配転・出向・転籍39 配転の可能性を認める規定の存在とアルバイト職員の勤務限定の合意(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、アルバイト職員の勤務地限定の合意に関する裁判例を見てみましょう。

ジャパンレンタカー事件(津地裁平成31年4月12日・労判ジャーナル88号2頁)

【事案の概要】

本件は、一般乗用旅客自動車運送事業、自動車の貸付業、遊技場の経営等を目的とするY社との間で、反復継続して労働契約を更新し、Y社のD店に勤務してきたアルバイト社員Xが、雇止めをされたことから、雇止めが合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとして、①労働者の地位確認及びそれに伴う賃金の支払を求めるとともに、②Y社には、社会保険の加入手続を取っていなかった不法行為責任があるとして、それに基づく損害の支払、③未払割増賃金の支払並びに④付加金の支払を求める訴訟を提起したところ、控訴審において、①を認容し、②ないし④を一部認容する判決がなされ、同判決は、平成29年6月3日に確定した。
Y社は、Xに対し、同月26日付けで就業場所をC店とする旨の配転命令を出した。

本件は、Xが、上記配転命令が無効であると主張して、Y社に対し、C店において勤労する労働契約上の義務がないことの確認を求めるとともに、Y社が社会保険の加入手続をとっていなかったことが債務不履行に当たるとして、Y社に対しては債務不履行に基づき、また、代表取締役に対しては会社法429条1項に基づき、連帯して75万8746円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

Y社はXに対し、75万8746円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社においては、アルバイトに配転を命じる旨の規定は存在するが、アルバイトは、Xが採用された当時ではなく、現時点に近いものではあるものの、基本的には、通いやすい場所を選んで、具体的な店舗に勤務するというのであり、他の店舗での勤務については、近接店舗に応援するのみであるとされていること、正社員についてさえも、通勤圏内での異動という場合もあるとされていること、Xは、平成6年3月からは、4か月ほどをE店で勤務したほかは、長年専らD店で勤務してきていること、Y社とXとの雇用契約書では、当初、「D店」とだけ限定した記載がされていたが、その後、「Y社D店及び近隣店舗」ないし「D店及び当社が指定する場所」と記載が変更されているが、このことについて、Y社からXへの説明はなされていないことからすると、XがE店からD店に異動し、D店からE店に一時異動したことがあることを考慮しても、Y社とXとの間では、Xの勤務地が必ずしもD店のみに限定されてないとしても、少なくともD店又はE店などの近接店舗に限定する旨の合意があったものと解するのが相当である。

2 仮に、Xの勤務先をD店又は近接店舗に限定する旨の合意が成立しているとまではいえないとしても、以上の事情からすれば、Y社には、Xの勤務先がD店又は近接店舗に限定するようにできるだけ配慮すべき信義則上の義務があるというべきであり、本件配転命令が特段の事情のある場合に当たるとして、権利濫用になるかどうか判断するに当たっても、この趣旨を十分に考慮すべきであるといえる。

3 Y社は、Xが、自分で働こうとせず、他の同僚に仕事を押し付けたり、他の従業員が仕事を頼んでも、冷たく威圧的な態度を取られるため、恐怖心を感じてしまうことから、他の従業員らにおいて、Xと一緒に働くことを拒絶していることから、XをD店に復帰させることも、三重県内の近接店舗に配転することも避けなければならない旨主張し、証拠にはそれに沿う部分が存在する。
しかし、Xは、これを否定する陳述及び供述をしている上、仮にそれに類する行為があったとしても、全証拠によっても、Y社がそれを会社の問題として捉えたとも、会社として正式に指導するなどしたとも認められないことからすると、Y社としては、Xを異動させなければならない事態には至っていないといわざるを得ないし、会社がそれらをし、Xをして改善の機会を何ら与えることなく、Xの異動をもって対処することは、上記の趣旨に反することを正当化する事情とはならないというべきである。

雇用契約書等に配転命令について規定されていたとしても、今回のようにそもそも合意の存在を否定されることがあることは理解しておきましょう。

仮に勤務地限定の合意がないと認定されたとしても、権利濫用該当性のハードルが待ち構えていますので、いずれにしても、顧問弁護士に相談の上慎重に対応すべきです。