漏水事故15 建物内の漏水について管理組合が応急措置義務を負っていたとはいえないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、建物内の漏水について管理組合が応急措置義務を負っていたとはいえないとされた事案(東京地判令和3年11月2日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者である控訴人が、令和元年11月頃に生じた本件建物内の漏水について本件マンション管理組合である被控訴人に報告したにもかかわらず、被控訴人が本件マンション管理組合規約に基づく被害拡大防止のための応急措置義務を怠ったため、本件建物の売却が困難になり、精神的苦痛を被ったと主張して、被控訴人に対し、債務不履行に基づく損害賠償として、売却が遅延した期間の住宅維持経費、同期間に生ずる利息金、慰謝料等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 確かに、本件マンション管理組合規約によれば、被控訴人(管理組合)は、本件マンションの敷地及び共用部分等の管理を、その責任と負担において行い、その管理する部分の修繕を行うとされており、これらの規定に照らせば、被控訴人は、共用部分等の管理を怠ったために漏水事故が生じた場合には、被控訴人の負担において修繕をすべき義務を負い、当該漏水によって区分所有者らに損害を与えたときは、その損害を賠償する義務を負うものと解される。
しかしながら、控訴人が主張するのは、一般的な修繕の義務ではなく、速やかに応急措置を行うべき義務である。
そして、上記規約には、被控訴人が管理する共用部分等において漏水事故が生じた場合に、これに対する応急措置を行って、被害の拡大を防止すべきことを定める規定は存在しない
そうすると、現に漏水が継続しており、応急措置を採らなければ被害の拡大が避けられない等の特段の事情がある場合には格別、そうでない限りは、上記管理規約に明記された修繕義務を超えて、被控訴人において速やかに応急措置を行う義務を負っているとまでは認め難い。
そして、本件漏水の現地確認が行われた令和元年12月9日の時点では、本件建物の天井に漏水の痕が認められるにとどまっていたこと、控訴人が被控訴人に対して本件漏水を報告した令和元年12月1日以降、令和2年7月17日までの間に、本件建物内において新たに漏水が発見されることはなかったことに照らせば、本件漏水について、被控訴人が、控訴人に対し、上記規約に明記された修繕義務を超えて、速やかに応急措置を行うべき義務を負っていたとまでは認められない
なお、被控訴人は、本件漏水について、その原因調査を行った上で、補修工事の実施について総会決議等を経て、令和2年6月17日に補修工事を完了させており、本件マンション管理組合規約に明記された修繕義務は履行したものと認められる。
以上によれば、被控訴人は、控訴人に対し、速やかに本件漏水に対する応急措置を行い、被害の拡大を防ぐ義務を負っていたとは認められない

管理組合としては、規約で定められている修繕義務は履行していることから、それ以上の義務(速やかに応急措置を行う義務)は負わないと判断されています。

裁判所が規約の内容を重視していることがよくわかりますね。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。