Daily Archives: 2013年6月20日

賃金62(三晃印刷事件)

おはようございます。

さて、今日は、就業規則変更による成果主義型賃金制度の導入に関する裁判例を見てみましょう。

三晃印刷事件(東京高裁平成24年12月26日・労経速2171号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXらが、就業規則の変更により賃金が減額されたが、当該就業規則の不利益変更は、Xらを拘束するものではないと主張して、減額された賃金(調整手当減額分)及び遅延損害金の支払いを請求した事案である。

なお、原審(東京地裁平成24年3月19日)は、本件就業規則変更は、Xらのような勤務年数の長い従業員を中心に、最も重要な労働条件である賃金について、重大な不利益を受けるものであるが、変更前の旧制度と変更後の新制度の合理性の比較、制度変更をする必要性、重要な労働条件の変更に伴う激変緩和策としての調整手当の制度を6年間にわたって継続したこと、Y社の従業員全体との関係及び組合との交渉過程を総合的に考慮すれば、本件就業規則変更の合理性を認めることができるとした。

Xらは、原審判決を不服とし、控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、平成8年ころからの印刷業界におけるデジタル化という技術革新に対応していくための人材確保、育成の必要性に直面していたこと、売上げが平成9年をピークに減少し続け、赤字にまで至るという状況から脱却する必要があったこと、職務遂行能力を評価軸として賃金が定まる制度を整え、従業員に能力開発のインセンティブを与え、職務遂行に対するモチベーションを高めるために平成11年に人事考課制度を変更し、平成13年4月に職能資格制度及び職能給を導入したこと、激変緩和のための経過措置として調整手当が6年間にわたって支給されたこと、平成13年4月に調整手当を支給された者の中で、平成19年4月においてもY社に在籍し、人事考課の対象となる67名のうち、59名は、昇給、昇格により職能給が増額していること調整手当の削減は3段階に分けて行われたこと、Y社では、本件就業規則変更に当たり、旧給与規程における住居手当及び家族手当を、新給与規程において、それぞれ地域住居手当及び扶養家族手当に改めるとともに、支給基準、金額を見直し、従前よりも増額したこと、本件就業規則変更に伴う本来の給与額の減額分が調整手当として支給され、その後の調整手当の削減分は昇給ベースアップ又は賞与の上乗せ支給の原資に充てられ、Y社の人件費は全体として削減されなかったこと、Y社は、本件就業規則変更や本件調整手当削減に関しても、本件組合からの団体交渉の申入れがあればこれに応じる態度を取っていたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
これらの事実によれば、本件就業規則変更及び本件調整手当削減は、印刷業界における技術革新に対応して従業員のモチベーションを高め、生産性を向上させ、会社組織を活性化させるという高度な必要性と合理的な根拠を有するものであり、その内容も相当なものであったということができる

これだけのことをやれば、さすがに就業規則の(不利益?)変更も認められますね。

実際に、ここまでのことができる会社はあまりないと思いますが、可能な範囲で参考にしてください。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。