Daily Archives: 2015年4月16日

解雇170(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド事件)

おはようございます。

今日は、療養休職期間満了時に休職事由が消滅したとして、雇用契約の終了が認められなかった裁判例を見てみましょう。

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド事件(東京地裁平成26年11月26日・労経速2234号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結した後、業務外傷病(うつ状態)により傷病休暇及び療養休暇を取得したXが、療養休職期間満了時に休職事由が消滅したから、XY社間の雇用契約がY社の就業規則により終了するものではないなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、雇用契約に基づく賃金支払請求権に基づき、休職期間満了日(雇用契約終了日)の翌日である平成24年12月21日以降、毎月20日限り45万3412円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

XがY社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

Y社はXに対し、平成24年12月21日から本判決確定の日まで、毎月20日限り45万3412円及び遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件就業規則24条3項は、従来規定されていない「健康時と同様」の業務遂行が可能であることを、療養休職した業務外傷病者の復職の条件として追加するものであって、労働条件の不利益変更に当たることは明らかである。・・・そして、業務外傷病のうち特に精神疾患は、一般に再発の危険性が高く、完治も容易なものではないことからすれば、「健康時と同様」の業務遂行が可能であることを復職の条件とする本件変更は、業務外傷病者の復職を著しく困難にするものであって、その不利益の程度は大きいものである一方で、本件変更の必要性及びその内容の相当性を認めるに足りる事情は見当たらないことからすれば、本件変更が合理的なものということはできない
したがって、本件変更は、労働契約法10条の用件を満たしているということはできず、本件就業規則24条3項がXを拘束する旨のY社の主張を採用することはできない。

2 業務外傷病により休職した労働者について、休職事由が消滅した(治癒した)というためには、原則として、休職期間満了時に、休職前の職務について労務の提供が十分にできる程度に回復することを要し、このことは、業務外傷病により休職した労働者が主張・立証すべきものと解される。

3 Y社は、傷病休暇及び療養休暇からの復職に関し、原則として、本件内規中に掲げた本件判定基準9項目を全て満たした場合にのみ復職を可とする運用をしているところ、本件情報提供書によれば、Xが、上記9項目を全て満たしていたとはいえないから、本件療養休職期間満了時において、Xが復職可能であるとはいえないと判断したものであり、その判断に誤りはない旨を主張する。
しかし、休職制度が、一般的に業務外の傷病により債務の本旨に従った労務の提供ができない労働者に対し、使用者が労働契約関係は存続させながら、労務への従事を禁止又は免除することにより、休職期間満了までの間、解雇を猶予するという性格を有していることからすれば、使用者が休職制度を設けるか否かやその制度設計については、基本的に使用者の合理的な裁量に委ねられているものであるとしても、厚生労働省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」から、本件内規中に掲げた本件判定基準9項目を全て満たした場合にのみ復職を可能であるとする運用を導くことは困難である
また、本件内規は、平成23年7月頃、Y社人事部において、業務外傷病により傷病休暇及び療養休暇を取得した従業員の復職判断のための内部資料として作成されたものにすぎず、従業員には開示されていないから、上記の運用が本件雇用契約の内容として、Xの復職可否の判断を無条件に拘束するものではない

4 ・・・Y社としては、本件診断書及び本件情報提供書の内容について矛盾点や不自然な点があると考えるならば、本件療養休職期間満了前のXの復職可否の判断の際にC医師に照会し、Xの承諾を得て、同医師が作成した診療録の提供を受けて、Y社の指定医の診断も踏まえて、本件診断書及び本件情報通知書の内容を吟味することが可能であったということができる。
Y社は、そのような措置を一切とることなく、何らの医学的知見を用いることなくして、C医師の診断を排斥し、・・・そのようなY社の判断は、Xの復職を著しく困難にする不合理なものであり、その裁量の範囲を逸脱又は濫用したものというべきである

業務外の精神疾患と休職期間満了から職場復帰に関する争点は、ここ最近の重要なトピックですね。

その中でもこの裁判例は、非常に多くの重要な判断が含まれています。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。