Daily Archives: 2013年4月4日

賃金56(テックジャパン事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣会社契約社員からの時間外手当等請求に関する裁判例を見てみましょう。

テックジャパン事件(最高裁平成24年3月8日・労判1060号5頁)

【事案の概要】

本件は、人材派遣を業とするY社に雇用されて派遣労働者として就労していたXが、Y社に対し、Y社がXを社会保険に加入させなかったことおよびXに有給休暇を取得させなかったことは不法行為に当たると主張して、Xが被った精神的損害に対する慰謝料の支払ならびに、平成17年5月から18年10月までの時間外手当および付加金の支払を求めた事案である。

XとY社は、本件雇用契約を締結するにあたり、月間総労働時間が140時間から180時間までの労働について月額41万円の基本給を支払う旨を約したものというべきであり、Xは、本件雇用契約における給与の手取額が高額であることから、標準的な月間総労働時間が160時間であることを念頭に置きつつ、それを1か月に20時間上回っても時間外手当は支給されないが、1か月に20時間下回っても上記の基本給から控除されないという幅のある給与の定め方を受け入れ、その範囲の中で勤務時間を適宜調節することを選択したものということができる

高裁は、本件雇用契約の条件は、それなりの合理性を有するものというべきであり、Xの基本給には、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当が実質的に含まれているということができ、また、Xの本件雇用契約に至る意思決定過程について検討しても、有利な給与設定であるという合理的な代償措置があることを認識した上で、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当の請求権をその自由意思により放棄したものとみることができると判断した。

【裁判所の判断】

破棄差戻し

【判例のポイント】

1 月額41万円の基本給について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないものというべきである。
これらによれば、Xが時間外労働をした場合に、月額41万円の基本給の支払を受けたとしても、その支払によって、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働について労働基準法37条1項の規定する割増賃金が支払われたとすることはできないというべきであり、Y社は、Xに対し、月間180時間を超える労働時間中の時間外労働についても、月額41万円の基本給とは別に、同項の規定する割増賃金を支払う義務を負うものと解するのが相当である(高知県観光事件・最高裁平成6年6月13日判決)。

2 また、労働者による賃金債権の放棄がされたというためには、その旨の意思表示があり、それが当該労働者の自由な意思に基づくものであることが明確でなければならないものと解すべきであるところ(シンガー・ソーイング・メシーン事件・最高裁昭和48年1月19日判決)、そもそも本件雇用契約の締結の当時又はその後にXが時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示をしたことを示す事情の存在がうかがわれないことに加え、上記のとおり、Xの毎月の時間外労働時間は相当大きく変動し得るのであり、Xがその時間数をあらかじめ予測することが容易ではないことからすれば、原審の確定した事実関係の下では、Xの自由な意思に基づく時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示があったとはいえず、Xにおいて月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当の請求権を放棄したということはできない

最高裁判決です。

従来の原則的な考え方に基づいた解釈をしています。

基本給と残業代が明確に区別できるかどうかという基準を貫いています。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。