労働時間11(事業場外みなし労働時間制その7)

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間制についての新しい裁判例を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件(東京地裁平成22年5月11日・労判1008号91頁)

【事案の概要】

Y社は、旅行その他旅行関連事業を行うことを等を業とする会社である。

Xは、Y社の派遣添乗員として、阪急交通社に派遣され、同社の国内旅行添乗業務に従事している。

Y社では、派遣添乗員につき、事業場外みなし労働時間制が採用されている。

Xは、Y社に対し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

付加金として、割増賃金と同額を認容した。

【判例のポイント】

1 Y社は派遣添乗員に対しY社作成にかかる国内添乗マニュアルを交付して、派遣添乗員の業務について詳細に説明・指示している。

2 派遣先の阪急交通社から渡される行程表ないし指示書によってツアーの旅行管理がされる

3 ツアー当日はモーニングコールをして添乗員の遅刻を防ぐ措置を講じ、添乗員からも連絡をさせている。

4 派遣添乗員が提出する派遣報告書ないし添乗日報には、行程記入欄に着時刻、発時刻を分単位で記入することが求められ、また、夕食、朝食が宴会か、バイキングかも記入することになっている。

5 派遣先旅行会社は全添乗員にツアー毎に携帯電話を貸与し随時電源を入れておくよう指示されている

6 Y社は派遣添乗員の深夜割増賃金を支給するときには添乗報告書等を参考にしている。

7 Y社及び阪急交通社は、国内旅行について、試験的という位置づけではあるが、自己申告により就労時間の把握をした取り組みを開始している。

8 これらの事実からすると、添乗員が立ち寄り予定地を立ち寄る順番、各場所で滞在する時刻についてある程度の裁量があるとしても、Y社が、添乗員の添乗報告書や添乗日報、携帯電話による確認等を総合して、派遣添乗員の労働時間を把握することは社会通念上可能であるというのが相当である。

個人的には、上記2、4、5が決め手になっているように思います。

1番の「国内添乗マニュアル」がどのようなものかわかりませんが、一般的なマニュアル書であるならば、就労時間の把握には関係ないように思います。

3番も、あまり関係ないように思いますが・・・。

なお、この事案では、付加金について満額認められています。

付加金についての裁判所の判断は以下のとおりです。

Y社は、Xを含む派遣添乗員の就労について労基法38条の2の適用はないとする労働基準監督署の指導に従っていないし、国内旅行について就労時間の把握をしようとしているけれども、いまだ「試験的」という位置づけを崩していないから、労基法37条に従った過去分の割増賃金を支払う姿勢があるともいえない。したがって、労基法114条に基づき、Y社に対し、付加金の支払を命ずるのが相当である。」

労基署の指導に従わないと、付加金の支払いを命じられるリスクがありますので、ご注意を。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

管理監督者4(コトブキ事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する最高裁判例を見てみましょう。

なお、この事案は、ほかにも不正競争防止法上の営業秘密、競業避止義務等の争点があります。

コトブキ事件(最高裁二小平成21年12月18日・労判1000号5頁)

【事案の概要】

Y社は、美容室及び理髪店を経営する会社である。

Xは、Y社の従業員であり、「総店長」の地位にあった。

Xは、Y社を退社するに際し、Y社の営業秘密に属する情報が記載された顧客カードを無断で持ち出し、他の店舗で新たに始めた理美容業のためにこれを使用した。

Y社は、Xに対し、不正競争防止法4条、民法709条に基づき損害賠償請求をした。

これに対し、Xは、Y社に対し、XがY社勤務中の時間外割増賃金、深夜割増賃金などを請求する反訴を起こした。

【裁判所の判断】

管理監督者性を肯定し、深夜割増賃金に係る反訴請求に関する部分を破棄し、東京高裁に差し戻す

【判例のポイント】

1 管理監督者性について(東京高裁の判断)
管理監督者とは、一般には労務管理について経営者と一体的な立場にある者を意味すると解されているが、管理監督者に該当する労働者については労基法の労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用されないのであるから、役付者が管理監督者該当するか否かについては、労働条件の最低基準を定めた労基法の上記労働時間等についての規制の枠を超えて活動することが要請されざるをえない重要な職務と責任を有し、これらの規制になじまない立場にあるといえるかを、役付者の名称にとらわれずに、実態に即して判断しなければならない。

(1)Xは、Y社の総店長の地位にあり、代表取締役役に次ぐナンバー2の地位にあったものであり、Y社の経営する理美容業の各店舗(5店舗)と5名の店長を統括するという重要な立場にあった

(2)Y社の人事等その経営に係る事項については最終的には代表取締役の判断で決定されていたとはいえ、Xは、各店舗の改善策や従業員の配置等といった重要な事項について実際に意見を聞かれていた

(3)Xは、毎月営業時間外に開かれる店長会議に出席している

(4)待遇面においては、店長手当として他の店長の3倍に当たる月額3万円の支給を受けており、基本給についても他の店長の約1.5倍程度の給与の支給を受けていた

(5)これらの実態に照らせば、Xは、名実ともに労務管理について経営者と一体的な立場にあった者ということができ、管理監督者に該当する。

2 深夜割増賃金について(最高裁の判断)
労基法41条2号の規定によって同法37条3項の適用が除外されることはなく、管理監督者に該当する労働者であっても、同項に基づく深夜割増賃金を請求することができる

管理監督者性を肯定した判例です。

この事案の興味深い点は、東京高裁が、Xの管理監督者性を肯定し、それを理由に、深夜割増賃金を含む時間外賃金の支払請求は認めなかった点です。

管理監督者1(概要)でも書きましたが、深夜労働については適用除外になっていないため、管理監督者であるというだけでは、深夜労働の割増賃金を支払わない理由にはなりません。

なお、最高裁は、管理監督者に対する深夜割増賃金の支払いについて以下のように述べています。

もっとも、管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約、就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には、その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はない

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者3(東和システム事件)

おはようございます。

さて、今日も引き続き、管理監督者に関する裁判例を見ていきましょう。

東和システム事件(東京高裁平成21年12月25日・労判998号5頁)

【事案の概要】

Y社は、ソフトウェア開発等を営む会社である。

Xは、Y社において、SEとして勤務していた。

Xは、課長代理の職位にあり、職務手当(1万5000円)の支給を受けていた

Y社では、管理職には職務手当のほか、基本給の30%に相当する「特励手当」が毎月の所定内賃金として支払われていた

Xは、Y社に対し、時間外手当および付加金等を請求した。
(Xが一定量の時間外労働をした事実については争いがない。)

Y社は、(1)Xは管理監督者にあたる、(2)仮に管理監督者でなくても、「特励手当」を時間外手当の算定基礎に含めるべきである、などと主張し、争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、割増賃金、付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとわられず、実態に即して判断すべきであると解される。
具体的には、
(1)職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること
(2)部下に対する労務管理上の決定権等につき一定の裁量権を有し、部下に対する人事考課、機密事項に接していること
(3)管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること
(4)自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があること
以上の要件を満たすことを要すると解すべきである。
→Xは、上記要件をみたさない。

2 Xに支給されていた本件「特励手当」は、超過勤務手当の代替または補填の趣旨を持つものであって、特励手当の支給と超過勤務手当の支給とは重複しないものと解せられるから、Xが受給しうる未払超過勤務手当から既払いの特励手当を控除すべきである

3 Y社に対し、付加金の支払いを命じるのが相当ではあるが、Y社の態度がことさらに悪質なものであったとはいえず、その額は未払超過勤務手当額の3割が相当である。 

昨日、見た「日本マクドナルド事件」と規範が異なります。

マクドナルド事件では、「企業全体の事業経営」に関与することが要件とされていました。

ところが、東和システム事件では、「ある部門全体の統括的な立場」にあることが要件となっています。

企業全体か部門全体か、かなり要件が異なります。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

付加金について。

労働基準法第114条
「裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第6項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払い金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は違反のあったときから2年以内にしなければならない。」

つまり、会社としては、未払金の倍額を支払わなければならない可能性があるわけです。

あくまで可能性です。

裁判所は、会社による労働基準法違反の態様、労働者の受けた不利益の程度等諸般の事情を考慮して、支払義務の存否、額を決定します。

本件裁判例では、付加金として3割の支払いを命じました。

 
ちなみに、労基法20条、26条、37条、39条6項は以下のとおりです。
20条・・・解雇予告手当
26条・・・休業手当
37条・・・時間外・休日・深夜労働の割増賃金
39条6項・・・年次有給休暇中の賃金

上記4つのほかは、付加金の請求はできません。

また、付加金については、判決確定の日の翌日から民事法定利率である年5%の遅延損害金も請求できます江東ダイハツ自動車事件・最一小判昭和50年7月17日・労判234号17頁)。

そして、付加金の請求は違反のあったときから2年以内にしなければなりません。この期間は除斥期間であると解されています。

 

管理監督者2(日本マクドナルド事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

やはりトップバッターは、マクドナルドです

日本マクドナルド事件(東京地裁平成20年1月28日・労判953号10頁)

【事案の概要】

Y社は、ハンバーガーの販売等を業とし、多数の直営店を展開している株式会社である。

Xは、Y社の従業員であり、直営店の店長を務めている。

Y社の就業規則では、店長以上の職位の従業員を労基法41条2号の管理監督者として扱っているため、Xに対しては、時間外労働、休日労働の割増賃金は支払われていない。

Xは、Y社に対し、過去2年分の時間外、休日労働分の割増賃金の支払い等を求めた。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、割増賃金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 (職務内容・権限・責任等)
Xは、店長として、人事において、「クルー」の採用、昇格・昇級権限を融資、店舗勤務の社員の人事考課の一次評価を行うなど、労務管理の一端を担っているといえるが、労務管理に関し、経営者と一体的立場にあったとは言い難いし、各店舗の勤務スケジュールを作成し、三六協定や就業規則変更時の意見聴取における使用者側担当者となっていること、店舗の損益計画や販売促進活動、一定範囲の支出などに決裁権限があるといっても、その権限は店舗内に限られており、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない

2 (勤務態様・労働時間管理の状況)
店長の勤務態様につき、労働時間が相当長時間に及んでおり、形式的には労働時間決定に裁量があるとはいっても、勤務体制上の必要性から長時間の時間外労働を余儀なくされているのであり、そのような勤務実態からすると、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない

3 (待遇)
処遇面でも、店長の平均年収が非管理職である下位職制よりも約117万円高いといっても店長全体の10%の年収は、下位職制の平均を下回っており、その40%は44万円上回る程度にとどまっている。また、「インセンティブ」賃金があるとしても、業務達成を条件とし、かつそのうちの多くは店長に限らない措置であるため、代償措置として重視することはできない。

この裁判例によれば、「管理監督者」とは、「経営者と一体的な立場」にあることを要求されます。

店長が、マクドナルドの経営者と一体的な立場で企業全体の事業経営に関与することなどあり得ません。

「管理監督者」の範囲が相当狭いことがわかります。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

管理監督者1(概要)

おはようございます。

さて、以前から検討してみたいと思っていた「管理監督者」の問題について検討していきたいと思います。

今日は、概要だけです。

管理監督者にあたるか否かという問題は、従業員が会社に対し、時間外労働、休日労働の割増賃金等を請求する中で検討されることが多いです。
(深夜労働については適用除外になっていないため、管理監督者に対しても深夜労働の割増賃金は支払わなければいけません。)

労働基準法第41条
この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

「管理監督者」とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。
(なお、「機密の事務を取り扱う者」(略して「機密事務取扱者」)とは、秘書その他職務が経営者もしくは管理監督者の活動といったい不可分であって、厳格な労働時間管理になじまない者をいいます。)

名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであるとされています

具体的には、職務内容、責任と権限、勤務態様等に着目して、(1)労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、(2)現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として認められるとされています。

また、管理監督者にあたるかどうかの判断に当たっては、賃金等の待遇面についても考慮要素となります。基本給、役付手当等でその地位にふさわしい待遇がなされているか、ボーナス等の一時金の支給率等について、一般従業員と比べて優遇措置が講じられているか等についても留意する必要があります。

基本的には3つの要素により判断しています。
1 職務内容、権限、責任等

2 勤務態様、労働時間管理の状況

3 待遇

以上のとおり、管理監督者の範囲は極めて限定されています。

これまで多くの会社で、本来は管理監督者に該当しないにもかかわらず、管理監督者であると解釈し、時間外労働、休日労働の割増賃金を支払ってきませんでした。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

次回以降、裁判例を検討していきたいと思います。

有期労働契約4(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準)

おはようございます。

さて、今日は、厚生労働省の告示「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」について紹介します。なお、この基準は、平成20年1月23日に、一部改正されています。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

(契約締結時の明示事項等)
第1条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)の締結に際し、労働者に対して、当該契約の期間の満了後における当該契約に係る更新の有無を明示しなければならない
2 前項の場合において、使用者が当該契約を更新する場合がある旨明示したときは、使用者は、労働者に対して当該契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準を明示しなければならない
3 使用者は、有期労働契約の締結後に前二項に規定する事項に関して変更する場合には、当該契約を締結した労働者に対して、速やかにその内容を明示しなければならない。
(雇止めの予告)
第2条 使用者は、有期労働契約(当該契約を三回以上更新し、又は雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。次条第二項において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の三十日前までに、その予告をしなければならない。

(雇止めの理由の明示)
第3条 前条の場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。

2 有期労働契約が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。

(契約期間についての配慮)
第4条 使用者は、有期労働契約(当該契約を一回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限る。)を更新しようとする場合においては、当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない。

この基準に関するリーフレットです。
有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(PDF)

労働時間10(事業場外みなし労働時間制その6)

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間制に関する珍しい裁判例を見てみましょう。

日本インシュアランスサービス事件(東京地裁平成21年2月16日・労判983号51頁)

【事案の概要】

Y社は、生命保険会社が行う各種の確認業務を受託する会社である。

Xらは、Y社の従業員として、保険に関する各種確認業務を行っている。

Xらは、Y社から宅急便やメール等で送付される確認業務に関する資料を自宅で受領し、指定された確認項目に従い、自宅から確認先等(保険契約者等)を訪問して事実関係の確認を行い、結果を確認報告書にまとめてY社に郵送やメール等で送付する態様で、自宅を起点に直行・直帰で業務従事しており、情報共有等の目的で原則月1度出社するほかは、Xらが出社することはなかった

Xらの確認業務の遂行については、報告期限は定められていたが、労働時間配分、業務処理の優先順位付け等の作業の段取りは各従業員の裁量に委ねられ、Y社が個別具体的な指示を行うことはなかった

Y社の就業規則では、日曜日が「休日」と定められていた。また、Y社では、事業場外みなし労働時間制が採用されている

Y社は、休日労働に対する割増賃金について、一定の算定方法に基づいて支払ってきた。

Xらは、休日労働について、実労働時間に応じて割増賃金を支払うべきである等と主張し、休日労働手当等の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却(控訴)

【判例のポイント】

1 Y社の従業員の業務執行の態様は、その労働のほとんど全部が使用者の管理下で行われるものではなく、本質的にXらの裁量に委ねられたものである。したがって、本件における雇用契約では、使用者が労働時間を厳密に管理することになじみにくい。

2 本件では、休日労働のあり方も、平日のそれと本質的な差異はないのであるから、休日労働の時間の算定も、平日同様、みなし労働時間制によることが、その業務執行の態様に本質的に適っている
ただ、休日は、「「所定労働時間」や「通常所定労働時間」(労基法38条の2第1項)といったものが存在しないので、みなすべき労働時間が存在せず、これによることができないということすぎない。平日の労働にみなし労働時間制が採用されている場合でも、休日労働は実労働時間によらねばならないという格別の要請が労基法上存在するとは解されない

3 Xらの業務執行の態様からすれば、一定の算定方法に基づき、概括的に休日労働の時間を算定することについても合理性が存する。
この算定方法についての定めは、休日労働に対する時間外手当を支払うという法的な権利の存在を前提とし、それをどのように算定するか、という技術的・細目的な事柄に属するものであり、本質的に使用者に制定する権限があり、その裁量に委ねられている
→この定めについては、恣意にわたるような定め方や、時間外手当請求権を実質的に無意味としかねないような裁量権の逸脱が存するか否かに限って審査すべきである
→裁量権の逸脱があるとまではいえない。

事業場外みなし労働時間制の適用を肯定した裁判例です。

私の知る限り、肯定したのは、この裁判例が初めてです。

また、この裁判例は、平日の労働に事業場外みなし労働時間制の適用がある場合、休日労働についても同制度の適用があると判断しています。

ここからが問題です。

休日には、「所定労働時間」が設定されていないため、どのように労働時間をみなすのかが問題となります。

事業場外みなし労働時間制の適用を肯定する裁判例がなかったので、これまであまり問題とならなかった点です。

この裁判例では、使用者が概括的にみなすことを原則として許容し、裁量権の逸脱の有無に限り審査するという方法をとっています。

平日の所定労働時間とみなす方法でもよい気がしますが・・・。

この事件は控訴されていますので、高裁がどのような判断をするのか楽しみです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

継続雇用制度12(協和出版販売事件)

おはようございます。

今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

協和出版販売事件(東京高裁平成19年10月30日・労判963号54頁)

【事案の概要】

Y社は、書籍の取次業務を業とする会社である。

Y社は、従来55歳定年としてきたが、平成10年5月移行、改正後の高齢者雇用安定法の施行に伴い、60歳定年とし、併せて55歳に達した翌日から嘱託社員としてそれまでの従業員賃金とは別の給与体系とした。

Xは、Y社の従業員である。

Xは、就業規則の変更による55歳到達以降の大幅な給与減額は、就業規則の不利益変更にあたり無効であると主張し、本来支給されるべき賃金額と実際に支給された賃金額との間の差額等を請求した。

【裁判所の判断】

請求棄却(一審も同様)

【判例のポイント】

1 本件就業規則の変更は、定年を延長する面でも、55歳から60歳までの賃金の面でも、退職金の面でも、従業員に不利益に変更された点はなく、就業規則を不利益に変更したものということはできない。
→最高裁における就業規則の不利益変更に関する判断基準によって、変更の法的効力を判断すべき場合ではない。

2 就業規則が、使用者と労働者との間の労働関係を規律する法的規範性を有するための要件としての合理的な労働条件を定めていることは、単に、法令または労働協約に反しない(労基法92条1項)というだけではなく、当該使用者と労働者の置かれた具体的な状況の中で、労働契約を規律する雇用関係についての私法秩序に適合している労働条件を定めていることをいうものと解するのが相当である

3 高齢者雇用安定法では、定年延長後の雇用条件について、延長前の定年直前の待遇と同一にすることは定められておらず、賃金等の労働条件については、基本的に当事者の自治に委ねる趣旨であったと認められるが、同法に従って延長された定年までの労働条件が、具体的状況に照らして極めて苛酷なもので、労働者に同法の定める定年まで勤務する意思を削がせ、現実には多数の者が退職する等、高年齢者者の雇用の確保と促進という同法の目的に反するものであってはならないことも、雇用関係についての私法秩序に含まれる。 

本裁判例は、本件就業規則の変更は不利益変更にあたらず、就業規則不利益変更法理の適用もないと判断しています。

これに対し、第四銀行事件(最二小判平成9年2月28日・労判710号12頁)は、年間賃金の減額を伴う55歳から60歳への定年延長を定めた就業規則の変更は、既得の権利を消滅、減少させるというものではないが、実質的にみて労働条件を不利益に変更するに等しいとし、就業規則不利益変更法理を適用しています

この点については、また別の機会に検討してみたいと思います。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

労働時間9(変形労働時間制その4)

おはようございます。

さて、今日は、1カ月単位の変形労働時間制に関する裁判例を見てみましょうう。

まず、前回も書きましたが、就業規則上は変形労働時間制の基本的内容と勤務制の作成手続を定めるだけで、使用者が労働時間を任意に決定できるような制度は違法です。

この点に関する裁判例として、岩手第一事件(仙台高裁平成13年8月29日・労判810号11頁)があります。

同事件で、裁判所は、以下のとおり判断しています。

労基法32条の2の1カ月単位の変形労働時間制の定めは、就業規則等において変形期間内における毎労働日の労働時間を特定するか、少なくとも始業・終業の時刻を異にするいくつかの労働パターンを設定して勤務割がその組合せのみで決まるようにすべきであり、法定労働時間を超える日や週をいつにするか、その日・週の労働時間を何時間にするかについて使用者が無制限に決定できる定めは、違法、無効である。

また、JR西日本事件(広島高裁平成14年6月25日・労判835号43頁)では、以下のようにも判断しています。

労基法32条の2の要件からは、他の日および週の労働時間をどれだけ減らして超過時間分を吸収するかを示す必要があるため、法定労働時間を超過する勤務時間のみならず、変形期間内の各日および週の所定労働時間をすべて特定する必要があるから、就業規則において、変形期間内の毎労働日の労働時間を、始業時刻、終業時刻とともに定めなければならない

次に、いったん特定された労働時間を変更することは原則として許されませんが、予定した業務の大幅な変動等の例外的限定的な事由に基づく変更は許されるものと考えられます

この点に関し、JR東日本事件(東京地裁平成12年4月27日・労判782号6頁)で、裁判所は、以下のとおり判断しています。

変形労働時間制は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化する制度であるから、各週・各日の変形労働時間をできる限り具体的に特定することを要するが、変形期間開始後に就業規則上の変更条項は、労働者が予測可能な程度に変更事由を具体的に定めることを要する。それを充たさない変更条項は、違法・無効となる。

また、上記JR西日本事件においては、以下のとおり判断しています。

勤務時間の延長、休養時間の短縮およびそれに伴う生活設計の変更により労働者の生活に影響を与え不利益を及ぼす恐れがあるから、勤務変更は、業務上のやむを得ない必要がある場合に限定的かつ例外的措置として認められるにとどまるものと解するのが相当であり、使用者は、いったん特定された労働時間の変更が使用者の恣意によりみだりに変更されることを防止するとともに労働者にどのような場合に勤務変更が行われるかを了知させるため、変更が許される例外的、限定的事由を具体的に記載し、その場合に限って勤務変更を行う旨定めることを要する

このように、一度特定した労働時間を変更するのはとても大変です。

やむを得ず変更する場合には、
1 どのような事情が生じた場合に労働時間の変更があるのかをあらかじめ具体的に定めておく

2 あらかじめ労働者に通知する

3 やむを得ない場合に限った運用をする

という3点に気を付けてください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

継続雇用制度11(宇宙航空研究開発機構事件)

おはようございます。

さて、今日は、継続雇用制度に関する興味深い裁判例を見てみましょう。

宇宙航空研究開発機構事件(東京地裁平成19年8月8日・労判952号90頁)

【事案の概要】

Yは、宇宙航空分野における研究開発の事業を営む独立行政法人である。

Yには、定年退職者等を招聘職員として再雇用する制度がある。

Xは、Yの従業員として「宇宙オープンシステムの研究開発」に従事してきた。

Xは、平成17年2月、満60歳に達し、同年3月31日をもって定年退職した。

Yは、同年2月28日、Xに対し、再雇用の要件である「従前の勤務成績が良好な者」を満たさないことを理由に、定年退職後の再雇用をしない旨通告した。

Xは、「Yにおいて、定年退職後、特別の結核事由のない限り、本人が希望すれば従前と同一の条件を持って再雇用するという労働慣行があるにもかかわらず、再雇用されなかったのは不当である」として、地位確認等を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却。

【判例のポイント】

1 Yにおいては、再雇用を拒否している実績があること、本件再雇用制度の趣旨、独立行政法人であるYの置かれている立場から、希望者全員を従前と同一の条件で再雇用する意思を予め一般的に表示しているとは考え難い。

2 ただし、Xは、当然に再雇用されるものと思い込んでいて、再就職活動をしないまま定年退職の直前を迎え、わずか1か月前に再雇用しない旨の通告を受けたものあって、定年退職後の再就職に差し支えたことが窺えるから、高年齢者雇用安定法等の趣旨に鑑みれば、もっと事前に予告する等の配慮が望まれる

再雇用の要件を満たさないことが明らかになった時点で、できるだけ早めに従業員に伝える方が、再就職活動はしやすくなります。

結論に影響はありませんが、もう少し配慮が必要であったという判断です。

ちなみに、裁判所が、Xのことを以下のように評価しています。

Xは、本件証拠調べの経緯からも明らかなとおり、やや人の話を聴かず、その結果思い込みの強い傾向が窺え、これがYにおける研究内容に関する自己主張の強さ、固さにも表れているところと解される。この点が是正されない限り、招聘職員として再雇用したとしても、Yが期待する業務推進は期待できないのであるから、Yにおいて、人事考課結果を踏まえ、Xを招聘職員として再雇用しない旨判断したことはやむを得ない判断であったものと思料する。

本人尋問でのXの様子が垣間見えます。

Xの代理人としては、まさかこのような評価をされるとは思っていなかったのではないでしょうか・・・。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。