Daily Archives: 2017年10月25日

解雇245 職種限定合意と合併に伴う配転命令(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、職種限定合意の有無と合併に伴う配転・諭旨解雇の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

ジブラルタ生命(旧エジソン生命)事件(名古屋高裁平成29年3月9日・労判1159号16頁)

【事案の概要】

本件は、平成22年8月1日にAIGエジソン生命保険株式会社に入社し、平成24年1月1日にY社がエジソン生命を吸収合併する前は同社のソリューションプロバイダーリーダー(SPL)であり、同合併後は、Y社のライフプランコンサルタント(LC)(通常の営業社員)としての扱いを受けていたXが、Y社から同年6月20日付けで懲戒解雇されたことについて、本件懲戒解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに平成24年7月以降判決確定の日まで毎月25日限り賃金50万円+遅延損害金の支払いを求めるとともに、本件懲戒解雇は不法行為に該当すると主張して、慰謝料100万円及び弁護士費用50万円の合計150万円+遅延損害金の支払いを求めている事案である。

原判決は、Xの請求をいずれも棄却したところ、Xが控訴した。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。

懲戒解雇は無効

Y社はXに対し、150万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 エジソン生命及びY社としては、上記4職種を提示しただけでこれに異を唱えずに応じる者についてはともかく、Xのようにこれに応じられない者に対しては、まずASP事業部の廃止が避けられない事情を十分に説明し、更にチーフトレーナー又は営業所長への移行とせめてA近辺(愛知、岐阜、三重など)の範囲に限った異動の可能性を提示するなど、4職種のうちの一部の労働条件を変容させたり、あるいは、営業部門以外の部署(例えば、人事部門、総務部門など)への配置換えを選択肢として示し又は勧めたりするように柔軟かつきめ細かな対応をすることは、その企業規模からして十分可能であったというべきであるにもかかわらず、少なくともXに対してはそのような応対は一切していない。
・・・以上述べたところによれば、Y社は、職種及び職場限定の合意があって、上記①ないし③の職種への移行に応じられず、応じないことが許容されるXに対し、その他の選択肢を一切示さないまま、Xをしてその最も意に沿わない職種であって、かつ、待遇面でも明らかに不利益となることが明白な④のLCとして取り扱ったことは、正当な理由のない配転命令がなされたものというべきであって、しかも、管理職から一般社員への懲罰的な降格人事とも解されるから、人事権の濫用として無効であるといわざるを得ない。

2 Y社は、合理的な理由のない本件懲戒解雇により、Xに対し、精神的苦痛を与えたものであるから、Xに対し民法709条、710条の不法行為責任を負うものと認められ、Xが営業社員であるSPの採用育成等に職種限定して合併前のエジソン生命に入社し、そのような業務を遂行していたにもかかわらず、営業職員にのみ適用され、Xには提出義務のないサクセスプランナーや直帰届の提出を強要するなどした上、人事権を濫用してXを合理的理由なくLCに配転する命令をし、理由のない厳重注意書や業務命令書の交付等を立て続けに行うなどした挙げ句、本件懲戒解雇に及んだという一連の経緯その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すれば、Xの精神的苦痛に対する慰謝料額としては、Xの請求額である100万円を下ることはなく、また、本件訴訟を遂行するに当たっては相当と認められる弁護士費用額も、Xの請求額である50万円を下ることはない。

上記判例のポイント1の判断は重要ですので参考にしてください。

職種や職場限定の合意がある場合、当然に配置転換ができません。

本人の同意が得られない場合、強引なやり方をすると今回のような結果になります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。