従業員に対する損害賠償請求8 退職従業員に対する労基法16条適用の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職した日雇従業員の不動産取引損金補てん合意の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

P興産元従業員事件(大阪高裁令和2年1月14日・労判1228号87頁)

【事案の概要】

本件は、Xとの間で不動産取引に関してY社に生じた損金をXが補填する旨の合意をしたY社が、本件合意により補填されるべき損金239万9835円が生じたと主張して、Xに対し、本件合意に基づき、上記損金+遅延損害金の支払を求める事案である。

原審はY社の請求を全部認容したところ、Xがこれを不服として本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。

Y社の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは労働契約に基づきY社に対して業務提供をしていたから、XとY社との権利義務関係については、労働基準法の適用を受ける。そして、同法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と規定しているところ、本件合意は、その成立時期がXの退職直後であるものの、使用者が労働契約関係にあった労働者に退職後も上記労働契約に付随して努力する義務を負わせた上、将来Y社に損害が生じた場合には、事情の如何を問わずその全額の賠償を約束させるものにほかならず、実質的には、上記労働基準法の規定の趣旨に反するものである。

2 XがY社に取引を勧めたのは、本件覚書記載の3物件のうち愛知県C物件のみであり、本件不動産及びL物件については、Xが入札の可否に関する判断をしたわけではなく、その他、Y社に生じた損金を補填しなければならないような合理的理由を何ら見出すことはできない

3 本件合意は、上記3物件の転売による利益はY社が取得することを前提としながら、損金が生じた場合はその全額をXに負担させるというものであり、極めて不公平で一方的な内容のものというほかない

4 本件覚書は、Y社に一方的に有利で、かつ、Xに一方的に不利益な内容であって、既にY社を退職していたXが本件覚書に係る本件合意をする合理的理由を何ら見出せないにもかかわらず、Xが本件覚書に署名押印したのは、これを拒否した場合にX及び当時Y社に就労中の妻Mに加えられることが想定されるY社代表者及び関係者からの報復を恐れたためであると解するのが自然であり、これに沿う控訴人の供述は信用できる。
したがって、本件合意は、Xの自由意思によるものとは到底いえないというべきである。

担当する裁判官によって、こうも判断が異なるものかと感じます。

親と裁判官は選べません。

だからこそリスクヘッジのためにも、日頃から顧問弁護士に相談することを習慣化しましょう。