Daily Archives: 2010年8月27日

競業避止義務3(サクセス事件)

おはようございます。

今日は、競業避止義務違反に関する最高裁判例を見てみましょう。

サクセス事件(最高裁一小平成22年3月25日判決・労判1005号5頁)

【事案の概要】

X社は、産業用ロボットの設計・製造、金属工作機械部品の製造等を行っていた。

従業員Yらは、X社を退職し、退職後間もなくして、X社と競合するA社を設立した。

X社とYらとの間には、退職後の競業避止義務に関する特約(労働契約、誓約書など)または就業規則の規定はなかった。

A社は、X社の取引先であるZ社から仕事を受注し、その後も継続的にZ社から仕事を受注した。

その後、A社は、Z社の取引先である他の会社3社からも継続的に仕事を受注するようになった。

X社は、A社、Yらに対し、競業避止義務違反による債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

競業避止義務違反、不法行為ともに否定。

【判例のポイント】

1 (1)営業担当であったYは、X社の営業秘密にかかる情報を用いたり、その信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行ったとは認められないこと、(2)本件取引先のうち3社とA社との取引は、Yらの退職の約5か月後に始まったものであるし、1社については、X社が営業に消極的な面もあったのであり、X社と本件取引先との自由な取引が本件競業行為によって阻害されたという事情はうかがわれず、また、YらがX社の営業が弱体化した状況を殊更利用したともいいがたいこと等の諸事情を総合すれば、本件競業行為は、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできず、X社に対する不法行為には当たらない。

2 前記事実関係等の下では、信義則上の競業避止義務違反があるともいえない。

本件では、X社には、競業避止義務に関する規定はありませんでした。
また、誓約書もとっていませんでした。

そこで、X社は、競業避止義務について、雇用契約に付随する信義則上の義務であると構成しました。

判例・学説は、在職中の競業避止義務については、信義則上の誠実義務(付随義務)として当然に生ずるが、退職後のそれについては、労働契約、誓約書等の特約または就業規則の明示の根拠が必要であるとしています。

本件のように、退職後の競業避止義務に関する特約等がない場合には、不法行為構成をとることになります。

本件下級審における規範は以下のとおりです。

一審(名古屋地裁一宮支部)
 「退職前に知り得た営業秘密を利用したり、取引上逸脱した方法、態様で営業上の利益を侵害するなどの事情が認められる場合に限られる」

二審(名古屋高裁)
社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で雇用者の顧客を奪取したとみられるような場合等

表現方法は異なりますが、考え方自体は基本的に同じです。

それにもかかわらず、一審は、不法行為を否定し、二審は、一部肯定しました。

これは、事実認定により結果が異なったというわけですね。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。