Daily Archives: 2022年7月15日

労働者性46 客室乗務員らの訓練契約の労働契約該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、客室乗務員らの訓練契約の労働契約該当性に関する裁判例を見てみましょう。

ケイ・エル・エム・ローヤルダツチエアーラインズ事件(東京地裁令和4年1月17日・労判1261号19頁)

【事案の概要】

本件は、オランダの航空会社であるY社との間で、契約期間を平成26年5月27日から平成29年5月26日までの3年間とする有期労働契約(以下「本件労働契約①」という。)及び契約期間を同年5月27日から令和元年5月26日までの2年間とする有期労働契約(以下「本件労働契約②」といい、本件労働契約①と併せて「本件各労働契約」という。)を締結し、客室乗務員として勤務していた各原告が、本件労働契約①の前にY社との間で締結した訓練契約が労働契約に該当し、Y社との間で締結した有期労働契約の通算契約期間が5年を超えるから、本件労働契約②の契約期間満了日までに被告に対して期間の定めのない労働契約の締結の申込みを行ったことにより、労働契約法18条1項に基づき、Y社との間で期間の定めのない労働契約が成立したものとみなされると主張して、Y社に対し、①期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②本件労働契約②の期間満了日の翌日である令和元年5月27日から本判決確定の日まで毎月末日限り36万9611円の賃金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

地位確認認容

【判例のポイント】

1 本件訓練の内容は、EU委員会規則の要求する基準に準拠しつつも、Y社が作成した教材や被告独自のマニュアルに従い、Y社の航空機や設備等の仕様及びこれを踏まえて策定された保安業務や、就航する路線や客層に合わせたサービス業務等の内容に則ったものであり、他の航空会社と異なるY社に特有の内容を多分に含んだものである。
本件訓練は、訓練生が本件訓練に引き続いてY社において客室乗務員として就労することを前提として、そのために必要な知識や能力を習得するために実施されたものであって、Y社の運航する航空機に乗務する客室乗務員を養成するための研修であったと認められる。
また、Y社が各原告に対して本件訓練の訓練手当を支払うに当たって所得税の源泉徴収を行っていること、Y社が原告らに対して交付した推薦状や証明書において、原告らが客室乗務員としての稼働を開始した時期を本件訓練契約の始期と記載していること、⑧Y社が現在、日本人客室乗務員との間で、労働契約とは別個の訓練契約を締結することはせず、労働契約の締結後に本件訓練と同様の訓練を実施していること、いずれも、Y社において本件訓練を受講中の訓練生を労働者であると認識していたことを推認させるものである。
そうすると、本件訓練期間中、訓練生が正規の客室乗務員として乗務することがなかったとしても、本件訓練に従事すること自体が、Y社の運航する航空機に客室乗務員として乗務するに当たって必要不可欠な行為であって、客室乗務員としての業務の一環であると評価すべきであり、原告らは、Y社に対し、労務を提供していたと認めるのが相当である。

2 Y社の客室乗務員として乗務するためには本件スケジュールに従って本件訓練を受講し、これを修了するほかないのであるから、本件訓練期間中、原告らには訓練内容について諾否の自由はなく、原告らは、時間的場所的に拘束され、Y社の指揮監督下において本件訓練に従事していたこと、原告らに代わって他の者が本件訓練に従事することは想定されておらず、代替性もなかったことが認められる
したがって、本件訓練期間中の原告らは、使用者であるY社の指揮監督下において労務の提供をする者であったと認められる。

3 他方、Y社が、各原告に対し、本件訓練期間中、2週間ごとに1055ユーロもの日当を支払い、本件訓練終了後に訓練手当として18万8002円を支払い、これを所得税の源泉徴収の対象としていたこと、これらの合計には全ての法定の手当が含まれるとされていること、本件訓練が途中で終了した場合には、訓練生に支払われる訓練手当は、実際の訓練契約の長さに従って計算されるとされていることからすれば、上記の訓練手当及び日当の支払は、本件訓練に従事するという労務の提供に対する対償としてされたものであり、原告らは、労務に対する対償を支払われる者であったことが認められる。
以上によれば、本件訓練期間中の原告らは、労働契約法及び労働基準法上の労働者であることが認められるから、本件訓練契約は労働契約に該当するというべきである。

上記判例のポイント1、2の事情からすれば、労働者性、労働契約該当性が肯定されることは理解ができます。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。