Daily Archives: 2018年5月14日

解雇265 第三者に告発文を送った労働者に対する解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、第三者に告発文を送った営業社員に対する解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

A不動産事件(広島高裁平成29年7月14日・労判1170号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結してY社の従業員であったXが、Y社において、平成26年10月9日に、Xに対し、同年9月30日付けでするとした解雇の意思表示は、懲戒解雇及び普通解雇のいずれにも該当する事由がなく、仮にいずれかに該当する事由があったとしても、当該解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるといえないから無効であると主張して、Y社との間の労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成26年10月から判決確定の日まで各月5日限り、賃金として各月24万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、Y社のXに対する懲戒解雇の意思表示は有効であると判断し、Xの請求を全部棄却した。

【裁判所の判断】

原判決を次のとおり変更する。

Y社は、Xに対し、380万1290円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 懲戒解雇事由(12)は、「会社の信用を著しく損なう行為のあったとき。」というものであり、その「著しく」という文言があることのほか、一般に、懲戒解雇が労働者に与える影響、効果にも鑑みると、本件懲戒解雇事由(12)に該当する信用毀損行為は、単に、信用を損なう行為があったというだけでなく、その行為により、会社の信用が害され、実際に重大な損害が生じたか、少なくとも重大な損害が生じる蓋然性が高度であった場合をいうものと解するのが相当である。
この点につき、確かに、Y社は、同族経営の小規模な会社であり、役員個人の信用に係る事実がY社の信用に直結するといえる。また、Y社は、顧客からの信用を得て高額の不動産取引に関与する業態であるから、信用の維持はY社Y社にとって重要であり、Y社代表者が本件強化の理事及び本部長に就任したことも、Y社がそれまで培った信用を基礎としていることがうかがわれるところ、本件送信により、本件協会の会員に対し、Y社の役員が本件刑事事件により逮捕された事実が広く知られるとの結果が生じたのであり、Y社の信用毀損の程度を軽く見ることはできない。
しかし、他方で、本件送信はY社の顧客に対してされたものではなく、Y社に売上の低下等の経済的な実損害が生じたものではない。また、Y社代表者が本件協会の理事及び本部長の辞任を余儀なくなされるには至っていない。そうすると、本件送信による信用毀損が原因で、Y社に実際に重大な損害が生じたとか、重大な損害が発生する蓋然性が高かったとまでは認められず、このほか、これを認めるに足りる証拠はない。
よって、本件送信の事実をもって、Xに本件懲戒解雇事由(12)に該当する事由があったということはできない。

2 本件通知書には、就業規則上の懲戒解雇事由の具体的な条項が記載されていないが、解雇理由及びこれに続く部分には、本件懲戒解雇事由(11)及び(12)に該当する趣旨と解される記載がされており、本件通知書の内容を説明したY社代理人作成の回答書には懲戒解雇であることが明記されているから、本件通知書により懲戒解雇の意思表示がされたものであると認められる。
そして、本件通知書には、本件告訴をしたことが併記されているとおり、Xによる秩序違反に対して制裁を行使する意思であることが容易に認められる一方で、普通解雇事由の具体的な条項その他本件労働契約の解約申入れにすぎないことを窺わせる記載はされておらず、普通解雇の意思表示が内包されているとは認められない
よって、本件通知書により普通解雇の意思表示がされたと認めることはできない。上記によれば、本件普通解雇事由が存在し、客観的に相当であるから、上記意思表示は有効であり、上記陳述がされた平成27年11月26日から30日が経過した同年12月26日をもって、本件労働契約が終了したと認めることができる

原審、控訴審の判決理由を読んでみましたが、私は一審の判断のほうが腑に落ちます。

また、懲戒解雇と普通解雇の関係について判例のポイント2が参考になります。

訴訟でもよく議論になるところなので押さえておきましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。