名誉毀損12 管理会社従業員が理事の亡父の名誉を毀損する発言をしたことにつき、遺族に対する不法行為を認めた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理会社従業員が理事の亡父の名誉を毀損する発言をしたことにつき、遺族に対する不法行為を認めた事案(東京地判令和3年10月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告らに対し、被告会社の従業員であった被告Y2が同社の業務中にした発言によって、亡父の名誉及び遺族としての敬愛追慕の情を侵害されたと主張して、被告Y2に対しては、民法709条に基づき、被告会社に対しては民法715条1項に基づき、損害賠償として330万円(慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計)+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告らは、原告に対し、連帯して、5万5000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 死者の社会的評価を低下させる表現は、当該死者の死亡時と当該表現時との期間、摘示事実の真実性の有無、当該表現による当該死者の社会的評価の低下の程度、当該表現の態様、当該遺族と当該死者の関係等を総合考慮し、当該表現が受忍限度を超えて当該遺族の敬愛追慕の情を侵害する場合に、当該遺族に対する不法行為に当たると解するのが相当である。
これを本件について検討すると、本件発言は、一般の聴取者の普通の注意と受け取り方を基準とすれば、原告の父であるBが本件管理組合の金銭を横領した事実を摘示したものであり、その社会的評価を著しく低下させるものであったこと、短時間の間になされた口頭による発言であるものの、4回にわたって同一の内容を繰り返す態様であったことが認められ、他方、同摘示事実が真実であると認めるに足りる証拠はない
また、Bの死亡から本件発言までの期間は約3年4か月と比較的短期間であること、原告はBの子であることに照らすと、死者に対する肉親の敬愛追慕の情はなお強かったと認められる。
以上を総合考慮すると、本件発言は、受忍限度を超えて原告のBに対する敬愛追慕の情を侵害したものと認められるから、被告Y2の原告に対する不法行為に当たる。

2 これに対して、被告らは、本件発言当時、本件総会の会場にはごく少数の者しかいなかったとして、同発言が公然性を欠く旨主張するが、本件発言は少なくとも17名が出席した本件総会が開始される約5分前から約4分前になされたものであり、全員ではなくとも相当数の出席者が既に同総会の会場に到着していたと認められること、同会場が面積40平方メートル程度の広くない会議室であって同発言が同当時に会場内に居た者に聴取可能であったと認められることに照らすと、被告らの主張は採用することができない。
また、被告らは、本件発言の摘示した事実が虚偽ではない旨、虚偽であるとしても被告Y2が虚偽であることを確信していなかった旨を各主張し、真実性又は真実であると誤信したことにより違法性又は責任が阻却される旨の主張と解する余地があるが、本件管理組合がBの経営していた訴外会社に対して従前請求をし、東京地方裁判所が同請求を認容する判決をしたことが認められるものの、訴外会社に対する本件管理組合の不当利得返還請求が認容された事実とBが本件管理組合の金銭を横領した事実が同一であるとはいえないし、被告Y2が本件発言の摘示事実を虚偽でないと信じていたとしても、被告Y2の原告に対する不法行為責任の成否を左右するものとはいえないから、被告らの主張は採用することができない。

Y2の発言は以下の通りです。
「先生のお父さんが,この管理組合で,管理費用を私的流用なさったじゃないですか。」
「私的流用なさったでしょ。」
「私的流用なさったんで裁判になったじゃないですか。」
「私的流用なさったんで訴訟になったんじゃないですか。」

死者の社会的評価を低下させる発言についても一定の要件を満たす場合には、遺族に対する不法行為が成立しますので注意しましょう。

加えて、裁判所の認定する慰謝料額の相場観も押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。