賃金19(モルガン・スタンレー(割増賃金)事件)

おはようございます。

さて、今日は、引き続き時間外賃金の取扱いに関する裁判例を見てみましょう。

モルガン・スタンレー(割増賃金)事件(東京地裁平成17年10月19日・労判905号5号)

【事案の概要】

Y社は、外資系証券会社である。

Xは、Y社の従業員であった者である。

Y社の就業規則によれば、社員の労働時間は平日の午前9時より午後5時30分までとされている。

Xは、平日、前記所定の労働時間のほか午前7時20分から同9時までの間労働したので、労基法37条に基づき、約800万円の超過勤務手当の支払を求めた。

これに対し、Y社は、1年間に年間基本給として2200万円余及び裁量業績賞与約5000万円と多額の報酬を支給しており、Xの請求する超過勤務手当はこれらの報酬に含まれており、既に弁済済みであると反論した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xはこれまで東京銀行、メリルリンチ証券、被告に勤務していたところ、東京銀行時代は超過勤務手当の支給を受けており、所定時間外労働をすれば超過勤務手当が発生することを知っていた。しかるに、Xは、外資系インベストメントバンクであるメリルリンチ証券、Y社に勤務しているときには、超過勤務手当名目で給与の支給を受けていないことを認識しながらこれに対し何ら異議を述べていない

2 Y社がXに対し入社の際交付したオファーレターによれば、所定時間を超えて労働した場合に報酬が支払われるとの記載はされていない

3 XのY社での給与は高額であり、原告が本件で超過勤務手当を請求している平成14年度から同16年度までの間、基本給だけでも月額183万3333円(2200万円÷12=183万3333円)以上が支払われている。

4 Y社はXの勤務時間を管理しておらず、Xの仕事の性質上、Xは自分の判断で営業活動や行動計画を決め、Y社はこれに対し何らの制約も加えていない

5 Y社のような外資系インベストメントバンクにおいては、Xのようなプロフェッショナル社員に対して、所定時間外労働に対する対価も含んだものとして極めて高額の報酬が支払われ、別途超過勤務手当名目での支払がないのが一般的である

6 以上の事実に、Y社のXに対する基本給は毎月支払われ、裁量業績賞与は、支払の有無、支払額が不確定であることに照らすと、Xが所定時間外に労働した対価は、Y社からXに対する基本給の中に含まれていると解するのが相当である。そして、Xは、Y社から、毎月、基本給の支給を受け、これを異議なく受領したことにより、当該月の所定時間外労働に対する手当の支給を受け、これに対する弁済がされたものと評価するのが相当である

本判例では、基本給における割増賃金の部分が明確に示されていないものについても、労働時間の管理とがが困難な職務であったことや、賃金が労働時間ではなく会社への貢献度により決定され、極めて高額なものであったことなどから、労働者の保護に欠ける点はなく労基法37条の制度趣旨に反しないとして、割増賃金が定額の基本給に含まれているとする合意を有効と判断しました。

・・・ちょっと何を言っているのかわかりません。

以下、判例百選第8版93頁の解説を引用します。

「しかし、この事案のような労働者については、本来裁量労働制で管理すべきものであり、また、賃金が高額であることが労基法37条の適用を免れる根拠にはなりえないことからすると、これまでの判例法理に大きな影響を及ぼすものとは解されない。」

同感です。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。