Daily Archives: 2011年11月22日

労災48(富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ事件)

おはようございます 

昨夜は、原発問題についての勉強会の後、フェイスブックでいつもお世話になっている先輩弁護士のI先生と偶然お会いし、一緒にお食事をしました I先生、ご馳走様でした。 今後ともよろしくお願いいたします。

料理の写真、撮るの忘れた・・・

今日は、午前中、遺産分割調停が入っています。

午後は、建物明渡しに関する民事調停、労働事件に関する裁判が入っています。

夜は、事務所スタッフの誕生日会です 

さて、今日は、プログラマーの労災に関する裁判例を見てみましょう。

富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ事件(東京地裁平成23年3月25日・労判1032号65頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピューターソフトウェアの研究・開発、システムインテグレーション・サービスの提供等を目的とする会社である。

Xは、専門学校を卒業後、平成14年4月にY社に雇用され、さまざまなプログラムの作業チームに配属され、プログラム作成、修正、機能確認テスト、画面プログラム作成等の業務に従事していた。

Xは、規模の大きなプロジェクトに配属される前から、継続的に、相当程度長時間に及ぶ時間外労働に従事することを余儀なくされ、上記プロジェクトに配属された平成15年4月には、時間外労働時間が大幅に増加して月100時間以上に達し、同年9月に至るまで、継続的に、相当程度長時間に及ぶ時間外労働に従事せざるを得ず、その間、徹夜の作業や休日出勤もあった。しかしながら、Xの在任中、上記プログラムには全く増員がなかった。

Xは、その後、2度、休業を余儀なくされ、精神疾患の薬物の過量服用を原因とする急性薬物中毒によって死亡した。

【裁判所の判断】

川崎北労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労災保険の危険責任の法理及び「ストレス-脆弱性」理論の趣旨に照らせば、業務の危険性の判断は、当該労働者と同種の平均的な労働者、すなわち、何らかの個体側の脆弱性を有しながらも、当該労働者と職種、職場における立場、経験等の点で同種の者であって、特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準とすべきである。このような意味での平均的労働者にとって、当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発病させ死亡に至らせる危険性を有しているといえ、特段の業務以外の心理的負荷及び個体側の要因のない場合には、業務と精神障害発病及び死亡との間に相当因果関係が認められると解するのが相当である。
そして、判断指針・改正判断指針は、いずれも精神医学的・心理学的知見を踏まえて作成されており、かつ、労災保険制度の危険責任の法理にもかなうものであり、その作成経緯や内容に照らして不合理なものであるとはいえない。
したがって、基本的には判断指針・改正判断指針を踏まえつつ、当該労働者に関する精神障害発病に至るまでの具体的事情を総合的に斟酌して、業務と精神障害発病との間の相当因果関係を判断するのが相当である
なお、改正判断指針は、処分行政庁による本件処分時には存在しなかったものであるが、判断指針・改正判断指針は、いずれも裁判所による行政処分の違法性に関する判断を直接拘束する性質のものではないから、当裁判所は、判断指針のみならず、改正判断指針に示された事項をも考慮しつつ、総合的に本件処分の違法性を検討するものとする

2 被告は、Xの発病した精神障害を原因として必ず過量服薬の傾向が生じるわけではないし、Xが、処方されていない薬物を自ら入手してまで服用したり、処方された薬物を過剰に所持したりしていた上、産業医のほか、主治医の指導にもかかわらず、過量服薬を継続して、時には入院治療を勧められながらもこれを拒否して自ら適切な治療の機会を逸したことなどの諸事情によれば、Xの過量服薬は、X個人のパーソナリティを原因とするものであると解すべきであり、Xの発病した精神障害と過量服薬による死亡との間には、相当因果関係が認められないと主張する。
しかし、本件全証拠をもってしても、Xに発病した精神障害以外に過量服薬の原因となるような疾病の存在はうかがわれないし、被告主張に係るXのパーソナリティがその過量服薬の傾向に如何なる機序で影響を及ぼしているかについての医学的知見は存在せず、必ずしも明らかになっているとはいえないといわなければならない。そして、これまで判示してきたところによれば、Xが、自らに発病した精神障害の症状としての睡眠障害や希死念慮等に苦しみながら、その影響かにおいて薬物依存傾向を示すようになり、過量服薬の結果、死亡するに至った経緯が認められるのであるから、精神障害の発病と過量服薬の結果としての死亡との間に、法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)を肯定することができるというべきである

事案が少し特殊ですが、裁判所の判断方法としては、オーソドックスなものだと思います。