Daily Archives: 2017年7月5日

解雇237 妊娠中の退職合意の有効性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、妊娠中の退職合意不成立等に基づく地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

TRUST事件(東京地裁立川支部平成29年1月31日・労判ジャーナル62号46頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、民法536条2項に基づく賃金及び不法行為に基づく慰謝料並びにこれらに対する遅延損害金の各支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

退職合意は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、妊娠が判明したXとの間に退職合意があったと主張するが、退職は、一般的に、労働者に不利な影響をもたらすところ、雇用機会均等法1条、2条、9条3項の趣旨に照らすと、女性労働者につき、妊娠中の退職の合意があったか否かについては、特に当該労働者につき自由な意思に基づいてこれを合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか慎重に判断する必要がある
確かに、Xは、現場の墨出し等の業務ができないことの説明を受けたうえで、株式会社aへの派遣登録を受け入れ、その後、平成27年6月10日に、Y社代表者から退職扱いとなっている旨の説明を受けるまで、Y社に対し、社会保険の関係以外の連絡がないことからすると、Xが退職を受け入れていたと考える余地がないわけではない。
しかしながら、Y社が退職合意のあったと主張する平成27年1月末頃以降、平成27年6月10日時点まで、Y社側からは、上記連絡のあった社会保険について、Xの退職を前提に、Y社の下では既に加入できなくなっている旨の明確な説明や、退職届の受理、退職証明書の発行、離職票の提供等の、客観的、具体的な退職手続がなされていない
他方で、X側は、Y社に対し、継続して、社会保険加入希望を伝えており、平成27年6月10日に、Y社代表者から退職扱いとなっている旨の説明を受けて初めて、離職票の提供を請求した上で、自主退職ではないとの認識を示している。
さらに、Y社の主張を前提としても、退職合意があったとされる時に、Y社は、Xの産後についてなんら言及をしていないことも併せ考慮すると、Xは、産後の復帰可能性のない退職であると実質的に理解する契機がなかったと考えられ、また、Y社に紹介された株式会社aにおいて、派遣先やその具体的労働条件について決まる前から、Xの退職合意があったとされていることから、Xには、Y社に残るか、退職の上、派遣登録するかを検討するための情報がなかったという点においても、自由な意思に基づく選択があったとは言い難い。
以上によれば、Y社側で、労働者であるXにつき自由な意思に基づいて退職を合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することについての、十分な主張立証が尽くされているとは言えず、これを認めることはできない
よって、Xは、Y社における、労働契約上の権利を有する地位にあることが認められる。

有名な裁判例ですのでご存じの方も多いと思います。

この裁判例に限りませんが、とにかく「自由な意思」の認定が厳しいですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。