定時間外に労働した対価は、Y社からXに対する基本給の中に含まれていると解するのが相当である。そして、Xは、Y社から、毎月、基本給の支給を受け、これを異議なく受領したことにより、当該月の所定時間外労働に対する手当の支給を受け、これに対する弁済がされたものと評価するのが相当である

本判例では、基本給における割増賃金の部分が明確に示されていないものについても、労働時間の管理とがが困難な職務であったことや、賃金が労働時間ではなく会社への貢献度により決定され、極めて高額なものであったことなどから、労働者の保護に欠ける点はなく労基法37条の制度趣旨に反しないとして、割増賃金が定額の基本給に含まれているとする合意を有効と判断しました。

・・・ちょっと何を言っているのかわかりません。

以下、判例百選第8版93頁の解説を引用します。

「しかし、この事案のような労働者については、本来裁量労働制で管理すべきものであり、また、賃金が高額であることが労基法37条の適用を免れる根拠にはなりえないことからすると、これまでの判例法理に大きな影響を及ぼすものとは解されない。」

同感です。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金18(高知県観光事件)

おはようございます。

さて、今日は、完全歩合制度の下での割増賃金に関する最高裁判例を見てみましょう。

高知県観光事件(最高裁平成6年6月13日・労判653号12頁)

【事案の概要】

Y社は、タクシー業を営む会社である。

Xらは、Y社に、タクシー乗務員として勤務してきた。

Xらの勤務は隔日勤務で、勤務時間は、午前8時から翌日午前2時(そのうち2時間は休憩時間)である。

Xらの賃金は、タクシー料金の月間水揚高に一定の歩合を乗じた金額を支払うもの(完全歩合給)で、同人らが時間が労働や深夜労働を行った場合にも、それ以外の賃金は支給されない。

また、この歩合給を、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外・深夜労働の割増賃金に当たる部分とに判別することはできない。

Xらは、Y社に対し、午前2時から午前5時までの深夜労働の割増賃金が支払われていないとして、その支払および付加金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求認容。

【判例のポイント】

1 Xらの午前2時以降の就労も、XらとY社との労働契約に基づく労務の提供であること自体は、当事者間で争いのない事実であり、この時間帯のXらの就労を、法的根拠を欠くものとした原審の認定判断は、弁論主義に反する違法なものであり、破棄を免れない。

2 本件請求期間にXらに支給された歩合給の額が、Xらが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、Xらに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであり、Y社は、Xらに対し、本件請求期間におけるXらの時間外及び深夜の労働について、法37条及び労働基準法施行規則19条1項6号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務がある

完全歩合給制度の場合でも、残業代を支払わなければいけません。

歩合給の場合には、通常賃金に当たる部分はすでに賃金総額に含まれているので、割増賃金として支払うべき時間単価は、時間外労働の場合には25%以上となります。

本判決は、定額の基本給(月給)制における小里機材事件における最高裁判決(昭和63年7月14日・労判523号6頁)が示した判断基準を完全歩合給制度の下での割増賃金支払義務に関しても妥当することを明らかにしました。

完全歩合給制度を採用する会社で、この点をきちんとやっているところってあるんでしょうか・・・?

実際、ちゃんとやろうとすると、結構難しいですね。

本気でやる場合には、顧問弁護士に相談しながら慎重に準備をしましょう。

賃金17(日本システム開発研究所事件)

おはようございます。

さて、今日は、年俸制において年俸額についての労使の合意が成立しない場合の年俸額に関する裁判例を見てみましょう。

日本システム開発研究所事件(東京高裁平成20年4月9日・労判959号6号)

【事案の概要】

Y社は、中央官庁などからの受託調査・研究や会計システムの販売・導入を業とする会社である。

Y社では、一般の賃金体系について定めた就業規則と給与規則を変更しないまま、20年以上前から満40歳以上の研究職員を対象に個別の交渉によって賃金の年間総額と支払方法を決定してきた。

ところが、平成15年度と16年度については、研究室長らが年俸者についての個別業績評価の基礎となる資料の提出を拒んだため、Y社は、個人業績評価ができず、平成14年度の給与のまま凍結して支給した。

さらに、平成17年度にはY社の経営事情が悪化し、債務超過の状態にあることが判明したため、Y社は組織体制の変更や人件費を含む経費削減を行うこととした。

そこで、年俸額の引下げに合意しなかったXら4名が、前年度の年俸額との差額支払を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

請求認容。

【判例のポイント】

1 Y社における年俸制のように、期間の定めのない雇用契約における年俸制において、使用者と労働者との間で、新年度の賃金額についての合意が成立しない場合は、年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続、減額の限界の有無、不服申立手続等が制度化されて就業規則等に明示され、かつ、その内容が公正な場合に限り、使用者に評価決定権があるというべきである。上記要件が満たされていない場合は、労働基準法15条、89条の趣旨に照らし、特別の事情が認められない限り、使用者に一方的な評価決定権はないと解するのが相当である。

2 Y社は、年俸額の決定基準は、その大則が就業規則及び給与規則に明記されていると主張する。しかし、Y社の就業規則及び給与規則には、年俸額に関する規定は全くない上、・・・原審においては、Y社において、年俸額の算定基準を定めた規定が存在しないことを認めていたものであり、Y社において、年俸制に関する明文の規定が存在しないことは明らかである。

3 以上によれば、本件においては、上記要件が充たされていないのであり、また、本件全証拠によっても、上記特別の事情を認めることはできないから、年俸額についての合意が成立しない場合に、Y社が年俸額の決定権を有するということはできない。そうすると、本件においては、年俸について、使用者と労働者との間で合意が成立しなかった場合、使用者に一方的な年俸額決定権はなく、前年度の年俸額をもって、次年度の年俸額とせざるを得ないというべきである。

本件は、年俸額についての労使の合意が成立しない場合の年俸額の決定が問題となったものですが、年俸額の決定基準や決定方法などについての定めが一切存在しない点で、他の成果主義・年俸制をめぐる典型的事案ではありません。

年俸額についての労使間の合意が成立しない場合に、翌年度の年俸額は当然に前年度と同額になるのかという問題がありますが、そのような場合についての明確な決定方式が定められている場合には、原則としてそれによることになるとしても、本件のような事情の下においては、特に年俸額が変更されるための根拠がに以上、前年の年俸額が維持されると解するほかありません。

会社としては、本件のような場合を想定した規定を置くことを検討してください。

詳しくは、顧問弁護士にご相談ください。

賃金16(年俸制の残業取扱い)

おはようございます。

さて、今日は、年俸制の残業取扱いについて見て行きましょう。

まず、最も基本的な誤解としては、「年俸制の場合、残業をしても、割増賃金を支払わなくてもよい」というものです。

年俸制を採用する場合でも、割増賃金を支払わなければいけません。

次に、年俸制において、あらかじめ支給額が決定している賞与については、「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」とはみなされません。

したがって、賞与部分を含めて当該確定した年俸制を算定基礎として割増賃金を支払う必要があります。

つまり、賞与を含めて年俸制を確定している場合には、たとえ年俸額の16分の1を毎月支払っていても、16分の4を年2回の賞与(既に確定している額)として支払った場合であっても、年俸額の12分の1を月の賃金額として計算しなければなりません。

なお、年俸制の場合、すべての場合で、割増賃金算定の基礎に賞与を含めて計算しなければならないわけではありません。

例えば、月給部分のみを年俸制にして、賞与は別途、業績などを考慮して、その都度決定するという方法をとれば、賞与は割増賃金の算定基礎から除外することができます。

この点を知っているだけで、かなり金額が変わってきますね。

なお、現在の賃金規程を変更する必要がある場合、不利益変更の問題が絡んできますので、慎重に行うべきです。

年俸制の導入を検討している社長は、顧問弁護士又は顧問社労士に詳細を確認してください。

継続雇用制度17(特例措置の終了)

おはようございます。

高年齢者雇用安定法に関するお知らせです。

「継続雇用制度」の対象者の基準を、労使協定を締結せずに就業規則で定めている事業主の方へ!!

現に雇用している高年齢者を定年後も引き続き雇用する「継続雇用制度」の対象者の基準を、労使協定を締結せずに就業規則で定めることができる中小企業(300人以下)の事業主に対する特例措置が、平成23年3月31日で終了します。

労使協定とは、労働条件その他の事項について、事業場の過半数の労働者で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)と事業主との間で合意して書面により締結する協定です。

継続雇用制度の導入にあたって、対象となる高年齢者の基準について労使協定を締結せず、平成23年4月1日以降、当該高年齢者が離職した場合、雇用保険被保険者離職証明書の離職理由は、当該高年齢者の継続雇用の希望の有無に関わらず、事業主都合となりますので、ご注意ください。

詳しくは、顧問弁護士又は顧問社労士に確認してください。

配転・出向・転籍3(GEヘルスケア・ジャパン事件)

おはようございます。

今日は、配転に関する裁判例を見てみましょう。

GEヘルスケア・ジャパン事件(東京地裁平成22年5月25日・労判1017号68頁)

【事案の概要】

Y社は、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)の医療部門であるGEヘルスケア等の出資で設立された、医療用機器の製造等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、期間の定めのない雇用契約を締結して、製造本部EHS(環境・安全衛生)室長であったが、平成20年1月1日付けで物品等の受入検査部門(現在は、製造本部・製造部内に設置されたクオリティチーム内のトランザクションチーム)への配置転換を命じられた。

Y社は、(1)Yにコミュニケーション能力やリーダーシップが不足していること、(2)EHS業務の専門知識が欠如していること、(3)Xには、上司の命令に従わずに、決定済みの事柄を蒸し返して指揮命令系統を無視するなど、業務命令違反等の問題行動があったことを背景に本件配転を行ったと主張する。

これに対し、Xは、(1)EHS室長として十分なコミュニケーション能力やリーダーシップを備えており、それに見合う高い評価を受けていたし、業務命令違反等の問題を起こしたこともなかった。ところが、Y社は、XをEHS室長から外し、単純作業を繰り返すだけの、Xの知識・経験・技能を必要としないトランザクションチームに配置した。このような本件配転は、業務上の必要性に基づかない。

(2)仮に業務上の必要性に基づくものであったとしても、(ア)本件配転は、上司がXをいわれなく嫌悪し、パワハラを重ねたあげくに行われたものであるから、不当な動機・目的をもってなされたものである。しかも、Xが社外の労働組合に加入したことを決定的な動機としており、不当労働行為にも該当する。

などと主張し、配転無効無効確認及び慰謝料300万円等を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却(配転命令は有効)

【判例のポイント】

1 配転命令は、「業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、(中略)他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるとき」には権利濫用になるものと解される(東亜ペイント事件)。

2 Xは、EHS室長当時、同室長の適性を疑われてもやむを得ないというべき言動を繰り返したことから、XがEHS室長の適性を備えていないというD本部長の判断は、相当で合理的なものであったと認めることができる。本件配転先のトランザクション業務は、EHS室長のそれに比べれば仕事のスケールが小さく、単調なものと考えられるが、そうだとしても、Y社がXを無理矢理当てはめるためにこれを作り出したとか、Xがそこで実質的に仕事を与えられていない状態に置かれているなどとはいえない。したがって、本件配転は、業務上の必要性に基づくものということができる。

3 前記のとおり、Xは、EHS室長当時、同室長の適性を疑われてもやむを得ないというべき言動を繰り返したことから、XがEHS室長の適性を備えていないという本部長の判断は、相当で合理的なものであったと認めることができる。そうだとすると、・・・Xの働きぶりに変化がなかったとはいえないし、本部長がXを嫌悪して、その業績評価を恣意的に下げたとも認められない。

4 Xの資格区分や給与の額は、本件配転を人事上の降格ということはできない。Xは、直属の上司が本部長ではなくなったことから、本件配転によって、実質的に3段階も降格されたと主張するが失当である。
本件配転の前後を通じて、Xの職務の責任範囲や指揮命令の及ぶ範囲が大幅に縮小されたとは認められない。また、Xは、本件配転後、祝日出勤を義務付けられるなど、労働条件が低下していると主張するが、そうだとしても、これは、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとはいえない。

本件では、XのEHS室長としての資質に疑問があるということで、配転の必要性が認められました。

その裏返しとして、不当な動機・目的は存在しないとも認定されています。

配転と降格が動じに行われるという降格的配転となれば、降格の要件も満たす必要があり、それを欠く場合には両者が一体として無効となります。

しかし、本件では、配転の前後を通じてXの資格区分や給与の額が変更されていないという事情があり、裁判所は、この点に着目して、本件配転が降格的配転ではないと評価しました。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

解雇37(スカンジナビア航空事件)

おはようございます。

さて、今日は、変更解約告知に関する裁判例を見てみましょう。

スカンジナビア航空事件(東京地裁平成7年4月13日・労判675号13頁)

【事案の概要】

Y社は、スウェーデンに本店をおく会社であり、他の外国2社とともに航空会社A社を運営していた。

Xらは、A社の日本支社となっていたY社の従業員、業務内容および勤務地を特定した雇用契約を締結していた。

A社の航空部門の収益が悪化したため、日本において年功序列賃金体系をとっていたY社は、賃金制度の変更に着手した。

Y社は、平成6年6月、地上職およびエア・ホステスの日本人従業員全員に対し、早期退職募集と再雇用の提案を行い、割増退職金の支給を提示した。再雇用の内容は、(1)年俸制の導入、(2)退職金制度の変更、(3)労働時間の変更、(4)契約期間(1年)の設定および(5)有給休暇は労働基準法の定めに従った日数に削減する、というものであった。

同募集の応募期限である同年7月末までに、115名が早期退職に応じたものの、残り25名は、早期退職に応じず、従前の労働条件で雇い続けるよう労働組合を通じて回答する一方、仮処分を申し立てた。

これに対し、Y社は、募集に応じなかった25名を、同年9月末付けで解雇するとした。

Xらは、解雇の効力を争い、地位保全等を求めた。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xらに対する解雇の意思表示は、要するに、雇用契約で特定された職種等の労働条件を変更するための解約、換言すれば新契約締結の申込みをともなった従来の雇用契約の解約であって、いわゆる変更解約告知といわれるものである。

2 YとXらとの間の雇用契約においては、職務および勤務場所が特定されていたため、職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の変更を行うためには、これらの点についてXらの同意を得ることが必要であった。

3 しかし、労働者の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の労働条件の変更が会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件の変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件の変更をともなう新契約締結の申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りるやむを得ないものと認められ、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときは、会社は新契約締結の申込みに応じない労働者を解雇することができるものと解するのが相当である。

4 全面的な人員整理・組織再編が必要不可欠となり、その計画が図られた結果、雇用契約により特定されていた各労働者の職務及び勤務場所の変更が必要不可欠なものであった。本件合理化案を実現するために必要となる、(1)年俸制の導入、(2)退職金制度の変更、(3)労働時間の変更については、いずれもその変更には高度の必要性が認められる。賃金体系の変更は、従業員の賃金が総体的に切り下げられる不利益を受けることは明らかであるが、地上職の場合、会社により提案された新賃金(年俸)と従来の賃金体系による月例給に12(月)を乗じることにより得られる金額を必ずしもすべてが下回るものではないし、Xらが新労働条件での雇用契約を締結する場合には、会社は、従来の雇用契約終了にともなう代償措置として規定退職金に加算して、相当額の早期退職割増金支給の提案を行ったことをも合わせ考えると、業務上の高度の必要性を上回る不利益があったとは認められない。

5 労働条件の変更をともなう再雇用契約の申入れは、会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性は右変更によって右各債権者が受ける不利益を上回っているものということができるのであって、この変更解約告知のされた当時及びこれによる解雇の効力が発生した当時の事情のもとにおいては、再雇用の申入れをしなかった各債権者を解雇することはやむを得ないものであり、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされていたものと認めるのが相当である。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇36(京都市(北部クリーンセンター)事件)

おはようございます。

さて、今日は、セクハラ行為等を理由とする懲戒免職に関する裁判例を見てみましょう。

京都市(北部クリーンセンター)事件(大阪高裁平成22年8月26日・労判1016号18頁)

【事案の概要】

Y市は、Y市職員として京都市北部クリーンセンター関連施設プール管理運営協会事務局の事務所長の職にあったXを、以下の事実により懲戒免職処分とした。

(1)部下に対するセクハラ行為(性的関係を求める言動)、(2)タクシーチケット(7590円)の私的流用、(3)業者との独断契約、物品(自動販売機やスイミング用品)販売の手数料の簿外処理等

これに対し、Xは、本件処分は理由がなく、仮に懲戒事由があったとしても懲戒免職処分は重すぎる処分であり、比例原則に反し許されないと主張して、本件処分の取消しを求めた。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分を取り消す

【判例のポイント】

1 セクハラ行為については、行為の相手方、Xのした性的関心に基づく発言や性的交渉を求める発言の内容が具体的に特定されておらず、時期についても3年以上の期間が示されているだけで十分な特定がされていない点で問題がある
とりわけ、本件が懲戒免職処分という重い処分が問題となっていることからすると、特段の事情のない限り、処分の理由となる事実を具体的に告げ、これに対する弁明の機会を与えることが必要であると解されるが、処分の理由となる事実が具体的に特定されていなければ、これに対する防御の機会が与えられたことにならないから、これを処分理由とすることは許されないというべきである
したがって、仮に、Xが、・・・本件調査報告書に記載されたような発言をした事実があったとしても、これを処分理由とするのは手続的に著しく相当性を欠くというべきである。

2 また、本件調査報告書は、Y市の行財政局人事課課長補佐であったEが、Xからセクハラ発言を受けたという者から直接事情を聞き、職場の同僚等の供述によりこれが裏付けられたとして、Xのセクハラ発言を認定したものであるが、対立当事者による反対尋問を経ていない供述の信用性判断は慎重に行うべきものであり、また、本件調査報告書は、上記事情聴取の際の供述を録取した書面そのものではなく、上記Eら調査委員会の認識をまとめたものにすぎない。
一口にセクハラ発言といっても、それまでの両者の関係や当該発言の会話全体における位置づけ、当該発言がされた状況等も考慮する必要があるのであって、Xがした性的な発言内容はもとより、その発言をした日時をできる限り特定し、発言を受けた相手方の氏名を示す必要があるというべきである。本件調査報告書のほか上記Eの供述によっても、Xが、J以外の臨時職員に対しても、日常的に性的な内容を含む発言をしていたという程度の心証を抱かせることはできるが、それが懲戒事由としてのセクハラ発言として、具体的に特定して認定し得るだけの証拠はないといわざるを得ない

3 協会のタクシーチケットは、Y市の公金・公物ではなく、その業務外目的での使用はY市の懲戒指針の「公金又は公物の横領」等に該当せず、また物品手数料の簿外管理は上司も黙認していたこと、手数料収入は主に職員の福利厚生や来訪客接待経費に充てるなど全くの個人的費消とはいえないことから、いずれも、より軽い処分が想定されている「公金公物処理不適正」に該当するとして、Xに対する懲戒免職処分が平等取扱原則に照らして重きに失し、裁量を逸脱している。

第1審(京都地裁)では、懲戒免職処分はY市の裁量の逸脱には当たらないとして、有効であると判断しました。

これに対し、控訴審では、弁明の機会を与えていないことは、手続的に著しく相当性を欠くとして、懲戒免職処分を取り消しました。

X側は、控訴審において、一般に懲戒免職処分の有効要件とされている罪刑法定主義、平等取扱い原則、相当性の原則、弁明機会の付与等の適正手続についての判断部分を、厳格に解したわけです。

セクハラは、性質上、なかなか特定が困難ですが、防御の機会を与えるという意味では、ある程度の特定を要求されるのは、やむを得ません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇35(ダイフク事件)

おはようございます。

さて、今日は、工事代金の架空請求等による詐欺と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ダイフク事件(東京地裁平成22年11月9日・労判1016号84頁)

【事案の概要】

Y社は、諸機械、器具および電気機械、器具の製造販売等を目的とする会社である。

X1は、Y社の国内工場の現場担当者であり、X2は、Y社の従業員であった。

X1が行った行為は以下のとおりである。

(1)現場担当者の立場を利用して、数年にわたり取引先業者数社に対し、架空請求および水増し請求を指示したうえ、取引先業者へ多額の金銭等の利益供与要求を行い、受領した。

(2)国内の工場現場で勤務または滋賀の自宅へ帰宅したと虚偽の申請を行い、取引業者の仲間と業務とは何ら関連のないタイ国へ旅行した。

(3)据付工事現場での宿泊場所として、取引先負担でウィークリーマンションを手配させたうえで宿泊したにもかかわらず、会社へ宿泊費の請求をした。

Y社は、X1を上記事実を理由として懲戒解雇した。

X2が行った行為は以下のとおりである。

(1)不明な金銭200万円を元従業員のX1からX2名義の郵便局口座に振込の方法により受け取ったにもかかわらず、弁護士の調査に対し、振込を受けた事実はない旨、虚偽の事実を述べた。

(2)自宅テレビのレシートを元従業員のX1に提供するなど、不正にX1が利得を得る相談に応じた。

(3)無関係のY社の製造番号を使用し、事務用品や湯茶を購入した。

Y社は、X2を上記事実を理由として解雇した。

X1及びX2は、本件(懲戒)解雇は無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

X1に対する懲戒解雇は有効

X2に対する解雇も有効

【判例のポイント】

1 X1の一連の行為は、いずれも刑事上の犯罪を構成するか、それに匹敵するものであり、就業規則の懲戒解雇事由に該当することが明らかである。そして、本件懲戒解雇を無効というべき証拠はないから、X1の請求は、いずれも理由がない。

2 本件解雇の根拠規定(パートタイマー就業規則)が提出されていないが、X2の行為は、社会通念上、解雇事由に該当するものと考えられる。そして、本件解雇を無効というべき証拠はないから、X2の請求は、いずれも理由がない。

このような従業員の業務上の非違行為、犯罪行為には、厳しい態度で臨む必要があります。

これをなあなあにしてしまうと、他の従業員に悪影響を与えます。

また、本件では、Y社が、X1の不正請求による損害を下請業者らへ賠償したため、X1に求償金の請求を反訴でしました。

こちらは、当然、認められました。

会社としては、取引先との信用問題をできるだけ回避するために、迅速かつ適切に対応しなければなりません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。