不当労働行為268 退職した組合員の残業代と団体交渉(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職した組合員の在職中の時間外手当等を議題とする団交に応じなかった会社の対応が不当労働行為に当たらないとされた事案を見てみましょう。

鴻池運輸事件(群馬県労委令和2年2月13日・労判1236号104頁)

【事案の概要】

本件は、退職した組合員の在職中の時間外手当等を議題とする団交に応じなかった会社の対応が不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 本件団交申入れのうち、時間外手当に関する部分については、時機を失しており、もはや団体交渉で解決すべき紛争はないものと会社が認識していたとしてもやむを得ない客観的状況が存在していたといえる。そうすると、当該部分が現に雇用関係にない労働者の労働条件に係るものであることを理由に会社がこれを拒んだとしても、正当な理由がなかったとまでは認められない。

2 本件髪切り行為について、会社が「A2の了解のもとに行われており、ハラスメント行為とは認識していない」と組合に回答していることから、会社は、本件髪切り行為そのものは認識していたといえる。
一方で、A2が、退職後、B3が作成した反省文を受領しているとの事情や、本件髪切り行為を行ったB3がC1地方検察庁において不起訴処分となった事実も会社が認識していることも認められる。
これらのことに鑑みると、会社が、本件髪切り行為について、本件団交申入れ時点においては、A2とB3の私人間の問題として既に解決済みの問題であり、その団交申入れが時機を失していると判断したとしても、無理からぬことと思料される。

3 以上のことや上記で述べたことから総合的に判断すると、本件団交申入れのうち、本件髪切り行為に関する部分については、個人間で解決済みの問題であり、もはや団体交渉で解決すべき紛争はないものと会社が認識していたとしてもやむを得ない客観的状況が存在していたといえる。
そうすると、当該部分についても、それが現に雇用関係にない労働者の労働条件に係るものであることを理由に会社がこれを拒んだことに、正当な理由がなかったとまでは認められない。

すでに解決済みの問題と会社が認識していたことが客観的に状況に照らして不合理とはいえないと判断されています。

一般論としては団交拒否を安易にするべきではありませんが、本件のようなケースでは、事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に判断することが求められます。