Monthly Archives: 3月 2016

解雇197(泉北環境整備施設組合事件)

おはようございます。

今日は、不正アクセス等を理由とする懲戒・分限処分の取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

泉北環境整備施設組合事件(大阪地裁平成27年1月19日・労判1124号33頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務する公務員であるXが、Y社の情報ネットワークシステムを構築し、その管理運営の最高責任者であった立場を利用し、人事異動後もその閲覧権限を不適正に使用し、他の職員のフォルダへ侵入していたとの理由で、処分行政庁から、地方公務員法29条1項各号に基づき20日間の停職とする旨の懲戒処分及び同法28条1項3号に基づき課長から主幹へ降任する旨の分限処分を受けたことについて、いずれの処分も、Xは本件システム上の権限を不適正に使用したことはないことや、他の関与者に対する懲戒・分限処分との比較等からすれば重きに失する点で実体法上違法であり、本件各処分に係る手続に関与すべきでない者が関与している点で手続上も違法であると主張して、その取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 公務員に対する懲戒処分は、当該公務員において国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない職務上の義務違反その他の非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するために科される制裁である。そして、地公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選択すべきかについて、具体的な基準を設けていないから、その決定は懲戒権者の裁量に任されているものと解されるところであり、懲戒権者がこの裁量権の行使としてした懲戒処分は、これが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、違法とならないものというべきである(最判昭和52年12月20日・神戸税関事件)。

2 地公法28条の分限制度は、公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の目的から、同条に定める処分権限を任命権者に認める一方、公務員の身分保障の見地から、その処分権限を発動し得る場合を限定したものである。分限制度のこのような趣旨・目的に照らし、かつ、同条に掲げる処分事由が、被処分者の行動、態度、性格、状態等に関する一定の評価を内容として定められていることを考慮すると、同条に基づく分限処分については、任命権者にある程度の裁量権は認められるが、分限制度の上記目的と関係のない目的や動機に基づいて分限処分を行うことが許されないのはもちろん、処分事由の有無の判断についても恣意にわたることは許されず、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断するとか、また、その判断が合理性のある判断として許容される限度を超えた不当なものであるときは、裁量権の行使を誤った違法なものとの評価を免れないというべきである

3 そして、地公法28条1項3号にいう「その職に必要な適格性を欠く場合」とは、当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に起因してその職務の円滑な遂行に支障があり、又は支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいうと解されるが、この意味における適格性の有無は、当該職員の外部に現れた行動、態度に徴してこれを判断するほかはなく、その場合、個々の行為、態度につき、その性質、態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきことはもちろん、それら一連の行動、態度については相互に有機的に関連付けてこれを評価し、さらに当該職員の経歴や性格、社会環境等の一般的要素を含む諸般の要素を総合的に検討した上、当該職に要求される一般的な適格性の要件との関連において判断しなければならない。そして、降任の場合における適格性の有無については、公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の目的に照らし、裁量的判断を加える余地を比較的広く認めても差し支えないものと解される(最判昭和48年9月14日・広島権教委事件)。

公務員の場合、通常の労働事件の場合とは異なる規範を用います。

行政事件でよく用いられる裁量権の逸脱・濫用の有無を判断する規範が用いられています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介533 心臓外科医の覚悟(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
心臓外科医の覚悟  角川SSC新書  医師という職業を生きる (角川SSC新書)

著者は、川崎幸病院の大動脈センター長の医師です。

いろいろな医師の本をこれまでにも紹介してきましたが、やはり一流の医師は心身ともにタフです。

本当に勉強になります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

私のところに修業に来て、1年もしないうちに辞めていく外科医がいる。辞める理由は様々だが、共通しているのは『しんどい、つらい』ということ。・・・そもそも医者→外科医→心臓外科医→大動脈外科医という順番で過酷になることは、最初からわかっていたのではなかったのか。最初からわかってはいたが、『こんなに大変とは思わなかった・・・』となる。たとえば、自分があの山の頂上まで登ろうと決めたとき、それは条件をつけてから登り始めてはいないだろうか。口では『頂上まで登ります』と言っておきながら、自分の中では、『途中に大変な箇所がなければ、頂上まで行く』、という条件をつけて登る人間が多い。そのような人間は、途中で困難に出くわすと、頂上に行くことをあっさりあきらめてしまう。
そうではない。自分が頂上まで登ると決め、覚悟したからには、どんな困難があっても、目の前の壁を突破して、最後まで登り切らなければならない。その覚悟がないために、途中で挫折するのではないか。」(120~121頁)

この文章でキモとなるのは、「覚悟」という2文字です。

これは医師に限らず、弁護士もそうですし、どんな仕事でも同じです。

ハードワークをする覚悟もないのに、人を助けようなどと思うこと自体がそもそも間違っているのだと僕は思います。

自己犠牲を厭わず、自分を頼ってくれる人のためにどれだけ汗をかけるのか。

そのことを天職だと思えるのか。

そう思える人にとって、医師や弁護士という仕事は本当に天職です。

そう思えない人にかぎって、天職を探して転職を続けるのでしょうね。

職場を変えても、天職を探しているうちは永遠に天職など見つかりません。

天職とは探すものではなく、そう感じるものだからです。

本気で人を助ける覚悟がある人だけが患者さんや依頼者に選ばれ続けるのだと信じています。

労働時間41(北九州市・市交通局(市営バス運転手)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、待機時間の労働時間性と未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

北九州市・市交通局(市営バス運転手)事件(福岡地裁平成27年5月20日・労判1124号23頁)

【事案の概要】

本件は、北九州市交通局に雇用され、市営バスの運転手として勤務するXらが、Y社に対し、時間外割増賃金の一部が未払であると主張して、未払時間外割増賃金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXらに対し、各未払残業代を支払え。

*X1:85万6087円、X2:74万2700円、X3:80万0300円、X4:72万8600円、X5:121万5371円、X6:78万5100円、X7:91万1250円、X8:108万1250円、X9:82万7500円、X10:121万1507円、X11:92万1800円、X12:95万5350円、X13:100万9010円、X14:36万6300円

【判例のポイント】

1 労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない時間(「不活動時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。そして、不活動時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れていることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。
したがって、不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。

2 Xら乗務員は、調整時間中において、乗客の有無や周囲の道路状況等を踏まえて、適切なタイミングでバスを移動させることができるよう準備を整えておかなければならず、また、バスの移動業務がない転回場所やバスの移動業務を終えた後においては、実作業が特になければ休憩をとることができるものの、バスから離れて自由に行動することまで許されているものではなく、一定の場所的拘束性を受けた上、いつ現れるか分からない乗客に対して適切な対応をすることができるような体制を整えておくことが求められていたものであるから、乗務員らは、待機時間中といえども、労働からの解放が保障された状態にはなく、使用者の指揮監督下に置かれているというべきである
よって、本件の事実関係の下においては、転回時間であるか待機時間であるかを問わず、調整時間の全てが労基法上の労働時間に該当するというべきである。

最高裁の考え方からすれば、結論としてはやむを得ないですね。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

本の紹介532 成功する人の考え方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は本の紹介です。
成功する人の考え方

成功している人たちを観察すると、一定の共通点が見つかりますが、

この本はそれらをまとめた本です。

いきなりすべてを真似することは難しいですが、たった1つでも真似をするだけでも、確実に力がつくように思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

戦国時代に山中鹿之助という武将がいた。・・・彼は自ら困難を望んだ。そしてこの有名な言葉を残した。
『願わくば、我に七難八苦を与えたまえ』
成功には必ず問題がついてくる。・・・問題があっても慌てる必要はない。問題は、キミを未来へと運ぶための通らなければならない階段なのだ。」(151頁)

いざ問題が起きたときの心構えとして、山中鹿之助さんのこの言葉はとても参考になります。

発生した問題について、直視し、慌てることなく、できる対応をとる。

問題から目を背けるのではなく、正面から対応することでしか先に進めないのです。

いかに問題が起こらないようにするかも当然大切ですが、それと同じくらい大切なのは、いざ問題が起こったときにどのように対応するか、なのだと思います。

賃金109(中野運送店事件)

おはようございます。

今日は、就業規則変更による運行手当減額の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

中野運送店事件(京都地裁平成26年11月27日・労判1124号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員(運転手)であるXらが、Y社の就業規則の一部をなす「運行に関する手当明細表」の変更により賃金が減額となったが、当該不利益変更は高度の合理がなく無効であるとして、従前の運行手当明細表に基づく賃金の支給を受けるべき労働契約上の地位の確認を求めるとともに、平成23年9月分以降に支給された賃金と従前の運行手当明細表に基づき支給されるべき賃金との差額の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

X1を除くすべての原告につき平成22年4月1日に定められた運行手当明細表に基づく賃金支給を受けるべき労働契約上の地位を有することを確認する。
*X1は訴訟途中でY社を退社したため。

【判例のポイント】

1 Y社は、経営状態の改善のために、人件費の削減により資金(キャッシュフロー)を得ることを目的として本件改定を行ったものであり、本件改定の一応の必要性があったことは認められる。しかし、平成23年8月に本件改定を行わなければならないとするだけの高度の必要性を窺わせる事情は、特段、見当たらない

2 そして、Y社が本件改定に先立ち本件組合に行った説明は、本件組合に示された改定の内容も変遷しており、その変遷の理由も明らかではなく、また、本件改定の必要性等の理由の説明も、当初はなされず、その後も説明自体が変遷しており、さらには、理由を裏付ける客観的な資料は何ら提供されていないのであり、これらに照らすと、Y社が、本件改定に先立ち、本件組合に対して十分な説明を行っていたものということはできない。

3 以上に加えて、本件改定がXらに与える不利益が少ないとはいえないこと、本件改定に対する代償措置もとられていないことに照らすと、上記の本件改定の一応の必要性を考慮してもなお、未だ、本件改定に合理性があるということはできない。

就業規則の変更により賃金を減額する場合には、他の労働条件の変更に比べてもより慎重に行う必要があります。

「高度の必要性」が求められていますので、軽い気持ちで行うとやけどします。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介531 熱狂宣言(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
熱狂宣言

ダイヤモンドダイニングの松村厚久社長に関する本です。

自身の病気のことについても書かれています。

頭のてっぺんから足の先まで、100%仕事大好きな経営者です。

仕事が楽しくて仕方がないことが伝わってきます。

とても素晴らしい社長だと思いました。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

経営は現実を直視できなければ成り立たない。リアルワールドでの戦いです。夢想や現実逃避なんて許されるはずがない。上場して、100店舗100業態を達成し、株主やお客様や社員のために次の目標を掲げた自分が、自分で立ち上げた生業に反することをしていたらみっともないし、恥ずかしいですよ。そう思ったら、30代でパーキンソン病を発症する人生こそが自分のものだと素直に思えました。そこのボーダーを超えると、次には、この病気に罹ることにも意味があったはずだ、という気持ちになりました。・・・この病気がもたらす苦しさ、辛さを知ることでしか、できなかった何かがあるのかもしれない。そして、自分がその何かを探り当てることができたなら、今度はそれをテーマに取り組んでいきたい。ダイヤモンドダイニング社長の松村ではなく、パーキンソン病の松村に与えられたミッションが必ずあるはずです。いや、あります」(221~222頁)

「経営は現実を直視できなければ成り立たない」

「夢想や現実逃避なんて許されるはずがない」

この著者の言葉は、経営者であればみな共感できるものではないでしょうか。

事業を継続し、従業員の生活を保障するという責任を経営者はみな負っているわけです。

気を抜けば、会社なんてあっという間に傾いてしまいます。

落ち込んだり、現実逃避をしている暇などないのです。

現状に満足することなく、常に成長することを目標に、前に進むことが求められているのです。

同一労働同一賃金2(ハマキョウレックス事件)

おはようございます。

今日は、労働契約法20条の不合理な労働条件の相違に関して判断した裁判例を見てみましょう。

ハマキョウレックス事件(大津地裁彦根支部平成27年9月16日・ジュリ1490号4頁)

【事案の概要】

本件は、一般貨物自動車運送事業等を営むY社との間で、期間の定めのある労働契約を締結したXが、Y社との間で期間の定めのない労働契約等が成立している、仮にそうでないとしても、期間の定めのない労働契約を締結したY社の労働者とXの労働契約における労働条件とを比較して不合理な相違のある労働条件を定めたXの労働契約部分は公序良俗等に反して無効であるから、Xは、Y社との労働契約上、期間の定めのない労働契約を締結した被告の労働者と同一の権利があると主張して、Y社に対し、かかる権利を有する地位にあることの確認を求めるともに、期間の定めのない労働契約を締結したY社の労働者が通常受給すべき賃金との差額について、Y社との労働契約に基づき、また、期間の定めのない労働契約を締結したY社の労働者と同一の権利を有しないとしても、そのような権利を有すると期待させたにもかかわらず、いまだにXと期間の定めのない契約を締結しないY社の行為は、Xの期待権を不法に侵害したものであり、かかる行為はXに対する不法行為を構成すると主張して、上記差額分と同様の賃金ないし損害賠償金の支払及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

なお、Xは、当庁による破産手続開始決定を受け、破産財団となるべき未払賃金の4分の1について、破産者X破産管財人Zが本訴訟手続を受継した。

本判決は、差戻し前の事件の判決手続に違法があるとして、控訴審により差し戻された差戻後の第1審判決である。

【裁判所の判断】

Y社は、Zに対し、1万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 労働契約法20条における「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が、それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味すると解すべきところ、Y社の彦根支店においては、正社員のドライバーと契約社員のドライバーの業務内容自体に大きな相違は認められないものの、Y社は、従業員数4597人を有し、東京証券取引所市場第1部へ株式を上場する株式会社であり、また、従業員のうち正社員は、業務上の必要性に応じて就業場所及び業務内容の変更命令を甘受しなければならず、出向も含め全国規模の広域異動の可能性があるほか、Y社の行う教育を受ける義務を負い、将来、支店長や事業所の管理責任者等の被告の中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるのに対し、契約社員は、業務内容、労働時間、休息時間、休日等の労働条件の変更がありうるにとどまり、就業場所の異動や出向等は予定されておらず、将来、支店長や事業所の管理責任者等の被告の中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるとはいえない

2 Y社におけるこれら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等を考察すれば少なくとも無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当及び家族手当、一時金の支給、定期昇給並びに退職金の支給に関する正社員と契約社員との労働契約条件の相違は、Y社の経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえないというべきであるから、本件有期労働契約に基づく労働条件の定めが公序良俗に反するということはできないことはもとより,これが労働契約法20条に反するということもできない。

3 Xらは、本件有期労働契約を締結するにあたり、Xに対し、月額の手取賃金を30万円以上とする、本件有期労働契約締結後から半年ないし1年後には正社員とするとの期待を抱かせたにもかかわらず、現在まで、Xとの間で、月額の手取賃金を30万円以上とすること及び正社員とするとの条件を付した労働契約を締結しないY社の対応は、Xの期待権を侵害する不法行為に当たると主張するが、上記事実関係に照らせば、Xの主観はともかく、Xの上記期待は、法的保護に値する期待と認めるには足りず、事実上の期待にすぎないというべきであるから、それに対する侵害が不法行為に当たるとのXらの主張は採用することができない。

4 以上に対し、通勤手当についてのY社の労働条件の相違は、労働契約法20条に反し、同条の解釈上、同条に違反する労働条件の定めは、強行法規違反として無効と解され、かかる定めをしたY社の行為は、Xに対する不法行為を構成するというべきである。

そして、その損害額は、当該労働条件の相違がなかった場合にXが取得できた通勤手当の額とXに支給された通勤手当との差額であると解されるところ、XがY社の正社員であったとすれば、どの程度の通勤手当の支給を受けることができたかについては本件証拠上不明であるが、少なくとも正社員の最低支給額である5000円と、Xの受給額である3000円の差額である2000円は被告の不法行為による損害と認めることができる。
したがって、労働契約法20条施行後の平成25年4月分から同年8月分までの差額合計1万円(2000円×5か月分)については、これをXが被った損害と認める。

労契法20条については、上記判例のポイント1の視点を押さえましょう。

労働者側からは、ハードルが高いことがわかりますね。

本の紹介530 君にはもうそんなことをしている時間は残されていない(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。
君にはもうそんなことをしている時間は残されていない

とてもわかりやすい本です。

「人生に無駄なことなどない」と言われますが、私は別の考え方ですかね。

むしろ無駄なことだらけだと思っています。

帯には「時間は命の断片だ。」と書かれています。 そのとおりです。

成功している人たちの時間に対する感覚を知るにはとてもいい本です。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

電話で嫌われる人は、話の長い人だ。電話をかけられた相手は、いつも取り込み中だということを忘れてはいけない。・・・さっさと結論を述べてしまえば、後は相手に身を任せればいい。相手に時間があって興味を持てば、長時間話し続けるかもしれない。相手に時間がなくて興味もなければ、短時間で終わる。それだけのことだ。」(64頁)

結局は、「相手のことを考える」ということに尽きます。

長い時間、だらだら話を聞かされて、良い気持ちになる人がいるでしょうか。

特にビジネスにおいては気を付けなければいけません。

みんなただでさえ忙しいわけですから、できるだけ手短かに話をするのがマナーです。

すべてのことを最初から伝えようとしなくてもいいのです。

まずは結論だけを伝える。

相手がその理由に関心があるのであれば、「どうして?」と聞いてきますから。

会話の最初に「結論から言いますと」、「端的に言いますと」と付けるだけでかなり話し方は変わると思います。

「話が長い」とよく言われる人は、是非、やってみてください。

労働者性14(日本放送協会事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、放送受信料の集金等を行うスタッフの労働者性が否定された裁判例を見てみましょう。

日本放送協会事件(大阪高裁平成27年9月11日・労経速2264号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間においてY社の放送受信料の集金や放送受信契約の締結等を内容とする有期委託契約を継続して締結してきたXが、Y社から本件契約を途中解約されたことについて、本件契約は労働契約であり、上記解約(本件解除)は、労働契約法に基づかない無効な解雇であると主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、労働者としての地位の確認、平成25年1月からの毎月27万5720円の賃金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、不当解雇の不法行為に基づき、慰謝料等330万円の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

原判決は、本件契約は労働契約的性質を有するものであり、本件解約は労働契約法に基づかないなどの理由で無効であるものの、本件契約は平成25年3月31日の経過をもって終了しているとして、地位確認の訴えを確認の利益がないとして却下し、賃金請求を同年1月から同年4月までの分及び年5分の割合による遅延損害金の限度で認容し、その余の請求をいずれも棄却した。

このため、敗訴部分を不服とするY社が本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

Xの請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 本件契約により、Xは、契約開発スタッフとして、放送受信契約の新規締結や放送受信料の集金等契約上定められた業務を行うことを受託している。したがって、その定められた業務内容に関するものである限り、Xが個々の具体的な業務について個別に実施するか否かの選択ができるわけではない。もっとも、これは、包括的な仕事の依頼を受託した以上、契約上、当然のことと解される。本件では、業務の内容からして、Y社がXに対し特定の世帯や事業所を選び訪問すべき日や時間を指定して個別の仕事を依頼するなどということは、およそ予定されていないと考えられるから、Xに上記の選択権のないことを本来的な意味の諾否の自由の有無の問題ととらえるのは相当でない。

2 ①本件契約においては、諾否の自由の問題を取り上げるのは相当でなく、②Y社のスタッフに対する助言指導は、業績の不振を契機として主として稼働日数や稼働時間等についてされるものであり、限定された場面におけるものということができる。③本件契約上、1か月の稼働日数や1日の稼働日数は、スタッフの判断で自由に決めていくことができ、実際の稼働をみても、スタッフにより、時期により様々である。目標値はY社が設定するとしても、稼働時間に対する拘束性は強いものとはいえない。場所的拘束性も、訪問対象の世帯等がその地域内にあるというだけで、訪問以外の場面ではその地域内での待機を強いられるわけではない。④本件契約の事務費は、基本給とまではいえず、そのほかの給付も出来高払の性格を失っていない。⑤本件契約においては、第三者への再委託が認められており、実際にも再委託制度を利用している者がいた。⑥兼業は許容され、就業規則や社会保険の適用はない。なお、⑦本件契約による業務を遂行する上で必要な機材等はY社によって貸与されている

3 このように②から⑥まで、とりわけ、稼働日数や稼働時間が裁量に任されており、時間的な拘束性が相当低く、⑤のとおり、第三者への再委託が認められていることに着目すれば、⑦の事情を総合しても、本件契約が、労働契約的性質を有すると認めることはできない。

高裁は、原審判断とは異なり、NHKの集金スタッフの労働者性を否定しました。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

本の紹介529 ある日突然40億円の借金を背負う-それでも人生はなんとかなる。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
ある日突然40億円の借金を背負う――それでも人生はなんとかなる。

相続により40億円の借金を背負った社長が見事、借金を完済したというお話です。

普通なら、とても返済できるような金額ではないと考え、相続放棄や自己破産を考えるところですが、

経営方針を考え直すにより、会社を復活させた素晴らしい経営者です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

愛読書といっていいのかわからないが、私は長年にわたって、戦没学生の手記である『きけわだつみのこえ』に救われていた。何冊も購入して、事務所や自宅、電話の横、クルマの中など、さまざまな場所に置いていた。苦しくなるたびに、そのときその場で手に取って開けるようにするためだ。ここに書かれている方々の思いを考えれば、今の自分の苦難など何でもないと思えた。借金がでかくて、銀行から屈辱的なことをいわれたところで、それがどうした-この方々の無念に比べれば、自分の境遇を嘆くなんて甘えている。」(177頁)

「~と比べたら」、「あのときと比べたら」と、今の自分よりも大変な状況を思い浮かべることによって、今の困難な状況を乗り切る気持ちが湧いてくる、という発想はとても大切ですね。

最初が肝心と言われるのは、まさにこれと同じ感覚なのだと思います。

弁護士になりたてのころは、右も左もわからないので、何をやるにしても時間がかかります。

早く仕事を覚えたい、早く一人前になりたいと思い、誰よりも早く仕事を始め、誰よりも遅くまで仕事をする。

私は、圧倒的な努力を続けることでしか自信をつけることはできないと思っています。

5年間、これを続けられたら、仕事に対するスタンスが固まるのではないでしょうか。

5年続けたら、10年続けられますから。