解雇132(I式国語教育研究所代表取締役事件)

おはようございます。

さて、今日は、解雇を理由とする会社法上の代表取締役の損害賠償責任に関する裁判例を見てみましょう。

I式国語教育研究所代表取締役事件(東京地裁平成25年9月20日・労経速2197号16頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社の代表取締役であったAに対し、Aが、Y社をして①Xらを不当に解雇させたこと、②Xらへの賃金の仮払いを命じた仮処分決定に従わなかったことが、AのY社に対する任務懈怠ないしXらに対する不法行為に当たるとして、会社法429条1項ないし民法709条に基づき、損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・以上検討したとおり、Aの主張する解雇事由たる事実は、当該事実自体が認められないか、事実は認められるものの、解雇の客観的に合理的な理由とまではいうことができないものである。このように、本件解雇は、客観的に合理的な理由がないにもかかわらず行われたものであり、労働契約法16条に反し、解雇権を濫用するものとして無効である

2 Aは、本件解雇当時、Y社の代表取締役として、同社に対して善管注意義務を負っていたが、その中には労働法規を含む各法令を遵守する義務も含まれると解されるところ、本件解雇は無効であるため、Aは、客観的には上記義務に違反しているといえる。もっとも、Aは特段労働法規に通じていたわけではなく、本件解雇が無効であることを知りながら、故意に本件解雇を行うこととしたまではいうことができない
また、Aが、Xに対し、Aにおいて解雇に足ると考えた事由を記載した始末書への署名を求め、これを得た後に本件解雇の通知を発している事実を踏まえると、Aとしては取り得る手段をとったと認識しているのも無理からぬところであり、弁護士等に相談をしなかったことを考慮に入れてもなお、Y社が本件解雇を行ったことが、Aの重過失に基づくものであるとまでは評価することは困難である
よって、本件解雇については、Aの故意又は重過失によるということはできず、この点に関して、Aには会社法429条1項に基づく損害賠償責任は認められない。

3 本件解雇について、A自身が不法行為責任を負うかであるが、本件解雇はあくまでもAとは別に法人格を有する本件会社が行ったものであり、A自身のXに対する不法行為を観念することはできない。
よって、本件解雇について、AのXに対する不法行為責任は認められない

4 一般的に、会社に対し、金員の仮払いを命じる仮処分が発せられた場合、これに従わなければ、当該仮処分決定を債務名義として、会社の有する債権等、会社財産の差押えが行われ、その結果、会社の業務に支障を来す事態(預金債権の差押えを受けた場合が顕著である。)も想定しうるところである。よって、このような事態を避けるため、会社の取締役は、会社に仮払いを行わせる義務を負うというべきであるが、他方、会社の資金繰り状況等に照らし、仮払いを行うことによって会社の業務継続が困難になるような場合もありうるところであり、このような場合についてまで上記義務を負うと解されることは相当ではない
・・・よって、当該任務懈怠によってXらに損害が生じている場合には、Aは会社法429条1項に基づき、これを賠償する責任を負う。

5 Xは、Aの任務懈怠により、上記仮払金の支払をY社から受けることができなかったため、直接的に賃金相当額の損害を被ったと主張する。しかしながら、仮払いを受けられなかったとしても、Xは、なお本件会社への賃金請求権を有しており、Y社の破産等、その行使が不可能となるような事情も見出せないのであって、当該債権が直接的に損なわれ、損害を被ったとみることは困難である
したがって、この点についてのXの主張には、理由がない。
・・・Xの主張する精神的苦痛とは、結局、金銭的な負担に外ならず、これを賃金と別個の利益を侵害されたものととらえることは相当でない。したがって、この点についてのXの主張には理由がない

解雇事案で、役員の任務懈怠責任や不法行為責任を問われた珍しい事案です。

解雇自体は無効であるとの判断ですが、上記判例のポイントのとおり、代表者の責任は否定されています。

特に判例のポイント2は参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。