労働災害107 製麺機での受傷と安全配慮義務違反の有無ならびに過失相殺(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、製麺機での受傷と安全配慮義務違反の有無ならびに過失相殺に関する裁判例を見てみましょう。

製麺会社A事件(旭川地裁令和2年8月31日・労判1247号71頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対して、Y社の雇用契約上の安全配慮義務違反により負傷したとして、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として、損害金787万4583円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、365万3922円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件製麺機は、常時刃が露出している危険性を有するものであり、また、Y社においては、麺に縮れを付けるなどの物的な対策や、それに代えて労働者を十分に教育するなどして、上記作業から生じる危険性を防止する義務を負っていたというべきである。
しかしながら、Y社は、本件製麺機の刃を常時露出させたまま、特段の物的対策を取ることなくXを作業に従事させたのであり、また、本件製麺機の刃の部分が危険であることを注意喚起するような表示等をしていたとは認められないし、Y社がXに対して、本件製麺機の危険性を十分に教育したと認めるに足りる証拠はない
したがって、本件事故については、Y社に安全配慮義務違反があると認められる。また、その義務違反の内容に照らすと、不法行為が成立するというべきである。

2 Xは、本件事故当時、麺に縮れをつける作業に当たり、視線を正面に向けたまま、左手を本件製麺機の方に伸ばしたのであり、危険性を有する作業であるのに、自らの手元を注視しなかったのであるから、注意を欠いていたといわざるを得ないし、その不注意が本件事故に寄与していることは明らかといわざるを得ない。また、本件製麺機は刃が常時むき出しになっており、Xとしても、その危険性を容易に認識することができたといえる。
他方、Y社の安全配慮義務違反の内容は、特に、常時露出した刃の真下に手を伸ばすことが日常作業として予定されていたことからすれば、Y社において、危険性を有する機械から労働者の安全を守るべき要請は高かったといえるし、その方策をとることが特段困難であったとはうかがわれない。また、刃の真下に手を伸ばすことが予定されていたことからすれば、Xが左手を刃の近くに持って行ったこと自体は、格段に突飛なものとはいえない。このような事情を考慮すれば、上記にみたXの不注意を、過失相殺に当たって殊更に重視することは相当とはいえない。
以上の事情を考慮すると、本件事故に対するXの過失割合は、3割を相当と認める。

会社からすると、本件製麺機の危険性は、注意喚起の表示をするまでもなく、また、教育するまでもなく、「見ればわかるでしょ」という感じかもしれません。

しかし、裁判では、会社の責任を認めつつ、そのような事情は過失割合の問題として処理することがあり得るということを認識していれば、事前の対策を講じることもできたかと思います。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。