駐車場問題16 駐車場の湿度を常時70%以下とする義務があるにもかかわらず、湿度90%の状態にすることにより車両に大量のカビを発生させたことを理由とする管理組合に対する損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、駐車場の湿度を常時70%以下とする義務があるにもかかわらず、湿度90%の状態にすることにより車両に大量のカビを発生させたことを理由とする管理組合に対する損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和4年2月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、①被告管理組合との間で本件車両について駐車場契約を締結した原告X1が、被告管理組合に対し、本件駐車場の相対湿度を常時70%以下とする義務があるにもかかわらず、湿度90%で、本件車両の仮置き場の鉄板の下に水が溜まっている状態にして駐車場の管理を怠ったため本件車両に大量のカビを発生させたと主張して、債務不履行に基づく損害賠償請求により、修理費用、車両保管費用、駐車場料金、弁護士費用の損害合計231万2392円+遅延損害金の支払を、
②本件車両の所有者である原告X2が、被告らに対し、上記義務を怠ったことが不法行為に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)により、修理費用、車両保管費用、弁護士費用の損害合計225万4876円+遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、
③原告らが被告らに対し、車両保管費用(日額3300円)を将来に渡り請求する必要があると主張して、前記②と同じ不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)により、本件提訴日の翌日である令和2年3月24日から本件車両の修理が終了してその保管が終了するまで日額3300円の割合による車両保管費用の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件駐車場契約の法的性質が民法上の賃貸借契約であることは当事者間に争いがないところ、賃貸人は、契約内容に従った使用収益に適した状態において目的物を賃借人に引き渡す義務だけでなく、引渡し後も、かかる使用収益をさせることに努めるべき義務をも負担するものと解される(民法601条参照)。
そうすると、本件駐車場内の駐車車両にカビが生えるような湿度の状態を継続しこれを放置することは、かかる賃貸人の義務に違反する余地があり、原告らの主張はかかる趣旨を含むものと善解し得る。

2 本件駐車場は地下2階に位置し、東京都における平均湿度(外気)は令和元年6月が81%、同年7月が89%で、令和2年8月の本件駐車場内の湿度が午後5時から6時の間で72%から85%であったことからすると、令和元年6月から同年7月頃の本件駐車場内の湿度は梅雨時のため元々高めであったものと推察される。
しかしながら、・・・本件車両と同一区画に停めていた原告X2所有の他の3台の車両やその他の契約者車両(本件駐車場全体で100台前後の車両があった)にカビが発生していないこと、本来、車両の維持管理は所有者が行うべきことであり、特に本件駐車場は地下2階に位置し、梅雨時は元々湿度が高くなるのであるから、まずは原告X2が定期的に車両を外気にさらすなどしてその維持管理に努めるべきことを併せ考慮すると、被告管理組合がカビの生えるような高湿度の状態を放置し、本件駐車場について使用収益に適した状態で原告らに使用収益させることに努めるべき義務を怠ったとまではいえない。

3 本件駐車場内に停めていた車両のうちカビが発生したのは本件車両のみであったことに加えて、前記前提事実及び認定事実によれば、本件車両が平成9年登録の中古車両で、長期間の使用によりハンドル等の手が触れる部分に手垢や油脂等が付着していたとしても何ら不思議ではないこと、原告X2は、平成31年1月25日以降、車検切れのため本件車両を外に出して運転することができず、本件車両を外気にさらしていなかったことが認められる。
そして、原告X2が、令和元年8月2日、アルコールで一旦拭き取ったカビが同月14日に再度生えてきたことからすると、カビの胞子等がハンドルの奥まで入り込んでいたことがうかがわれ、更に、ハンドルの写真について、カビが見えないところから写真の状態になるまで半年以上を要する可能性が指摘されている。
これらの事情を総合すると、本件カビの発生は、本件駐車場内の湿度が本件工事の影響により一時上昇したことが一因となった可能性はあるものの、そもそも原告らによる本件車両の維持管理方法に問題があったというべきであり、本件工事が開始された令和元年6月10日よりも前から又はこれと同じ頃から本件工事とは無関係に本件カビの発生が始まっており、それが梅雨時で目に見える状態にまで増殖した可能性が高いというべきである。
そうすると、仮に被告管理組合に前記義務違反があったとしても、本件工事以前から又はこれと無関係に本件カビが発生していたことが否定できない以上、義務違反と本件カビの発生との間に相当因果関係があるとは認められない

管理組合の善管注意義務違反の有無という観点と相当因果関係の有無という観点の両方からアプローチしています。

特に相当因果関係に関する解釈の展開は、とても参考になるので確認しておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。