Monthly Archives: 6月 2021

本の紹介1165 おカネの教室(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

小説形式で「おカネ」に関する授業が進められています。

子どもが読んでも勉強になると思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

高貴なる義務、とでも訳せば良いのですかね。恵まれた上流階級には人類全体に奉仕する義務がある、という考え方です。鼻持ちならないエリート意識と紙一重ですが、かつてはそうした美学が強くあった。第一次大戦では多くの欧州の貴族の若者が前線への出征を志願して命を落としています。日本にも、武士は食わねど高楊枝ということがある。ニュアンスは違いますが、金に執着せず名誉を重んじよ、という価値観は通底します」(262頁)

金に執着せず名誉を重んじよという価値観は今の時代どの程度共有されているのでしょうか。

損得よりも善悪を重んじる生き方をどれだけの人がしているのでしょうか。

と講釈を垂れるつもりはありませんが、お金はどこまでいっても手段であって目的にはなりません。

あるに越したことはありませんが、ほどほどで十分です。

幸せの量は、預金残高では測れません。

継続雇用制度32 コロナ禍における懲戒処分(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、コロナ禍での譴責処分に基づく再雇用合意解除の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ヤマサン食品工業(仮処分)事件(富山地裁令和2年11月27日・労判1236号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して定年まで勤務してきたXが、Y社との間で、定年翌日を始期とする嘱託雇用契約を締結していたにもかかわらず、Y社から、Xが譴責の懲戒処分を受けたことを理由に、上記始期付き嘱託雇用契約を解除する旨の通知を受け、定年後の再雇用を拒否されたところ、このような合意の解除は、客観的に合理的な理由及び相当性に欠け、権利の濫用に当たり無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めることを求めるとともに、賃金の仮払を求める事案である。

【裁判所の判断】

地位確認却下

賃金仮払認容

【判例のポイント】

1 Y社における継続雇用制度は、平成24年改正の趣旨を踏まえ、就業規則3-7別表1に定める基準年齢に達するまでは、本件労使協定に定める基準を適用することなく、解雇事由又は退職事由に該当する事由がない限り再雇用し、上記基準年齢に達した後は、本件労使協定に定める基準を満たす者に限って65歳まで再雇用する旨定めるものと解釈すべきである。
Xは、定年に達した令和2年7月20日時点において、60歳であり、就業規則3-7別表1の基準年齢(当時は63歳)には達していなかったから、同月21日以降もXに再雇用されるために、本件労使協定に定める基準がないと認められる必要があったにすぎないと解すべきである。そうすると、本件就業規則抵触条項についても、解雇事由又は退職事由に該当するような就業規則違反があった場合に限定して、本件合意を解除し、再雇用の可否や雇用条件を再検討するという趣旨であると解釈すべきである。

2 Xが、Y社の面談において概ね事実を認めて反省の弁を述べ、始末書を提出しており、その後同様の行為に及んだことも認められないこと、Y社においても譴責処分にとどめていること、除菌水の持ち帰りについては、一定量を上限とするような明確な基準まではなかった上、一応事前にCに話を通していたこと等を踏まえると、当時のY社における新型コロナウィルス対策の重要性やXの立場及び担当業務等のY社が指摘する事情を考慮しても、Xの上記行為が、職場の秩序を乱したとか情状が悪質であるなどの就業規則に定める解雇事由に相当するほどの事情であるとはいえない

高年法が改正され、努力義務とはいえ、定年が引き上げられました。

今後ますます継続雇用制度に関する紛争が増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

本の紹介1164 村上世彰、高校生に投資を教える。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

N高投資部特別顧問の村上さんが高校生に投資に関する講義をした内容です。

いまだに日本では投資について消極的な方が多いですが、労働収入だけで生活することは経済情勢や税制面からしてもなかなかしんどいです。

「やっている人はやっている」

そんな感じでしょうか。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人生において究極的に幸福な状態というのは、自分なりにミッションを見つけて、それに邁進している状態だと思います。
ミッションとは『できるかどうか分からないくらい難しいけれど、一生をかけてやり遂げたいこと』、『他の誰かではなく自分がやらなくてはならないと思えるようなこと』です。そして、それは生きる意味や目的になるようなものです。」(179頁)

幸せの感じ方は人によって異なりますので、何かに邁進していなくても幸せならそれでいいのです。

死ぬ直前に有意義な人生だったと振り返ることができれば幸せなのだと思います。

ミッションらしきものがあったら、残りの人生、退屈しないだろうなと思いますので。

解雇348 コロナ禍における整理解雇(リストラ)(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、コロナ禍におけるタクシー乗務員らの整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

センバ流通(仮処分)事件(仙台地裁令和2年8月21日・労判1236号63頁)

【事案の概要】

本件は、タクシー乗務員であるXらが、Y社に対し、Y社が令和2年4月30日付でした整理解雇は無効であるとして、労働契約上の地位保全及び賃金の仮払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は有期雇用契約の期間満了前の解雇であるから「やむを得ない事由」(労働契約法17条1項)が必要である。やむを得ない事由の判断にあたっては、本件解雇が整理解雇でもあることからすると、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人員選択の合理性、④手続きの相当性の各要素を総合的に考慮して判断すべきである。 

2 債務者の売上については、令和2年3月ころから、新型コロナによるタクシー利用客の減少による売上の減少が始まり、4月は激減した。債務者の4月の収支は約1415万円もの支出超過、4月30日の資産は総額約3133万円もの債務超過となっている。新型コロナの影響によるタクシー利用客の減少がいつまで続くのか不明確な状況であった以上、本件解雇時において、債務者に人員削減の必要性があること及びその必要性が相応に緊急かつ高度のものであったことは疎明がある。
しかし、今後については、給与は従業員を休業させることによって6割の休業手当の支出にとどめることが可能であり、しかも、雇用調整助成金の申請をすればその大半が補填されることがほぼ確実であった。また、燃料費、修繕費、保険料、自賠責保険料は、臨時休車措置をとることにより免れることができた
これらの事情を総合すると、債務者の人員削減の必要性については、ただちに整理解雇を行わなければ倒産が必至であるほどに緊急かつ高度の必要性であったことの疎明があるとはいえない。 

3 債務者は、本件解雇に先立ち、雇用調整助成金の申請や臨時休車措置の活用はしていない。厚生労働省や労働基準監督署、宮城県タクシー協会がホームページや説明会を利用して雇用調整助成金を利用した雇用の確保を推奨していたこと、東北運輸局がホームページを利用して臨時休車措置の利用を推奨していたこと〈など〉に照らすと、債務者は、本件解雇に先立ち、これらの措置を利用することが強く要請されていたというべきである。債務者の解雇回避措置の相当性は相当に低い。 

4 本件全疎明資料によっても、債権者らが顧客からのクレームが多いこと〈など〉の疎明があるとはいえない。そうすると、人員選択の合理性の程度も低い。

5 解雇通知は、整理解雇との関連性に欠ける記載が多く、団体交渉の席上での口頭説明では十分とはいえない。そうすると、本件解雇の手続きの相当性も低い。

コロナ禍における整理解雇事案です。

雇調金等について言及されており、昨今の特殊事情を考慮した判断となっています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1163 35歳で夢をつかんだ「資産家」シンさんの教え(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

経済的不安から解放され、「お金から自由になる」方法が書かれています。

将来や老後に対する漠然とした不安をなくすためにいかなる準備をすればよいかがわかります。

まあ、私たちが年老いたときには、もはや「老後」なる言葉は死語になっているでしょうね。

元気なうちはずっと働くのがスタンダードな時代がもうすぐ来るのでしょう。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

ある程度の自由を謳歌すれば襲ってくる『無価値観』は止めようがありません。自分が誰のためにも生きていない。信頼されていない。という感情が続くと、人は『あれ?何のために生きているんだっけ?』と生きている意味を見失ってしまうことがあります。」(277頁)

人間は、だれかの役に立っていることに幸せを感じます。

お金がいくらあっても、それだけで最大限の幸福を感じられるわけではありません。

将来の不安はなくなるでしょうが、ただそれだけです。

お金は幸せになる手段にはなり得ても、目的にはなりません。

賃金210 労使間での相殺合意の有効要件とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、相殺無効に基づく未払退職手当等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

独立行政法人国立病院機構事件(東京地裁令和2年10月28日・労判ジャーナル108号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に医師として雇用されていたXが、Y社に対し、退職手当を対象とする相殺は労基法24条1項に違反するなどと主張して、退職手当未払分2498万5928円+遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労基法24条1項本文の定めるいわゆる賃金全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから、使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき相殺に同意した場合においては、その同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは,その同意を得てした相殺は同規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である(最高裁平成2年11月26日第二小法廷判決)。

2 a医療センターの院長の地位にあったXが、本件差押命令に基づく支払を停止したことにより、Y社は、別件取立訴訟を提起され、本来Xが負担すべきである約1425万円もの多額の金銭の支払いを余儀なくされたことから、A理事長は、本件面談の際に、Xに対し、返済方法について質問したところ、Xが、一括での返済が不可能であるためY社から色々と提案して欲しいなどと述べたのに対し、A理事長は、丁寧な口調で本件退職手当から控除する旨提案し、Xは、特段、躊躇したり、質問したりすることなく、これに応じ、本件合意書に署名押印しているのであって、本件合意書の作成過程において、強要にわたるような事情はうかがえない
また、本件相殺合意をすることは、Xとしても、定年退職までの約9か月間、Y社に対する支払いを猶予してもらえるという利点があるし、返済の有無及び方法はXに対する懲戒処分の軽重に影響しうる事情であると考えられるのであるから、本件相殺合意をすることが、Xの一方的な不利益になるということもできない
さらに、本件合意書においては、本件退職手当から法定控除及び差押命令に基づく弁済額の合計額を差し引いた残額を相殺の対象とすることが明示されているなど、合意の内容に不明確なところはない。
以上によれば、本件相殺合意は、Xの同意を得てなされたものであり、その同意は、Xの自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在していたものというべきである。

原告が争う動機がよくわかりませんが、判決の内容からすれば、相殺合意は優に認められると思います。

本件のようなケースも、事前に顧問弁護士に相談して慎重に進めることが大切です。

 

本の紹介1162 成功する人だけが知っている小さな自分という戦略(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

「自分を知り、自分を小さくする」ことが大切だと著者は説いています。

自分を大きく見せたがりの人もいますが、ろくなことになりません。

すればするほど小物であることがばれてしまいます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

いかに情熱と目的を見失わずに進み続けるかが、成功の秘訣です。自分は小さな人間であると認識し、小さな挑戦をする。やったことに小さな幸せを感じる。才能と能力より大事なものがある。・・・才能、能力に頼るのではなく、コツコツ自分のやるべきことを続けましょう。そうすることで、あなたにしかない独自の価値を持つことができます。」(49頁)

自分には才能がないと理解しているからこそ、人よりも努力するのです。

自分は小さな人間であるという意識を忘れず、何歳になっても努力を続けることが大切です。

毎日毎日、飽きずにコツコツ続けることができるかどうか、ただそれだけのことです。

5年10年と1つのことを続けられれば、自ずとその道の専門家になっています。

退職勧奨18 上司の退職強要・人格否定と損害賠償責任(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間がんばりましょう。

今日は、上司らの退職強要発言等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

東武バス日光事件(宇都宮地裁令和2年10月21日・労判ジャーナル107号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y1社の正社員であるXが、その余のY2らから退職強要や人格否定、過少な要求というパワーハラスメントを受けたとして、Y2らに対して共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、Y社に対して使用者責任による損害賠償請求権に基づき、慰謝料200万円、弁護士費用20万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社らは、Xに対し、連帯して66万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件侮蔑的表現が、職責、上司と労働者との関係、指導の必要性、指導の行われた際の具体的状況、当該指導における言辞の内容・態様、頻度等に照らして、社会通念上許容される業務上の指導を超えて、過重な心理的負担を与えたといえる場合には、違法なものとして不法行為に当たるというべきである。

2 上司であるY2がX自身を「チンピラ」「雑魚」と呼称した部分については、行動に対する指導との関連性が希薄で、発言内容そのものがXを侮蔑するものであり、発言の態様や、その後Xが傷病休暇を取得してうつ状態と診断されたこと等も併せて考慮すれば、社会通念上許容される業務上の指導を越えて、過重な心理的負担を与えたといえるから、違法なものとして不法行為に当たる。

3 Y2らの一連の発言や指示は、Xの問題行動にも一因があるといえるものの、他方、特に本件退職強要発言は悪質性が強いといえることや、それにもかかわらずY社らが違法との評価を否定していること、Xが、Y2らの共同不法行為の後、うつ状態になったと診断されていること等に鑑みると、慰謝料の額として60万円が相当である。

慰謝料の金額よりもレピュテーションダメージを考えなければなりません。

退職勧奨の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介1161 投資の大原則(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

タイトルのとおり、テクニカルな話は一切なく、まさに投資の「大原則」が書かれています。

極めてシンプルな原則であるため、誰でも行うことができます。

基本や原理原則が大事だということがよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

仕事でもスポーツでも人間が何かを成し遂げようとするときに成功の鍵となるのは、忍耐力、努力の継続、そしてミスを最小限にとどめること。」(111頁)

記載のとおり、忍耐力、努力の継続、ミスの最小化は投資にとどまらずあらゆることの成功の鍵です。

途中で投げ出さず、やり続けることさえできれば、たいていのことは成功します。

と、頭でわかっていても体が言うことを聞かないのです。

そのくらい続けることは難しいのです。

逆に言えば、だからこそ続けることさえできれば、たいていのことはうまくいくのです。

労働者性35 運転代行ドライバーの労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、運転代行業に従事するドライバーの労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

日本代行事件(大阪地裁令和2年12月11日・労判ジャーナル109号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が運営する運転代行業務に従事していたXらが、XらとY社との契約が雇用契約であるとの前提に立った上で、Xらが時間外労働を行ったとして、雇用契約に基づく割増賃金+遅延損害金、付加金の支払を求めるとともに、Y社が支払の際に、「共済会領収書」、「値引平日」、「クリーニング代」、「事故修理代等」の名目で控除したことが賠償予定の禁止に抵触する、賃金の全額払いの原則に反するとして、雇用契約に基づきその支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社においては、Xらを含むドライバーは、毎週木曜日までに翌週の出社予定について、定型の書式を用いて、各日ごとに「出社」、「連絡」、「休み」の三種類から選択して記入するという方法で連絡することになっていたところ、かかる体制から明らかなとおり、ドライバーは、出社する日を自由な意思で決定することができるとされていたものであり、Xらが出社を希望したにもかかわらず、被告から出社を拒否されたあるいはXらの意思に反して出社を命じられたというような事情はうかがわれない(このことは、Xらが「連絡」として届け出た日について、Y社から出社の打診があった場合についても同様であるといえる。)。
また、Y社においては、ドライバーのほかにオペレーター部、ビル管理部、経理部及びインターネット事業部所属の従業員がいるところ、同従業員はタイムカードを打刻することとされているのに対し、Xらを含むドライバーはタイムカードを打刻することとされていない
そうすると、Xらを含むドライバーは出社するか否かを自らの意思で自由に決定することができていたものであり、また、労働時間も把握されていなかったものであるから、勤務日・勤務時間について拘束されていなかったということができる。
また、Xらを含むドライバーは、番号札を取ったり、運転代行業務に使用する車両を手に入れるため最初に被告事務所に赴く必要があるが、その後は、Y社の事務所で待機して打診を待つことも、歓楽街等で打診を待つことも自由であったのだから(歓楽街で待機していれば、周囲の飲食店で飲酒して出てきた酔客から、直接代行業務の申込みを受けることが可能となり、番号札の順番に従って打診を受けるより早く代行業務に従事することもあり得るから、歓楽街で待機するということもあり得るといえる。)、勤務場所についても拘束されていなかったということができる。
Xらを含む各ドライバーはY社からの打診を受けて運転代行業務に従事するところ、どのような経路で顧客の指定する場所まで赴くか、運転代行業務終了後、どこで待機するか、待機場所まで戻る際に高速道路を使用するか否かなどは各ドライバーが自由に決めていたものである。
そうすると、運転代行という業務の遂行方法について、Y社から各ドライバーに対する個別具体的な指示はなされていなかったということができる。
Xらを含むドライバーが出社日を自由に決定することができていたことからすれば、Xらを含むドライバーはある日について業務を受けるか否かの諾否の自由を有していたといえる。
また、一般のドライバーではなく、Y社の本部長であるBがドライバーとして運転業務に従事したことがあるところ、Y社が、個々のドライバーに対して、具体的な個別の運転代行業務に従事することを命じることができるのであれば、「本部長」という高位の役職にあることがうかがわれるBを運転代行業務に従事させる必要はなく、ドライバーに命じて従事させれば足りるといえる。
それにもかかわらず、Bが運転代行業務に従事しているのは、Y社においては、Xらを含むドライバーが、Y社の営業時間内であっても、各ドライバーの事情(例えば、Y社での業務が副業であった場合、本業の出勤時間との兼ね合いなどが想定される。)から、一定の時間になれば自らの意思で以降の運転代行業務に従事しないこととするなどという諾否の自由を有していたからであることがうかがわれる。

2 Y社が、Xらを含むドライバーに対して支払う報酬は、運転代行業務の売上額に応じてその金額が決まる完全歩合制となっていたものであるから、労務提供時間の長さとは無関係なものであったといえる。そうすると、Xらが支払を受ける報酬は、労務対償性が弱かったことになる。
また、Y社は、各ドライバーに報酬を支払うにあたって、社会保険料及び公租公課の控除を行っておらず、事務室の談話室のトイレ横に紙を貼って、運送業一人親方特別加入を案内したり、確定申告の相談窓口として、税理士事務所を紹介するなどしているところ、これらの事情も報酬の労務対償性がなかったことをうかがわせる事情であるといえる。
Y社の営業時間が午後8時から午前4時という夜間であったこと、Y社が求人情報サイトに掲載していた情報においても「Wワークの方も歓迎」とされていたことからすれば、Y社で運転代行業務に従事するドライバーは、副業として従事している者が多かったことがうかがわれ、そうであれば、Y社で運転代行業務に従事していたドライバーには専属性がなかったことになる。

3 以上を総合考慮すれば、本件において、Xらが、Y社の指揮命令に従って労務を提供していたと評価することはできないから、XらとY社との契約が雇用契約であったということはできない。

非常に参考になる裁判例です。

裁判所がどのような要素を考慮して労働者性を判断しているのか理解しておきましょう。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。