有期労働契約111 更新上限規定に基づく雇止めが無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、1年の有期雇用契約を相当回数更新してきた職員への5年の更新上限規定に基づく雇止めが無効とされた事案を見ていきましょう。

放送大学学園事件(徳島地裁令和3年10月25日・労経速2472号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で契約期間を平成29年4月1日から同30年3月31日とする期間の定めのある労働契約を締結したXが、同年4月1日からの契約更新の申込みをしたにもかかわらず、Y社から、これを拒絶されたことに関し、上記労働契約には、労経速19条各号の事由があり、同拒絶が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとも認められないから、上記労働契約は、同条により、同日以降、更新されたものとみなされ、同31年4月1日からは、同法18条により、期間の定めのない労働契約に転換したと主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記労働契約が更新されたとみなされる同30年4月1日以降の賃金に関し、民法536条2項に基づき、同年5月から、毎月17日限り、未払賃金10万9620円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 本件雇止めは、本件上限規定を根拠にされたものであるところ、本件上限規定は、平成24年法律第56号による労契法の改正(平成25年4月1日施行)への対応として定められたものであると認められる。
ところで、上記改正後の労契法18条は、雇用関係上労働者を不安定な立場に立たせる有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、安定的な雇用である無期労働契約に移行させることで雇用の安定を図ることを目的とするものであるが、本件上限規定に係る本件決定は、上記労契法改正をきっかけとして、無期労働契約への転換が生じた場合に被告の財政状況がひっ迫するということを主な理由として、主に人件費の削減や人材活用を中心とした総合的な経営判断に基づき、更新上限期間を5年と定めたと説明されるにとどまり、Y社における有期労働契約の在り方やその必要性、本件決定がされるまでに相当回数にわたって契約更新されて今後の更新に対する合理的な期待が既に生じていた時間雇用職員の取扱いに関して具体的に検討された形跡はない。
そうすると、本件上限規定は、少なくとも、本件決定がされた平成25年当時、Y社との間で長期間にわたり有期労働契約を更新し続けてきた原告との関係では、有期労働契約から無期労働契約への転換の機会を奪うものであって、労契法18条の趣旨・目的を潜脱する目的があったと評価されてもやむを得ず、このような本件上限規定を根拠とする本件雇止めに、客観的に合理的な理由があるとは認め難く、社会通念上の相当性を欠くものと認められる。

2 以上に対し、Y社は、本件雇止めの時点におけるY社の経営状態等からすると、本件雇止めには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上の相当性もある旨主張し、人件費削減計画、図書室業務の減少計画などの経営上の必要性を指摘する。
しかし、Y社が、本件雇止めに合わせて、平成30年1月頃から、Xの後任者を公募し、現に後任者を雇い入れていることからすると、同年3月の時点において、本件雇止めをせざるを得ない経営状態であったとは到底認められない
また、被告が特に指摘するのは、Xが有期労働契約から無期労働契約へ転換してしまうことによる経済的負担であり、このことが、平成24年法律第56号により改正された労契法18条の趣旨・目的に照らし、その改正及び施行時点において既に相当回数にわたり有期労働契約を更新してきた原告を雇止めすることができる理由とはならないことは、上記のとおりである。
以上によれば、本件雇止めは、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上の相当性があるとは認められない。

上記判例のポイント1で述べられている無期転換を認めると会社の財政状況が逼迫するという主張は、実はほとんど根拠がありません。

無期転換後の労働条件は、正社員のそれと同一にする必要まではありませんし、労働契約の解消の面でもそれほど大きな違いはありません(有期雇用なら簡単に解雇・雇止めができるというのは完全に誤解です。)。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。