退職勧奨6(東亜シンプソン事件)

おはようございます。

さて、今日は、降格・減給に関する裁判例を見てみましょう。

東亜シンプソン事件(東京地裁平成21年3月27日判決)

【事案の概要】

Y社は、靴・時計・光学機器の輸入及び販売、スポーツ・レジャー用品の輸入及び販売等を主たる目的とする会社である。

Xは、平成9年4月、Y社と期間を定めずに労働契約を締結し、その後平成19年5月まで就労した。

Xは、以下のとおり主張し、Y社を相手としてY社による降格・減給が無効である等と主張した。

すなわち、Y社は、長年、Xを含む従業員の業務行為を常時監視カメラで監視し、些細なミスや不備も叱責や厳重注意の対象とし、従業員の勤務態度を厳しく規律してきた。Y社の方針に少しでも異議を唱え、Y社の意にそぐわない従業員に対しては配置転換、降格・減給処分のほか、パワーハラスメントによる制裁を科し、従業員の要求、不満を徹底的に抑えるという方法を採用してきた。

【裁判所の判断】

一定の限度でのみ減給の有効性を認め、それを超える減給・降格は人事権の濫用として無効

Xの解雇に至るY社の対応は不法行為に該当するとして慰謝料50万円を認めた

【判例のポイント】

1 Xの勤務成績は、入社当初は極めて良好で、Y社は、Xを課長代理、課長に昇進させた。Xは、平成17年夏以降、その勤務状況、勤務態度が悪化し、仕事に対してまじめに取り組まないようにあった時期があった。具体的には、日中は仕事らしい仕事をしない状況が続き、仕事を放置することも繰り返したほか、長時間にわたり、私用電話を繰り返し、他の従業員の業務に支障が出ることもあった。

2 平成17年夏ころ以降Xの勤務態度が悪化したというのであるから、平成17年12月から能力給を3万円ずつ減額したことは、平成17年12月以降も更に勤務態度が悪化し続けたという証拠もなく、また、減額の幅も大きいことに照らすと、人事権の濫用であるとの評価を免れない

3 次に、平成18年11月に課長代理に降格したことについても、この時期に更に勤務態度が悪化したことを裏付ける証拠は提出されていないことから、上記同様人事権の濫用であるとの評価を免れないというべきである。

4 Y社代表者は顧問と相談した後、Xを呼び入れ、「当初は大変厳しい状況にあるので、X君は退職届を出してください。」とXに言い渡した。これに対し、Xは、「私は、働く気は満々です。やむを得ず解雇だというのであれば、そちらこそ解雇の通知を出してください。」と答えたところ、Y社の顧問であるLは、「あなたに出す文書は一枚もない。」と答えた。
以上によれば、Y社は、労働条件の改善を訴えたXを嫌悪して退職を迫ったものと認められ、これが代表者自らによって行われたこと、その語調の厳しさに照らすと、単なる退職勧奨ではなく、解雇と評価すべきである
したがって、Y社は、解雇予告手当の差額を支払う義務がある。

5 Xを解雇するに至るY社の対応は、法律上当然の要求をしたことでXを嫌悪し、解雇するに至ったというのであり、その態様は悪質であり、不法行為を構成するというべきであり、Xの被った精神的苦痛を慰謝する金額としては50万円をもって相当と認める。

この事案は、一般的には退職勧奨の違法性が争点となるところです。

ところが、原告は、これを単なる退職勧奨の問題とせず、解雇の有効性を争点としました。

Xは、Y社の退職勧奨に応じて退職届を提出したにもかかわらず、です。

非常に興味深い判決です。

退職勧奨の際は、顧問弁護士に相談しながら、慎重に進めることが大切です。