労働時間67 変形労働時間制の有効要件は?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、変形労働時間制要件不充足と時間外割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

イースタンエアポートモータース事件(東京地裁令和2年6月25日・労判ジャーナル105号48頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXらが、Y社に対し、時間外労働(深夜労働も含む。)の対価としての割増賃金及び付加金の支払を求めた事案であり、(1)X1は、平成27年10月から平成31年1月までの割増賃金として総合計917万7998円+遅延損害金の支払、(2)X2は平成28年12月から平成31年1月までの割増賃金として総合計312万1647円+遅延損害金の支払、(3)X3は、平成29年4月から平成31年1月までの割増賃金として総合計223万8678円+遅延損害金の支払、(4)原告らそれぞれにつき、付加金として前記(1)(2)(3)の各賃金と同額の金員(ただし,原告X1については本件訴訟提起日から遡って2年前である平成28年4月12日以降に支払日が到来するもの)+遅延損害金の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、
X1に対し、917万7998円+遅延損害金、付加金223万8678円+遅延損害金
X2に対し、312万1647円+遅延損害金、付加金312万1647円+遅延損害金
X3に対し、223万8678円+遅延損害金、付加金223万8678円+遅延損害金
を支払え。

【判例のポイント】

1 変形労働時間制の定めは「就業規則その他これに準ずるもの」により定められることが必要とされるが(労基法32条の2)、Y社の○○事業所のように10人以上の労働者を常用する事業所については、就業規則によるべきである。そして、就業規則に変形労働時間制について定めることにより、使用者が労働者に対し1週間に40時間又は1日8時間を超えて労働させることができるようにするには、就業規則において、労働時間が1週間当たり40時間を超える週又は1日8時間を超える日を特定することが必要とされ(労基法32条の2)、月ごとに勤務割表を作成する必要がある場合には、労働者に対し、労働契約に基づく労働日、労働時間数及び時間帯を予測可能なものとするべく、就業規則において、少なくとも、各直勤務の始業終業時刻及び休憩時間、各直勤務の組み合わせの考え方、勤務割表の作成手続及び周知の方法を記載する必要があると解される。
本件規則は、「配車職員の労働時間は毎月16日を起算日とする1箇月単位の変形労働時間制による。」旨記載するのみで、変形労働時間制をとる場合の各直勤務の始業終業時刻及び休憩時間、各直勤務の組み合わせの考え方、勤務割表の作成手続及び周知の方法の記載を全く欠くものであったから労基法32条の2第1項の要件を満たすものとはいえない。また、本件規則は、○○事業所の従業員に対し周知させる措置がとられておらず、この点でも労基法32条の2第1項の要件を満たさない。

2 継続勤務は暦日を異にする場合でも一勤務として取り扱うべきであるから、2暦日にわたる一勤務については、始業時刻の属する日の労働として当該日の1日の労働であると解される。そうすると、本件各契約における本件シフト表の定める勤務時間帯のうち、日勤その1及び夜勤その1は所定労働時間を1日11時間、その他1は所定労働時間を1日17.5時間とするものであったところ、前記のとおり所定労働時間の合意のうち1日につき8時間を超える部分の合意は、労基法32条2項に違反するため、労基法13条により1日8時間に短縮され、1日8時間を超えて労働したときは時間外労働となる。
そして、Y社がこれまでにXらに支払った賃金は、前記のとおり直律効により短縮された所定労働時間である1日8時間に対する対価としての賃金となり、無効になった所定労働時間3時間ないし9.5時間の労働については全く賃金が支払われていないことになるから、1日8時間を超える労働である3時間ないし9.5時間に対する割増賃金としては、労基法37条1項の「通常の労働時間の賃金」の1.25倍の賃金を支払う必要がある

3 X1に対し、1箇月の所定労働時間が170時間程度となっていることを認識させる事実であったといえるが、同時間数がX1の労働契約上の1箇月の所定労働時間の上限であるとか、これを超えないことが労働契約上の取り決めとなっているといった認識を持たせる事実であるとは認め難いから、これらの事実をもって、1箇月の所定労働時間を平均して1週間当たり40時間とする旨の黙示の合意が成立していたと認めることはできない。
また、仮にY社主張の内容の黙示の合意が成立したとしても、労基法32条の2第1項の要件を満たさないため、1日8時間を超えて所定労働時間を定めた部分は同法32条2項に反し無効となり(同法13条、その結果は、前記で判断したのと同様の結論となると解される。

日頃の労務管理がいかに大切がよくわかる事案です。

日常的に顧問弁護士から助言をもらえる体制を整えておけば、このような結果は回避できたものと思われます。

本の紹介1131 経験に学ぶな(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

著者は弁護士の方です。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」ということをさまざまな例示を踏まえて説いています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

上手くいっていた時に『これで大丈夫だ』と安心してしまいました。しかし時代はどんどん変わり、お客さんのニーズも変わっていく。それなのに、うちの会社は自分たちのやり方にこだわって変わろうとしなかった。『これで大丈夫だ』と思った時に成長は止まります。他の会社が伸びている分、自分たちは止まっているという程度の意識でも、実際には下りのエスカレーターに乗っているように、どんどん下降していたんです」(104頁)

これは、著者がある小売業の会社の破産事件を担当していた時に、当該会社の社長から破産の原因として聞いた話だそうです。

あらゆることが、「これでいい」と思った瞬間、衰退がはじまります。

いつまでも過去の成功体験にしがみつくのではなく、常に改良を求める。

仕事も運動も勉強もすべて同じことです。

解雇342 解雇予告手当の除外認定に関する裁判所の考え方(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、窃盗を理由とする解雇と解雇予告手当に関する裁判例を見てみましょう。

石田商会事件(大阪地裁令和2年7月16日・労判ジャーナル105号36頁)

【事案の概要】

本件は、日用雑貨、食料品、書籍雑誌、服飾雑貨、タバコ、酒類の販売等を目的とするY社の従業員であったXがY社に対し、労働契約に基づき、未払時間外、休日及び深夜割増賃金計346万3286円及び平成29年12月支給分の未払賃金5万円+遅延損害金、平成29年9月分から同年12月分の交通費等計8万9584円+遅延損害金、労基法20条1項に基づき、解雇予告手当の一部である21万9519円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、267万4781円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、5万0032円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、4万5601円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、休憩時間が60分であったと主張し、これに沿う供述(陳述書の記載を含む。)をする。しかしながら、Xが応募した求人票及びXがY社と取り交わした雇用契約書には休憩時間150分と記載されている。また、甲号証として提出されたY社の従業員であったKの陳述書では、Xの昼の休憩時間が45分から60分程度であったと記載され、X自身採用面接の際には昼休憩が60分と説明を受けた旨述べている。さらに、昼の休憩に加えて、Xがタバコ休憩をとっており、それがXの認める範囲でも2,3回、1回当たり5分から10分程度あった。加えて、Xが勤務時間に322点も窃盗を繰り返し、窃取のために閉店準備時間まで待ったり、あるいは、窃取した商品をメルカリに出品するため、多数回にわたり、勤務時間に商品の写真を撮ったり、メルカリの顧客とやりとりを行っていた。そうすると、Xの上記供述部分を採用することができず、これらの事情に照らせば、Xの休憩時間は90分、特にa店で窃取を行っていた平成29年7月以降同年12月までについては、原告の休憩時間を120分と認めるのが相当である。
他方、上記のとおり、Xは統括バイヤーとして仕入れ業務等を行っていたこと、Xが応募した求人票では、休憩時間150分と記載される一方、月平均20時間の時間外労働がある旨の記載があり、現実に150分もの休憩を取れるのかは疑問があること(Y社も求人票の記載は統括バイヤーであるXには当てはまらない旨述べる。)等からすると、上記事情やXがバックヤードでさぼっていたとのY社の指摘を考慮しても、Xが150分も休憩をとっていたとまでは認められない

2 Y社は、平成29年12月支給分の賃金減額は、統括バイヤーの解任に伴うものであるから有効である旨主張する。しかしながら、職務手当については、平成27年4月頃にも5万円の減額がされており、また、一方でY社は、職務手当の全額が超過勤務手当であるかのような主張もするなど、職務手当に役職手当に相当するものが含まれているのか、それがどの程度であるのかが判然とせず、Xが統括バイヤーから解任されたからといって、直ちに平成29年12月頃の職務手当の減額が有効であるとは認められない

3 Xは、Y社の商品を322点も窃取したことを理由として解雇されたものであるから、Xの解雇は、労働者の責めに帰すべき事由に基づくものと認めるのが相当である。
よって、Xの解雇予告手当支払請求には理由がない。

「え?除外認定受けなくてもいいの?」と思われる方もいるかと思います。

一般的には以下の規定のとおり、除外認定を受ける必要があります。

【労基法20条】
1 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない
3 前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。

【同法19条2項】
前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない
*「行政官庁の認定」=所轄労基署長の解雇予告除外認定
*ちなみに、20条違反は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(同法119条1号)。

しかしながら、裁判所は、本件裁判例同様、除外認定がなくても、「労働者の責めに帰すべき事由」がある場合には解雇予告手当の支払を不要と解しています。

ただし、非常に危ないので鵜呑みにしないように!!(結果、セーフだっただけですから)

事前に顧問弁護士に相談をしつつ、慎重に対応していきましょう。

本の紹介1130 クリエイティブ思考の邪魔リスト(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

タイトルのとおり、クリエイティブ思考を邪魔するものを15個紹介してくれています。

これらをできるだけ取り除くことによって、よりクリエイティブな仕事ができるようになるということです。

いずれの内容も、奇を衒っておらず、頷けるものです。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

めまぐるしく変化しつづける世の中で、『変わらなきゃ』と思いながらも変われないでいる人は、付き合う人を変えるのがいいと僕は思っています。経営コンサルタントの大前研一さんは、人生が変わる方法は三つしかないと断言しています。1番目は時間配分、2番目は住む場所、3番目は付き合う人。それぞれを変えることで人生が変わる、と。」(123頁)

こんなことは、分かっている人からすると、「何をいまさら」という感じだと思います。

ずっと前からやっているよ、という当たり前のことです。

ある人は当たり前にやり、ある人はどこまでいってもやらない。

世の中とはそういうものです。

いつの世も、成功する人は成功する理由があり、その逆もまたしかり。

やるべきことをやっているかどうか。否、やり続けているかどうか。

ただそれだけの差です。

退職勧奨17 試用期間の延長の可否・程度(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、試用期間の延長の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

明治機械事件(東京地裁令和2年9月28日・労判ジャーナル105号2頁)

【事案の概要】

本件は、産業用機械の制作、販売等の事業を営むY社との間で試用期間のある労働契約を締結していた既卒採用の従業員Xが、Y社に対し、延長された試用期間中に本採用を拒否(解雇)されたところ、その延長が無効であるとともに解雇が客観的合理的理由を欠き社会通念上も相当でなく無効であるとして、雇用契約に基づき、労働契約上の地位確認などを求めるとともに、違法な退職勧奨により抑うつ状態を発症して通院を余儀なくされたなどとして、不法行為による損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

地位確認認容

損害賠償50万円認容

【判例のポイント】

1 本件雇用契約における試用期間は、職務内容や適格性を判定するため、使用者が労働者を本採用前に試みに使用する期間で、試用期間中の労働関係について解約権留保付労働契約であると解することができる。そして、試用期間を延長することは、労働者を不安定な地位に置くことになるから、根拠が必要と解すべきであるが、就業規則のほか労働者の同意も上記根拠に当たると解すべきであり、就業規則の最低基準効(労契法12条)に反しない限り、使用者が労働者の同意を得た上で試用期間を延長することは許される
そして、就業規則に試用期間延長の可能性及び期間が定められていない場合であっても、職務能力や適格性について調査を尽くして解約権行使を検討すべき程度の問題があるとの判断に至ったものの労働者の利益のため更に調査を尽くして職務能力や適格性を見出すことができるかを見極める必要がある場合等のやむを得ない事情があると認められる場合に、そのような調査を尽くす目的から、労働者の同意を得た上で必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長することを就業規則が禁止しているとは解されないから、上記のようなやむを得ない事情があると認められる場合に調査を尽くす目的から労働者の同意を得た上で必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長しても就業規則の最低基準効に反しないが、上記のやむを得ない事情、調査を尽くす目的、必要最小限度の期間について認められない場合、労働者の同意を得たとしても就業規則の最低基準効に反し、延長は無効になると解すべきである。

2 Y社が本件雇用契約の試用期間を繰り返し延長した(1回目の延長及び2回目の延長)目的は、主として退職勧奨に応じさせることにあったと推認され、これを覆すに足りる証拠は存しないから、1回目の延長についても、2回目の延長についても、Xの職務能力や適格性について更に調査を尽くして適切な配属部署があるかを検討するというY社主張の目的があったと認めることはできない

試用期間の延長はそう簡単にはできないことを理解しておきましょう。

また、試用期間中の解雇や本採用拒否は、みなさんが思っているよりもハードルが高いです。

試用期間とはいえ、決して治外法権ではないことを理解した上で、顧問弁護士に相談をしながら進めて行きましょう。

本の紹介1129 学びを最大化するTTPS(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

TTPSとは「徹底的にパクって進化させる」という意味です。

TTPという用語自体は前からありますので、まさにそれを少し進化させたものです。

タイトルだけで言わんとしていることはわかりますね。

あとは、やるかどうかの問題です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・これは仕事でも同じです。『徹底的に』パクるのです。ところが、仕事だと平気で、パクりやすいところだけパクることが少なくありません。ところが、パクりにくいところにこそ、成果を出す秘訣があったりします。そして、パクりやすいところだけを真似しても成果が出ないのです。そして、この方法はうまくいかないという話になってしまうのです。もったいなさすぎます。原因はその『方法』にあるのではなく、『徹底的に』パクらなかったからなのです。」(78頁)

表面的に模倣をしたところで、実際のところ、あまり効果はないと思います。

目に見えない努力まで徹底的に真似をしなければ、たいてい結果には結び付きません。

どんな仕事でも、一見するとわからない日々の地道な努力が輝かしい成果につながっているのです。

仕込み・準備にどれだけ時間と労力をかけるか。

料理人に限らず、すべての職業に共通することです。

メンタルヘルス5 休職命令が無効とされるのはどんなとき?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、休職命令の無効と退職無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

タカゾノテクノロジー事件(大阪地裁令和2年7月9日・労判ジャーナル105号38頁)

【事案の概要】

本件は、医療機器等の製造、販売等を目的とするY社の従業員であったXが、Y社から休職期間満了を理由に退職扱いとされたが、その前提となる休職命令自体が無効であり、Xは退職とならないなどと主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、出勤停止及び休職命令以降の未払賃金+遅延損害金の支払、また、Y社がY社の従業員によるXに対する性的言動を把握した後も配置転換等の適切な措置を取らなかったためにXが適応障害に罹患し、休業を余儀なくされたとして、不法行為又は債務不履行に基づき、休業損害等計412万3384円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

XがY社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

Y社は、Xに対し、582万3803円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、令和元年7月から令和2年3月まで毎月26日限り月額26万3640円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、令和2年4月から本判決確定の日まで毎月26日限り月額26万3640円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xの欠勤が続いていたわけではなかった。B産業医は、Xが適応障害というより、うつ病等他の何らかの精神疾患を発症している疑いがあるとの所見を持っていたけれども、平成29年8月17日、Xと面談した結果、「今、病気の症状は感じられなかった。現時点で、僕がXさんに対して就業制限とかアクションを起こすことはない。」旨述べており、その趣旨は、時短勤務や勤務配慮の必要がないというものであって、B産業医の判断を前提とすると、仮にXが何らかの精神疾患を発症していたとしても、時短勤務等の必要もない状況であり、そうである以上、Xが更に欠勤する必要がある状況ではなかった。加えて、B産業医は、上記面談時点で、M医師がXを診断した場合、何もないと言われると考えており、Y社が本件各受診命令において、Y社担当者立会い等を条件としていたのも、M医師が診断した場合、その診断の当否はともかく、Xの意向を尊重して、適応障害等の精神疾患を再発又は発症していない(あるいは治癒している)との判断がされるものと考えていたためと推測される。そうすると、現にXの欠勤が続いている状況ではなかった上、産業医及び主治医ともXが欠勤する必要があるとは考えていなかったのであるから、Xが私傷病により長期に欠勤が見込まれる、又はそれに準ずる事情があると認めることはできない

2 Y社における賞与は、人事考課等を経て初めて具体的な権利として発生するものであるから、退職扱いがなければ、労働契約上確実に支給されたであろう賃金には当たらない。

主治医及び産業医がともに欠勤の必要性を否定している場合において、それでもなお休職命令を発することは根拠がないと判断されてもやむを得ません。

非常に判断が難しい分野ですので、顧問弁護士に相談することをおすすめします。

本の紹介1128 6つの力を養い、理想の働き方を叶えるトレーニング(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

6つの力とは、「分析力」「決断力」「挑戦力」「行動力」「自己肯定力」「免疫力」を指しています。

著者は、フィジカルトレーナーとして、五輪メダリストやEXILE、名だたるトップ経営者を指導してきたそうです。

帯には「ビジネスマンも、アスリートだ!!」と書かれています。

そのとおりです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

積極的でポジティブな姿勢のもとで決断できる力には、十分な体力が欠かせません。体力に余裕があれば、心にもゆとりが生まれます。意欲や自信、前向きな気持ちも湧きやすく、客観的で冷静な判断もしやすくなります。」(64頁)

タフな仕事を続ける上で、体力が必要不可欠であることは、もはや言うまでもありません。

すぐに疲れてしまうようでは戦に勝つことはできません。

フィジカルとメンタルは密接に関連しているので、体力が衰えると精神的にも意欲や自信を維持できなくなってきます。

私は、以前から週平均4回、ジムで筋トレをし、週1、2回、ボクシングにも通っています。

そのせいか、体力の衰えは全く感じません。むしろ今が一番コンディションがいいのではないかと思うくらいです。

解雇341 自家用車への不正給油と懲戒免職処分(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、自家用車への不正給油と懲戒免職処分に関する裁判例を見てみましょう。

津市事件(津地裁令和2年8月20日・労判ジャーナル105号28頁)

【事案の概要】

Xは、津市の職員であるが、公用車の自動車燃料給油伝票を用いて、Xの自家用車に不正に給油したことを理由に、津市長Aから懲戒免職処分を受け、更に、三重県市町総合事務組合管理者Cから、退職手当等の全額を支給しないこととする退職手当支給制限処分を受けた。
本件は、Xが、津市に対し、本件免職処分が違法であると主張して、その取消しを求める(第1事件)とともに、被告組合に対し、本件制限処分が違法であると主張して、その取消しを求める(第2事件)事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 各非違行為のうち、最も重大な非違行為である非違行為1について見ると、津市の参事であったXは、平成26年8月から平成28年11月までの間に63回にわたって、X車両を使用していたにもかかわらず、給油伝票に公用車の車両番号等の虚偽の記載をして、給油業者及び津市の担当職員を欺罔し、X車両に不正に給油を受け、津市に27万0831円の損害を与えたことが認められる。そして、津市においては、私用車を利用し、その使用料を請求できるのは、当該職員が公用車を利用することが困難な場合等に限定されており、Xの職場の公用車の配備状況からすれば、Xは、X車両を公務に利用する許可を受けて、その使用料を津市に請求することはできなかったのである。
このように、Xは、給油伝票に虚偽の記載を行うという積極的な欺罔行為によって、本来請求し得ないX車両のガソリン代を津市に支出させているのであり、この行為態様やその期間の長さ等に鑑みれば、これは相応に重い非違行為であるというべきであり、本件指針にいう詐取に該当するものであると解される。

2 以上のとおり、Xの非違行為1の態様は相応に悪質なもので、その動機に特段酌むべき事情があるともいえず、Xの地位に照らすと、この非違行為1が公務に及ぼす影響も決して軽視できるものではない。これらの事情を勘案すると、Xがその勤務状況について高い評価を得ていたこと、Xが非違行為の後には反省の態度を示し、津市のために勤務をしていること、Xは全額の被害弁償をしていることなどのXに有利な事情を勘案した上で、免職処分を選択するに当たっては特に慎重な配慮を要することを踏まえても、津市長の判断は、その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認めることはできない。

裁判官によっては、相当性の要件で解雇の有効性を否定することもあり得るかなと思います。

ときどき「え、まじで!?これでも解雇無効なの?」と思ってしまう裁判例を見かけますので、油断はできません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1127 急成長を実現する!士業の営業戦略(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

社労士と行政書士の先生方の共著です。

弁護士になりたてのころは、よくこういう本を読んでいましたが、ここ数年はめっきり減りました。

久しぶりにおもしろそうなので買ってみました。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

自分のレベルを大きく超える仕事は残念ながら入ってきません。最初から利益率が高く、取り組む価値の高い仕事が入ってくることはないのです。依頼された仕事を少しでも工夫して良い仕事にする。その積み重ねがより良い仕事を受託することにつながります。うまくいっていない人を見ると、その少しの工夫、つまり微差を大切にせずに、大きなことをしようとする傾向にある気がします。」(201頁)

まさにそのとおりです。

微差の積み重ねなので、何か大きなことをする必要はありません。

1つ1つの小さな工夫の積み重ねが大切なのです。

これは、対外的な関係のみならず、社内における上司と部下等の関係においても妥当する考え方です。

お願いされる仕事の種類・質は、その人に対する評価の表れです。

愚痴を言っている暇があったら、自分の能力・価値を高める努力をしましょう。