Daily Archives: 2013年1月23日

解雇93(ライトスタッフ事件)

おはようございます。

さて、今日は、分煙措置を求めた試用労働者の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ライトスタッフ事件(東京地裁平成24年8月23日・労経速2158号3頁)

【事案の概要】

本件は、試用期間中のXが受動喫煙による健康被害を理由に休職処分を受けるなどした後に解雇されたことを不当とし、併せて受動喫煙に関する安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求した事案である。

Y社は、生命保険の募集に関する業務及び損害保険の代理業等を業とする会社である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 留保解約権の行使は、留保解約権の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されると解するのが相当であるところ、本件採用拒否は、(1)Y社就業規則61号に定める解雇事由(解約事由)に該当する事実が存在し(「適法要件A」)かつ、(2)その行使が社会通念上相当として是認される場合(「適法要件B」)に限り許されるものというべきである。

2 留保解約権の行使は、実験・観察期間として試用期間の趣旨・目的に照らして通常の解雇に比べ広く認められる余地があるとしても、その範囲はそれほど広いものではなく、解雇権濫用法理の基本的な枠組みを大きく逸脱するような解約権の行使は許されない

3 本件解約権行使が「解約権留保の趣旨・目的に照らして、社会通念上相当として是認されるか」(適法要件B)の有無は、解約権の留保の趣旨・目的に照らしつつ、(1)解約理由が重大なレベルに達しているか、(2)他に解約を回避する手段があるか、そして(3)労働者側の宥恕すべき事情の有無・程度を総合考慮することにより決すべきである。

4 本件解約権の行使が正当化されるためには、通常の解雇ほどではないとしても、それ相応の解約回避のための措置が執られていることが必要と解されるところ(要素2)、XがY社代表者等から受動喫煙に曝される場所でY社の保険業務を行っていたことは紛れもない事実であるから、Y社代表者は、使用者の責務として(労契法5条)、他覚的知見の提出の有無にかかわらず、Xに対し、より積極的に分煙措置の徹底を図る姿勢を示した上、あくまで保険営業マンとしての就労を促し、その勤務を続けさせ、その中で、改めて体調の回復具合や保険営業マンとしての能力、資質等を観察し、Y社社員としての適格性を見極める選択肢もあることに思いを致す必要があったのに、Xが本件休職合意を選択したのを機に、事実上とはいえXをY社事務所から締め出すに等しい措置を講じるとともに、Xの本件対応の拙さが認められるや直ちに、間髪を入れず、本件解約権を行使したのは、これを正当化するに足る解約回避のための措置が十分に講じられていなかったものと言わざるを得ないので、本件解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、社会通念上相当として是認される場合には当たらず、適法要件Bを満たさない

5 労働契約に基づく労働者の労務を遂行すべき債務の履行につき、使用者の責めに帰すべき事由によって、上記債務の履行が不能になったときは、労働者は、使用者に対して、賃金の支払を請求することができ(民536条2項)、使用者が労働者の就労を事前に拒否する意思を明確にしているときも、上記労働者の労務を遂行すべき債務は履行不能となるものと解されるが、その場合であっても当該労働者は、その履行不能が使用者の責めに帰すべき事由によるものであることを主張立証することを要し、その前提として、自らは客観的に就労する意思と能力を有しており、使用者が上記就労拒絶(労務の受領拒絶)の意思を撤回したならば、直ちに債務の本旨に従った履行の提供を行い得る状態にあることを主張立証する必要があるものと解するのが相当であるところ、Xは本件再就職を機に、Y社において就労する意思と能力を有しているとは認められない状態に至ったものというべきである

6 もっとも、この点、Xは、同日以降もY社において就労する意思と能力がある旨主張し、その尋問でも、これに沿う供述をしている。しかし上記のとおりXは、正社員としてY社とは全く異なる職種の税理士法人に本件再就職しており、その勤務時間や業務内容は、Y社における就労と両立し得るものでないことは明らかである上、Y社と比べ月額給与の額(額面額)は遜色なく、賞与として給与の1.5か月分が支払われる約束であること、そして、Xは、本件再就職までの間にCFPのほかに、社会保険労務士の資格を取得しており、敢えて受動喫煙の有害性について理解に乏しいものと思われる使用者の下で保険業務の仕事を続けなければならない理由は見当たらず、むしろ新たな職場(本件再就職先)で心機一転を計ろうとするのが通常と思われること、などの事情を指摘することができる。これらの事情に照らすと、少なくとも客観的にみる限り、本件再就職の時点でもなおY社において就労する意思と能力を有していたことを認めるに足る証拠はない

非常に参考になる判例です。

まず、試用期間中の留保解約権の行使(解雇)について、「試用期間中だから解雇も認められやすい」と簡単に考えている方は、上記判例のポイント2は注目すべきです。

また、解雇後、別会社で就職した場合における取り扱いについては、上記判例のポイント6での判断は頭に入れておくべきです。

実際の訴訟においても、復職の意思が有無という形で争いになることがありますが、労働者側とすれば、注意すべき点です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。