Daily Archives: 2017年1月17日

同一労働同一賃金3 無期労働契約者のみに支給される手当と同一労働同一賃金問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、無期労働契約者のみに支給される手当の一部が労働契約法20条に違反するとされた裁判例を見てみましょう。

ハマキョウレックス(第2次)事件(大阪高裁平成28年7月26日・労経速2292号3頁)

【事案の概要】

本件は、一般貨物自動車運送事業等を営むY社との間で、期間の定めのある労働契約を締結して配車ドライバーとして勤務したXが、Y社に対し,
①XとY社との間には始期付きの期間の定めのない労働契約が成立しており、仮にそうでないとしても、Y社と無期労働契約を締結している労働者の労働条件とXの労働条件とを比較すると、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当、通勤手当及び一時金の支給、定期昇給並びに退職金の支給に関して相違があり、かかる相違は不合理であって公序良俗に反し、平成25年4月1日以降は労働契約法20条にも違反しており無効であるから、Xは、労働契約上、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当、通勤手当及び一時金の支給、定期昇給並びに退職金の支給に関し、Y社と無期労働契約を締結している労働者と同一の権利を有する地位にある旨主張して、同地位にあることの確認を求め、
②Y社は、Xの手取賃金として最低でも月額30万円を支払う旨約したにもかかわらず、平成23年11月10日から平成25年9月10日まで、原判決別表の「振込額(円)」欄記載の手取賃金額しか支払わず、前記30万円との差額である同表の「差額(円)」欄記載の合計68万2578円が未払であり、仮に前記約束が認められないとしても、手取賃金として最低でも月額30万円が支払われるものとXに期待させるなどしたY社の行為は不法行為を構成し、Xは前記未払分68万2578円と同額の損害を被った旨主張して、主位的に労働契約に基づき、予備的に不法行為に基づき、前記68万2578円+遅延損害金の支払を求め、
前記①のとおり、Xは、労働契約上、Y社と無期労働契約を締結している労働者と同一の権利を有する地位にあるところ、平成21年10月1日から平成25年8月31日までの47か月間の無事故手当月額1万円、作業手当月額1万円、給食手当月額3500円、住宅手当月額2万円、皆勤手当月額1万円と通勤手当の差額2000円との月額合計5万5500円の割合による手当合計260万8500円が未払であり、仮にXが前記労働者と同一の権利を有しないとしても、そのような権利を有するものと期待させながら未だにXとの間で無期労働契約を締結しないなどのY社の行為は不法行為を構成し、Xは前記未払分260万8500円と同額の損害を被った旨主張して、主位的に労働契約に基づき、予備的に不法行為に基づき、前記260万8500円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

 Xの控訴及び当審における追加請求に基づき、原判決を次のとおり変更する。
 Y社は、Xに対し、77万円及びうち12万7500円に対する平成25年10月29日から、うち64万2500円に対する平成27年12月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 Xのその余の請求及び当審におけるその余の追加請求をいずれも棄却する。
 Y社の控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 労働契約法20条は、「不合理と認められるもの」といえるか否かの判断については、「職務の内容」、すなわち、「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」と、「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」と「その他の事情」を考慮要素とする旨規定しており、「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」とは、労働者が従事している業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいい、「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」とは、今後の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等(配置の変更を伴わない職務の内容の変更を含む。)の有無や範囲を指し、人材活用の仕組みと運用を意味するものと言い換えることができる。また,「その他の事情」とは、合理的な労使の慣行等の諸事情を指すものと解される(本件施行通達)。

2 そして、労働契約法20条の不合理性の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるべきものであると解される(本件施行通達)ところ、同条の不合理性の主張立証責任については、「不合理と認められるもの」との文言上、規範的要件であることが明らかであるから、有期労働契約者は、相違のある個々の労働条件ごとに、当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎付ける具体的事実(評価根拠事実)についての主張立証責任を負い、使用者は、当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであるとの評価を妨げる具体的事実(評価障害事実)についての主張立証責任を負うものと解するのが相当である。

3 Y社の正社員と契約社員との間には、前記のような職務遂行能力の評価や教育訓練等を通じた人材の育成等による等級・役職への格付け等を踏まえた広域移動や人材登用の可能性といった人材活用の仕組みの有無に基づく相違が存するのであるから、前提事実の労働条件の相違が同条にいう「不合理と認められるもの」に当たるか否かについて判断するに当たっては、前記のような労働契約法20条所定の考慮事情を踏まえて、個々の労働条件ごとに慎重に検討しなければならない。

4 労働契約法20条は、訓示規定ではないから、同条に違反する労働条件の定めは無効というべきであり、同条に違反する労働条件の定めを設けた労働契約を締結した場合には、民法709条の不法行為が成立する場合があり得るものと解される。

しかしながら、労働契約法は、同法20条に違反した場合の効果として、同法12条や労働基準法13条に相当する規定を設けていないこと、労働契約法20条により無効と判断された有期契約労働者の労働条件をどのように補充するかについては、労使間の個別的あるいは集団的な交渉に委ねられるべきものであることからすれば、裁判所が、明文の規定がないまま、労働条件を補充することは、できる限り控えるべきものと考えられる

したがって、関係する就業規則、労働協約、労働契約等の規定の合理的な解釈の結果、有期労働契約者に対して、無期契約労働者の労働条件を定めた就業規則、労働協約、労働契約等の規定を適用し得る場合はともかく、そうでない場合には、前記のとおり、不法行為による損害賠償責任が生じ得るにとどまるものと解するほかないというべきである。

労働契約法20条の規範的効力を否定しています。

また、ざっくり労働契約法20条違反か否かを判断するのではなく、個々の労働条件ごとに判断していくべきであるとされています(当然といえば当然ですが)。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。