派遣労働10(アデコ(雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣会社が派遣先に対し、派遣社員の経歴を偽って告げたこと等による慰謝料請求に関する裁判例を見てみましょう。

アデコ(雇止め)事件(大阪地裁平成19年6月29日・労判962号70頁)

【事案の概要】

Y社は、一般労働者派遣事業、有料職業紹介事業等を業とする会社である。

Xは、平成14年、Y社に雇用された者である。

Xは、Y社に採用された後、Y社において、スーパーバイザー(SV)職の研修を受けた。

SVとは、テレマーケティングスタッフのマネジメントを実施する者をいい、具体的には、スタッフの応答品質の維持・管理、ヘルプ・クレーム対応、スタッフの育成・監督、業務管理などを行う者である。

Y社アウトソーシングサポート部運営課マネージャーのBは、Xに対し、平成14年12月、A社に提出するXの経歴表を見せたが、同経歴表には、「教材関連 アウトバウンド(教材継続勧奨・新規購読勧奨)」と記載されていた。

Xには、本件虚偽記載に係る経歴はない。

Xは、成15年2月から、A社のコールセンターで就労を開始し、SV業務に従事したが、上手くこなすことができなかった。

その後、Xは、Y社から解雇ないし雇止めをされた。

Xは、Y社に対し、不法行為に基づく損害(慰謝料、治療費、弁護士費用)の賠償等及び地位確認を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 甲32号証中にはカレンダーアンケートを少しした旨の記載があるが、これは「少し」であるに過ぎないことのほか、Xはアウトバウンド業務の研修を受けていたこと、甲31号証中にインバウンド業務のみでアウトバウンド業務を行っていない旨の記載のあること及びX本人尋問結果中にも、Xがアウトバウンド業務を担当していない旨の供述が存することに照らすと、Xが実質的なアウトバウンド業務に従事し、ひどく難渋していたような事情は認められず、アウトバウンド業務に関してXが負荷を感ずることがあったとしても、社会通念上、受忍限度内のことと解するのが相当である

2 Xは、甲29号証及び同34号証で、A社におけるSV業務遂行中の苦労について縷々陳述しており、同人がA社でSV業務遂行中、管理職ないしSV業務の経験がなかたことや共に派遣されたZが経験者であったことから、同人と比較される等してストレスないし精神的負荷を負ったことは窺える。
しかしながら、これらは、旧知の同僚等のいない、かつ、新しい体制を構築しようとする職場において、未経験の者が新しい職場にて就業する場合(このような場合は、社会生活の中ではしばしば見受けられることである。)にしばしば経験することであって、Xの負った負荷ないしストレスが、社会通念上受忍すべき範囲を超えるものと認められない。また、Xの負った負荷ないしストレスは、本件虚偽記載の存否に関わるものというよりも、SV経験のないことや、X自身の管理監督職への適格性・OJTによる業務吸収能力・対人関係処理能力などの要因により、SV業務を円滑にこなすことができなかった結果によるものと解される

3 Xは、SVないし管理職の経験がないにもかかわらず、SV業務についており、その分負荷が大きかったと解されるが、そもそも、Xは、SVや管理職の経験がないにもかかわらず、管理職を募集していると考えてSV業務に応募したものであり、その後も研修を通じて、SV業務が如何なる業務かについてある程度理解し、あるいは概略的なイメージを持つことができた(なお、現実に就労しなければ分からないことまで事前に理解する必要はない。)にも関わらず、自己がSV業務の経験がないことを理解しながら、事前に他の業務に就くことを申し出ることもせずに、自ら希望してA社のSV業務についたものである
そして、SVないし管理職経験のない者が自らこれらの職業を選択し、相当大きな苦労をしながらも、これをこなしていくことも正常な社会生活上の営みといえるところ、そのような選択をした者が経験不足等により相応の負荷を負担することも相当といえ、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱するような特段の事情のない限り、業務遂行に伴う負荷ないしストレスについても受忍すべきである。このことはXについても妥当するのであって、本件記録上、Xの負った負荷が社会生活上相当と認められる範囲を逸脱するものと認めるに足る証拠はない。

Xが派遣先でストレスを感じたことは否定していないものの、それは、新しい仕事をする際、多くの人が感じる程度の負荷やストレスであり、受忍すべき範囲のものだとしています。

個々の事情を総合的に判断することになるので、この裁判例から一般的な判断基準をつくりだすのはなかなか難しいですね。

今回のケースでは、業務内容が近かったこと、X自身が希望してSV業務についたことが大きいですね。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。