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今日は、警備会社が居住者でない者の要請に応じて居室の開錠をしたために居室内の架電が窃取された事案において警備会社の責任が否定された理由とは?(東京地判平成28年10月17日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
控訴人は、マンションの居室を区分所有しているところ、同マンションの管理会社から警備業務を委託された被控訴人が、居住者でない者の要請に応じて上記居室の開錠をしたために、上記居室内に備え付けられていた控訴人所有の家電が窃取され、同マンションの安全管理上の問題が生じたため上記居室を賃貸することができなくなったと主張して、被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償として、窃取された家電の購入代金相当額14万3316円及び賃料6か月分の逸失利益120万円+遅延損害金の支払を求めた。
原審が控訴人の請求を棄却したため,控訴人がこれを不服として控訴した。
【裁判所の判断】
控訴棄却
【判例のポイント】
1 被控訴人は、警備契約に基づき本件マンションの警備を担当することとなったものであり、契約関係にない区分所有者及び居住者に対して、警備契約に基づく債務を直接に負担するものではない。しかしながら、管理組合は区分所有者によって構成されるものである(マンション管理適正化法2条3号、区分所有法3条)ところ、同組合が管理会社に対し本件マンションの管理を委託し、管理会社が被控訴人に対し本件マンションの警備を委託した関係にあることに徴すれば、区分所有者が管理組合及び管理会社を介して警備会社に本件マンションの警備を実質的に委託した関係にあるともみることができる。
加えて、本件マンションの警備が不十分であるときは、区分所有者ないし居住者の物的、人的安全が侵害される危険性があることを併せ考慮すれば、被控訴人には所有者及び居住者の物的、人的安全が侵害されないようにする不法行為上の注意義務が課せられているというべきであり、要請を受けて居室の開錠を行うに当たっては、所有者ないし居住者以外の者の要請に基づき開錠を行わないようにする注意義務が課されていると解するのが相当である。
2 控訴人は、被控訴人が上記義務を尽くす上で、具体的義務として、緊急連絡先に申請人が居住者として記載されていない場合においては、管理会社に連絡して、居住者か否かを確認すべき義務があったとする。
しかし、被控訴人が警備業務を請け負っている都内マンションでは、住民が変わっても緊急連絡先がその都度、提出されず、実際の住民と緊急連絡先に記載されている者が異なることがままあり、居住者の名前が緊急連絡先に記載がされている者と異なる居住者からの開錠を目的とする出動要請も珍しいことではない。居住者の名前が緊急連絡先に記載されていない場合には常に管理会社に連絡しなければならないとすると、多くの場合には問題がないにもかかわらず、管理会社に連絡して確認ができるまで居住者の入室を拒むこととなり、開錠を求める居住者の便益を損ねる可能性がある。
他方、居住者の確認を相当と認められる方法で行うことができるのであれば、区分所有者ないし居住者の物的、人的安全の確保と居住者の便益の確保との調和を図ることができる。
被控訴人は、かかる観点から、身分証明書で居住者であることの確認ができる場合においては、管理会社に連絡をしない取扱いをしていたのであり、かかる取扱いには合理性があり、かかる取扱いをしたことに過失があったとはいえない。
そして、居住者の確認方法として、免許証等の写真付きの身分証明書があれば、その身分証明書により、これがないときは公的機関の発行した身分証明書等や公共料金の利用明細書等の2点をもって本人か否かを確認するというものであり、その方法も合理的である。
公的機関の発行する身分証明書は一般に偽造は容易ではないし、これを所持する者が本人である蓋然性が高いからである。また、公共料金の利用明細書も一般に偽造が容易とはいえないし、当該居室の公共料金が申請人名義で支払われていることからすれば、当該居室に申請人が居住している蓋然性が高い。これらを組み合わせて2点で確認する方法は本人確認方法として是認されるというべきである。
本件マンションでのこれまでの対応状況及び警備会社の居住者の確認方法の合理性から過失が否定されました。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。