賃金124 就業規則の変更による退職金減額が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、就業規則の変更による退職金減額が有効とされた裁判例を見てみましょう。

甲学園事件(大阪地裁平成28年10月25日・労経速2295号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の教職員であったXらが、新人事制度が施行され就業規則(各種規則等を含む。)が変更されたことで退職金が減額となったが、同変更がXらを拘束しないとして、変更前の規則に基づく退職金と既払退職金との差額及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 就業規則の変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、労働条件の集団的処理、特にその統一的、画一的決定を建前とする就業規則の性質上、当該条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解され(最判昭和43年12月25日)、当該変更が合理的なものであるとは、当該変更が、その必要性及び内容の両面からみて、これによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである(最判平成12年9月7日)。

2 確かに、賃金や退職金等は労働者の生活に直接関わる重要な事項であることからすれば、経営状態が悪化したからといって直ちに労働条件を不利益に変更することが許されるものではないが、他方で、経営状態の悪化が進み、末期的な状況にならない限り、労働条件の改正に着手することが許されないものではなく、むしろ、末期的な状況になってからでは遅いともいえるのであり(法人が破綻してしまえば、結局、労働者にとっても大きな不利益となるし、破綻に至らなくとも整理解雇が避けられない事態となれば、やはり解雇対象となった労働者にとって大きな不利益となる。)、収入の増加及び労働者の労働条件に直接かかわらない支出の削減を優先すべきであることは当然であるが、法人が末期的な状態に至ることを回避すべく、複数年にわたって赤字経営が続いており、その改善の見込みもなく、潤沢な余剰資産があるわけでもないというような状況下においては、破綻を回避するために労働条件を不利益に改正することもやむを得ないというほかない。

本件のような事情があるケースでは、賃金や退職金の減額も高度の必要性が認められるわけです。

つぶれてしまっては元も子もないですから。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。