Daily Archives: 2013年7月29日

解雇109(甲野株式会社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!

さて、今日は、従業員の不正行為に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

甲野株式会社事件(大阪地裁平成24年9月27日・労判1069号90頁)

【事案の概要】

Y社は、金、銀、白金等貴金属の地金の売買、加工、精製および分析等を行っている会社である。

Xは、Y社の従業員としてY社高知工場に勤務していた。

Xは、Y社工場敷地内から合計709.13gの金地金を持ち出し、これを窃取した。

Y社は、Xの当該行為について、警察署に被害届を提出した。Xは、窃盗の被疑事実で逮捕されたが、不起訴処分となった。

Y社は、Xを懲戒解雇した。 本件の争点は、本件不法行為に基づく損害賠償請求である。

【裁判所の判断】

Xに対して、合計152万6284円(調査実費、時間外手当相当額、説明行為に関する実費(交通費等)、弁護士費用)の支払いを命じた。

慰謝料請求については棄却。

【判例のポイント】

1 ・・・J取締役のN市出張及びD社訪問は、いずれも本件金地金を持ち出した犯人を特定するために必要な調査であったことが認められ、また、J取締役及びO副工場長のV社への出張は、Xが本件金地金を持ち出した態様を明らかにするために必要な調査であったことが認められるから、Y社が上記各出張のために出えんした費用相当額は、本件不法行為と相当因果関係のある損害というべきである。

2 ・・・金地商であるY社において、その管理する貴金属の盗難事件が発覚した場合、犯人や犯行態様を徹底的に調査し、事件の再発を防止すべく万全の対策をとる必要があることは明らかであるところ、Y社の従業員が、製造記録の確認等を行ったり、警察から事情聴取を受けるなど、通常の業務とは異なる作業に多大な時間を費やしたのは、Y社の従業員であったXが本件金地金を窃取した態様を明らかにするためにであるから、これらの従業員が調査等に従事していた平成22年6月及び7月の時間外手当の増加分は、本件不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である
Xは、従業員が懲戒処分に当たる行為を行った場合、使用者である会社が適切な処分を行うため、事実関係の調査等を行うことは当然のことであり、そのために要する通常の経費等は、企業の一般的人事管理に要する費用として織り込み済みのものであるから、上記時間外手当等は、本件不法行為と相当因果関係のある損害とまではいえないと主張する。しかしながら、本件不法行為は、地金商の従業員による金地金の窃盗事件であって、被害額も約200万円と多額であるから、捜査機関が高知工場の実況見分を実施したり、Y社従業員からの事情聴取等を行うことは当然であるし、また、Y社における貴金属の管理・保管体制の根幹を揺るがす事件であるから、再発防止の観点からも、Y社が、その犯行態様を明らかにするために、独自に従業員に調査を命じることは、単に使用者が懲戒処分に当たる行為を行った従業員に対し適切な処分を行うための事実関係の調査等を行うこととは次元を異にするというべきである。したがって、これらの調査等に要した費用について、企業の一般的人事管理に関する費用として織り込み済みのものであると認めることはできないから、Xの前期主張は、採用することができない。

3 Y社は、本件不法行為発覚後、合計4727万8600円をかけて、セキュリティシステムを導入したほか、関係取引先に謝罪に赴くなどしたものであって、本件不法行為によって、Y社の信用を毀損せられた無形損害の額は、少なく見積もっても200万円は下らないと主張する。
しかしながら、Y社が、本件不法行為が発覚したことを契機として、Y社における金地金の管理・補完体制を見直し、多額の費用をかけてセキュリティシステムを新たに導入したことは認められるものの、Y社において、どのようなセキュリティシステムを導入するかは、企業の経営判断の問題であって、本件不法行為との直接の因果関係は認められない上、Y社は、本件不法行為が発覚した後、主要取引先等に対して、状況説明と謝罪に赴くなどしており、一応、本件不法行為によって毀損されたY社への信頼は一定程度回復されたというべきであるし、主要取引先等への説明に要した費用については、本件不法行為による損害として、Xが負担することを併せ考慮すると、それを超えて信用毀損に伴う慰謝料をXに負担させるのは相当でない。

従業員による不正行為が発覚した際、会社が当該従業員に損害賠償請求をすることがあります。

その際、どこまでを損害と考えてよいのかについて、本裁判例を参考にしてください。

信用毀損に関する裁判所の判断は、会社側からすると、簡単には受け入れらないのではないでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。