Daily Archives: 2017年7月3日

労働者性21 共同設立者の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、共同設立者である美容師の労働者性と賃金減額の成否に関する裁判例を見てみましょう。

美容院A事件(東京地裁平成28年10月6日・労判1154号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の経営する美容院において稼働していたXが、Y社に対し、Y社との間に労働契約が成立している旨を主張して、同契約に基づく賃金(平成24年7月分から平成25年2月分までの未払賃金合計255万円)及び遅延損害金(上記各月分の賃金に対する各支給日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合によるもの)の支払を求めた事案である。

これに対し、Y社は、Xが、実質的にY社代表者とY社を共同経営する代表者の一人であり、労働契約に基づく賃金請求権を有するものではないし、また、同請求権を有していたとしても賃金減額に同意しており、全ての賃金が既払いとなっている旨を反論するものである。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、105万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xが、勤務時間や場所等について、これらを自由に決定できる状況になく、自身を指名予約する顧客の有無にかかわらず、場合によっては、美容院を不在にすることの多いY社代表者を介して来店した顧客への対応も含めて、概ね週五,六日程度、出勤して美容師として稼働していたこと、そして、会計上、給与(賃金)の名目で月額報酬を支給され、雇用保険に加入していたこと、取締役又は代表取締役としての就任登記がされていないことといった事情に照らせば、原則として、Xの従業員としての地位を全く否定することは困難であって、少なからず同地位を有していたものとみるのが相当というべきである。

2 XとY社代表者との間では、費用と報酬を分け合い、二人で意見を出し合って店を切り盛りしていくといった程度の大まかな認識に基づく「共同経営」に関する合意があったところ、そのような合意に基づいて、両者の報酬がほぼ同等の額とされたほか、Xにおいても、自身が「共同経営者」であるとの認識に基づき、Y社にa社で使用していた機材を提供することに始まり、「取締役」との肩書きを付した名刺を用いて稼働し、Y社代表者に意見を述べ、また、他の美容師の指導的役割を担い、さらに、Y社の運転資金等の借入れに際して、金融機関との折衝に立ち会い、連帯保証人となったほか、店舗賃貸借契約の連帯保証人にもなり、税理士・公認会計士とY社代表者との打合せにXが参加したこともあったこと等を踏まえれば、Xは、Y社の経営に一定程度関与をする姿勢を見せており、これに事実上の影響力を及ぼし得る立場にあったものといえる。
もっとも、Y社において取締役会が開催されたことはなく、当然ながらXがこれに出席して何らかの発言等を行ったことが一切ないこと、また、これも代表取締役としての就任登記の有無の差異から当然のこととはいえ、対外的な折衝、契約をはじめとする様々なY社の業務執行行為に及んでいたのが飽くまでY社代表者のみであり、Xがこれに及んでいたものではないこと(上記各連帯保証契約を、Y社の役員という立場や肩書きを明示した上でXが締結したことを認めるに足りる証拠はない。)からすると、Xが、Y社の実質的な代表取締役であったとまでいうことは到底できない。
前記のような事情を踏まえても、Xは、実質的には、せいぜい使用人兼務役員のような立場にあったといえるにすぎないというべきであって、上記特段の事情を見出すことはできず、Xの従業員性を否定することはできない

3 Y社は、Xが、賃金減額に対して何ら異議を述べず、Y社を退職した後である平成25年10月にあっせんの申請をするまで、減額分の金員の請求をせず、これを受け入れていたものである旨を主張するところ、確かにXは、上記あっせんの申請まで何らの法的な手続に及んではいない。
しかしながら、Xの報酬のうち賃金相当額についてみると月額37万円から月額22万円への4割ほどの大幅な減額であること、Xとしては、その減額に対して少なくとも口頭で、そのような安い報酬ではやっていけない旨をY社代表者に伝えた旨を供述していること、そして、現にXはそのような処遇に納得がいかずにY社を辞めることにしたこと、また、Xは、Y社の美容院を平成25年2月末に退店した後も、同年6月ないし7月頃まで、Y社の了承の下に、Y社の美容院の片隅に間借りして別の美容院を営んでおり、そのような状況が一段落してから未払賃金の請求をしようと考え、その後間もない同年10月にあっせんの申請に及んだことからすると、Xが、Y社からの賃金減額の通告に納得していたものではないといえ、他に原告がこれについて真意に基づき同意していたことを認めるに足りる証拠はない

本件では、上記判例のポイント2のように労働者性を否定する事情がいくつか存在しますが、それでもなお、労働者性は否定されませんでした。

裁判所がこのように判断することも十分あり得るということを前提に労務管理をすることが大切です。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。