賃金208 インセンティブも最賃法の規制対象?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、インセンティブの賃金該当性に関する裁判例を見てみましょう。

ヤマトボックスチャーター事件(東京地裁令和2年11月26日・労判ジャーナル109号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、基本給及びインセンティブという各名目の賃金の支給を受けていたXが、Y社に対し、最低賃金法4条2項の最低賃金の規制対象となる賃金は基本給のみであり、その額は最低賃金額を下回っていたと主張して、平成28年3月分から同年7月分までに関しては、不法行為に基づく損害賠償金として、最低賃金額を前提に計算した本来支給されるべき賃金額と実際に支給された賃金額との差額相当額等の支払を求め、同年8月分から平成29年4月分までに関しては、労働契約に基づく賃金として同様に計算した差額等の支払を求めた。

原判決は、基本給のみならずインセンティブも最低賃金の規制対象となる賃金に含まれており、その額を含めると労働契約の賃金は最低賃金額を下回っていなかったと判断し、Xの請求をいずれも棄却した。

Xはこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 インセンティブは、労働者の人事考課及び勤務地、又は、労働者の所属する支店及び労働者個人の実績などに基づき、所定の計算方法に従って支給される賃金であり、Xに対しては、営業担当奨励金はXが勤務した全期間の毎月において、営業担当インセンティブは最初の月を除いた全ての月において、それぞれ恒常的に支給されていたものであって、支給根拠の面からも支給実態の面からも、これが「臨時に支払われる賃金」であると評価することはできず、Xは、インセンティブが0円となる可能性を指摘しており、確かに、インセンティブのうち営業担当インセンティブについては、その計算方法をみれば、一定の場合には不支給となる可能性もあり得るといえるが、支給実態をみれば、Xについて、この可能性が現実化し、営業担当インセンティブが不支給となった月は最初の1か月のみであり、稀に支給されるという状況にあったとはいえず、営業担当インセンティブが「臨時に支払われる賃金」に当たるものとは認められず、基本給とともに最低賃金の規制対象となる賃金に含まれることとなり、本件契約のインセンティブをそれぞれ時間給に換算した金額及び基本給の金額の合計額は、最低賃金額を下回るものでない。

「臨時に支払われる賃金」に該当すれば基礎賃金に算入する必要がなくなります。

非常にテクニカルな手法ですので、興味がある方は顧問弁護士にご相談ください。

決して素人判断でなんとなくやるのは避けましょう。

本の紹介1156 ライフピボット(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは、「縦横無尽に未来を描く人生100年時代の転身術」です。

今の時代は、昔に比べて、転職、起業、複業など、人生の方向転換がかなりしやすくなってきました。

あらゆることに固執せず、依存せずに生きていくために必要なマインドセットが書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

どれだけ動こうと思っても足枷がはめられていたら動けないように、ピボットの実現を阻む阻害要因があるのです。・・・それは『お金がない』『理解がない』『時間がない』の三つの欠如です。」(128頁)

多くの既婚サラリーマンがこの3つの足枷をはめられているように見えるのは私だけでしょうか。

自分が選んだ人生と言えばそれまでですが、何か新しいことに挑戦したいと思っても、3つの足枷(のいずれか又はすべて)のせいで諦めざるを得ないこともあると思います。

いろんなことを我慢して、やりたいこともできずに時間だけが過ぎていく・・・。

そうならないために日頃から、自由を制限される選択をしないように細心の注意を払っております(笑)

これもダメ、あれもダメ。これをやってはいけない、あれをしなければいけない。

義務教育かと。

そんな人生、窮屈で窒息してしまいます。

解雇346 正社員採用時における事実不告知を理由に懲戒処分できる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、学生運動関与秘匿を理由とする分限免職処分の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

京都府事件(京都地裁令和2年3月4日・労判ジャーナル108号38頁)

【事案の概要】

本件は、平成29年4月1日付で京都府に条件付採用され、京都府A課に勤務していたXが、京都府知事から同年9月30日付けで分限免職処分を受けたことから、これを不服として、京都府に対し、本件分限免職処分には裁量権の行使を誤った違法があると主張し、行政事件訴訟法3条2項に基づき、本件分限免職処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件訓告を受けたXについて、本件人事院規則10条2号又は4号に準じた分限事由が存在するか否かについて、本件無期停学処分及び本件放学処分の秘匿等の動機、理由として、条件付採用期間中の職員にある者がいわゆる学生運動関与とそれに関わる大学からの懲戒処分といった事実が正式採用に向けて不利に作用するものと憶測するのは自然の情であるものといえ、上記秘匿をもって勤務成績や公務員としての適正を殊更に否定する事情とまではならないというべきであり、また、学生運動は飽くまで、本件条件付採用の1年半以上も前のXがB大学との関係で行ったものであり、京都府とは無関係のものであり、そして、京都府での勤務を開始した平成29年4月以降に、XがB大学全学自治会同学会の学生運動に関与したことはなく、また、Xが、条件付採用期間中の京都府A課での勤務において、勤務成績や適性の面で問題視されるような行動をとったことをうかがわせる証拠も存在しないこと等から、本件分限免職処分は、裁量権の行使を誤った違法があるというべきである。

このように、裁判所は、入社時の「ウソ」にかなり寛大です。

安易に入社時の「ウソ」を理由に解雇をすることは避けるべきです。

しっかり顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

 

本の紹介1155 生き方革命(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

橋下さんと堀江さんの共著です。

これまでにお二人がユーチューブ等でコメントした内容がまとめられています。

社会が求める窮屈で退屈な生き方から1秒でも早く脱したい方は読んでみましょう。

やりたくても、諸般の事情でできない方が圧倒的多数だと思いますが。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

いま求められているのは、起こっている変化を感じ取り、短期集中で変化についていける人間だ。何かを身につけるために、のんびりと何年も学校に通って、昔の人が決めたカリキュラムを惰性で勉強する。・・・そうやってその他大勢といっしょのことをやっていれば、安心できるかもしれないが、他と差別化を図ることができず埋もれていくことになる。」(244~245頁)

塾や予備校のカリキュラムは、大人の事情で、めちゃくちゃのんびりしていることが多いです。

大人の事情を抜きにすれば、1年間のカリキュラムを3か月で終わらせることなんて簡単です。

今の時代は、ほぼすべてのものがスマホでインプットできます。

わざわざ集合の塾に通う合理的理由を見出すことが難しいのではないでしょうか。

家でスマホ見ながらどんどん勉強したほうが圧倒的に早いと思います。

派遣労働29 派遣元に対する派遣法違反を理由とした損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、派遣社員の派遣元に対する損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

イスト事件(大阪地裁令和2年10月15日・労経速107号24頁)

【事案の概要】

本件は、塾等の教育機関への人材派遣等を目的とするY社に派遣の登録をしていたXが、Y社との間で有期労働契約を締結し、その期間満了前に解雇され、その権利ないし法律上保護に値する利益を侵害されたとして、また、仮に労働契約の成立が認められないとしても、Y社が就業条件等を書面で明示しなかったために権利ないし法律上保護に値する利益を侵害されたとして、いずれも不法行為に基づき、解雇がなければ得られたであろう賃金相当額計228万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xに対し、賃金の見込額等に関する就業条件を明示した書面を交付していないけれども、労働者派遣法違反から直ちにXの権利ないし法律上保護に値する利益侵害、あるいは、Y社の故意又は過失が認定されるものではなく、この点、Xが平成30年3月頃、A高校における勤務と同様の条件のB学園における非常勤講師の勤務の紹介を受けていたことやB学園との間で直接「1コマ1万円/月額固定」(2コマ月額2万円)の労働契約を締結していたことに照らせば、仮に平成30年8月30日のCの説明が「1コマ1万円」にとどまっていたとしても、それがXに誤解を与えるような説明であったとはいえないから、Y社は口頭とはいえ賃金の見込額等を伝えていたのであるから、Y社による上記書面の交付がないことによって、Xの権利ないし法律上保護に値する利益が侵害されたとはいえず、また、Y社の故意又は過失があるとはいえない

この論理展開は派遣法に限らず、行政法規全般に使われるものですので是非押さえておきましょう。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

本の紹介1154 More with Less(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは、「働く時間は短くして、最高の成果を出し続ける方法」です。

まさにタイトルのとおりの内容です。

大切なのは、マインドとメソッドです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

働く人に求められるのは、労働の『時間提供者』ではなく『価値提供者』になることです。限られた時間のなかで、自分の価値を最大化する必要があります。徹夜して資料を完成させて苦労をアピールしたり、休日出勤で多忙さを自慢したりするのは、もはや意味がありません。自分の得意なことをやって、より少ない時間で稼がないといけないのです。」(15頁)

時間とお金を等価交換する限り、収入には自ずと限界があります。

ワークライフバランスを維持しながら、生活水準を一定程度に保とうとするならば、時間ではなく価値とお金を等価交換するようにシフトしなければいけません。

そのための第一ステップは、「やらないことを決める」ということです。

自分の得意分野に限定し、そこに力を注ぐことが価値を高める近道です。

解雇345 精神疾患の業務起因性と解雇制限(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、労基法19条1項違反に基づく解雇無効地位確認等請求に関する事案を見てみましょう。

中央自動車工業事件(大阪地裁令和2年11月19日・労判ジャーナル108号16頁)

【事案の概要】

本件は、自動車の修理加工、販売、仲立等を目的とするY社の従業員であったXが休職期間満了により退職扱いとされたところ、XがY社の従業員の嫌がらせにより精神疾患に罹患し休職せざるを得なくなったのであって、Xの休職がY社の業務に起因するため、労基法19条1項により退職扱いとすることができないと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに平成30年6月以降本判決確定の日まで毎月27日限り月額44万6000円の賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、上記Y社の従業員の嫌がらせ又はY社の退職扱いによりXの権利ないし法律上保護に値する利益を侵害され、また、これに対して何らの対応もしなかったY社に職場環境配慮義務違反があるとして、Y社に対し、使用者責任(民法715条1項)、不法行為(民法709条)又は債務不履行(民法415条)に基づき、慰謝料200万円及び治療費等34万5600円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Xが平成28年5月頃、適応障害を発症した旨主張し、これに沿うI医師の意見も存する。しかしながら、Xが平成19年6月23日、うつ病と診断され、その後、多少症状が軽減した時期はあるが、平成28年5月頃まで、抗うつ薬を中止できるような寛解状態には至っていないことからすると、それまでのうつ症状とは異質の、いらいら及び攻撃的な感情の出現を認められることを考慮しても、大阪労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会の意見のとおり、「反復性うつ病性障害(F33)」が自然経過を超えて著しく悪化した可能性を否定できない

2 仮に、XがI医師の意見のとおり、平成28年4月後半頃に適応障害を発病していたとしても、発病前おおむね6か月の間に生じた可能性のある出来事は、別表Y社の従業員による嫌がらせ行為一覧表の番号10(「お前なんか死ね。早よ死ね。」,「アホ!ボケ!」)のみである。
この点、Xは、認定基準においても、いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、発病の6か月前よりも前にそれが開始されている場合でも、発病前6か月以内の期間にも継続しているときは、開始時からの全ての行為を評価の対象とするとされていることを指摘する。
しかしながら、Dによる嫌がらせ行為が継続的に行われていたと認められないことは別表Y社の従業員による嫌がらせ行為一覧表「当裁判所の判断」欄記載のとおりである。
また、発病前おおむね6か月の間に生じた出来事に限定しないとしても、別表Y社の従業員による嫌がらせ行為一覧表のうち、認められる可能性のある出来事は、番号4,5,8,10,11にとどまる。

3 加えて、これらを総合的に考慮したとしても、別表Y社の従業員による嫌がらせ行為一覧表のとおり、これらが継続して行われているとはいえず、また、多人数が結託して行われたともいえない(Dの肩が当たったとしても治療を要するものでない)以上、認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」項目29(「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」)に沿って検討すれば、「強」である例には当たらず、心理的負荷の強度が「強」であるとは認められない
したがって、本件疾病の業務起因性を認めることができない
よって、本件疾病が業務上の疾病に該当することを前提とするXの地位確認請求及び賃金請求にはいずれも理由がない。

精神疾患の業務起因性の判断は本当に難しいです。

本件のように全く問題がないというわけではない事案において、業務上の疾病には該当しないと判断すれば、ほぼ間違いなく訴訟に発展します。

その覚悟を持ち、顧問弁護士に相談をしながら客観的に判断することが求められます。

本の紹介1153 考える術(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは「人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71」です。

著者は、発明家、映像クリエイター、作家の方です。

発想がとても自由で、参考になります。

ますます効率的な社会になっていくからこそ、非効率だけど遊び心のあるアイデアが重宝されるのでしょうね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

いいものより悪いもの、完璧よりダメなもの、強いものより弱いもの、丈夫なものよりもろいもの、合理的なものより無駄なもの、簡単なものより面倒なもの、まじめなものよりおもしろいもの・・・。そんな発想をしながら、ひっくり返したものをさらにひっくり返したり、脇道に思い切りズレたりしながら考える。」(254頁)

これはビジネスをしていく上でも参考になる発想です。

みんなが考える逆を考えてみるのです。

「~らしさ」を裏切る何かを考えてみると、全く新しいアイデアが浮かんできます。

競合他社と競合しているようではダメだということです。

価格競争に巻き込まれるのがオチですから。

より良いものではなく、より違うものを。

従業員に対する損害賠償請求9 従業員の交際禁止合意の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、従業員の私的交際を禁止する合意に違反したことを理由とする違約金請求が棄却された裁判例を見てみましょう。

有限会社MIBプランニング事件(大阪地裁令和2年10月19日・労経速2439号23頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がXに対し、従業員の私的交際を禁止する合意に違反したことを理由とする違約金・損害賠償金合計140万円+遅延損害金を請求する事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XとY社が雇用契約を締結したこと及びY社の求めによりXが本件同意書に署名したこと、Y社が本件始末書を作成したこと及びその時点でY社がXに対する違約金200万円の請求を控えたことは当事者間に争いがない。
しかるに、本件同意書は、使用者であるY社が被用者であるXに対して私的交際を禁止し、これに違反した場合には違約金200万円を請求し、Xはこれを支払う旨合意するものであるところ、これは、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしたりすることを禁じた労働基準法16条に違反しており、無効である。
また、人が交際するかどうか、誰と交際するかはその人の自由に決せられるべき事柄であって、その人の意思が最大限尊重されなければならないところ、本件同意書は、禁止する交際について交際相手以外に限定する文言を置いておらず真摯な交際までも禁止対象に含んでいることや、その私的交際に対して200万円もの高額な違約金を定めている点において、被用者の自由ないし意思に対する介入が著しいといえるから、公序良俗に反し、無効というべきである。

英会話教室やキャバクラ等で同様の契約内容を見かけますね。

違約金等の請求をされると労基法16条の問題として争われ、契約違反で解雇されると、地位確認が争われます。

契約内容については事前に顧問弁護士に相談することをお勧めいたします。

本の紹介1152 死なないように稼ぐ。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

堀江さんが実際に携わっている飲食店の運営について、日頃、どのような工夫や努力をされているのかが書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・だから、やらない理由をゴチャゴチャいってる時間があったら、とりあえず『恥』をかいてみてほしい。恥をかきそうな行動を避け続けていると、自意識が妄想ということにいつまでも気づけない。早く恥をかいて、自由になろう。」(120頁)

「恥ずかしい」という感情から解放されると、余計なことを気にする必要がなくなります。

これは、すなわち、他人から非難・批判されたくないという感情に似ています。

多くの人は、他人からどう思われているかが気になって気になって仕方ないのです。

結果、挑戦することを避け、失敗することを恐れ、できるだけ目立たずに、昨日と同じ毎日をただ過ごしているのでしょう。

他人の評価、評判を気にしすぎです。

そんなもん、放っておけばいいのですよ。