Daily Archives: 2010年11月30日

労災12(NTT東日本北海道支店事件)

おはようございます。

今日は、午前中1件裁判と外部の法律相談。

午後は、外部の法律相談、打合せ3件という流れです。

そのため、ほとんど事務所におりません

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

NTT東日本北海道支店事件(札幌地裁平成21年11月12日・労判994号5頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の札幌での研修期間中、夜に帰省し、翌々日、先祖の墓参りに出かけた際に急性心筋梗塞を発症し、死亡した(死亡当時58歳)。

Xは、平成5年5月の職場定期健診で心電図の異常が見つかっており、同年8月には冠状動脈血管形成術の入院手術を受けているほか、継続して診察・投薬を受けていた。

Xは、基礎疾患があったが、研修に際し、管理医と面談し、体調に特別の問題がなかったことから、研修に参加できると判断した。

【裁判所の判断】

旭川労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 業務上の死亡とは、業務と死亡に至らせた負傷又は疾病との間に相当因果関係が認められるものをいう。
心筋虚血(虚血性心臓疾患)は、通常、基礎となる血管病変等が、日常生活上の種々の要因により、徐々に進行・増悪して発症に至るものであるが、労働者が従事した業務が過重であったため、血管病変等をその自然の経過を超えて増悪させ、急性心筋虚血を発症させた場合には、業務に内在する危険が現実化したものとして、業務と急性心筋虚血との相当因果関係を認めることができる

2 構造改革に伴う雇用形態の選択について、Xは、平成13年4月のNTT東日本の事業構造改革が発表されてから、雇用形態の選択について悩み、健康状態を悪化させたことが認められる

3 研修の内容については、本件研修中は時間外労働はなく、労働時間の点では大きな負荷はなかったし、心臓に疾患を抱えるXにとって、50歳を過ぎて全く新しい分野の知識の習得を強いられる本件研修は、心身に負担のかかるものであったことは否定できないけれども、新しい業務分野の研修が参加者にとって通常業務以上の負担になることは通常のことであり、本件研修はその内容面で過重なストレスであったとは認められない。

4 研修中の宿泊状況について、東京研修中には4人部屋で、札幌研修中の一部の時期には2人部屋での宿泊であったところ、Xは普段の生活リズムが乱され、心身が休まらない状態にあったことがうかがえるが、東京研修中の宿泊環境が死亡につながるほど大きなストレスを与えるものであったとは考えにくく、死亡直前の札幌での研修中は1人部屋に宿泊していたことからすれば、それまでの宿泊によるストレスが残存して死亡につながったとは認められない。

5 しかし、本件研修の日程や場所については、本件研修は、4月末からの連休後は札幌での10泊11日に続いて東京での11泊12日、さらに札幌での4泊5日の研修が続くという日程であったところ、Xは、心臓手術を受けた後、医師の指導に従い、レジャーとしての旅行も避けていたのであって、出張の連続はXの心臓にとって大きな負担となったことがうかがわれる。
本件研修は、その日程や実施場所に照らし、Xの心臓疾患を自然的経過を超えて増悪させ、急性心筋虚血を発生させたものというべきである

6 Xの危険因子につき、Xの心臓は比較的安定していたこと、事業構造改革発表前はコレステロール値を下げてきていたことから、業務とは関係なく家族性高コレステロール血症等の危険因子が心疾患を突然悪化させたとは認められない。

本件については、行政訴訟とは別に不法行為に基づく損害賠償請求訴訟も提起されています。

民事訴訟では、以下の結論となっています。

第一審 逸失利益3086万余円、慰謝料2800万余円

第二審 同上

上告審 Xの死亡は基礎疾患の存在が原因の大半を占めているものとし長期間にわたる出張の連続がXの有していた基礎疾患を自然的経過を超えて増悪させたことは死亡の原因のうち30%を占めるとした

民事訴訟に関しては、最高裁で過失相殺されています。

しかも、70%の過失相殺です。

この最高裁判例以前にも、交通事故事案において、最一判平成4年6月25日が既往症の斟酌を認めていますが、上記NTT東日本・最高裁判決により初めて労災の場面においても既往症が斟酌されることが明らかになりました。

最高裁のこの判断には、賛否があるところです。

その後、差戻審の札幌高裁でも、同様の判断がされています。

なお、本件労災に関する判決は、民事訴訟の差戻審の判決より後に出されたものです。