解雇44(S石油(視力障害者解雇)事件)

おはようございます。

さて、今日は、健康問題と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

S石油(視力障害者解雇)事件(札幌高裁平成18年5月11日・労判938号68頁)

【事案の概要】

Y社は、ガソリンスタンドの経営、土砂・火山灰等の採取及び販売等を目的とする会社である。

Xは、大型特殊免許を有しており、平成8年6月、Y社に雇用され、重機を運転して、土砂、火山灰等の採取、運搬の業務に従事していた。

Xは、幼少期に左目を負傷しており、その視力は、右眼が1.2、左眼0.03(矯正不能)である。

Y社は、平成16年2月、Xに対し、同年3月末をもって解雇するとの解雇通知書を交付して、Xを普通解雇する旨意思表示した。

解雇通知書には、解雇理由として、「近年視力の減退等に伴い車両の運転に支障が有り、当社業務に不適格でありますので」と記載されていた。

Xは、本件解雇は無効であると主張して争った。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の採用面接を受けた際、健康状態の欄に「良好」と記載された履歴書を提出し、採用面接を担当した専務に対して視力障害があることを積極的には告げなかったものと認められるものの、履歴書の健康状態の欄には、総合的な健康状態の善し悪しや労働能力に影響し得る持病がある場合にはこれを記載するのが通常というべきところ、Xの視力障害は、総合的な健康状態の善し悪しには直接には関係せず、また持病とも直ちにはいい難いものである上、Xの視力障害が具体的に重機運転手としての不適格性をもたらすとは認められないことにも照らすと、Xが視力障害のあることを告げずにY社に雇用されたことが就業規則61条(重要な経歴をいつわり、その他不正な方法を用いて任用されたことが判明したとき)の懲戒解雇事由及び同54条4号の普通解雇事由に該当するということまではできない

2 Xは、専ら、重機の運転業務に従事していたのであるが、・・・このような重機を運転することは、それ自体、通常の車両の運転に比して、極めて高度の危険性を内包しているといえ、Xの視力障害が、かかる危険性を助長する要因となり得ることは否定できない。しかし、他方、Xは、Y社での採用面接に当たり、実技試験として、・・・その技能に問題がないと判断されて雇用されたこと、Xの保有する大型特殊免許は、平成16年2月に更新されていることが認められる。
これらからすると、Xに視力障害があることをもって、直ちに、Y社が重機の運転業務に不適格であるとまでは認められない。

3 Xの視力障害は、客観的にはXの重機運転手としての適格性を疑わせる程度ではないものの、重機運転に危険性を孕ませる要因となり得ることは否定できないのであって、そのことに照らすと、視力障害によるXの業務不適格性を解雇事由の一つとしてなされた本件解雇は、権利を濫用したものとして無効ではあるものの、事業者の判断としては強ち無理からぬものがないとはいえず、これが、Y社によってXに対する不法行為を構成するような故意又は過失をもってなされたとまではいえないし、また、弁論の全趣旨によって明らかなY社の応訴態度等に違法な点があるともいえない
したがって、不法行為に基づく損害賠償を求めるXの請求は、理由がないものといわなければならない。 

結論は、妥当であると考えます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。