労働時間48 病院における休憩時間は手待時間?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、常勤・非常勤による労働と労働時間算定等に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人社団E会(産科医・時間外労働)事件(東京地裁平成29年6月30日・労判1166号23頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、雇用契約に基づき次の金員の支払を求める事案である。
(1)平成24年7月1日から平成26年4月20日までの所定時間外、法定時間外及び深夜の労働に係る残業代合計1761万8939円+遅延損害金
(2)付加金

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、1525万9177円+遅延損害金、8万9615円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 労働契約において、労働の時間帯、態様等に応じて異なる内容の賃金が定められている場合において、どちらに基づいて残業代算定のための「通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額」(労基法37条1項)を認定すべきか、問題となる。
労基法施行規則23条は、本来の業務とは別の「宿直又は日直の勤務で断続的な業務」につき、労働基準監督署長の許可を得ない限り労働時間の規制から除外しているが、宿直又は日直の勤務でも「断続的な業務」に当たらないもの又は労働基準監督署長の許可を得ないものは割増賃金に関する労働基準法37条を含む労働時間に関する規定が適用されるから、本来の業務に係る賃金が「通常の労働時間又は労働日の賃金」に当たり、本来の業務に係る賃金に割増を加えた賃金が支払われるべきと解される。この場合、宿直又は日直の勤務に係る宿日直手当その他の特別の賃金が定められていても、宿日直手当は、労働基準法施行規則23条に基づいて労働時間に関する規定の適用から除外されて割増賃金が発生しないことを前提とするものであり、宿直又は日直の勤務が全体として許可その他の適用除外の効力発生要件を満たしていないにもかかわらず、宿日直手当の金額に限って労働者に不利な効力を認めるべきではないから、「通常の労働時間又は労働日の賃金」には当たらないと解すべきである。本来の業務の延長であって「断続的な業務」に当たらない、又は宿日直手当が低廉に過ぎるものと判断されて労働基準監督署長の許可を得られないこともありうるところ、本来の賃金額を割増した割増賃金でなく、宿日直手当又はこれに宿日直手当若しくは本来の業務に係る賃金を基礎とした割増分のみを加えた賃金の支払で足りるものとすると、結局、使用者は、宿日直手当を低廉に定めることで、労働基準法施行規則23条の要件を満たさなくとも時間外労働等に伴う経済的負担を軽減できることになってしまい、相当でない
以上のよれば、Xの当直勤務については、本件常勤契約に基づく日勤に係る年俸を基礎賃金として、時間外労働等の残業代を計算すべきである。

2 使用者が当座従事すべき業務がないときに労働者に休息を指示し、又は労働者の判断で休息をとることを許していても、休息の時間を「午後○時○分まで」「○分間」などと確定的に定めたり、一定の時間数の範囲で労働者の裁量に任せたりする趣旨でなく、一定の休息時間が確保される保障のない中で「別途指示するまで」「新たな仕事の必要が生じる時まで」という趣旨で定めていたに過ぎないときは、結果的に休息できた時間が相当の時間数に及んでも、当該時間に労働から離れることが保障されていたとはいえないから、あくまで手待時間であって、休憩時間に当たるとはいえないというべきである。

3 Y社の労働時間の否認には一部理由がある。賃確法6条2項、同法施行規則6条4号、5号によれば、「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争っている」場合又はこれに準ずる事由の存する期間は同法6条1項の年14.6パーセントの利率の適用を免れることができるから、本判決が確定するまでの間は、上記利率の適用を免れることができ、遅延損害金の利率は民法所定の年5パーセントにとどめるべきである。ただし、本判決が確定すれば、上記期間に当たらないことは明らかであるから、本判決確定の日の翌日以降は上記利率を適用すべきである。

上記判例のポイント2については、病院での勤務状況に鑑みれば使用者側の主張も理解できないことはありませんが、労基法上の議論としてはやはり難しいものがあります。

これから先ますます人手不足になってきますので、このような問題は立法上解決されない限り争いはなくならないでしょうね。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。