解雇45(セイビ事件)

おはようございます。

さて、今日は、執行役員に対する懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

セイビ事件(東京地裁平成23年1月21日・労判1023号22頁)

【事案の概要】

Y社は、建築物等の管理保全および建設業の請負等を目的とする会社である。

Xは、昭和53年、Y社に従業員として雇用された後、平成18年6月、執行役員・マネジメントサービス部長としなった。

平成22年1月、Y社の発行済株式の5%以上を有する株主が、Y社取締役会に臨時株主総会の開催を要請し、これを受けて一部株主等から社長らに対する辞任要求がなされた。さらに4月、社長や専務等の現取締役4名の解任と新取締役5名の専任を議題とする臨時株主総会の招集を請求する書面が提出され、そこには、新取締役として、現常務のほかXらの名前があげられていた。

その後、臨時株主総会が開催され、決議を行なったが、いずれも反対多数により否決された。

社長は、臨時株主総会終了後、Xらを呼び出し、Xらに対し「会社を騒がせた責任」をとって、退職するか否かを回答してもらいたいと話した。

Xらがこの要求を拒否したため、Y社は、Xらに対し、執行役員等を退任し、部長とする旨の人事発令を行った。

平成22年5月、Y社懲戒委員会が開催され、Xらの懲戒処分が検討され、結果、X1らについて懲戒解雇相当との結論に至った。

Y社は、懲戒委員会の諮問結果を受け、Xらを懲戒解雇した。

Xらは、本件懲戒解雇は、違法・無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 使用者が労働者に対する懲戒処分を検討するに当たっては、特段の事情がない限り、その前提となる事実関係を使用者として把握する必要があるというべきである。そして、本件就業規則71条が、「懲戒の審査及び決定の手続」を懲戒委員会にかけるべきこと、懲戒処分に当たって、本人に十分な弁明の機会を与え、懲戒の理由を明らかにすべきことを規定しているのも、Y社として、事実関係を把握して懲戒処分の要否・内容を適切に判断するためのものであると解される

2 特に、懲戒解雇は、懲戒処分の最も重いものであるから、使用者は、懲戒解雇をするに当たっては、特段の事情がない限り、従業員の行為及び関連する事情を具体的に把握すべきであり、当該行為が就業規則の定める懲戒解雇事由に該当するのか(懲戒解雇の合理性)、当該行為の性質・態様その他の事情に照らして、懲戒解雇以外の懲戒処分を相当する事情がないか(懲戒解雇の相当性の観点)といった検討をすべきである

3 現経営陣に対する辞任要求等を契機としてなされた懲戒解雇処分につき、Y社の懲戒委員会はXらの行為を具体的に把握した上で当該行為の懲戒事由への該当性、懲戒処分の要否・内容を審議したわけではなく、就業規則所定の適正手続の趣旨に実質的に反し、懲戒解雇事由としての本件懲戒付議事項の存在ないし懲戒解雇事由該当性を認めるに足りる疎明もなく、社会通念上相当なものとは認められない

4 本件において、(賃金仮払いとは別に)Xらのついて、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるべき保全の必要性があることを疎明するに足りる主張も疎明資料もない

本件は、仮処分事案です。

懲戒解雇という最も重い処分であるにもかかわらず、手続が雑であったということで、無効と判断されています。

それにしても、保全の必要性を認めてもらうのは大変ですね。

上記判例のポイントでは触れませんでしたが、賃金仮払いについても、そんなに簡単には認めてもらえません。

預貯金が結構ある場合には、「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」(民事保全法23条2項)という要件をみたさないのです。

解雇事案で、仮処分という方法を選択する際は、このあたりも考えなければいけません。

労働審判、いきなり訴訟という方法も視野にいれる必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。